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第2章
エピローグ
しおりを挟む――すごく長い1日だった。
ミラーレス城に乗り込み、奪われた姿鏡を取り返す為に奮闘した。ミラーレスが死に、メイド長の山田さんも死んだ。シロコロもそしておハナも死んで、最後には愛梨も死んだ。
僕の横で眠るミミは唯一の生存者だ。あれからクロコロと猿渡がミラーレス城に行き、アリスちゃんの姿鏡を無事に取り返して来た。
城の大半は燃えていたが、宝物庫は無事だったそうだ。
もう全部……終わったんだ。
「ねぇ、春河君、起きてるの?包帯を取り替えたいんだけど‥…まったくミミの事ばかり気にして」
「あぁ、ありがとう。ミミにはたくさん助けてもらったんだ。目が覚める時にはいてやりたいんだ」
「はいはい。ミミ、ミミってまったくもぅ」
「何だ?何をぷりぷりしてるんだ?」
「べっつにぃ~何でもないですょ~」
「まったくおかしなやつだ……って!痛い痛い!麻里、そんなに強く巻かなくて大丈夫――いってぇ!」
アリスちゃんのミラーワールドに帰って来てから1週間。
クロコロの秘薬の効果もあり、僕はようやく動ける様になった。クロコロの話では背骨が折れていたそうだ。
ミミは腹部の傷が深く、生死を彷徨っていたが同じタイミングでようやく目を覚ました。
「ここは……?」
「あぁ、ミミ。良かった、気が付いて。ここはアリスちゃんの作ったミラーワールドだ。そう言えばここは初めて……だったな」
「ミラーワールド……?春河さん、私は……」
「今は何も考えずゆっくり休め」
「……はい」
ミミはまた目をつむり、寝息をたて始める。
「気が付いた様じゃな」
「アリスちゃん。今回は本当にありがとう」
「礼など不要じゃ。それよりクロコロから話は聞いたのかえ?」
「……あぁ」
「それなら良い。後はゆっくり考えるが良い」
――昨日。保健室にクロコロが来て一通りの話を聞いた。
麻里がなぜまたミラーワールドにいるのか。
あの日、麻里は現世界に戻る為に愛梨の話に乗った。アリスちゃんの姿鏡に入り、そして現世界の僕の生命維持装置を切った。
ちょうど僕達がミラーレス城に向かっている途中の話だ。
しかし麻里は医者が駆けつける前にまた生命維持装置の電源を入れたそうだ。時間にして数分……僕は何事もなく命を繋いだ。
その後、現世界に戻った麻里は後ろめたさからか、学校を辞め、両親の勧めで家から近い別の病院に移る事となる。
はたから見れば僕を殺そうとして、失敗し、逃げた様にも見えただろう。だが麻里の頭には自分だけ現世界に戻ってきた罪悪感が残り、毎晩鏡を見ては泣いていた。
いてもたってもいられなくなった麻里は、鏡に向かいアリスちゃんを呼ぶ。しかし返事があるわけもなく、その行動を親が心配し精神科も受診する事になった。
そこで知り合った先生が偶然にもアリスちゃんの知り合い……猿渡夢夢先生だったそうだ。
シロコロとミラーレス城で出会った時、「準備が出来た」と言っていたのは麻里をまたミラーワールドに連れて来たという意味だったのかもしれない。
以前、アリスちゃんが言っていた。現世界とミラーワールドを行き来するには死ぬ様な体験……そんな痛みを伴うと。
麻里は死を覚悟でまた戻って来たのだ。
僕に会うためだけに……。
『もう……会えないと思ってた。だって私は一度あなたを裏切った』
「……いまさらどの面下げてそんな事を!!」
『許して下さい……とは言えない。でもわかったの。あなたの事が好きなのょ……!』
「なっ!?……い、いまさらそんな事を……」
『私は死んでも構わない。お願い生きて……帰って来て……』
ミラーレス城で鏡に映る麻里はこう話していたと言う。あれは幻覚では無かった。ミラーワールドから麻里が話かけてくれたものだった。
全てを聞き終わり、僕は麻里の存在の大きさに気付く。きっと……咲も許してくれる……よな?
――数日後。
亡者のいなくなったミラーワールドで畑仕事を始める僕と麻里。リハビリを兼ねて、クロコロがミミと家事をしてくれる。
これから冬を迎え、春になり、8月になったら僕達は現世界へと帰る事になる。そしてこのミラーワールドもアリスちゃんが消してしまうそうだ。
ミミは現世界で生きる為に手頃な肉体を用意すると言っていた。たぶん愛梨の肉体にミミの魂を……そんな推測をしてはみたが、それ以上は聞かなかった。
「春河さん!お疲れ様です!飲み物どうぞ」
「ミミ、ありがとう。そう言えばお墓は出来たのか?」
「はい。クロコロさんに手伝ってもらって城外に……」
「そうか」
クロコロはミミとミラーレス城に行ったが、皆の遺体は燃え尽き残ってはいなかった。ただ、寝室にあった金庫は無事だったらしい。
ミミは大事そうにペンダントを見せてくれる。
「お母様とお祖母ちゃん、それにメアリーとおハナと私……この写真が残っていただけでも」
「そうか……」
「春河さんのおかげです。……あの、折り入ってお願いがあるのですが……」
「ん?」
「私を春河さんのメイドとしてそばに置いては頂けないでしょうか?」
「え?」
「私はミラーワールドが無くなれば消滅する身でした。アリス様のおはからいで、別世界へと行く事は聞いております。ですが……不安で……」
「メイドとしては無理だ」
「そ……そうですよね……すいません。差し出がましい事を言ってしまって……」
「メイドとしてはな。友達なら……大丈夫だ」
「え?友達……」
「あぁ。僕とミミは友達だ。上下関係はおかしいだろ?」
「春河さん……!ありがとう……うぅ……ぐす……」
「おい、泣くなって!こんなとこ麻里にでも見られたりしたら――」
「私がどうしたって?春河君?ミミちゃんを泣かせて何をしてるのょ……」
「ほえっ!麻里!?」
「ちょっと!どういう事なのょ!説明しなさい!」
「麻里さんっ!」
「は、はいっ!」
「私は……春河さんのお友達になりました。という事はそれ以上の関係になっても大丈夫って事ですよね?」
「なぬっ!ちょっとミミ!何を言って――」
「へぇ……ミミちゃん……私の春河君に手を出すと言うのね……いい度胸ね……」
「負けませんっ!お友達ですから!あはは!」
「ちょっと!春河君!ミミちゃんに手を出したら承知しないからね!」
そんなこんなで僕達は今日も元気にミラーワールドを走り回っている。
そして――
「ねぇさま……このヌーなんとかは食べれるのでしょうか……」
「うむ……わしにもわからん。ヌートリアと言ったかの‥…猿渡よ、このヌー……」
「アリス様!ヌートリア3をご所望なのですね!」
「このヌートリアはどうやって――」
「ねぇさま!猿渡はもういませんわ!」
「やれやれ、お茶目さんだのぉ……」
アリスちゃん達がヌートリア談義に花を咲かせた日――
廃墟となったミラーレス城でもまた談義に花を咲かせてる者たちがいた。
「おい、おハニャ。いつまで寝てるんにゃ、起きるにゃ」
「……ここは?」
「城下にあるうちの家にゃ」
「俺は……そうだ。爆発で吹き飛ばされて……気が付くと亡者に囲まれてた……そして体に食いつかれ……」
おハナは当時の状況に、腕組をし身震いする。そして初めて片腕が無いことに気付く。
「おハニャ、片腕だけで済んだのは不幸中の幸いにゃ。うちらが戻って来なければおまんは亡者に食われて死んでたにゃ」
「せやで、わしとにゃぬんがいなければ今頃……」
「そうだったのか。助けてくれて礼を言う。でるるん、にゃぬん……迷惑かけたな」
「ふふ。おハナ、1つ貸しや。貸しは体できっちり払ってもらうで」
「さてミミとメアリーを探しに行くにゃ!ミラーレス様の……敵討ちをせんとにゃぁ……」
「せやな、許さへんでぇ……」
「2人共ちょっと待ってくれ。実は――」
おハナは生きていた。城に戻ってきた猫族のにゃぬんと、鳥族のでるるんに救われたのだ。
そして数日後、おハナの傷が癒えるのを待ち、3人はミラーワールドへと向かう事になる……。
そして……
このお話の続きは機会があればいずれまた――
―完―
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