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エピローグ――エンシェントドラゴンは番と××する
『ヴィシュニアの王さま』(終)
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『ヴィシュニアの王さま』は現在も刊行が続いている絵本だ。
今でも最初のページは、賢王グレングリーズの指定席になっている。
おとぎ話のように語られる彼の王は、若い姿のまま三百年という時を生きた、偶像のような存在でもある。
グレングリーズ王が初めてその力の片鱗を見せたのは、隣国シタールからの侵攻を受けた時だ。
彼はまるで予知していたが如く先手先手を打ち防衛に備えていた。
砲撃があった際には、番である黄金竜に単身騎乗し、神のごとき力を行使してシタールの魔導兵器を破壊したという。
国土の被害は最小限であり、人的被害はほぼ無かったというから驚きだ。
その後の復興は、迅速なものであった。
王は的確に都市計画を作成し、それを元に黄金竜は魔法のように街を築き上げたという。
グレングリーズ王が成した事は多い。
一番にあげられるのは飛行魔導機の開発と実用化だ。
王が建て直した新生ヴィシュニア魔導研究所の最初の巨大プロジェクトでもある。魔導工学が盛んな隣国――ギレオン王国との共同研究だったが、主導したのはヴィシュニア側だ。
ヴィシュニアでは空飛ぶ船に情報規制が掛けられていたようだが、それは民の知る所では無かった。
今はその規制も解除され、飛行魔導機関連の職は憧れの対象となっている。研究者も増えて飛行魔導機の大型化も進んでいる。
近年、遠方の東の国から旅行者が増えたのも飛行魔導機による恩恵だ。
東の国と言えば、現在の政治制度が東の国の制度を参考に作られたのはご存じだろうか。
ヴィシュニア王室はいまだ健在だが、政治は民も参加して動かしている。
政の決定速度が鈍くなる方式ではあるが、平和な時代には合ったやり方だ。
グレングリーズ王はこの政治方式を、当時街にいた東の国の賢人と語り合い、決めたという。
旧王朝時代、平民は人にあらずと言ったようなヴィシュニアは随分変わった。
新王朝時代になり、貴族であっても法で罰せられるようになった。平民は生産層として尊重されるようになった。
そしてグレングリーズ王の時代になって、政治参加まで出来るようになったのだ。
勿論すぐに起こった変革ではなかった。
民が政治参加しても問題が起こらないよう、教育から変えていったのだ。
王は少しずつ少しずつ、ヴィシュニアという国のあり方を変えたのだ。それこそ、根底から。
長く生きた王は、それが可能だった。
ページを一つめくってみよう。
そこにはグレングリーズ王が愛した伴侶である、離宮の秘宝が描かれている。
最後の竜種。守護竜アンフェールだ。
金色の巻き毛に、空色の瞳。
この天人の如き美貌の竜は常に賢王に寄り添い、知恵や力を貸したと言われている。
アンフェールは長い竜生を離宮で過ごした。彼は離宮を『帰るべき家』と呼んでいたそうだ。
三百年、ヴィシュニアを見守った賢王と守護竜は、ある日「死期が近くなった」と言い残して、ふらりとどこかへ飛び立ったという。
向かったのは聖典に記される天国の扉か、竜の聖域である蒼天の向こうか。
それとも、伝説として語られる竜の楽園か。
いずれにしても、おとぎ話の如き存在であったふたりは、素敵な場所で、夢見るように幸せな最後を過ごしたのだろう。
――おとぎ話はえてして、めでたしめでたしで終わるのだから。
今でも最初のページは、賢王グレングリーズの指定席になっている。
おとぎ話のように語られる彼の王は、若い姿のまま三百年という時を生きた、偶像のような存在でもある。
グレングリーズ王が初めてその力の片鱗を見せたのは、隣国シタールからの侵攻を受けた時だ。
彼はまるで予知していたが如く先手先手を打ち防衛に備えていた。
砲撃があった際には、番である黄金竜に単身騎乗し、神のごとき力を行使してシタールの魔導兵器を破壊したという。
国土の被害は最小限であり、人的被害はほぼ無かったというから驚きだ。
その後の復興は、迅速なものであった。
王は的確に都市計画を作成し、それを元に黄金竜は魔法のように街を築き上げたという。
グレングリーズ王が成した事は多い。
一番にあげられるのは飛行魔導機の開発と実用化だ。
王が建て直した新生ヴィシュニア魔導研究所の最初の巨大プロジェクトでもある。魔導工学が盛んな隣国――ギレオン王国との共同研究だったが、主導したのはヴィシュニア側だ。
ヴィシュニアでは空飛ぶ船に情報規制が掛けられていたようだが、それは民の知る所では無かった。
今はその規制も解除され、飛行魔導機関連の職は憧れの対象となっている。研究者も増えて飛行魔導機の大型化も進んでいる。
近年、遠方の東の国から旅行者が増えたのも飛行魔導機による恩恵だ。
東の国と言えば、現在の政治制度が東の国の制度を参考に作られたのはご存じだろうか。
ヴィシュニア王室はいまだ健在だが、政治は民も参加して動かしている。
政の決定速度が鈍くなる方式ではあるが、平和な時代には合ったやり方だ。
グレングリーズ王はこの政治方式を、当時街にいた東の国の賢人と語り合い、決めたという。
旧王朝時代、平民は人にあらずと言ったようなヴィシュニアは随分変わった。
新王朝時代になり、貴族であっても法で罰せられるようになった。平民は生産層として尊重されるようになった。
そしてグレングリーズ王の時代になって、政治参加まで出来るようになったのだ。
勿論すぐに起こった変革ではなかった。
民が政治参加しても問題が起こらないよう、教育から変えていったのだ。
王は少しずつ少しずつ、ヴィシュニアという国のあり方を変えたのだ。それこそ、根底から。
長く生きた王は、それが可能だった。
ページを一つめくってみよう。
そこにはグレングリーズ王が愛した伴侶である、離宮の秘宝が描かれている。
最後の竜種。守護竜アンフェールだ。
金色の巻き毛に、空色の瞳。
この天人の如き美貌の竜は常に賢王に寄り添い、知恵や力を貸したと言われている。
アンフェールは長い竜生を離宮で過ごした。彼は離宮を『帰るべき家』と呼んでいたそうだ。
三百年、ヴィシュニアを見守った賢王と守護竜は、ある日「死期が近くなった」と言い残して、ふらりとどこかへ飛び立ったという。
向かったのは聖典に記される天国の扉か、竜の聖域である蒼天の向こうか。
それとも、伝説として語られる竜の楽園か。
いずれにしても、おとぎ話の如き存在であったふたりは、素敵な場所で、夢見るように幸せな最後を過ごしたのだろう。
――おとぎ話はえてして、めでたしめでたしで終わるのだから。
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