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第19話
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夏らしいギラギラと強い日差しが照りつける中、私と夏樹は海に来ていた。
今日はこの後、旅館に一泊する予定だ。夏樹と旅行するのが楽しみで、指折り数えてずっとこの日を待っていた。
海に行くことが決まり、昔着ていた水着を引っ張り出して着てみると、少し胸元がキツくて水着を買い替えた。ホルターネックの落ち着いたデザインを買ったけれど、似合っているかしら?
私がもじもじしていると、春妃、と水着に着替えた夏樹から肩を叩かれた。
「ひゃいっ!」
驚いて跳ね上がる。私は振り返ると夏樹が息をのんだのがわかった。
「えっと……この水着、変、かな」
夏樹の反応が怖くてチラチラと顔を見ながら訊く。
「いや、いいんじゃねぇの?」
夏樹は少し頬を赤くさせるとそっぽを向いた。もしかして照れてる……? そんな反応をさせると何だかこっちまで恥ずかしくなってしまう。
「春妃、顔赤い。大丈夫?」
夏樹が顔を覗き込む。顔が赤いのは夏樹のせいよ、だなんて言えるわけがない。
「暑いからかな……飲み物買ってくる」
心臓の音がうるさいくらい鳴っていて、落ち着かせるために私は浜辺を一人で歩く。
打ち寄せる波が足を濡らした。ひんやりとして気持ちいい……。私は履いていたサンダルを脱ぐと、波が膝にかかるくらいの所まで入った。潮の香りを鼻いっぱいに吸い込む。
「お姉さん、一人?」
突然、男性に声を掛けられた。
「いえ、連れがいます」
声を掛けられて私は戸惑う。
とりあえず夏樹のもとへ戻ろう……。身体を後ろにして向き変えると、男性の友達が前を塞ぐようにして立っていた。
「あれ? お姉さんどうしたの?」
「お前もしかしてナンパしてたのか?」
「可愛かったし一人でいたから声を掛けた」
「確かに……可愛いけど」
男性たちは私をねっとりとした目で見る。それが何だか怖くて、片腕だけ腕を組むと身体を隠した。
「ちょっとだけ一緒に遊ぼうよ、ねっ?」
一人が私に触れようと手を伸ばす。
いやっ怖い――。私は目をつぶる。瞬間、パシッと手を払い除ける音がした。
「春妃、やっとみつけた」
夏樹が私を守るかのように肩を抱き寄せた。肌と肌が密着する。筋肉質で男らしい胸板に私はどきどきしてしまう。
「なんだ。本当に連れがいたんだ」
「ごめんね、お姉さん」
男性たちは行ってしまった。だけれど、夏樹は私を抱き寄せたまま放さない。
「な、夏樹」
私は夏樹を見上げる。
「この前のホテルの客やらさっきの男性やら春妃はいろんな人から絡まれすぎ。春妃は可愛いんだからもっと周りに気を付けてよ」
親指で私の唇を擦る。海水で、少ししょっぱい味がした。
「う、うん。気を付ける」
どうしよう……。今日は夏樹にどきどきされっぱなしだ。私の中で夏樹を好きな気持ちがどんどん大きくなっていく――。
夕方。私たちは旅館にチェックインした。
ここの旅館は海から近い場所にあって、部屋の窓から海が一望できる。それに何と言ってもこの旅館の一番の楽しみは温泉だ。
夕食前に一度温泉に入りに行く。家族風呂はないけれど、男女別々の大浴場は内湯と露天がついていて内湯は檜風呂、露天は岩風呂と二種類のお風呂を楽しむことが出来た。
部屋に戻ると夕食の準備がされていた。新鮮な海の幸がテーブルいっぱいに並んである。
「何これ、美味しそう!」
「舟盛とは豪勢だな」
夏樹も温泉から戻ってきて浴衣姿だった。着慣れてないからか、ちょっとだけはだけた浴衣から厚い胸板が覗いていた。
海でずっと見ていたはずなのに……。どこを見ればいいのかわからなくて私は視線を逸らした。
「あー、幸せ」
食事を済ませた私はお茶を飲みながら、まったりしていた。
食事はとても美味しかった。一品一品が丁寧に下ごしらえされていて、素材本来の味が感じられた。
「本当に幸せそうに食べていたよな。まさか春妃に俺の分の伊勢海老を食べられるとは思わなかったよ」
「あ、あれは夏樹がいつまでも残していたから食べないのかと思って」
「俺は好きなものは最後に食べる派なの」
「そ、そんなこと知らなかったし!」
私は口を尖らせたまま答えると立ち上がる。
すると、目の前の世界が傾いた。正座で足が痺れてバランスを崩したのだ。
「きゃっ」
「――危ないっ!」
夏樹が助けようと手を伸ばす。私は咄嗟に夏樹の浴衣の袖口を引っ張っると、そのまま倒れ込んだ。
「痛た……大丈夫? 夏――」
私は目を見開いた。倒れ込んだ私に夏樹が両手を付いて覆いかぶさっている。夏樹の顔が近い。
「あ……」
夏樹の顔が近くて思わず顔を逸らした。心臓の鼓動が速く打つ。だけど、夏樹はなかなか退いてくれない。
「夏樹……?」
「春妃、俺――」
夏樹が畳に付いている手を少し動かす。ミシっと畳が鳴る音がした。
「お客様、食べた食器をおさげしてもよろしいですか?」
仲居さんがお盆を持って入ってきた。仲居さんは私と夏樹を交互に見ると「あらあら、これは大変失礼しました」丁寧に頭を下げて退室しようとするではないか。
「待ってください、食器をさげて下さい!」
私は急いで起き上がると仲居さんを引き止めた。
今日はこの後、旅館に一泊する予定だ。夏樹と旅行するのが楽しみで、指折り数えてずっとこの日を待っていた。
海に行くことが決まり、昔着ていた水着を引っ張り出して着てみると、少し胸元がキツくて水着を買い替えた。ホルターネックの落ち着いたデザインを買ったけれど、似合っているかしら?
私がもじもじしていると、春妃、と水着に着替えた夏樹から肩を叩かれた。
「ひゃいっ!」
驚いて跳ね上がる。私は振り返ると夏樹が息をのんだのがわかった。
「えっと……この水着、変、かな」
夏樹の反応が怖くてチラチラと顔を見ながら訊く。
「いや、いいんじゃねぇの?」
夏樹は少し頬を赤くさせるとそっぽを向いた。もしかして照れてる……? そんな反応をさせると何だかこっちまで恥ずかしくなってしまう。
「春妃、顔赤い。大丈夫?」
夏樹が顔を覗き込む。顔が赤いのは夏樹のせいよ、だなんて言えるわけがない。
「暑いからかな……飲み物買ってくる」
心臓の音がうるさいくらい鳴っていて、落ち着かせるために私は浜辺を一人で歩く。
打ち寄せる波が足を濡らした。ひんやりとして気持ちいい……。私は履いていたサンダルを脱ぐと、波が膝にかかるくらいの所まで入った。潮の香りを鼻いっぱいに吸い込む。
「お姉さん、一人?」
突然、男性に声を掛けられた。
「いえ、連れがいます」
声を掛けられて私は戸惑う。
とりあえず夏樹のもとへ戻ろう……。身体を後ろにして向き変えると、男性の友達が前を塞ぐようにして立っていた。
「あれ? お姉さんどうしたの?」
「お前もしかしてナンパしてたのか?」
「可愛かったし一人でいたから声を掛けた」
「確かに……可愛いけど」
男性たちは私をねっとりとした目で見る。それが何だか怖くて、片腕だけ腕を組むと身体を隠した。
「ちょっとだけ一緒に遊ぼうよ、ねっ?」
一人が私に触れようと手を伸ばす。
いやっ怖い――。私は目をつぶる。瞬間、パシッと手を払い除ける音がした。
「春妃、やっとみつけた」
夏樹が私を守るかのように肩を抱き寄せた。肌と肌が密着する。筋肉質で男らしい胸板に私はどきどきしてしまう。
「なんだ。本当に連れがいたんだ」
「ごめんね、お姉さん」
男性たちは行ってしまった。だけれど、夏樹は私を抱き寄せたまま放さない。
「な、夏樹」
私は夏樹を見上げる。
「この前のホテルの客やらさっきの男性やら春妃はいろんな人から絡まれすぎ。春妃は可愛いんだからもっと周りに気を付けてよ」
親指で私の唇を擦る。海水で、少ししょっぱい味がした。
「う、うん。気を付ける」
どうしよう……。今日は夏樹にどきどきされっぱなしだ。私の中で夏樹を好きな気持ちがどんどん大きくなっていく――。
夕方。私たちは旅館にチェックインした。
ここの旅館は海から近い場所にあって、部屋の窓から海が一望できる。それに何と言ってもこの旅館の一番の楽しみは温泉だ。
夕食前に一度温泉に入りに行く。家族風呂はないけれど、男女別々の大浴場は内湯と露天がついていて内湯は檜風呂、露天は岩風呂と二種類のお風呂を楽しむことが出来た。
部屋に戻ると夕食の準備がされていた。新鮮な海の幸がテーブルいっぱいに並んである。
「何これ、美味しそう!」
「舟盛とは豪勢だな」
夏樹も温泉から戻ってきて浴衣姿だった。着慣れてないからか、ちょっとだけはだけた浴衣から厚い胸板が覗いていた。
海でずっと見ていたはずなのに……。どこを見ればいいのかわからなくて私は視線を逸らした。
「あー、幸せ」
食事を済ませた私はお茶を飲みながら、まったりしていた。
食事はとても美味しかった。一品一品が丁寧に下ごしらえされていて、素材本来の味が感じられた。
「本当に幸せそうに食べていたよな。まさか春妃に俺の分の伊勢海老を食べられるとは思わなかったよ」
「あ、あれは夏樹がいつまでも残していたから食べないのかと思って」
「俺は好きなものは最後に食べる派なの」
「そ、そんなこと知らなかったし!」
私は口を尖らせたまま答えると立ち上がる。
すると、目の前の世界が傾いた。正座で足が痺れてバランスを崩したのだ。
「きゃっ」
「――危ないっ!」
夏樹が助けようと手を伸ばす。私は咄嗟に夏樹の浴衣の袖口を引っ張っると、そのまま倒れ込んだ。
「痛た……大丈夫? 夏――」
私は目を見開いた。倒れ込んだ私に夏樹が両手を付いて覆いかぶさっている。夏樹の顔が近い。
「あ……」
夏樹の顔が近くて思わず顔を逸らした。心臓の鼓動が速く打つ。だけど、夏樹はなかなか退いてくれない。
「夏樹……?」
「春妃、俺――」
夏樹が畳に付いている手を少し動かす。ミシっと畳が鳴る音がした。
「お客様、食べた食器をおさげしてもよろしいですか?」
仲居さんがお盆を持って入ってきた。仲居さんは私と夏樹を交互に見ると「あらあら、これは大変失礼しました」丁寧に頭を下げて退室しようとするではないか。
「待ってください、食器をさげて下さい!」
私は急いで起き上がると仲居さんを引き止めた。
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