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第2章
第20話・分岐点
しおりを挟む「ここは……?」
ミラーレスの宝物庫で姿鏡を見つけた。しかし鼻の利くおハナが見つけた姿鏡は3つ。
僕とクロコロとメアリーは、時間が押し迫る中、同時に別々の鏡へと入っていった。
………
……
…
クロコロが通った姿鏡の先にあったのは見慣れた景色だった。
「ここは……?……学校のトイレ?まさか……!?」
慌ててクロコロはトイレから飛び出す。やはり見慣れた風景だ。トイレから出るとすぐに2階へと向かう。
「嘘ですわ……!どうして……!」
クロコロは焦る気持ちを抑えれず、2階の音楽室に飛び込む!
「ね、ねぇさま!?」
「はひっ!」
「……ねぇさま!申し訳御座いません!」
「ク、クロコロではないか?どうしたのじゃ?」
「も、申し訳御座いません!」
「詳しく申せ」
アリスちゃんがいつにもまして真顔でクロコロの肩を掴む。
クロコロはミラーレスの宝物庫にあった3つの姿鏡の話をし、2人と離れ離れになった事を告げる。
「なるほどの……春河かメアリーが通った鏡のどちらかは正解の鏡。しかし、どちらかは罠か。そしてクロコロはスタート地点に戻された……と言うわけじゃな」
「は、はい……私が付いていながら……!」
「もう良い。自分を責めるな。クロコロよ、ミラーレスの城までいかように時間がかかったかわかるか?」
「1時間と少し……」
「うむ……ギリギリじゃの……。じゃが……猿渡よ、おるか?」
「はっ!アリス様!ここに!」
「猿渡よ、主なら30分で駆けれるかの?」
「御意。アリス様の命じられるままに」
「行け。春河とメアリーを守るのじゃ」
「はっ!」
「猿渡!頼んだわ!」
「はっ!クロコロ様!行って参ります!」
猿渡はアリスちゃんからゲートキーを受け取り、一瞬で姿を消す。
「ふむ。クロコロよ、お主にはこやつの事情聴取を頼むとするかの。猿渡が今からする所じゃったのでの」
「はっ!ねぇさま」
猿渡が捕らえたミラーレスの配下をクロコロが尋問し、代わりに猿渡がミラーレスの元へと急ぐ。
「さて、そろそろ貴様が犯した罪を償ってもらおうかのぉ……」
「くっ……!ここまでか……!」
「私はねぇさまの様に優しくはないわよ……覚悟しなさい。南宮先生……いや、南宮小夜……!」
南宮小夜の人生はアリスちゃんとクロコロの手によって終わりを迎える。
お金の為にミラーレスの駒となり、結果いくつもの命をミラーレスに差し出したその罪は重かった。後日冥界で言い渡された判決は、この世界でも2番目に重い『永久地獄』だったそうだ。
それは何度も殺され、蘇生し、また殺される……終わらない地獄……。
こうして1人目の裁きが終わったのだった。
………
……
…
「ここは……?」
メアリーが目覚めると白い天井が見える。額に当てた手は細く、さっきまでの自分の物とは別物に見えた。
「山羊さん!?先生!坂口先生!山羊さんが!」
「……誰ダ。私の名前を呼ぶヤツハ……」
メアリーは体を起こそうとするが、腕に点滴や顔に管が付いていて身動きが取れない。
メアリーは横になったまま思い出す。
「サッキまで城にイタ……そしてハルカとクロと同時に姿鏡へと入ったハズ……。そういうコトカ……」
メアリーの頬に涙が流れる。体は動かせないが、横を見る事は出来る。そこにはメアリーと同じ様に点滴や管に繋がれた人がいて、ひっきりなしに機械音が聞こえた。
「ハルカ……アイリ……」
同室でベッドに横たわる2人の姿。それはやせ細り、いつも見てきた姿とは別人だった。かくいうメアリーも鏡を見れば別人の様に細っているのだろう。
「ワタシだけ……戻ってキタノカ……現世界に……」
喜びと悔しさと後悔が押し寄せてくる。
最悪メアリーは母であるミラーレスに頼めばいくつかの戻る方法はあっただろう。だが現世界に帰る為に努力をしてきた春河、ミラーレスに操られ殺されそうになっていた愛梨。2人は目を覚まさない。それはまだミラーワールドから抜けれない状況にあると言う事だった。
「くっ……ソ!」
もう1つ、メアリーには許せない感情が湧き上がる。それはこの病室で寝ているはずの彼女の姿が無い事だった。
「マリ……!どうして裏切っタ!!ギリッ!」
歯ぎしりをしてしまう程に憎しみが湧き上がる。もし彼女がここでまだ寝ていたのだとしたら、春河の生命維持装置を1度切った者が別にいることになる。
そうなれば麻里への疑いは晴れたのだ。しかしここにはいない。それは愛梨と口約束をして自分だけ助かろうとした様にも取れた。
「ユルセナイッ……!」
「山羊さん、気分はいかがですか?少しベッド起こしますよ」
「ハイ……」
病室に担当医が現れ、メアリーはそれから数日間検査や質問を受ける事になる。後日いつきがお見舞いに訪れ喜び合ったが、麻里は別の病院への転院と学校もそのまま転校したと聞いた。
この時のメアリーは到底納得の出来る結果ではなかった。しかし時が経つに連れ、その記憶はだんだんと心の奥底へと隠れていく。そしていつしかメアリーは看護師を目指す様になり、麻里の事は思い出となっていく。
………
……
…
「ここは……?」
「クックック……。思いのホカ、簡単に引っかかったワネ」
「ミラーレス!?」
僕が姿鏡を抜けた先は、最初にミラーレスに会った食堂だった。
「あの3枚の鏡ハネ。私が仕掛けて置いたノヨ、アリスチャングリラの匂いをわざとつけテネ……ふふふ!あっはっは!」
「どういう事だ!?」
「アリスチャングリラの手下と娘は傷付けたくないかラネ。そして千家……お前の魂が成長するにつれ、美味な魂を味わエル……クックック……」
「それでも僕がここに来るとは限らないだろ!」
「いいや、娘は一番左を選ブ……昔からそうだッタ。そして一番右はあの手下が選ブ。それはアリスチャングリラといつも行動を共にし、真ん中は譲ってきたかラダ。だから最後に私の元へはお前が来るのは必然!!」
「消えた!?」
一瞬で目の前に居たミラーレスの姿が見えなくなる。
「くっ……どこに!?」
「ふふふ……」
声は聞こえるが姿が見えない。食堂には何十もの鏡がある。その中にいるのであれば片っ端から叩き割るしかない。
覚悟を決め、椅子を持ち近くの姿鏡めがけ振り下ろす!
ガッシャァァァンッ!!
「……無反応か。じゃぁ、次は!!」
ガッシャァン!!
僕は鏡を次々と叩き割る。時々笑い声が聞こえてくるが、それを無視し割り続ける。
「ふふふ……人殺しメ……」
「え?」
「千家様っ!鏡を割っては駄目です!」
その時、食堂にミミが駆け込んで来た。
「ミミ!!」
「千家様!その鏡の中には奥様が捕まえた魂が――!」
「……裏切り者共メ。ミミ……貴様も死ネ」
「え?奥さ……マ……!?」
突然、目の前にいたミミがいなくなる。
「ミミ……?」
そして1枚の姿鏡の中に苦しそうな表情のミミがいた。これがミラーレスの力なのか。
「ミミッ!今、助けるぞ!」
ゴンッ!
椅子を振り下ろすが、先程までの鏡とは違い異常に硬い。愛梨が入っていた鏡はクロコロが剣の柄で割った。割れないはずはない。
ゴンッ!
「くそっ!割れろっ!」
ゴンッ!
椅子は鏡から跳ね返り、何度叩いても割れない。ミミの表情は見る見る苦痛に歪んでいく。
「何か、何か方法はないのか!」
クロコロが愛梨を助けた時の状況を思い出す。元々クロコロの腕力は僕の数十倍はあるだろう。一緒に生活をしてきてそれはわかっている。
単純に僕の腕力不足なのか。それとも他に何か……!
「一か八か……」
アリスちゃんから預かった武器を取り出し、鏡に狙いを定める。
カチッ!
バァァァァン!!
銃弾が鏡の表面に突き刺さり、そこからヒビが広がっていく。
「ゲホゲホッ!」
「ミミッ!」
ヒビ割れから空気が入り、鏡は粉々に砕けた。とっさに使った銃ではあったがうまくいった様だ。
「ミミ、大丈夫か!」
「千家様……逃げ……て……」
「ミミを置いてはいけない!」
「千家様……」
こんな状態でミミを置いていくわけにはいかない。それに鏡への対処の仕方がわかった。ミラーレスが隠れている鏡を見つけて破壊すれば全て終わるはずだ。
「ミミ、ここで少し待っててくれ。僕はミラーレスを――」
「奥様!もうおやめ下さい!」
食堂にメイド長の婆さんが飛び込んでくる。
「山田のばぁさん!危ないから外に出てて!」
「いいえ!千家様、お気遣い無用で御座います!孫娘をひどい目に合わされ、客人までも巻き込むなんて……私は奥様をもう許しません!」
「ほほぅ……山田。わしに逆らうノカ。ならば貴様も鏡に閉じ込めてクレ……!?」
山田のばぁさんはポケットから手鏡を取り出し、食堂の一番左の鏡に向けた。
「奥様……やはりあなた様も昔から一番左側を選ぶのですよね……」
「や、山田!!」
何と鏡から引きずり出されるようにミラーレスが姿を現す。ばぁさんはすかさず隠していた包丁でミラーレスの胸を貫いた……。
「え?ばぁさん……?」
「千家様、私達は皆様に大変無礼を働きました。よってミラーレス……いいえ、こんな姿になってしまった娘と共に罰を受け入れます」
「ガハッ!や……まだ……貴様……!」
「娘!?ミラーレスは、ばぁさんの子供!?」
僕が叫ぶが早いか、ばぁさんはこっちを向き一瞬笑い返してくれた。そして、ミラーレスから包丁を抜き取り、自分の胸に深く突き立てた……。
………
……
…
――10分程経っただろうか。静かになった食堂で僕は呆然としていた。
僕の横でミミは気を失い、食堂の壁際ではミラーレスと山田のばぁさんが血を流し息絶えている。
状況は整理が出来た。ミラーレスは山田のばぁさんの娘であり、その子供がミミとメアリーだったわけだ。
しかしここ数ヶ月前からミラーレスは何かに操られた様に変わってしまったと言う。
「んん……」
「ミミ?気が付いたか?」
「ここは……?」
「ミミ、つらいだろうが事情を話すよ……」
「えっ!?」
ミミは目の前に広がる光景に無言のまま涙した。僕は聞いているかどうかはわからないミミに事情を話す。
『ゴーンゴーンゴーン……』
話が終わると同時に食堂の大時計が17時の鐘を鳴らした。それはミラーワールド……アリスちゃん達が待つ場所に戻るタイムリミットだった。
「なぁ、ミミ。僕はもう戻らないといけない。愛梨の事……頼めるか?」
「……」
ミミは静かに頷いた。まだ宝物庫でおハナが介護してくれているのだろうか。食堂に愛梨とおハナの姿はない。
しかしミミ達は元々この城で暮らしている。きっと大丈夫……そう思う事にした。
「千家様……入口まで……送ります」
「あぁ……ありがとう」
倒れたまま動かないミラーレスと山田のばぁさんに一礼し、僕は食堂を後にした。
何とも歯切れの悪い最後だった。結局ミラーレスは何がしたかったのか?
メアリーは?クロコロは?
ミラーレスの事で頭がいっぱいだったが、後回しにしていた問題が次々と脳に浮かぶ。
「ミミ、ありがとう。ここでいいよ」
「はい、千家様……。色々と……ありがとうございました」
ミミは絞り出す様に声を振るわせて言った。僕はかける言葉が見つからず、そっとミミを抱き寄せる。
「ミラーレス……達を弔ってやってくれ……」
「はい……」
僕はミミの涙を拭き、入口の姿鏡に手をかける。
「それじゃ……また」
宝物庫の姿鏡は愛梨が盗んだ物を後で持って来てくれると約束をした。
これで僕の役目は終わった。……そう思っていた。
カツン――
「え?」
以前にも同じ事をした記憶が蘇る。何度か試してみるがやはり同じだった。
「鏡に入れない……?」
「千家様?」
すでに日没の18時まで1時間を切っていた……。
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