エンシェントドラゴンは隠れ住みたい

冬之ゆたんぽ

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墓標――ふたりで謳う終わりの歌

アンフェールと前世を想う交わり ※

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 夜――離宮。

 あの踏み込みからは一日が経っている。
 まだ忙しいだろうに、グレンは変わらず離宮に来てくれた。
 隠す事も無くなったのか、堂々と『転移』でアンフェールの寝所に入って来た時はちょっと笑ってしまった。
 隠れ家で魔術を教えていた時、グレンに『転移』は教えていなかったのだ。

 アンフェールはグレンとベッドに並んで座り、マイアサウラの伝えてくれたことを話した。薄明かりの寝所で話すと、またしんみりしてしまう。
 アンフェールはぐすっと鼻をすすった。

「そうか。マイアを送ってくれてありがとう。アンフェールだけに任せてすまなかったな」
「しょうがないよ。声が聞こえるの、私だけだったし。……ふふ、マイアはグレンの事がとても好きだったみたい。大事に育ててもらったからだね」

 アンフェールはグレンの首に腕を回してギュッと抱き着いた。
 子供達を守り、育ててくれた彼にずっとお礼が言いたかったのだ。礼を言うなら、今だろう。
 アンフェールは抱き着いたまま、静かな声で想いを伝える。

「約束を守ってくれてありがとう。子供達を、大事に育ててくれてありがとう。……ずっと、お礼を言いたかった」
「アンフェール……」

 グレンもアンフェールの背に腕を回し、抱き締めてくれた。

もずっとこうしたかった。抱き締めたかった。貴方・・に触れて、声が聞きたかった」

 グレンの声は僅かに震えていた。
 グレングリーズと死別したのは彼が六十歳の時だ。寿命で死んだなら五百年生きた事になる。つまり四百年以上、番のいない寂しい時間を過ごさせてしまったという事だ。
 触れたい。声が聞きたい。
 そんな思いを抱かせたまま、長い孤独に置いてきてしまった。

(『俺』と言った……今の言葉はグレングリーズとしてなんだろうか)

「グレン……今はグレングリーズなのか?」
「どちらでもある。……しかし今宵は前世の想いのまま、貴方を抱かせてもらっていいだろうか」

 顔を上げると熱っぽい瞳でこちらを見つめるグレンの顔があった。
 グレンの中にいるグレングリーズが、彼の愛した王を求めている。
 長い孤独の中、求め続けた愛しい番を。

 それに応えるならば、アンフェールも前世の想いのまま、古代竜エンシェントドラゴンとして彼を包み込んであげるべきだろう。
 そう、振舞ってあげるべきだろう。

 アンフェールはグレンに「許す」と返事をするように、ちゅっと軽く口づけた。

「……来い。私もお前が愛した私として、抱かれよう」



◇◇◇



 ふたり一糸まとわぬ姿でベッドに転がった。

 アンフェールの上にグレンが乗る。見上げればいつものグレンであるのに、その瞳の向こうに懐かしい男の面影が見えた。
 五千年近く王として生き、強い雄として君臨したアンフェールを雌にした男だ。
 グレンは『どちらでもある』とは言っていたけれど、彼の記憶がどういう状態にあるのかいまいち分からない。
 アンフェールのように記憶が一本に繋がっているのか、別の人格のように個々存在しているのか。分からないけれど、彼の目にはアンフェールに向ける深い愛情だけがあった。

 どちらからともなく唇を合わせた。

 ぬるぬると絡みあうような口づけをしては離し、見つめ合い、瞳で想いを伝えてからまた唇を合わせる。そう言った事を繰り返す、貪り合うような睦み合い。
 時間が深めた想いを、何度も相手に伝えるようなキスだった。

「ふ……ぅ……」

 合間合間で漏れる吐息はお互い甘く、アンフェールの頭の中はじっとりとした官能で満ちていく。
 グレンはキスをしながらもいやらしい腰つきで性器をアンフェールに擦り付けている。気持ちいいのが我慢出来ないみたいで可愛い。
 グレングリーズは性欲が強い方だったから、すぐ性器を大きくしちゃってたし、しょっちゅうアンフェールの身体に性器を擦り付けてきてた。
 それを思い出してしまう。

 アンフェールは手でグレンの性器に触れた。彼の性器は熱く張っていて、カウパーを多く零している。
 アンフェールはその愛しい熱を可愛がろうと、スリスリと撫で擦った。

 唇の隙間から漏れるグレンの息が上がっているのが分かる。そういう様子を見れば追い詰めてしまいたいという悪戯心も湧いてくる。
 アンフェールはグレンの舌をくすぐりながら、彼の性器のくびれが善くなれるよう、その辺りで軽く握る様な手の形を作った。
 グレンは意味合いを心得たのかそこに嵌め込むように挿入して、腰を揺らしている。
 アンフェールの手は側仕え達が細心のケアを施しているため、スベスベで柔らかい。擦れば気持ちいいはずだ。

 そんなキスをしながらのじゃれ合いは、グレンが我慢できなくなった時点で終わりを迎えた。
 キスで興奮している上に、長い事手に擦り付けていた性器は、獰猛さを増してそそり立っていた。
 アンフェールの手もべたべたしている。グレンは相当濡らしてしまったようだ。
 その、番の官能の証をアンフェールは舌で舐めとり綺麗にした。


 ――てのひら、指、手首と小さな舌をチロチロ動かすさまは煽情的だ。アンフェールはその行為がどう見えるかはあまり認識していない。


「そういう仕草は凄くそそられる」
「あ……」

 アンフェールは仰向けのまま、大きく脚を開かされた。
 グレンが濡らしたのと同様、アンフェールもキスで興奮し、濡らしている。未だ幼げな印象が抜けないペニスも、柔らかい後孔もたっぷりと蜜を零している。

「貴方と早く繋がりたい。可愛らしい事をされると、我慢が利かなくなるんだ」

 グレンの指が孔に触れた。マッサージするようにくるくるされると、気持ち良くて気持ち良くて、どうにもじれったい。
 アンフェールも我慢が利かない。指じゃ足りない。
 あの立派な性器で一番深い部分まで刺激して欲しい。アンフェールの孔はもう最奥の快感を覚えてしまった。
 アンフェールはグレンを見つめる。トロンとなっていても古竜種ぶるのを忘れない。今日はそう振舞うと決めたのだ。強気の表情で、誘う様に指を孔に当てる。


「こい、と、いった。……いれて、わたしを、おまえのものにしろ……」


 アンフェールは途切れ途切れながらも挑発した。
 グレンは心得た、というように笑い、そのままアンフェールの後孔に熱く滾った陽根を押し当ててくる。
 身体ごと押し上げられると錯覚するほどの力で、慎ましやかな孔はぷちゅりとこじ開けられてしまう。

「~~~~あっっ!」

 アンフェールを組み敷いたグレンは、ゆっくりとではあるものの、止まる事なく侵入してくる。
 まだ初めて繋がってから日が浅いので、孔はバージンと大差ない。狭い内部は太い茎で圧迫されて苦しい。
 煽ったのは自分のくせに、逃げ出したいような気持ちになってしまう。でも上に乗っているグレンは、逃がしてくれる空気は一切ない。

「っ、……ふっ」

 ふぅふぅと息を吐きながら、必死で受け入れる。
 アンフェールの中は隙間なく番に埋められてしまった。奥は押し上げるほど当たっているし、入口はいきり立った根元に限界まで拡げられている。

 グレンは満たされたような、幸せそうな顔をしている。
 番と一つになるのは欠けた魂が埋まる様な、そんな充足感があるのだ。竜人の番感覚は分からないけれど竜種はそうなのだ。グレンはグレングリーズの記憶があるから竜種の感覚でいるのかもしれない。

「今の貴方は腹が薄いから……突き破ってしまいそう」
「そのわりに、えんりょが、ない……」
「俺のものにしていいと。前世、こうして貴方を手に入れた」

 グレンはアンフェールの腹を愛おしそうに撫でている。
 触ったら、中に入っているものの形が分かるんだろうか。そう考えると壊れちゃいそうで、ちょっと怖い。

「まだ、おさないんだ。てかげん……しろ」
「分かってる」

 グレンはこちらを安心させる為か、ちゅっとキスをしてくれた。
 可愛らしいキスだけれど、表情はふてぶてしい。貪る気満々でいる様に見える。じとりと睨むも、グレンはどこ吹く風という様にそれを流してしまう。
 そういえばグレングリーズは割と好き勝手にアンフェールの事を抱いていた気がする。
 思い出として美化していたけれど、引く程性欲が強かったことをじわじわ思い出してきた。

「~~~っ!」

 グレンが軽く腰を動かした。中で動く熱い塊がアンフェールの内側を引き、そして反動をつける様に奥を突き上げる。
 本当に、軽くだ。それでも快感が脳天まで走った。

「ああっ……!」

 それを合図と言ったように、グレンが腰を振り始めた。慣れたような滑らかなグラインドでアンフェールの善い部分を責め立ててくる。
 手加減すると言ったくせに、あまり加減が無い。アンフェールは内に籠る強い感覚を逃すため、衝撃に合わせて声を上げる。

「ひっ、い、あっ、あっ、っっ!!!」

 彼の腰が当たる度に、少しヒンヤリした彼の睾丸がひたひた当たるのが生々しい。粘っこい水音もそうだ。
 初めての交接の時はそんな事気にならなかったのに、妙に意識してしまう。いやらしさを感じてしまう。
 グレンはどんなに発情しても、どこか綺麗さがあるのに、グレングリーズが前面に出ているとそれが無い。まるで獣のようだ。

「……っ、けだもの、め」
「懐かしいな。よく言われた」

 グレンはニッと笑った。
 そういえば言った気がする、何回も。仕方ない。しょっちゅう発情しては脱がされて突っ込まれてたし、言いたくもなる。

「あっ、ん、うぅ……」
「相変わらず、ここ、好きだね」
「やっ、だめ……」
「溶けちゃって、かわいい。フェロモンがあるから、前世より気持ちいい?」

 そう言ってグリグリと腰を押し付けてくる。切換え弁の辺りを圧されてアンフェールは涙目になった。

「あっ、あ~~~~、だめ、だめぇ」
「だめじゃないでしょう?」

 駄目だ。

 アンフェールは快楽に弱いのだ。あんまりそこを善くされてしまうと弁を開いて精を受け入れたくなってしまう。
 胎で番の精を受け止めるのは物凄く気持ちいいのだ。フェロモンが分からなかった前世でも気持ち良かった。今世ではもっと気持ちいいに違いない。
 竜は卵が出来にくいからすぐに孕む事は無いだろうけど、一度胎の快感を覚えてしまったら何度も求めてしまいそうで怖い。

 アンフェールはまだ婚約すらしていないのだ。卵が出来たら大変だ。


「たまご、できちゃう、から、だめだ……!」


 アンフェールは快感でもつれる口を必死で動かし、駄目な理由を説明した。
 出来ちゃったら駄目な事はグレンは当然だし、グレングリーズだって王家に深くかかわったから分かっているだろう。


 ――アンフェールはこの時、溶けそうな程顔を真っ赤にして、うるうるとした涙目で、震えながら『できちゃう』と訴えたのだ。それは古来より男を煽る常套句だと、アンフェールは気づいていない。


「アンフェール……」


 アンフェールを見下ろすグレンの目は、不穏な色を湛えながらスゥと細まった。


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