魔王は育ての親、勇者は親友、という変な立ち位置の俺

さかえ

文字の大きさ
上 下
16 / 16

帰りたいけど帰れない

しおりを挟む
「なぁ。もう俺....帰りたいんだけど。」

目の前でエスメルの手を引きながら、ズンズンと進んでいくアンリにエスメルは声をかけた。

「なぁ!」
「え、あ、なに?」

なに?っと今気づいたかのように振り向いたアンリの顔はだらしなく頬が緩んでいた。そんなアンリの姿に若干エスメルがひいたのは至極当然だろう。

「だーかーら。俺、帰りたいんだって。」
「......んっと、どこへ?」
「魔国に!だ!」

察しの悪いアンリにいちいち説明をするエスメルは、何故か決まりの悪そうな顔をしたアンリに眉間に皺を寄せた。

「あ~。.......えへへ?」
「おいっ!帰せってば!」
「ん、んん~?」

空に視線を彷徨わせたアンリに不信感を抱いたエスメルはアンリを問いつめた。
何故かしらを切るアンリに、さぁぁっとエスメルの顔が青ざめた。

「ま、まさか。お前.......。」
「えへへ。」

ごめんね?っと軽く謝ったアンリは、頭をポリポリっとかいた。

「ふっざけんなよ!!!」

エスメルが怒鳴れば、アンリの肩がビクッと跳ねた。
しかし、ここで怯むならば、そもそもエスメルに話しかけることなんて出来ないだろう。

「だっ、だってぇ!!エルが泣いてたし!元気づけようと思って.......」
「それでもこの仕打ちはない!!」

へなへなっと力が入らず、座り込んだエスメルの前に、慌ててアンリがしゃがんだ。

「ご、ごめんね!ほんとに。あーもぅ僕ってば.....。ごめんね?ホントにごめんね、」

エスメルが本当に傷ついていると気づいたアンリは先程とは比にならないくらい必死に謝っていた。

「.......じゃあ帰してよ。頼むから。」

少し睨みつけたようにアンリを見つめたエスメルだったが、アンリは視線を逸らした。

「あの魔法は、僕のとっておきの魔法で、1週間は魔力を溜めないと出来ないんだ.......。本当にごめんなさい。」
「い、っしゅう....かん。」

呆然とエスメルは呟いた。
なんという事だ。ただ心を落ち着かせる為に、あの森に居たというのに。

「.......1週間ここに居れば、俺、帰れんの?」
「.......多分。」
「分かった。居るよ」
「ほ、ほんと????」

こくこくっとエスメルは頷いた。
こうなってしまったら、1週間乗り切るしかない。エスメルのため息は無意識に出ていた。

「じゃあ俺、野宿する場所探すから。」

アンリに、じゃあなっと手を振り、どこかへ行こうとすれば、右腕がズシッと重くなった。

「なんだよ。」

じーっと右腕を見つめれば、そこには腕にしがみついたアンリが居た。

「ダメだから!野宿とか!!僕のせいなのに。」

ブンブンっと左右に首を振るアンリ。

「僕の家に行こう!衣食住の3点セットだし.......家事は僕がやるし......えとえと、おやつ!お菓子とか...チョコとかも出しちゃうよ???どうどう??」

その言葉にエスメルは自分の気持ちが揺らいだのが分かった。衣食住はどうでもいい。適当にすませられるから。しかし、おやつ気になる。エスメルはやはり人間族なので、舌は人間と同じようなものを好んだ。しかし、魔族にとっての人間のお菓子は"汚物""食べられない物"などその評価は最悪だった。ある日、側近がエスメルの口にポイッと黒色の何かを放り込んだ。にししっと悪い顔をした側近に一瞬顔が歪んだエスメルだが、徐々に顔はキラキラと輝いた。まさに側近にとっては不味いもの。で、エスメルにとっては美味しいもの。だったのだ。
あれから、1度もお菓子を食べさせて貰えなかった。

「.....................黒色の。」
「ん?」
「黒色の甘いヤツあるか?」

黒色の甘いヤツ。エスメルにとって未知のそれをエスメルが知るはずもなかった。

「んーと。チョコかなぁ。勿論あるよー!」

ニマニマと笑うアンリに、なんだか負けた気がしたエスメルだったが、分かった。一緒に住むっと渋々了承をすれば、アンリは満面の笑みで喜んだ。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

アレン
2020.06.03 アレン

更新ありがとうございました!

楽しみにしていたので嬉しかったです(〃'▽'〃)
これからも頑張ってください(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ

解除
アレン
2020.04.05 アレン

いつも楽しく読ませてもらってます(,,・ω・,,)

エスメルが人間の国に行ってどう感じるのかな?
魔王様は?とか妄想して更新待っていますね(〃'▽'〃)

2020.04.05 さかえ

わわわ!!
感想ありがとうございます!!
本当にのーんびりと書いているので更新をすごく気まぐれで読んでくださる皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、そう言ってくださるとすっごく嬉しいです!!!!!

私も書きながら何度も読み返したりしてるので、遅くなってしまうかと思いますが、見てくださって嬉しいです♡

解除

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

色狂い×真面目×××

135
BL
色狂いと名高いイケメン×王太子と婚約を解消した真面目青年 ニコニコニコニコニコとしているお話です。むずかしいことは考えずどうぞ。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

王と宰相は妻達黙認の秘密の関係

ミクリ21 (新)
BL
王と宰相は、妻も子もいるけど秘密の関係。 でも妻達は黙認している。 だって妻達は………。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。