上 下
37 / 99
神の子と魔法陣

第36話・転移魔陣

しおりを挟む

―――アクアの魔法書販売店―――

「皆様、本当にありがとうございました。長年苦しんできた病がこんな形で治るとは思ってもいませんでした」

 アクアが淹れた紅茶が美味しい。さすが元王宮秘書。

「それでは改めてお願いする。僕の秘書になってくれないか?」
「お給金はおいくらですか?」
「……まだ国が出来たばかりで実入りが少なくて、そのぉ……ははは!」
「そんな事だろうと思いましたよ、まったく。マリンお姉ちゃんに引き続き秘書をしてもらってください!」
「やっぱり駄目なのか?」
「いいえ、その変わり私が財務とギルド運営を致します。お姉ちゃんが掛け持ちせず、秘書に専念したほうがよっぽど効率的です。なんせハルトさんを愛しているのですからっ!愛の力は無敵ですっ!」
「本当かいっ!それは助かる!……え?マリンが何だって……」

 僕の背後で鬼の形相をするレディの姿が目に浮かぶ。これ以上は踏み込んではいけない。

「準備もありますしお父様にも報告して、1週間後には行けると思います」

 レディが急に僕の背中をつねる。色々考えた末に、時間差でつねるのはやめて欲しい。地味に痛い。
 その後アクアと別れ、コリータへ帰るため挨拶をしに王宮へと向かった。

―――ウェスタン王国王宮―――

「ハルトッ!!」

 ゼシカが抱きついてくる。慣れた、慣れたんだよ。良い匂いがする。お返しにぎゅっとしてみる。

「はっ!ハルトっ!あんまり抱きしめられると、お腹の子が潰れちゃう♡」
「潰れないよ。そもそもいないよ」

 同時にカチャリッ!と、僕の背後で刀を抜いた音がした。

「旦那様。命を粗末になさいますな」
「えぇぇぇぇぇぇ!?ちょ、レディ落ち着いて!」

見かねた国王が助け舟を出してくれる。

「こほん。そろそろいいかな」
「はひ……」

 ここは王宮の食堂。国王とチグサ、直近の大臣、冒険者ギルドのラルクさんと僕達しかいない。

「ハルト殿、今回の戦争での働き実に見事であった。礼を言う。この国はそなたがいなければどうなっていたか……感謝する」
「おにぃちゃん!いつもありがとう!」
「いえ、当然の事です」

 意識がなかったとはいえ、王宮で人魚とあんなことをしたなんて言えない。国王ごめんなさい。そしてチグサはいつ見てもニコニコしててかわいい。

「実は今後についてちょっと相談があってな、こちらに集まってもらったのだ」

紅茶を飲みながら国王がこちらをチラっと見る。

「チグサを嫁に……」
『却下です』

ゼシカとレディがハモった。

「はい。すいません」

なぜか僕が謝る。

「実はな。王妃の事なんじゃが、今日帰ってくる予定なのじゃ。しかし物見の話ではイスタン帝国に情報をすべて流していたとか。そのままひっ捕らえようかと考えている」

僕も国王だったらそうする。

「国王がお悩みの事はわかりました。王妃の子、第二王子の事ですね。跡継ぎをチグサ殿にするか、はたまた王妃の子にするか」
「うむ。その通りじゃ」
「わかりました。僕も色々考えています。3つ提案とお願いがあります。聞いてください。まず……」

 まず1つ目、王妃の子第二王子と、チグサを僕の国で預かり教育する。王妃は幽閉。イスタン帝国が簡単に攻めれないようにする。そして第二王子とチグサが成人を迎えるまでにこの国を安定させる事。
 2つ目、転移魔陣の開通。ウェスタン王国とコリータを瞬時に移動出来る様にする。城内に王と側近しか入れない厳重な部屋を作ってもらいそこに陣を張る。王の身に万が一のことがあればいつでも逃げれるようにするのだ。
 3つ目、ウェスタン王国とコリータとの物流。これに関しては2日かかる道のりを1日以内に短縮すると言うもの。
 そして最後にお願いをする。
 1ヶ月間、一緒に働いてくれたギル達にまた……コリータに来て欲しいと。

「うむ、最後の願いはもう叶っておる。ゼシカを含め、近衛兵が昨日辞職を申し出てきた。中央都市コリータへ移りたいと。住民からもそんな話が出ているとラルクにも聞いた。止めはせぬ。個々の自由じゃ。そして1つ目2つ目の案は早速実行しよう。セイレス、そちに任せた」
「はっ!ただちに!」
「それでだ。3つ目の案だけが難しいのじゃ。わしも中央都市を往復して思った。まっすぐ行けば1日もかからないかもしれぬ。じゃが山や川、森を通るとどうしても2日はかかる」
「おまかせください。明日にはまっすぐに出来ますので、早急に道の整備をお願いします」
「……ふむ。そなたが言うのなら出来るのであろう。任せたぞ」
「ラルクさん、こちらが転移魔陣の作り方です。中央都市にも作ります。2つが出来て共鳴すれば色が変化するのでわかると思います。詳しくはアクアさんに聞いてください」
「わかった。あとで聞きいてみよう」
「よし。それでは皆の者すぐに取りかかれ!」
「はっ!」

 ゼシカやギル、アクアにも伝言し後日中央都市で合流することにした。住民にも移動する人を募集し、安全を考え集団での引っ越しとなった。僕たちは宿屋に帰り、道の作り方を模索するのであった。

―――ウェスタン王国城外―――

 ――翌日。
 僕達は城を後に、町の外へと出た。

「さて。道を作りますか……アリスお願い」
「うむ。プリン聞こえるかっ!」

念話でアリスが話しかける。
……ちょっと間があり、プリンから返答があった。

「ねぇさまぁぁぁぁぁ!寂しかったですわぁぁぁぁぁ!ぴえん!」

ぴえん?新語が生まれている。

「今から言うことをよく聞け」
「はいっ!ねぇさま!」

 アリスがプリンと打ち合わせをしている間に、僕も準備に取りかかる。

「きりん、頼んでおいた偵察をお願い」
「かしこまりました。ご主人様」
「旦那様、何をなさるのですか?」

 きょとんとするレディ。レディの顔を見ていて、人魚って水に入らなくても大丈夫なのかな?となぜか、ふと思った……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...