38 / 92
第四章―苛立ちと悲しみ―
4−7・僕は今……死んだんだ
しおりを挟む―――ムルーブの街―――
瀕死の状態のクルミを死神ノアが助けてくれた。そして彼女はこう言った……
「ぬ。お主の魂を頂く契約じゃ」
「なっ……!?」
考えてもみればそうだ。死にかけたクルミを助けるのに誰かの命を変わりに奪う。死神なんだ。当然と言えば当然か。
「……わかった。クルミを家に連れて帰ったら契約を執行してくれ」
「桃矢様!!駄目です!あなたはここで死んでは行けませんわ!」
「ミーサ良いんだ。この小さい命を助けて死ねるなら本望だ」
「桃矢様っ!!」
「ぬ?」
僕達はクルミの家に着いた。クルミをベッドに寝かせ、僕は最後の連絡をする。
「――早紀、舞、愛、メイすまない。そういう事情で僕は今から裁きを受け入れる。今までありがとう」
「はぁ!?何を言ってるの!!今すぐ帰って来なさい!」
「桃矢くんっ!駄目よ!命をそんな簡単に使っては!少し待ってて!今から行くから!」
「そうよ!ねぇさん!私も向かうわ!」
「桃矢サマ!行けまセン!あなたはこの世界に無くてはならナイ!!」
カチャン――
これ以上は別れが辛くなる。僕は早紀達の声を聞きながら通信機を切った。
「さ。ノア、準備は出来た。ミーサお別れだ。最後を看取ってくれ」
「ぬ。良いのじゃな」
「ノア!ちょっと待って!早紀様達が来るまでちょっと待って!」
「ミーサ!!もう……良いんだ。辛くなる」
「そんな!!桃矢様!」
「ぬ。それでは契約を執行する。桃矢太郎。そなたの魂はわしの管理の元、未来へと誘う……」
カチャ――
クルミを蘇らせた大鎌が空中から現れる。そしてその大鎌は僕の首にあてがわれる。
「ノア!!ちょっと待って!!私が変わりに――」
「ミーサ、ありがとう……さようなら……」
「桃矢様っ!?イヤァァァァァ!!!」
ザシュ――
僕は今……死んだんだ。
◆◇◆◇◆
ザァァァ……
外はいつの間にか雨が降り出していた。さっきまで月が出ていたのに変わりやすい天気だ。
ギシギシ……
「良い子だミーサ……」
「はい……桃矢様……」
ギシギシ……
「ぬ。先程まで死ぬなどと申しておったのに現金な奴らじゃ」
「ノア、見ないでくれ。それなりに恥ずかしい」
「ぬ。そうなのか。終わったら呼んでくれ」
「あぁ……」
「もぅ……桃矢様……こっちを見て……」
「はい……」
天井から覗いていたノアの姿が消える。
ギシギシ……
「生きてるって……素晴らしいね」
「もう……桃矢様のバカ……」
―――遡ること一時間前―――
――僕はノアに首を切られた。切られた感触もあった。
「ぬ。お主の魂は半分切り取った。これで契約完了じゃ」
「……え?生きてる?」
「ぬ。じゃろうな。魂を半分取ろうとて、お主は人魚の生命力であと百年は生きれるじゃろうて」
「はは……は……先に言えよ……」
「桃矢様っ!!」
「ミーサ!!」
「ぬ。さて、良い魂が手に入ったわい。ちょっと出てくるぞよ」
「あぁ……ありがとう。ノア」
ノアは浮き上がり天井に吸い込まれるように消えていく。
「桃矢様……良かった……生きてて良かった……」
涙を流し、抱き合う僕とミーサ。
「ミーサ。心配をかけた。もう大丈夫だ……と、早紀達に連絡をしないと――んっ!?」
「後にしてください……今は桃矢様と二人でいたいです……」
「わかった……」
そんなこんなで、あんなこんな事になったのだった……
◆◇◆◇◆
翌日――
「もう!バカ桃矢!今日中に帰って来ないと許さないんだからね!」
「いや、今日中と言われましても……」
「そうよ、早紀ちゃん。せめて明日の朝……」
「舞……明日の朝も早すぎる……」
「桃矢サマ。ご無事でメイは安心しまスタ」
昨夜は色々ありすぎてそのまま寝入っていた。目が覚め、早紀達に連絡をするのを思い出し慌てて連絡をしたのだった。
コンコン……
「ごしゅじんたま……?」
「クルミ!!もう起きて大丈夫なのか!」
「はいにゃ!ごしゅじんたま!」
僕の腕の中で、ゴロゴロ喉を鳴らすクルミ。あぁ、モフい。なんてモフいんだ。
「ごしゅじんたま……そのぉ……そこは胸……にゃぁ……」
「えっ!?ご、ごめん!」
「いいのにゃ……やさしくして欲しいのにゃ……」
「変態桃矢様、何をしていらっしゃいますの……」
拳を握ったミーサに、震える。
「大変申し訳ありませんでした」
「変態桃矢様、カナデ達が来てます。ちょっといいですか。変態桃矢様」
「はい……すいませんでした……」
僕はミーサの後に着いて、一階へと降りていく。
「あっ!桃矢様!」
ビルとカナデが玄関で待っていた。
「どうした?何かあったのか」
「はい……実は……」
ビルの話では、魔物に襲われた人、壊された街の状況からわかったことがあったそうだ。
「何だって!!それは本当か!」
「はい……今さっき最後の一人を確認しました」
「そんな……それじゃぁ桃矢様を狙って……」
「魔物……たぶんあの悪魔の所業なのだろうが、まさか桃矢の名を持つ者の排除が目的だったとは……」
「はい、街でトウヤを名乗る者は殺されるか住まいを破壊されるか、ひどい仕打ちを受けたみたいです」
「それで寺院の周辺だったのかにゃ……」
「察するに桃之家か、桃園家の仕業かと……」
「くそっ!!」
身内の争いで、街を破壊するなどありえない。まして悪魔を使うなどと……僕は怒りが込み上げてくる。
「ぬ。そういうことか。色々と納得じゃ。人間は相変わらず愚かじゃの」
「ノア……か」
「ぬ。宝物庫の転移陣も転移先を変更しておいたぞ」
「変更?じゃぁ、もうエルバルト王国へは繋がってないのか」
「ぬ。行ってみるが良い」
僕達は再度宝物庫へと向かった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる