7 / 113
終わりと始まり
第6話・魔法剣と冒険者ギルド
しおりを挟む―――ウェスタン王国―――
――翌朝。
僕とアリスはドロップアイテムの鑑定と売却をするため武器と道具のお店を訪れた。
「いらっしゃい」
「ドロップアイテムの鑑定、売却と、手頃な武器を見せてもらいたいんですけど」
「はいよ。道具の鑑定に時間がかかるから、武器を先に見といてくれや。2階にもあるからよ」
店内はさほど広くはなく、こじんまりとしてはいるが2階にも商品があったりと品揃えは多そうだ。アリスは僕から離れ、ふら~と2階へと上って行く。
僕は安売りであろう無造作に樽に入れられた剣を物色する。刃こぼれした今の剣よりどれも立派に見えた。片手剣、両手剣、槍……どれがいいのかわからない。ガラスケースに入った高級そうな刀の様な物まである。
その時、2階からアリスの声がした。
「ハルトっ!ちょっと来るのじゃっ!」
「ん?」
僕が2階へ向かうと、薄暗い部屋の隅にアリスはいた。
「この剣を買うのじゃ」
「どれ?」
部屋の隅に置いてある樽に、こちらも無造作に入れてある剣。そのうちの1本をアリスが指さした。鞘に入っていてわからないが、持った感じすごく軽い。僕は鞘から剣を抜いてみる。
「え?剣先が……無い!?」
柄まではあるのだが、刃の部分がないのだ。
「アリス、これはさすがに剣先がないと使えないと思うぞ」
「何を言う!それは魔法剣。わしが昔無くした物なのじゃ!」
「魔法剣!?そんな物があるのか!」
「たぶん……じゃが、魔法剣は魔力を使用し続けないと使えない剣なのだ。おそらく人間族ではそうそう扱える者もいまい。だから売れずにこんな所に放置されているのじゃろう。その剣は昔、伝説の鍛冶師ドワーフのユリゲルに作ってもらった名剣じゃ。ほれ、柄をよく見てみろ」
【“ありす”】
そこには下手な字でそう書かれていた。
キィィィィィィン……。
何か記憶の中にひっかかるものがある。何だろう。思い出せない……。
「アリス。これを複製したら、買わなくていいんじゃ……」
「たわけ。この世界に1本しかない貴重な剣を複製するな。神としてわしが許さん」
違うな。自分の思い出の品をここに置いて置きたくないだけだ。
「ちょっ、アリス!剣にスリスリするな」
「うぅん、懐かしいのぉ」
僕はこの魔法剣なる柄と、アリスが選んだ小型の剣を買うことにした。鎧は動きにくそうだからもう少し考えることにしよう。
「お客さん!鑑定終わったよ!全部で金貨10枚と銀貨3枚ていうとこだな!」
「わかりました。それでお願いします。その代金から、この剣2本をください」
「はいよ。その柄だけの剣は剣先もなくって、玩具みたいなもんだからやるよ。剣先を付けるなら鍛冶屋に行ってみるといい。もう1本の小型の剣は金貨1枚だ」
「ありがとうございます」
「カチーン!お、おもちゃだとぉ……!」
アリスが武器屋の亭主を後ろから殴っていたのは言うまでもない。すべて空振りだが……。
「こなクソ!こなクソ!」
「口わりぃな……」
◆◇◆◇◆
プンスカしているアリスを連れて僕は冒険者登録をするため冒険者ギルドへと向かった。
なぜ僕が冒険者になるのかと言うと、アリスの最終目的は6人の神の子供なのだが、誰でも言い訳ではないそうだ。それ相当の純粋な血統の種族でなければ神の子は産まれない。血の濃ゆさというわけだ。
そこで冒険者になり、名声を高め有名になることで高貴な血族を探すというわけだ。この国で言うなら王族。『お姫様と子供を作りたい』と言っただけで死刑にされかねない。ならばと、有名になった後、お近付きになり、口説く!という設定らしい。誘拐、監禁の案はすでに却下されている。
そういうシチュエーションも1度は体験してみたいとも思うのだが……。
―――冒険者ギルド―――
「ここが冒険者ギルドか。かなり大きいな」
大勢の冒険者がいた。僕が受付に向かうと、新顔か?という感じでジロジロと見られる。
「エルっ!この依頼にしよ!」
「だめだめ!魔法石の採取とか、私達では無理だってば!もっと違うのにしよ!」
「えぇぇぇぇぇぇ!」
昨日、宿屋にいた2人だ。昨日は席が後でわかりにくかったが、エルと呼ばれる彼女は耳が尖っている。ギルド内にも何人も同じ耳の人がいる。あれがエルフ族か。
もう一人の彼女はいかにも魔法使いらしい姿だ。眼鏡がよく似合う。こっちは竜人族か?尻尾が見える。しかし、なんだ。胸のアピールというか、産まれもった冒険者というか、襲われやすい体質である事に間違いはない。
「すみません!ちょっといいですか!」
(※ナンパではありません。冒険者ギルドの受付です)
「はい!お待たせしました。冒険者登録ですか?」
「はい。聖都に来たばかりでよくわからなくて」
「わかりました。こちらの用紙に記入してお待ち下さい」
冒険者申込書。住所、氏名、年齢、固有スキル、サブスキルなどなど……あれ?僕って……住所……なくね?
「アリス、住所ってわかる?あと身元引受人」
「住所はそうじゃな。聖地のあった中央都市の住所を書くとして、身元引受人は『アリス』で良いのではないか?」
「あぁ、そのままでいいのね。名前がここで……えっと千家……春人……」
僕はアリスに言われるがままに記入し書類を提出する。しばらく待合の椅子で待っていると、受付から声がかかった。
「ハルトさぁん!センケハルトさんはおられますか?」
「はい。僕です」
「あっ、ハルトさん、ちょっとこちらへ」
受付のお姉さんの眉間にシワがよっている。予想通りというか、たぶんだけど駄目な感じがする。僕はお姉さんに案内された応接室へと入って行った。
18
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる