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第四章―苛立ちと悲しみ―

4−7・僕は今……死んだんだ

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―――ムルーブの街―――

 瀕死の状態のクルミを死神ノアが助けてくれた。そして彼女はこう言った……

「ぬ。お主の魂を頂く契約じゃ」
「なっ……!?」

 考えてもみればそうだ。死にかけたクルミを助けるのに誰かの命を変わりに奪う。死神なんだ。当然と言えば当然か。

「……わかった。クルミを家に連れて帰ったら契約を執行してくれ」
「桃矢様!!駄目です!あなたはここで死んでは行けませんわ!」
「ミーサ良いんだ。この小さい命を助けて死ねるなら本望だ」
「桃矢様っ!!」
「ぬ?」

 僕達はクルミの家に着いた。クルミをベッドに寝かせ、僕は最後の連絡をする。

「――早紀、舞、愛、メイすまない。そういう事情で僕は今から裁きを受け入れる。今までありがとう」
「はぁ!?何を言ってるの!!今すぐ帰って来なさい!」
「桃矢くんっ!駄目よ!命をそんな簡単に使っては!少し待ってて!今から行くから!」
「そうよ!ねぇさん!私も向かうわ!」
「桃矢サマ!行けまセン!あなたはこの世界に無くてはならナイ!!」

カチャン――

これ以上は別れが辛くなる。僕は早紀達の声を聞きながら通信機を切った。

「さ。ノア、準備は出来た。ミーサお別れだ。最後を看取ってくれ」
「ぬ。良いのじゃな」
「ノア!ちょっと待って!早紀様達が来るまでちょっと待って!」
「ミーサ!!もう……良いんだ。辛くなる」
「そんな!!桃矢様!」
「ぬ。それでは契約を執行する。桃矢太郎。そなたの魂はわしの管理の元、未来へと誘う……」

カチャ――

クルミを蘇らせた大鎌が空中から現れる。そしてその大鎌は僕の首にあてがわれる。

「ノア!!ちょっと待って!!私が変わりに――」
「ミーサ、ありがとう……さようなら……」
「桃矢様っ!?イヤァァァァァ!!!」

ザシュ――

僕は今……死んだんだ。

◆◇◆◇◆

ザァァァ……

 外はいつの間にか雨が降り出していた。さっきまで月が出ていたのに変わりやすい天気だ。

ギシギシ……

「良い子だミーサ……」
「はい……桃矢様……」

ギシギシ……

「ぬ。先程まで死ぬなどと申しておったのに現金な奴らじゃ」
「ノア、見ないでくれ。それなりに恥ずかしい」
「ぬ。そうなのか。終わったら呼んでくれ」
「あぁ……」
「もぅ……桃矢様……こっちを見て……」
「はい……」

天井から覗いていたノアの姿が消える。

ギシギシ……

「生きてるって……素晴らしいね」
「もう……桃矢様のバカ……」

―――遡ること一時間前―――

 ――僕はノアに首を切られた。切られた感触もあった。

「ぬ。お主の魂は半分切り取った。これで契約完了じゃ」
「……え?生きてる?」
「ぬ。じゃろうな。魂を半分取ろうとて、お主は人魚の生命力であと百年は生きれるじゃろうて」
「はは……は……先に言えよ……」
「桃矢様っ!!」
「ミーサ!!」
「ぬ。さて、良い魂が手に入ったわい。ちょっと出てくるぞよ」
「あぁ……ありがとう。ノア」

ノアは浮き上がり天井に吸い込まれるように消えていく。

「桃矢様……良かった……生きてて良かった……」

涙を流し、抱き合う僕とミーサ。

「ミーサ。心配をかけた。もう大丈夫だ……と、早紀達に連絡をしないと――んっ!?」
「後にしてください……今は桃矢様と二人でいたいです……」
「わかった……」

そんなこんなで、あんなこんな事になったのだった……

◆◇◆◇◆

翌日――

「もう!バカ桃矢!今日中に帰って来ないと許さないんだからね!」
「いや、今日中と言われましても……」
「そうよ、早紀ちゃん。せめて明日の朝……」
「舞……明日の朝も早すぎる……」
「桃矢サマ。ご無事でメイは安心しまスタ」

 昨夜は色々ありすぎてそのまま寝入っていた。目が覚め、早紀達に連絡をするのを思い出し慌てて連絡をしたのだった。

コンコン……

「ごしゅじんたま……?」
「クルミ!!もう起きて大丈夫なのか!」
「はいにゃ!ごしゅじんたま!」

僕の腕の中で、ゴロゴロ喉を鳴らすクルミ。あぁ、モフい。なんてモフいんだ。

「ごしゅじんたま……そのぉ……そこは胸……にゃぁ……」
「えっ!?ご、ごめん!」
「いいのにゃ……やさしくして欲しいのにゃ……」
「変態桃矢様、何をしていらっしゃいますの……」

拳を握ったミーサに、震える。

「大変申し訳ありませんでした」
「変態桃矢様、カナデ達が来てます。ちょっといいですか。変態桃矢様」
「はい……すいませんでした……」

僕はミーサの後に着いて、一階へと降りていく。

「あっ!桃矢様!」

ビルとカナデが玄関で待っていた。

「どうした?何かあったのか」
「はい……実は……」

 ビルの話では、魔物に襲われた人、壊された街の状況からわかったことがあったそうだ。

「何だって!!それは本当か!」
「はい……今さっき最後の一人を確認しました」
「そんな……それじゃぁ桃矢様を狙って……」
「魔物……たぶんあの悪魔の所業なのだろうが、まさか桃矢の名を持つ者の排除が目的だったとは……」
「はい、街でトウヤを名乗る者は殺されるか住まいを破壊されるか、ひどい仕打ちを受けたみたいです」
「それで寺院の周辺だったのかにゃ……」
「察するに桃之家か、桃園家の仕業かと……」
「くそっ!!」

 身内の争いで、街を破壊するなどありえない。まして悪魔を使うなどと……僕は怒りが込み上げてくる。

「ぬ。そういうことか。色々と納得じゃ。人間は相変わらず愚かじゃの」
「ノア……か」
「ぬ。宝物庫の転移陣も転移先を変更しておいたぞ」
「変更?じゃぁ、もうエルバルト王国へは繋がってないのか」
「ぬ。行ってみるが良い」

僕達は再度宝物庫へと向かった。
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