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第2章
白痴-3-
しおりを挟む「三日後に実地調査といこうか。」
先生がそういった。
僕は退勤をして帰路に着く。
最近は日が落ちるのが早い。
季節は冬になろうとしている。
電信柱の脇で野良猫が縄張り争いをしている。なんて平和なんだ。
ドスン。
不覚にも後ろから追突された。
振り向いてみるとそこには中学生くらいのあどけない顔の女の子。
リュックサックを大事そうに胸に抱えている。
「すみません、すみません」
「あ、大丈夫ですよ。」
「すみません、すみません」
焦った様子で何度もすみませんという言葉を発する。
「僕は大丈夫ですよ、あなたは?ケガとかしてないですか?」
「すみません、すみません」
違和感。何かしらの障害をおもちなのだろうと思った。
「僕は大丈夫なので、謝らないでください。気をつけて。」
「すみません、、」
そう言うと彼女はリュックサックのなかから24色入りのクレヨンを取り出した。
んん。困ったなこれは。
さっきの猫たちはもう居ない。
電信柱の少し前あたりに彼女は座り込んだ。
おもむろに何かを描き出す。
「すみません、すみません」
謝ると言うよりかは、何かを発していないと不安になるようだった。
幸い、車通りも少ない。
見守ってみることにした。
素早いタッチで迷いがなく、色を変えながらアスファルトに描き出す。
ピンク、青、白…
10分くらい経っただろうか。
通行人が気にかけて一度は足を止めるが去っていく。
「これは、、」
直径1m程度のスペースに魔法陣のようなものが出来上がった。たしか、ルーン文字。
それだけでなく桜に鯨。
アスファルトが凸凹なのに、それが形になって見える。モザイクアートのように。
「すごいね、驚いたよ。」
素直な感想。一瞬でこんな絵がかけるなんて。
「すみません、すみません」
「いや、いいんだ。ありがとう」
「あり、がとう」
「うんうん、ぶつかったおわびってことだねきっと。ありがとう。」
「あり、、がとう」
そう言うと、
彼女の目が明るくなった。
先程とは別人のようにみえる。この子は心が顔に反映される子なんだと思った。
きっと素直なんだろう。
「かえり、、ます」
そう言って彼女は深くお辞儀をして去っていった。
なんだか心配に思ったけれど、最初の印象よりも怯えた様子はなかったので、その背中を見送ることにした。
「しかしこの絵はどんな意味があるんだろうか。」
桜と鯨、ルーン文字。魔法陣。
好きなものを組合せたのかなと思ったけれど、何か引っかかるものがあったので写真に収めることにした。
トントン。
振り向くと、なんと素敵な好々爺。
「お兄さんねぇ。落書きはこまるねぇ。」
「え?」
完全に濡れ衣だが消さないわけにもいかず、僕はそれからの時間を奉仕活動に費やすことになった。
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