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第1章

日常

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冷蔵庫にあったそれをどうするべきか。ネット検索で効率的な処理方法を探していた。

強力な分解液を合成して溶かすことやバラバラにして動物に食べさせるとか。どれもよかったが頭が混乱して選択できない。
とりあえず血なまぐさいのと吐瀉物がまじで臭うので吐瀉物の方を何とかした。

血なまぐさい方は液体の部分をタオルで拭って洗い流した。ルミノール反応が出てしまうだろう。キッチンハイターで何とかならないか拭いてみた。気休めだと思うが。

冷蔵庫に入っているそれは禍々しいオーラとともに存在感が増していく。元の位置に戻せばまだ動きそうな様子だ。戻るわけはないのだけれど。人生割り切りも必要だ。こんなものが自室の冷蔵庫に入っているなんて、割り切る以外の選択肢がない。

シェークスピアの物語に、心臓をきっちり1ポンド、借金のかたにする描写があるのを思い出した。たしかあの話では、主人公は心臓は取られずに済むのだけど。この心臓は1ポンドきっちり切り取ったとは言えないが、おそらくそのぐらいの重量を持っているだろう。

心臓なんて切り取っても使い道はないのに何故切り取ったのだろうか。こんなことをおれは思いつかない。困ったものだ。霧臥森公園の犯人とおれはおそらく一致するのだろうけど、おれには記憶が無い。貧弱な海馬でもそんな大事件を忘れるものなのだろうか。

毒々しく赤黒いそれはなんだかトマト缶みたいだなと思った。そうか、こんなものバラバラにして焼いて食べてしまえばいいのか。そんなに大きなものでは無いし、三食に分ければ案外行けるかもしれない。

異常な感覚。食べるだって。正気じゃないんだ。ひた隠しにしたくなるのは自分が犯人だと認めるようなもの。他人が殺して陥れるためにブツだけをここに隠しただとか、そんな可能性がないか考えた。内鍵をした玄関のドアがそれを覆してしまう。

そんなことをしてるうちに疲れ果てた。ベッド突っ伏す。現実を受けいれられない。全て夢であって欲しい。強烈な睡魔が襲って来た。そうか、これは悪い夢なんだ。そりゃそうだ。こんな気持ち悪いこと、夢じゃなくて何がある。おれは深い眠りへの誘いに抵抗する必要は無いと感じた。

思考回路のバグ。それがもしかしたら心臓のようなものを認識させているのかもしれない。トマト缶がおどろおどろしい心臓缶に見えているのかもしれない。

なくなってる自転車は探して回収しないと。

でも、今は現実と向き合いたくない。思考を巡らせているうちに疲れきって、意識が落ちた。
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