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第二章

第三話

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 買ってきた荷物を片付けることもせず、袋に入ったままのそれを放置して、悠花はまずソファで智晃を受け入れた。
 座面のゆったりした大きなソファは二人が抱き合っても十分余裕がある。リビングの明かりは灯り、カーテンは開きっぱなしだ。なのに互いに全裸になって熱い吐息をかわしあう。
 ソファの背もたれに背中をあずけ、折り曲げられた足を押さえつけて広げられる。出し入れしているのがわかるように智晃はゆっくりと腰を動かしていた。

「悠花……見て。僕のが入っている」

 目を閉じて逃げ出したいのに、智晃は繋がっている場所を見るように促す。自分のその部分でさえいやらしく思えるのに、男が出入りするそれを見るのだ。大きなものが簡単に自分の中に入ってきてそのまま出ていく。女の中は男の形に合わせて変化していくというが、悠花は出ていく智晃を追いかけようと蠢く自身の形はまさしくそうなっている気がした。
 智晃は奥に入ってくるとき、きちんと悠花の感じる場所を抉っていく。その部分を突かれるときにだけしか出なかった嬌声は、今はどこに入れられても響くようになってきた。

「あんっ、はあっ……あ、あっ、あん、んんっ」
「気持ちいい? 悠花の中が変わってきた。僕のものをきゅって締めつけて来る」

 喘ぎ声と同時に、自ら溢れ出て来る水音が重なる。濡れている音が大きくなるごとにどんどん湧き出てくる蜜が、智晃にからみついて光っててらつく。

「だめだ、悠花。ちゃんと見て」

 優しく甘えさえ含んだ声音なのに強制力がある。
 悠花は智晃の懇願を拒めずに、彼が出し入れするごとに自分の中から飛び散る滴さえ見る羽目になった。

「やっ、だめっ。あ、きっ……とも、あきさ、んんっ」

 油断するとアキと呼んでしまう。膝を抑えていた手が離れると、言い間違えを窘めるかのように彼の手が結合部のつけ根に伸びてきた。繋がっている場所のすぐ上は気持ちのいい場所。そこを指先でこすられれば、どれほどの快楽を得られるか知っている。怯えと期待とが混じった視線で、その指の動きを追う自分がいた。

「やっ、ああっ、やんんっ、あああっ」

 智晃はゆるやかな速度を保ったまま、悠花の弱いスイッチを軽く抑えた。撫でるでもこするでもなくただきゅっと一点を。そのままぐっと力がこめられると、悠花の体はがくがく震えて達していく。
 もうその部分を見る余裕などなく、背中をそらせて胸をつきだし、ぐっと足を広げた。
 愛しい男にさらすいやらしい姿。純粋に快感だけをむさぼり自我も体も開放する。声をあげ中に入り込んだ大きなものを強く締め付けた。

「くっ、悠花、出る!」

 彼の言う通り出すのは彼であって自分ではないはずなのにぐいっと強く押しこまれた瞬間、中から何かがこぼれていった気がした。





「あっ、はあっ、はっ」
 
 息が整わない。声というより喘ぎだけが漏れて大きく肩を上下する。あまりの快感に思考が追い付かず、智晃が出て行っても悠花は開ききった体を動かすことはできなかった。
 後始末を終えた智晃がいやらしい形のままの悠花を視姦する。彼がさっきまで出し入れしていた場所はその形を保ち、栓を失ってだらだらと中身がこぼれていく。

「悠花……すごく綺麗で、すごくいやらしい」

 智晃はかすれた声でつぶやくと膝を床につき、達したばかりで無防備なそこにふわりとくちづけをした。
 激しく達して動けない体にその刺激は強すぎて、悠花は言葉にならない声をあげる。落ち着きをとりもどしていないのにふたたび翻弄されて涙があふれてくる。

「はっ、ああっ、あああっ」

 じゅるじゅると吸い込む音がして舌が空間を埋めるように舐り、痺れを保った粒が甘噛みされる。全身が再び快楽によって貫かれ呆気なく達した。突っ張った足先がぶるぶる震え目じりから涙がこぼれた。悠花は泣きながら「もう無理、だめ」とようやく言葉を口にした。
 ぽろぽろ泣きつづける悠花を智晃は抱きしめる。髪をなでて「ごめんね」と言われると首を横に振ることしかできない。
 そしてこれ以上はもう無理だと思うのに、体の奥がスースーしてもどかしい。
 埋め尽くされる喜びを知っている体は、ついさっき与えられていたにも関わらず達するたびに欲しいと嘆く。泣き出した悠花をなだめるために背中をなでる手にさえ、ぴくりと震える。

「あっ……んんっ」
「悠花?」

 余韻だけで高みにのぼろうとするのが恥ずかしくて俯いた。

「敏感になりすぎた? かわいいな……このまま手伝いたいけど、少し落ち着いた方がいいね」

 彼には壊してほしいと願うことが多い。でもいやらしく乱れることに羞恥もある。こんなに簡単に快楽にのまれるなんて淫乱みたいで嫌われるのではないかと。

「きら、わ、ないで」
「悠花? 嫌いになんかならないよ」
「でも、わた、し、やらしいっ」

 心地よくて怖くて、体が熱くて思考は混乱する。

「僕のせいでいやらしくなって、僕の前だけ見せてくれるんだろう? 悠花はかわいいだけで何も悪くない。僕はむしろ嬉しいよ。悠花が素直に甘えてくれるのはこんなときだけだから。僕はどんなあなたも好きだよ」
「私もっ、好き」
「ほら、かわいい。あまり追い詰めるのもかわいそうだから一緒にシャワー浴びて落ち着こうか?」

 悠花は智晃に抱かれてバスルームに連れていかれた。




 ***




 同年代の女性より、悠花は落ち着いて控えめな印象を受ける。
 落ち着きはどこかあきらめからきて、控えめさは怯えからきている。
 彼女の過去がそうさせているのだと今はわかる。
 そしてその印象が晴音と重なっていたのだと。
 晴音もいろんなことをあきらめて、未来にいつも怯えていたから。
 でも晴音に一切触れられなかったのと違い、智晃はくまなく悠花を抱いてきた。
 あまりに素直に反応を返してくれて、普段隠れている甘えとか色気とかが一気に放出される。女としての匂いにひきずられてしまうのか、悠花に対して自分が少し執拗だという気はしていた。
 名前も素性も知らない女というはじまりだったせいか。
 相手が智晃のことを何も知らずにいたからか。
 おおよそやったことがないような行為をしている自覚はあった。セックスに対して淡泊だったとはいわないが、そこまでがっついてもいなかったのに。
 いやらしい下着を身につけさせたり、着衣のままベッドでない場所で愛したり、自慰を促すことも、こうして浴室で避妊もせずに貫くこともすべてが初めてだ。
 彼女をバスルームに連れこんだ時は、敏感になりすぎて震えていた悠花を落ち着かせるのが目的だったのに、甘えてよりかかる彼女がかわいくて我慢ができなかった。
 外で出しても避妊にならないことはわかっていたのに、わからなくなっていた悠花の中になし崩し的に入った。 避妊具なしで味わう彼女の中は、これまでにないほどの興奮を智晃に与えた。じっくり味わう余裕もなければ我慢もできなくて、シャワーを浴びながら外で放出して誤魔化すように流していく。
 いやらしいけど嫌わないでと悠花は泣くけれど、智晃の方こそいやらしいことばかりして嫌われないか心配になる。
 バスルームを出てもなお、濡れた体のままでベッドで愛し合った。
 どこに触れてもやわらかくて気持ちがいいから手を伸ばす。そのたびに彼女が敏感に反応するからどんどん先に進んでしまう。
 本気になった女との情交の甘美さに囚われている。
 疲れて眠りについた悠花をこのまま閉じ込めたいと思うぐらいには、彼女にはまっているのだと智晃は認めざるを得なかった。
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