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第20話

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 食器をさげるとき、仲居さんは終始口元がニヤついていて絶対に変な勘違いをしていたはずだ。
 仲居さんが退室してから、私は何だか気まずくて部屋を出ようと立ち上がった。
「春妃、どこに行くの」
「お、温泉入りに……」
「温泉の利用時間ギリギリだけど」
「パッと浸かるだけだから平気平気!」
 私は逃げるように部屋を出ると温泉に向かった。

 利用時間ギリギリということもあって、大浴場は貸切状態だった。
 私は露天に浸かって空を眺める。夜空は星が煌めいていて綺麗だった。
「夏樹にも見せてあげたかったな……」
 私がポソリと漏らすと「いや、見てるけどね」と夏樹の声がした。
 え? と横を向くと、そこには夏樹がいた。
「なっななな……⁉」
 私が驚いて大声を出すと、静かに、と夏樹が私の口を押さえる。
「夏樹っどうしてここに⁉ ここ女湯!」
「春妃と温泉入りたくて」
 夏樹は悪びれる様子もなくけろりと答える。
「だからって――」
「それに春妃と楽しいことしたかったし。大浴場でバレないようにヤるなんて燃えるじゃん?」
 夏樹は不敵に笑うと私の項に口付けをした。
「だめだって、夏樹」
 私は夏樹から離れようと温泉から出ると、フェイスタオルで身体を隠す。しかし、夏樹は私の両腕を掴むと柱に押し付けた。はらりとフェイスタオルが落ちて隠していた裸体が露わになった。
 濡れた髪先から雫が落ち、私の胸元にこぼれると胸の膨らみに沿って流れていく。
「春妃って綺麗な胸をしているよね」
 男らしい大きくて骨ばった手が私の胸を包むと時計回りに揉みしだく。
「んっ」
 私は声が漏れないように片手で口を押さえる。
「声が漏れないようにしていい子だね、春妃」
 胸を舌で撫でるように触れると吸い付き、胸の頂に歯を立てた。
「――っ!」
 私の身体がビクリと跳ねると、荒い息をさせながらズルズルと背中を滑らせた。
「まだ終わらせないよ」
 座り込んだ私の両足を夏樹が強引に開く。
「いやっ、そこはだめっ」
 私は足を閉じようとするけど、夏樹の力にねじ伏せられる。
「すごいトロトロじゃん」
 夏樹は私の蜜口に触れると、糸を引く指を私に見せた。
「やだ……見せないで」
 夏樹は蜜口に顔を近付けると、舌先でそっと触れた。
「そんなとこっだめ」
 私は夏樹の頭を押さえていやいやと首を横に振る。だけれど夏樹は止めない。ぴちゃぴちゃと音を立てて、反応を楽しむように私の顔を見ながら舐めまわす。
「そろそろ頃合いか」
 夏樹は顔をあげると舌なめずりする。そして自分のを私に押し当ててきた。
「夏樹っそれは――」
 私が軽く身体をねじって逃げようとすると、夏樹が顎を持ち上げて洗い場の鏡に姿を映した。
「春妃、今の自分の顔、見てみなよ」
 そこには顔を赤らめ、とろけた目をしている私の顔があった。
「春妃もこの先を期待してるんじゃないの?」
「ちが……!」
「それに、ここで止めたら春妃だってきついでしょ?」
 夏樹は耳元で囁くと、私の中に大きく反り立ったモノを挿入いれた。
 淫らな音と共に私と夏樹の息遣いが露天に響く。夏樹が動く度に私の呼吸がだんだんと荒くなる。そして、私たちは満天の星空の下で果てた――。


 翌朝。目を覚ますと私は夏樹に抱き締められていた。
 昨日……私は夏樹と一線を越えてしまった。自分の気持ちを夏樹に伝えられぬまま――。
 夏樹と繋がった場所がまだ、ヒリヒリと熱帯びている。
「ん……」
 まだ、まどろみの中にいる夏樹が私の胸に顔を埋める。
「夏樹。そろそろ起きないと」
 私は背中をたたく。と、夏樹は私の首筋を甘く噛んできた。
「やだ、ダメだって」
 夏樹の唇が優しく首筋に触れて、くすぐったい。夏樹が私の浴衣の衿元に手を入れる……。
 このままじゃ、夏樹に流されてしまう。
「夏……」
「お客様、ご朝食のお時間です」
 仲居さんが部屋に入ってきた。私の顔と夏樹の顔を交互に見ると口元に手を当てる。あぁ、これ昨日と全く同じ展開だ……。

 旅行の帰り道。私と夏樹は二人並んで歩いていた。日が暮れてきて、辺りがうっすらと暗くなり始めていた。
「旅行、楽しかったな。明日から仕事に行くのが嫌になるよ」
「また二人で一緒に旅行しようよ」
「じゃあもう一度あの旅館に泊まる?」
「それは嫌」
 私と夏樹の姿を見た仲居さんの驚く顔を私は忘れることができない。
 だんだんと家が近付く。すると、周防さん、と声を掛けられた。
 振り返ると、そこには柊さんが立っていた。
 
 

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