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第1章
プロローグ
しおりを挟むキーンコーンカーンコーン――
『ピィィィ――夢希望高校の皆さん、下校の時刻になりました。校内に残っている生徒の皆さんは下校しましょう。繰り返します。夢希望高校の皆さん――』
時計が17時30分を指し、校内放送が流れた。本来、17時00分には流れる放送だがこの夏の期間はこの時間に下校の放送が流れる。
昭和63年8月初旬。セミの声がけたたましく鳴く中、夏休みではあるが、皆、部活動で汗を流していた。
「マジ疲れたぁ!」
「大樹お疲れ!」
「おっ!春河、お疲れ!補習終わったのか?」
「あぁ、南宮先生にみっちりしごかれた……」
「うぇ……マジか」
「大樹も部活終わったのか?」
「あぁ、これからみんなでバーガー食べて帰ろうって――春河も一緒にどうだ?」
「わりぃ、咲が待ってるから」
「何だよぉ、付き合いわりぃなぁ!」
「はははっ!すまん!今度埋め合わせすっから!」
「わかったよ、東宮さんによろしくな」
「はいはい、じゃぁな!大樹」
僕には付き合ってる彼女がいる。東宮咲――夢希望高校でも1、2位を争う美少女だ。ちょうど1年前に付き合い始めた。今日は1周年記念だというのに、その記念日に補習が重なった。
咲はテニス部に入っている。咲の部活が終わり次第、正門で待ち合わせして一緒に帰る約束をしていた。
補習が長引き、時計は18時を指そうとしている。
「遅くなってしまった!早く行かないと――」
僕は教室から走って廊下へと出ると、廊下では部活終わりの同級生達がまだ数人残って話し込んでいた。
「お先っ!」
「ハルッ!今日はおばさんが――!」
「いつきごめん!今日は咲と約束があって!」
「もうっ!ハルッ!ちょっと!」
ご近所で幼馴染の西宮いつき。たぶんいつもの事で、僕の母親が遅くなるから、いつきの家で夕食をという伝言だろう。母親同士が同級生というのもあり、小さい頃からいつきの家で夕食を食べる事を当たり前の様にしてきた。
しかし彼女が出来てからは、あまりいつきの家には行かなくなった。咲が以前、いつきと僕がそんな話をしている時にヤキモチを焼いていたのだ。僕にとっては、いつきの家に行くというのは普通の事だったのだが、咲にとっては普通では無かったらしい。
僕は廊下を曲がり校舎の1階への階段を降りようと、手摺に手をかけようとした時だった。
ドンッ!!
「えっ?」
ふいに誰かに押された衝撃が背中に伝わる。僕は体制を崩し、そのまま頭から踊り場へと真っ逆さまに落ちていく。不思議な感覚だった。宙を舞うと言うのはこの事なのだろう。
自分の足が見え、その先の階段の上には数人の生徒が見えた。
――誰かが僕を押した?
ガッシャァァン!!
「キャァァァ!!」
「おい!誰か落ちたぞ!先生を呼べ!!」
「先生を!いや!救急車!」
1階と2階の間の踊り場には古い姿鏡がある。【寄贈・昭和22年――】文字は薄れて読めないが、皆、ここを通る度にこの姿鏡で身だしなみを整えた。昼休みともなれば、女子はここに集まり友達の噂話に花を咲かせている。
その姿鏡に僕は頭からぶつかり、階段の上で生徒達の悲鳴が聞こえた。
――死。
脳裏に嫌な言葉が浮かぶ。頭に強い衝撃と熱い何かが垂れてくる感覚がある。血が流れているのだろうか?確認しようにも目の前が真っ暗になり意識が遠のいていく。
「咲……ごめん……約束守れな……」
それは時計が18時を指し、暑い西日が割れた鏡に反射する……僕が17歳の誕生日を迎えた8月8日の出来事だった。
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