魔王は育ての親、勇者は親友、という変な立ち位置の俺

さかえ

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物語の主人公のような

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エスメルはパチパチっと瞬きを繰り返した。目の前に広がる花畑はエスメルにとって初めて見るものだった。
何処までもどこまでも続くその花畑にエスメルは目を凝らした。

「うへへ~凄いでしょー!」

ニマニマと笑うアンリをちらりと横目で見る。アンリは不思議な人間だ。勿論勇者だからという要素もあるが、それにしても人間性が不思議。

「あのねエル。僕ね。エルが普通の人じゃないこと、知ってるよ。」

ビクッとエスメルの肩が跳ねた。
バッと視線をアンリに移せば、アンリはエスメルの方を向かずに花畑を眺めていた。

「初めて会った日にエル、言ったでしょ?"俺は人間を許す事はできない"って。」

エスメルの顔がさぁっと青ざめた。
そんな言い方をしたら、明らかにおかしい。エスメルはドキドキとする心臓を抑えた。

「そしてそして、エルってば同じくらいの歳とは思えないくらい強いし.......。」

柔らかい風がエスメルとアンリの頬を撫でた。アンリのふさふさの髪の毛も、花や木々もゆらゆらと揺れているのを静かにエスメルは見ていた。

「そうだよ。俺、人間だけど魔族だ。」
「.......」 

エスメルは遠い目をして、アンリから目を離した。短い間だったが、アンリと話した時間は結構楽しかった。人間族にもこんな奴がいるんだなと感慨深くなった部分もあった。
ふっ、っとエスメルは息を吐いた。
魔族と知ったアンリはエスメルを罵るのか、それとも石を投げつけるのか、少し怖く思っているエスメルは案外アンリの事を気に入っていたのかもしれない。

「.......ら?」
「え?」
「だから?」

だ、だから?その反応は予想がつかなかったとエスメルは硬直した。
だから。この質問にどう答えればいいのか。

「いや、えと。」
「魔族とか人間族とか関係ないよ。」

混乱するエスメルの前でアンリは真剣な顔をしていた。

「エルはエルだよ。」

強風がエスメルの頬を撫でた。
ドクドクとうるさい心臓をぎゅっと押さえる。感じたこともない感情に胸がいっぱいになった。

「.......ははっ。あっはははは!!」

少し間がたってからエスメルは豪快に笑いだした。きょとりとした顔をするアンリにまたまた面白くなって腹を抱えて笑い出す。

「お前、変なやつだな」

アンリは、パチパチっと不思議そうに瞬きを繰り返す。

「今時、そんな物語の主人公みたいなこと言うやついねーよ。」

クックックッっと笑うエスメルにかぁっと顔を赤くしたアンリが頬をふくらませた。

「う、うるさいなぁ!!」
「はははっ!!」

エスメルは久しぶりにしっかりと心から笑えた気がした。
そして、この会話から気付かされた。
誰よりも種族に拘っていたのはエスメルだったと。
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