エンシェントドラゴンは隠れ住みたい

冬之ゆたんぽ

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墓標――ふたりで謳う終わりの歌

アンフェールと前世を想う交わり2 ※

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 グレンの表情に不穏なものを感じて、アンフェールはブルリと震えた。
 逃げたい気持ちになり、身体を捩って腕を使いズリ、と僅かに動く。でもちょっとしか動かない。
 両手を揃えてシーツをギュッと掴む。

 グレンはアンフェールの腰を掴んだ。逃がさない、という意思表示だ。そのまま圧し掛かるようにして、最奥を突き上げる。

「~~~~ひぅっ!!!」

 アンフェールは強い刺激に仰け反った。眼前にチカチカと星が散る。

「煽ってるの?」
「ちが、う。だって……」
「アンフェール、胎に射されるの好きだったよね。いつも『ちょうだい』って、おねだりして可愛かったね」

 そう言ってグレンは一旦性器を抜いて、アンフェールをひっくり返した。うつ伏せになったアンフェールの腰を引き付け、再び侵入してくる。

 ドッグスタイルだ。
 グレングリーズはこの体位が好きだった。

 彼は優しい性格の割に、本能優先の獣のような交接を好んでいた。神のごとき古竜種エンシェントドラゴンであり、竜王であったアンフェールに雌犬のような姿勢で受け入れさせるのだ。
 アンフェールは交接による高揚感はあるとはいえ、フェロモンを感じることが出来なかったから、常に素面しらふだった。
 羞恥と、それによる興奮を覚えさせられたのは、彼の嗜好によるものだ。

「背中もあの頃より細い」

 つつ、と背骨を指でなぞられた。アンフェールの身体はビクリと跳ね上がる。

「だっ、だから、まだ、おさないと……。だいじに、あつかえ……」
「ああ、もちろん。これ以上なく大事にする。愛しいアンフェール」

 グレンはアンフェールに圧し掛かり肩口にちゅ、ちゅ、と口づけを落としている。そうしながらゆるく腰を揺らし、中を刺激する事も忘れない。
 アンフェールはただ、はふはふと息を吐きながらそれを受け入れている。

「あう……あっ、は……ぅ」

 獣の姿勢で、気持ちのいい一番奥をノックされ続けている。本能に訴えかけられている。

「だめ、ひらいちゃ、やっ」
「アンフェールは孕むのは嫌? なら、弁を開かないように頑張らないと」
「あっ、あ~~~~!」
「締めつけて……本当は欲しいの?」

(ほしい……でも、だめだ。ああ、こういう風に考えると余計興奮してしまう……)

 快楽に堕ちるまいとする抵抗も、アンフェールにとっては良いスパイスになってしまう。
 興奮で漏らした蜜は太ももを伝って垂れる程だし、ぷるぷると揺れるペニスからも雫が落ちている。
 種付けを強請るようにお尻はゆらゆらと揺れている。

 今世ではフェロモンを感じることが出来る分、この本能を刺激するような扱いは歓喜でしかない。
 上に乗るグレンから顔が見えない分、アンフェールは快感に緩んだ顔をしている。顔を上気させ、目を潤ませて、唾液を零している。
 はぁはぁと、荒い呼吸の合間に甘い鳴き声を上げている。

 アンフェールの姿は全身で雄を誘っていた。

「ぐれ、ん……あ、あ、はっ……」
「おしり振って……気持ちよさそう」
「あ、あっ、いうな、っ……」
「かわいい、俺の王さま……」

 火がついたのか、グレンは身体を起こし、荒々しいやり方でアンフェールの尻に腰を打ち付けた。
 ベッドを軋ませる激しい攻めが始まった。
 パンパンと肉のぶつかる音がする程の激しい抽送。卑猥な水音を立てる、ケダモノの交接だ。

「あっ、ひ、ひぐっ……うっ……」

 アンフェールの柔らかな尻はその振動でぷるぷる揺れる。それは盛りのついた雄が噛みつきたくなる程の、魅惑的な柔肉だった。
 グレンはそれを眺め、歯を剥きだして笑った。

「噛みたくなるね」
「ひっ……や、かむな……」
「ふふ、噛まないよ」
「あっ……ふあっ……、ぜったい、だぞ……!」

 アンフェールは枕をぎゅうぎゅう掴み、快楽の責め苦に耐えている。
 グレンはもうアンフェールをいかせるつもりなのだ。そういう動きに切り替わっている。強い刺激で絶頂に導こうとしている。

「い゛っ、あ、ああっ、ゃあ……」

 アンフェールは涙とよだれでぐしょぐしょになりながら、鳴き喘いでいる。
 甘く痺れた下肢は力が入らず、ぐったりだ。そんな快感で重くなった腰はグレンにがっしりと掴まれ、持ち上げられて揺さぶられている。
 トロトロの孔を彼に使われてしまっている――そう考えて興奮してしまう辺り、前世で仕込まれた性癖が生きている。

「いって、アンフェール」
「ひっ……あ、あ~~~~!!!」

 グレンの絶頂を命じる言葉に、アンフェールは悲鳴のような声を上げ、達してしまった。
 刺激でなく、言葉でオーガズムを迎えてしまった。
 アンフェールは顎を上げ、全身を甘い喜びに戦慄かせている。身体中を駆け巡る快楽に頭が溶けてしまう。

「い゛っ……」

 アンフェールはガブリと噛まれた。
 グレンは達したアンフェールに圧し掛かり、肩口を噛みながら腰を押し付けて射精している。熱い飛沫がアンフェールを満たしていく。
 

(噛まないって言ったくせに……。ああ、でも、こういうのもいい……。番と本能のまま交わるのも……)


 アンフェールはふるふると震えながら、グレンの精を全て受け止めた。



◇◇◇



 交接が終わればいつも通りのグレンだった。
 甲斐甲斐しくアンフェールの身体を綺麗にし、水も持ってきてくれる。アンフェールはベッドに座ってその水をありがたく頂いた。グレンもその隣に座る。

「……グレンはグレングリーズの記憶とどう折り合いをつけているの……?」

 アンフェールは空になったグラスをベッドサイドテーブルに置いた後、思わず聞いてしまった。
 先程のグレンは前世のグレングリーズそのまんまだった。グレンはそれをどう認識しているんだろうと疑問に思う。

 凛々しくて上品なグレンと、粗野な腹ペコ赤ちゃんがアンフェールの中でさっぱり繋がらない。
 同じ魂であっても育ち一つでこんなに変わるものなんだろうか。優しい所と泣き虫な所は似ているだろうか。

「別に続きを生きている感じだから、折り合いも何もないけど。アンフェールだってアンフェールのまま、精霊だったり弟だったりしただろう?」

 アンフェールは首をひねる。
 精霊も弟もあくまで『キャラクター』感覚で演じていた。だからそこはちょっと違うと思うのだ

 古竜種時代のアンフェールを思う。
 新しい、若い肉体に沿った今のアンフェールは、育つにつれて古竜種の性格から徐々に変化してきている。幼げなところは今世育まれた性質だ。
 同じ魂だし、続きを生きているのは確かなのに、周囲の影響で違いが出てきている。そちらの方が近いだろうか。
 立ち振る舞いは確かに、古竜種の頃と今とでは全然違う。

 グレンもそうなんだろうか。
 前世の続きを生きてる感覚、というのはアンフェールと同じだ。だとしたら、先程アンフェールが古代竜風に振舞ったのと同じで、グレングリーズ風に振舞っただけって事になる。
 前世ごっこというべきだろうか。
 ごっこならば、あんな風にアンフェールを抱く意志をグレン自身が持っていた事になってしまう。獣のような交接をしたいと思っていたと――。

「グレンがグレンのままえっちなことをする時、これからは、あんな風になる……?」
「そんな青い顔をしないで、アンフェール。ちゃんと優しくするよ」
「ほんとに……?」
「ふふ。約束だ。……でも」

 グレンはそこで言葉を切った。
 彼の瞳が妖しく揺らめく。

「ああいう風にされるの、好きだった?」

 その言葉に、アンフェールは顔が沸騰しそうな位熱くなった。ぷしゅーと、なにか大事なものが蒸発する音が聞こえる。
 先程の交接中のアンフェールは、グレンには見せた事の無い姿だった。今までは弟アンフェールとして上品に振舞っていたのだ。
 前世のアンフェールを知っているとはいえ、あんな獣のような姿を見て引かなかっただろうか。

 アンフェールはもじもじしながら口を開いた。

「……その、嫌いじゃないけど、毎回は辛い、かな。前世、大変だったんだ」
「そっか。ごめんね」
「グレンが悪い訳じゃ……」
「あれも、私だから」

 グレンは眉を下げて申し訳なさそうにしている。
 アンフェールの中でふたりが上手く繋がらなくても、グレンの中ではちゃんと繋がっているのだ。だからこそ出てくる謝罪だ。
 不思議だが、そういうものなんだろう。

 アンフェールの髪にグレンの手が優しく触れる。スルリと撫でられる。

「愛している、アンフェール。前世も、今も、変わらずずっと」
「グレン……」

 ふたり見つめ合う。

 グレンの赤い目は、今は情熱の色になっている。視線で、声で、仕草で。彼の熱い気持ちを真っ直ぐに伝えてくれる。
 アンフェールは、胸が高鳴ってしまう。ドキドキ、ドキドキと煩い程だ。


(ああ、すきだ……だいすきだ)


 お互いが前世から続きのように生きている。彼の真摯な想いは長い年月ずっとアンフェールに捧げられている。
 それはとても尊く、美しいものだ。
 アンフェールはグレンの胸にもたれ掛かり、背に腕を回した。

 そして今世、初めてそれを言葉にする。


「――私も、愛している。グレン」


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