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1,今日から僕は魔法少女だ!

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秋葉は鏡の前に立ち、目の前に映る美しい少女をぼんやりと見つめていた。ぱっちりとした瞳、輝くような髪、そして可憐な姿。これがつい昨日まで、ただの疲れ果てたサラリーマンだった自分だなんて、信じられない。魔人の力は、想像以上に圧倒的だった。

蛇口をひねって冷たい水を顔にバシャッとかけると、秋葉は深く息を吸い込み、心を落ち着けた。面接の途中でトイレに逃げ込んだことを思い出し、慌てて戻らなきゃと頭を抱える。「リンクス」の面接はまだ終わっていない。あまりにも長引いたら、きっと怪しまれるに違いない。

顔を拭いてゴミ箱にティッシュを投げ込む。秋葉は深呼吸して気持ちを整える。「こんなに緊張するなんて、俺らしくない」と、かつてのサラリーマン時代を思い出して自嘲した。面接くらいで震えてしまうなんて、そんな器じゃなかったはずだ。

ただ、今回の面接は少し特別だ。ここは東京リンクス協会の本部。秋葉はリンクス候補の選抜試験に挑んでいる。リンクス――魔人や魔獣の脅威から人々を守るために戦う存在で、特別な能力を持つ少女たち。しかし戦う際は、派手な衣装を身にまとって戦うため、「魔法少女」として知られている。

まさか自分がその魔法少女の選考試験に挑むなんて、秋葉は夢にも思わなかった。ましてや魔人の指令でスパイとして潜入することになるなんて! すべてはあの憎たらしい魔人組織のせいだ。秋葉はため息をつきつつ、記憶を頼りに面接室へと戻っていく。

「失礼します」秋葉は扉をノックし、女性面接官の「どうぞ」という優しい声に促されて部屋に入った。静かにドアを閉め、席に戻る。面接官は、魔人組織が用意した偽の履歴書に目を通している。どうやら怪しいところは見つからない様子だ。

秋葉は慎重に座り直し、面接官の注意を引かないように振る舞う。その姿は見事に「普通の女の子」に見えたが、実際のところ、彼は長年社会に揉まれた元サラリーマンだ。面接経験も豊富で、かつては1週間に18社の面接をこなしたこともある。今回の「職種」が少々異様ではあるが、根本的な部分は同じだと自分に言い聞かせる。

トイレの冷水が効いたのか、秋葉の緊張はかなり和らいでいた。手も震えていない。だが、これはリンクスとしての最終面接。普通の候補者にとっては、ここまで来ればほぼ合格確実だが、秋葉は例外だ。彼の正体は魔人組織が送り込んだスパイ。性別も外見も全て魔人の力で変えられている。そのため、この面接こそが一番の試練だった。

「バレたら終わりだ……」秋葉は心の中で繰り返す。もしこの潜入が露見すれば、日本中のニュースが「驚愕! 魔法少女協会に潜入した男」と大騒ぎすることだろう。想像するだけで頭が痛い。「家族は何と言うか……疎遠になった妹に顔向けできない」秋葉はため息をついた。こんな任務を引き受けた自分を悔やむも、後の祭りだった。

「戻ってきたのね」と面接官が資料を置き、柔らかく微笑む。「では、続きを始めましょう。緊張しないで」秋葉の顔がどこか引きつっているのを見て、初めての面接に不安を感じる少女だと勘違いしているようだ。秋葉は苦笑いしながらも、心の中では必死に自分を落ち着かせようとしていた。

「これが最後の質問です」と面接官が言う。「秋葉さん、どうしてリンクスになりたいの?」

秋葉は一瞬、思考が止まった。だが、すぐに魔人組織が用意した答えを思い出す。何度も練習したものだ。「えっと……小さい頃から、魔法少女に憧れていました。彼女たちのように戦って、地球を守りたいって……」澄んだ声で、秋葉は顔を真っ赤にしながら答えた。

心の中では「誰だよ、こんな恥ずかしいセリフ考えたやつ!」と叫びたくなる。自分が男であることを忘れてしまいそうなほど屈辱的だ。しかし、面接官はその返答に感動していた。彼女は秋葉の純粋さに胸を打たれ、思わず微笑む。「こんなにも真っ直ぐな子がいるなんて……」自分の少女時代を思い出し、懐かしさが込み上げてきた。

「合格です」と面接官は言った。秋葉は驚いて目を丸くする。「本当に?」「ええ、おめでとうございます。これであなたもリンクスの一員です」面接官が手を差し出し、秋葉はその手をしっかり握り返した。

「ありがとうございます! 本当に光栄です」秋葉は深々と頭を下げた。心は複雑だが、任務の第一歩を成功させたことに安堵する。彼は、危険な道へと足を踏み入れたのだ。

「では、今日のところはこれで。数日以内に連絡しますので、指示に従ってくださいね」面接官は秋葉を見送りながら、その後ろ姿に特別な印象を抱いていた。「彼女は他の子とは違う……」

秋葉が帰路に着く頃、面接官は秋葉の名前に「要注目」のタグをつけていたとは、知る由もなかった。
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