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神の子と魔法陣
第37話・ホエールキング
しおりを挟む―――ウェスタン王国東門―――
「ご主人様!コリータ王国までの前方……今の所、生物は見当たりません。どうぞ」
「了解!きりん、引き続き警戒をお願い」
「わかりました!」
「さて道幅は20m位かな。1m2m3m……」
歩幅でアバウトに測ってみる。そもそもこの行為に意味は無いのだが雰囲気だ。
「プリンよ、そうじゃ。西側城壁に全力で魔法障壁じゃ。半日くらいでそちらに着く。うむ、魔法障壁を張れる者すべて集合じゃ」
「アリス、半日くらい飛ばしたらいいのか?」
「そんなもんじゃろ。こっちは準備はいいか?」
「オーケー」
しばらく待機。プリンからの返事を待つ……。
「……ぇさま!ねぇさま!皆、オケーですっ!お昼頃には魔法障壁張ります!」
「うむ、まかせたぞ。よし、ハルトやれ」
「わかった。ふぅぅ……」
僕は呼吸を整え、詠唱を始める。
「混沌の地より生まれし水星、我の声に答え、導け。我はこの世界を作るもの也……水星召喚!!!」
『鯨王!!!』
「ボエェェェェェェェェルッッ!!!」
アリスが描いた魔法陣から黒い大きな影が現れると、大地が揺れる。でたらめな大きさの鯨……体長200mはあろうか。ちょっとだけ浮いてるのが不思議だ。
「鯨王よ!まっすぐこの先の城まで全てを喰らい尽くせっ!」
「ショウチシタ。アリスサマ……」
レディは指を差して、尻もちをついている。
「はは……は……さすがにちょっと……びっくらこいた」
どこの方言だよ。
「グガァァァァァァァァァァァ!!」
地鳴りと共に鯨王がゆっくり動き出す。僕はアリスとレディを抱え飛び乗る。
「空中歩行!」
城壁で近衛兵達が腰を抜かしたり、走りまわったり、キャーキャー言ってる。ゼシカの姿も見える。
「おぉい!ゼシカ!また後でな!」
「あなたぁ!気をつけてぇ!もうすぐ産まれるからね!」
産まれないよ。と心でツッコミながら手を振る。
「出発進行!」
鯨王は徐々にスピードをあげ、森を飲み、岩を砕き、山を破壊し、川でちょっと涼み、半日足らずでコリータ城が見えてくる。
きりんが前方の生き物を逃がし、被害が出ない様に気を付けてくれている。後ろを振り返ると幅20m位のまっすぐな道が出来ていた。さていよいよ大詰めだ。
「魔法障壁!魔法障壁!!」
鯨王の前に魔法障壁を張る。この鯨王さん、アリスが言うには目的物に体当たりして任務完了となるらしい。僕は乗ったまま、鯨王の前方に魔法障壁をかけ続ける。
「少しはスピードが落ちたか?」
「鯨王よ、ご苦労じゃった!また呼ぶでの!」
「ピィィィィィィィィィィィィィ!」
「かわいい声でるのね」
「プリン!準備は良いかっ!」
「はいっ!魔法障壁の準備は出来……え?ね、ねぇさま……そ、それは……なに?」
ポカーンとするプリンの顔が目に浮かぶ。
「30秒後にぶつかるぞっ!衝撃に備えよ!」
「ねぇさまぁぁぁぁぁぁ!ムリムリムリムリ!!しぬぅぅぅぅ!」
「死なぬわっ!死ぬ気で耐えよっ!」
『ギャャァァァァァァァァァ!!!』
「5……4……3……2……1!!」
コリータ城から悲鳴が聞こえてくる。
そして……鯨王が城壁の魔法障壁に衝突するっ!!
ズッッドォォォォォォォォォォォン!!!
ゴォォォォォォォォォ……
パラパラパラパラ……
地鳴りと怪我人を残して……鯨王は消えていった。負傷者3名。死亡0名。城壁一部破損……。
―――コリータ王国食堂―――
「アリス様!ハルト殿!いくら何でもやりすぎです!他にも方法はあったでしょ!」
マリンがめっちゃ怒ってる。当たり前か。
「いや、それがの。道をつけたいってハルトが言うての。それでの。くじらでドーン!したら皆、驚くじゃろ?て盛り上がってな。それでの……」
「晩御飯抜きです」
「そんな殺生なぁぁぁぁぁぁ!」
「今夜は鯨肉でも焼こうかしら」
「鯨王が食われるぅぅぅぅぅ!」
あれ食えないから、そもそも召喚獣だから。
「いや、恐れいった。長年生きてきたが海の主を召喚出来るとはさすが旦那様じゃ。産まれてくる子にも見せてやりたいの」
「……ちょっとそこのあなた。今、なんておっしゃいました?」
まずい、レディとメリダがまたやり始めた。
「だから産まれてくる子にじゃの」
「はぁ?産まれてくる子にだとぉ?」
「ちょ、2人共ストップストップ!」
2人は仲良くなったのではないのか。アリスはプリンとゲラゲラ笑ってる。アリスはさっき泣きそうだったじゃないか!
「ちょ、ちょっと待って!2人共。ゼシカが帰ってきたらちゃんと話すから!」
疲れた、何だか頭がふらふらする。そういえばこの展開。神族魔法を使うと意識が……僕はそのままバタンと倒れた。
―――異次元空間アリスのお部屋―――
「おぅ、まいどあり」
どこで覚えたその言葉。使うとこも間違ってるし。
「ご主人様。お疲れ様でした。お茶でもどうぞ」
きりんがお茶を淹れてくれる。今日は部屋が……揺れていない、一安心だ。
「ズズズズズ……」
お茶を一口飲むと、すぅと気持ちが和らぐ。
「アリス、これからどうするんだ?」
「うむ、ひとつ気になることがあってな」
「気になる?」
「魔王のことじゃ。南にトカゲ、西に吸血鬼、北に人魚。ということはもう1人は東にいる。そして魔王城に魔王はいないのではないかとも思うておる」
「魔王が魔王城にいない?まぁ、レディに聞いてみた方が確実か。東というとエルフの森の辺り?」
「そうじゃな。さらに行くと世界樹の大樹がある。この大陸は四方をほぼ海に囲まれている。魔王がいるとすれば海の向こうかもしれぬな」
「魔王ってどんな魔物なの?」
「……元はそなたの失敗作……複製じゃよ」
「え?僕の複製……」
アリスはお茶をすすりながら答える。
「あやつはわしを憎んでおるかもしれぬな……」
悲しそうな顔をするアリス。ケーキを食べるきりん。僕の体の中で調理まで出来る様になったのか。
「少々話が過ぎたようじゃ。そろそろ目が覚めるぞ。そなたが寝ておるとわしも外に出るのが難義での、ヒマなのじゃ。さっさと目を覚ませ」
そういうと意識がなくなっていく……。
「うぅ……ここは……?」
――部屋の天井が見える。意識が戻ったらしい。僕の横でクルミが手を握って眠っていた。この子たちのためにも、もっとしっかりしなきゃならないと、僕はまた守るべきものを認識させられたのだった。
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