強引な初彼と10年ぶりの再会

矢簑芽衣

文字の大きさ
上 下
36 / 36

最終話

しおりを挟む
 電話を切ると、私は走った。
 先輩に会いたい。先輩と話したい。私は、先輩のことが――。
「ほのか!」
 道路を挟んで向かい側にいた先輩が、私の名前を呼ぶ。
「先輩っ」
 私は道路を横切ると先輩の胸に飛び込んだ。
「ほのか……」
 先輩が私を強く抱きしめた。
「先輩、先輩……」
 私は何度も先輩を呼んだ。今、先輩の胸の中にいることを深く感じたくて。
「俺はお前を傷付けて泣かせてばかりだ。だけど俺は、ほのかのことが……」
 そこで、私は背伸びをすると先輩の唇にキスをした。
 先輩の瞳が大きく見開かれた。私から先輩にキスをするのはこれが初めてだった。
「……高校の頃、先輩は私に好きって言ってくれたのに私は何も伝えてなかった。ずっと自分の気持ちを言わなかった」
 自分の声が震えているのがわかった。でも、ちゃんと伝えなくちゃ。
「私は……私は、先輩のことが好きです」
 やっと、言うことができた――。
 先輩の瞳に光が差した。
「俺も、ほのかのことが好きだ。ずっと、高校の時から……」
 私と先輩は見つめ合う。お互いに、愛おしそうに。
「愛してる」
 二人の言葉が重なった。


 ほのかの家にあがると、俺はほのかに優しくキスをする。
 そして服を脱がせるとベッドに横たわらせた。
「先輩……」
 不安そうに見つめるほのか。
 その不安を取り除くように俺は指先で頬を撫でると、ゆっくりと首筋に吸い付いた。
「……っ」
 ほのかの身体が跳ねた。
「怖い?」
 俺が訊くと、ほのかは横に首を振る。
 俺はほのかの身体に触る。大事なものに触れるかのように。そっと、優しく――。
 俺は満たされていた。以前はほのかにいくら触れたってキスしたって抱いても満足できなかったのに。一体、どうして……。
「先輩」
 ほのかが両手をあげ、俺の顔に触れた。とても幸せそうな顔をしながら。
 ――……そうか。
 いくら触れたってキスしたって抱いても満足できなかったのは、ほのかの心を確かめてなかったからだ。ほのかの気持ちがわからなくて、ほのかが俺のことをどう思っているのか不安だったからだ。でも、今は……。
「先輩、好きです」

 あぁ、心が繋がるってこんなにも満たされて幸せなんだ――。
 
 

 ある日、私は呼び出された場所で愛しい人を待っていた。
「ほのか」
 彼が私の名前を呼ぶ。
 振り返ると目を細めて微笑む先輩が立っていた。
「どうしてここに呼び出したの?」
 そう言うと私は一面に広がるネモフィラ畑を見つめる。ネモフィラの青色がどこまでも続いていた。
 先輩は私の横に並んだ。
「一度、ほのかと一緒に見てみたかったんだ。高校の時、中庭で言ってただろ? 一面ネモフィラが咲いたネモフィラ畑は綺麗だって」
「そんなこと言ってたね」
 私はくすりと笑う。
「本当に綺麗なんだな」
「うん……」
 風が吹いた。私は靡く髪を手で押さえる。
「ほのか。今日君を呼び出したのは、これを渡すためなんだ」
 そう言って先輩が取り出したのは指輪だった。
「これって――」
「俺と結婚して欲しい」
 私はゆっくりと頷くと、先輩は指輪をはめる。
「ほのか、愛してる」
「私も、愛してる」
 どちらともなく、私たちはキスをした。
 また、風が吹いた。ネモフィラの青い花びらが空を舞う。
 私の左薬指には、はめた指輪が銀色に光り輝いていた。

                                【了】

 


 
  


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

彼と私と甘い月

藤谷藍
恋愛
白河花蓮は26歳のOL。いつも通りの出勤のはずが駅で偶然、橘俊幸、31歳、弁護士に助けられたことからお互い一目惚れ。優しいけれど強引な彼の誘いに花蓮は彼の家でバイトを始めることになる。バイトの上司は花蓮の超好みの独身男性、勤務先は彼の家、こんな好条件な副業は滅多にない。気になる彼と一緒に一つ屋根の下で過ごす、彼と花蓮の甘い日々が始まる。偶然が必然になり急速に近づく二人の距離はもう誰にも止められない? 二人の糖度200%いちゃつきぶりを、こんな偶然あるわけないと突っ込みながら(小説ならではの非日常の世界を)お楽しみ下さい。この作品はムーンライトノベルズにも掲載された作品です。 番外編「彼と私と甘い月 番外編 ーその後の二人の甘い日々ー」も別掲載しました。あわせてお楽しみください。

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

タイプではありませんが

雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。 顔もいい、性格もいい星野。 だけど楓は断る。 「タイプじゃない」と。 「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」 懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。 星野の3カ月間の恋愛アピールに。 好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。 ※体の関係は10章以降になります。 ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...