2 / 2
第二章 探
天職のアルバイト
しおりを挟む
ある日由莉はコンビニに置いてある無料の求人雑誌を手に取った。アルバイトを探すためである。由莉は高校生の時に、ファストフードでアルバイトをしていた。本当はハンバーガーを作る担当が良かったのだがずっとレジ係をさせられて、立ちっぱなしなのに笑顔を振りまいてお客様を接客するのにうんざりしていた。だから次にアルバイトをする時にはファストフードはパス。立ち仕事は辛いし、何かラクな仕事はないかと片っ端から求人雑誌とにらめっこしていた。
『占い師助手募集。時給1000円』
(え?占い師の助手の仕事?何それ?)
頭の中が「???」とワクワクにまみれた。由莉は占いが大好きだった。特に星座占いと動物占いが好きで、友達になった人の性格や好きな物をリサーチしてすぐ自分との相性はどうかを知りたがる癖があった。親友の真美は自分の母親と同じ誕生日だったのでそれだけで運命を感じたほどだ。由莉はすぐ運命の糸探しをして自分との他人との共通点を見つけようとするオカルト的な所がある。だからこの占い師助手のアルバイトを見つけた時も
(これは運命に違いない!もしかして天職?!私にぴったりの仕事すぎる!)
と思った。しかもその占い師助手の仕事場所が最寄りの駅の近くで歩いても10分少々の場所だから、交通費もかからず自分の大好きな占いに関わる仕事。やってもいないうちから天職と思い込んだ由莉はすぐ様電話をかけた。
「あ、あの~もしもし、求人雑誌のアルバイト募集を見て電話したんですが…」
由莉はアドレナリンが出て興奮していたのを少し抑えて話した。受話器を握る手に力が入っていた。
「はい、お電話ありがとうございます。募集してますよ。あなたお家は何処ですか?」
丁寧な口調で男性が受け答えた。40代くらいだろうか。
「そちらに書いてある住所の近くです。歩いて10分くらいです。」
「では明日18時に面接にいらしてください。」
「あ、はい!わかりました。よろしくお願いします。失礼します。」
由莉は無事面接の約束をした。また働いてもいないし給料も貰っていないのに
(何買おうかな~♪どこに遊びに行こうかな~♪)
と、早々お金の使い道について考え出した。由莉は元々見栄っ張りで、人の好き嫌いが激しくて、極端に物事を考える性格だ。その性格せいで友達も彼氏も厳選してしまうので、由莉の周りには少数しか集まらない。自分がコレだ!と思った事にはとことん突き進み、違うと思った事には見向きもしない。だから、流行りの物は間違いないと信じ込んでしまう。新しい携帯の機種が出ると、それを持つ事がカッコイイと思ってしまうように。
新しいものに興味がない人にとっては、カッコイイ事でも何でもないのに。遊んでる女子大生がカッコイイ、イケてると思い込んでしまってるから、とにかく無駄遣いを無駄遣いと思わず、衝動買いを衝動買いと思わない。
髪の毛の色も、グレージュが流行ればグレージュに、金髪が流行れば金髪に。とにかく流行りのものにすればいいと思っている、お上りさんの特徴的な事はだいたいこなしている。
ただひとつ、都会人と違う所は田舎出身だからか、純粋で人を信じやすい(騙されやすい)所がある。人に感化されやすいからこそ、流行りに乗るのがカッコイイと思うのだろう。占いをすぐ信じてしまう所も、純粋さの名残なのかもしれない。
(占い師の助手のアルバイトをしたら、もしかして私も占い師の卵になれるんじゃないかな?)
またしても根拠のない妄想をしていた。
(でも、占い師の助手?どんな占いなんだろう。タロット?手相占い?マジックでもないのに助手って必要なんだろうか。)
ただただ占いが好きというだけで、占い師助手のアルバイトに応募し、なんの考えもなしの由莉は、決して賢い子とは言えなかった。ちょっと珍しいアルバイト求人を見つけた事を誰かに聞いてもらいたくて、仲の良い2つ年上のお兄さん的存在の清川さんに電話した。
「もしもし?由莉だけど、今話せる?」
「お疲れ~。うん、いいよ。どした?」
イケメンボイスでもない清川の声だが、由莉は何でも話を聞いてくれる聞き上手な清川の声が好きだった。
「あのね、私明日バイトの面接を受けるんだけど、占い師の助手の。」
「は?何?占い師ぃぃ?何すんのよ」
「違う違う、占い師じゃなくて、占い師の助手のアルバイト。面白いでしょ?詳しい事はわからないんだけど、私占い好きだから、なんか興味あって…。」
「なんか由莉っぽいかも、その仕事。頑張ってよ。あ、その面接の後って遊べるかな??」
「私っぽいよね?(笑)明日大丈夫だよ。20時くらいには終わってると思うから、うちに来てね?」
「おう、了解!じゃ明日な!」
由莉はニヤニヤしながら電話を切った。楽しそうなバイトは見つけたし、明日は面接の後、気の合う清川さんと遊べる。そしてもちろんHな事もできる。
(私って人生いい感じに進んでるわ♡)
清川さんには3年付き合っている彼女がいた。月に3回ほど会ってHもそれなりにする。マンネリ化した関係だが彼女の事は好きで別れる気はない。そんな清川さんの気持ちを知っている由莉は、それでも清川さんが会って遊んでくれる、かまってくれる、Hもしてくれる事に心が満たされていた。彼女がいるのに由莉にも体の関係を求めてくる事で、彼女に対して優越感を得ていたのだ。
浮気や不倫などの危ない関係こそ、人の心に火をつける事を若干19歳の由莉は体感したのだ。人のものを奪いたい、欲しい。偏った考え方しか出来ない由莉には最高の興奮剤だった。
次の日、由莉は17時40分頃に家を出た。面接の場所までは徒歩10分少々。自分のアパートから途中までは一本道である。歩いている間、面接で話す自己アピールの事すら考えず、夜に会う清川さんとの営みの妄想で頭がいっぱいだった。
住宅街にポツンとある古びたバッティングセンターを通り越し、次第に住宅も少なくなっていった。
(この辺初めて来たけど、草むらばかりだし、家も少ない。こんな辺ぴな場所に占いをする所があるの?)
普通、占い師がいる場所として思いつくのはデパートなどの隅にパーテーションで仕切ってあるようなワンコーナー。または銀座や原宿にあるような〇〇の母みたいな所。個人の占い師だと自宅の場合もあるだろう。
(ここは東京都下の田舎っぽい街。都下だから個人宅で営業しているのかな?)
自分なりに理由をこじつけ、何も知らない田舎出身者だから、世間知らずなだけだと、自分に言い聞かせた。
求人に書いてある住所にたどり着いた。ごく普通の6世帯くらいあるようなアパートだった。
(ア、アパートで営業してるの?こんなどこにでもあるようなアパートで?)
お店のテナントでないなら、一戸建ての一室で営業してるものだと思っていた由莉は、ほんの少しモヤっと嫌な感じがしたが、面接の約束をしてるのだからと気持ちを切り替えて、アパートのドアに向かった。
ドアの前に着くと、ガチャっとドアが開いて、普通の女性が
「では今日はありがとうございました。失礼します。」
と出てきた。
(お客さんが来てたのかな?)
由莉は一応、その女性がちゃんとドアを閉めてからノックして入ろうと思い、面接の部屋の隣の家のドアの前にすかさずサッと動いた。一呼吸置いて
「(トントン)こんばんは。面接に来た者です。」
白くて薄っぺらな木造アパートのドアがゆっくりと開いて、少し小太りで禿げたというより、スキンヘッドの中年の男性がドアノブに手をかけたまま
「18時から面接の方ですね、お待ちしておりました。どうぞ。」
と、由莉をアパートの中へ迎えた。
『占い師助手募集。時給1000円』
(え?占い師の助手の仕事?何それ?)
頭の中が「???」とワクワクにまみれた。由莉は占いが大好きだった。特に星座占いと動物占いが好きで、友達になった人の性格や好きな物をリサーチしてすぐ自分との相性はどうかを知りたがる癖があった。親友の真美は自分の母親と同じ誕生日だったのでそれだけで運命を感じたほどだ。由莉はすぐ運命の糸探しをして自分との他人との共通点を見つけようとするオカルト的な所がある。だからこの占い師助手のアルバイトを見つけた時も
(これは運命に違いない!もしかして天職?!私にぴったりの仕事すぎる!)
と思った。しかもその占い師助手の仕事場所が最寄りの駅の近くで歩いても10分少々の場所だから、交通費もかからず自分の大好きな占いに関わる仕事。やってもいないうちから天職と思い込んだ由莉はすぐ様電話をかけた。
「あ、あの~もしもし、求人雑誌のアルバイト募集を見て電話したんですが…」
由莉はアドレナリンが出て興奮していたのを少し抑えて話した。受話器を握る手に力が入っていた。
「はい、お電話ありがとうございます。募集してますよ。あなたお家は何処ですか?」
丁寧な口調で男性が受け答えた。40代くらいだろうか。
「そちらに書いてある住所の近くです。歩いて10分くらいです。」
「では明日18時に面接にいらしてください。」
「あ、はい!わかりました。よろしくお願いします。失礼します。」
由莉は無事面接の約束をした。また働いてもいないし給料も貰っていないのに
(何買おうかな~♪どこに遊びに行こうかな~♪)
と、早々お金の使い道について考え出した。由莉は元々見栄っ張りで、人の好き嫌いが激しくて、極端に物事を考える性格だ。その性格せいで友達も彼氏も厳選してしまうので、由莉の周りには少数しか集まらない。自分がコレだ!と思った事にはとことん突き進み、違うと思った事には見向きもしない。だから、流行りの物は間違いないと信じ込んでしまう。新しい携帯の機種が出ると、それを持つ事がカッコイイと思ってしまうように。
新しいものに興味がない人にとっては、カッコイイ事でも何でもないのに。遊んでる女子大生がカッコイイ、イケてると思い込んでしまってるから、とにかく無駄遣いを無駄遣いと思わず、衝動買いを衝動買いと思わない。
髪の毛の色も、グレージュが流行ればグレージュに、金髪が流行れば金髪に。とにかく流行りのものにすればいいと思っている、お上りさんの特徴的な事はだいたいこなしている。
ただひとつ、都会人と違う所は田舎出身だからか、純粋で人を信じやすい(騙されやすい)所がある。人に感化されやすいからこそ、流行りに乗るのがカッコイイと思うのだろう。占いをすぐ信じてしまう所も、純粋さの名残なのかもしれない。
(占い師の助手のアルバイトをしたら、もしかして私も占い師の卵になれるんじゃないかな?)
またしても根拠のない妄想をしていた。
(でも、占い師の助手?どんな占いなんだろう。タロット?手相占い?マジックでもないのに助手って必要なんだろうか。)
ただただ占いが好きというだけで、占い師助手のアルバイトに応募し、なんの考えもなしの由莉は、決して賢い子とは言えなかった。ちょっと珍しいアルバイト求人を見つけた事を誰かに聞いてもらいたくて、仲の良い2つ年上のお兄さん的存在の清川さんに電話した。
「もしもし?由莉だけど、今話せる?」
「お疲れ~。うん、いいよ。どした?」
イケメンボイスでもない清川の声だが、由莉は何でも話を聞いてくれる聞き上手な清川の声が好きだった。
「あのね、私明日バイトの面接を受けるんだけど、占い師の助手の。」
「は?何?占い師ぃぃ?何すんのよ」
「違う違う、占い師じゃなくて、占い師の助手のアルバイト。面白いでしょ?詳しい事はわからないんだけど、私占い好きだから、なんか興味あって…。」
「なんか由莉っぽいかも、その仕事。頑張ってよ。あ、その面接の後って遊べるかな??」
「私っぽいよね?(笑)明日大丈夫だよ。20時くらいには終わってると思うから、うちに来てね?」
「おう、了解!じゃ明日な!」
由莉はニヤニヤしながら電話を切った。楽しそうなバイトは見つけたし、明日は面接の後、気の合う清川さんと遊べる。そしてもちろんHな事もできる。
(私って人生いい感じに進んでるわ♡)
清川さんには3年付き合っている彼女がいた。月に3回ほど会ってHもそれなりにする。マンネリ化した関係だが彼女の事は好きで別れる気はない。そんな清川さんの気持ちを知っている由莉は、それでも清川さんが会って遊んでくれる、かまってくれる、Hもしてくれる事に心が満たされていた。彼女がいるのに由莉にも体の関係を求めてくる事で、彼女に対して優越感を得ていたのだ。
浮気や不倫などの危ない関係こそ、人の心に火をつける事を若干19歳の由莉は体感したのだ。人のものを奪いたい、欲しい。偏った考え方しか出来ない由莉には最高の興奮剤だった。
次の日、由莉は17時40分頃に家を出た。面接の場所までは徒歩10分少々。自分のアパートから途中までは一本道である。歩いている間、面接で話す自己アピールの事すら考えず、夜に会う清川さんとの営みの妄想で頭がいっぱいだった。
住宅街にポツンとある古びたバッティングセンターを通り越し、次第に住宅も少なくなっていった。
(この辺初めて来たけど、草むらばかりだし、家も少ない。こんな辺ぴな場所に占いをする所があるの?)
普通、占い師がいる場所として思いつくのはデパートなどの隅にパーテーションで仕切ってあるようなワンコーナー。または銀座や原宿にあるような〇〇の母みたいな所。個人の占い師だと自宅の場合もあるだろう。
(ここは東京都下の田舎っぽい街。都下だから個人宅で営業しているのかな?)
自分なりに理由をこじつけ、何も知らない田舎出身者だから、世間知らずなだけだと、自分に言い聞かせた。
求人に書いてある住所にたどり着いた。ごく普通の6世帯くらいあるようなアパートだった。
(ア、アパートで営業してるの?こんなどこにでもあるようなアパートで?)
お店のテナントでないなら、一戸建ての一室で営業してるものだと思っていた由莉は、ほんの少しモヤっと嫌な感じがしたが、面接の約束をしてるのだからと気持ちを切り替えて、アパートのドアに向かった。
ドアの前に着くと、ガチャっとドアが開いて、普通の女性が
「では今日はありがとうございました。失礼します。」
と出てきた。
(お客さんが来てたのかな?)
由莉は一応、その女性がちゃんとドアを閉めてからノックして入ろうと思い、面接の部屋の隣の家のドアの前にすかさずサッと動いた。一呼吸置いて
「(トントン)こんばんは。面接に来た者です。」
白くて薄っぺらな木造アパートのドアがゆっくりと開いて、少し小太りで禿げたというより、スキンヘッドの中年の男性がドアノブに手をかけたまま
「18時から面接の方ですね、お待ちしておりました。どうぞ。」
と、由莉をアパートの中へ迎えた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
童貞村
雷尾
ホラー
動画サイトで配信活動をしている男の元に、ファンやリスナーから阿嘉黒町の奥地にある廃村の探索をしてほしいと要望が届いた。名前すらもわからないその村では、廃村のはずなのに今でも人が暮らしているだとか、過去に殺人事件があっただとか、その土地を知る者の間では禁足地扱いされているといった不穏な噂がまことしやかに囁かれていた。※BL要素ありです※
作中にでてくるユーチューバー氏は進行役件観測者なので、彼はBLしません。
※ユーチューバー氏はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/manga/980286919/965721001
こわくて、怖くて、ごめんなさい話
くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。
本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、
幾つかご紹介していきたいと思います。
紫色のラナンキュラスの花束を私にシオンを貴方へ
秋 夕未
ホラー
【もう出会う事はできなくても俺達はいるから】
高校生活最初の夏休み、祖父母の家にやってきた瑠璃。
小さい頃にこの村で迷子になったけれどその記憶は全くない。
小さな村に存在する神社にお参りした時の不思議で不気味な体験。
知っている村なのに不気味な空気が広がる異様な世界。
一人きりだった筈なのにいつの間にか隣にいた謎の男子【蒼生】と不気味な村を歩いて探す3つの石
その石を集めたら瑠璃は元の世界に帰る事ができるのか。それは全くわからない。
オニが出るよ
つぐみもり
ホラー
僕は喘息の治療のため、夏休み中は田舎の祖父母の家に泊まることになっていた。
山道で出会った、狐面をした虹色の髪の少年が警告する。
「帰れ、お前のような奴が来る所じゃない」
遠くで、甲高い悲鳴のような鳴き声が響いた。
ハンニバルの3分クッキング
アサシン工房
ホラー
アメリカの住宅街で住人たちが惨殺され、金品を奪われる事件が相次いでいた。
犯人は2人組のストリートギャングの少年少女だ。
事件の犯人を始末するために出向いた軍人、ハンニバル・クルーガー中将は少年少女を容赦なく殺害。
そして、少年少女の死体を持ち帰り、軍事基地の中で人肉料理を披露するのであった!
本作のハンニバルは同作者の作品「ワイルド・ソルジャー」の時よりも20歳以上歳食ってるおじさんです。
そして悪人には容赦無いカニバリズムおじさんです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる