魔王は育ての親、勇者は親友、という変な立ち位置の俺

さかえ

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俺が俺じゃなくなった

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すぐに家に帰ったエスメルはまず抱き抱えたままラビーの寝床へ向かった。
ラビーの家はツリーハウスのようになっており木のてっぺんにある。
エスメルはよじ登りそっとラビーを寝床へと帰した。
ラビーの毛並みを優しく撫で、ほっと胸をなでおろした後、すたっと飛び降りた。

エスメルの目は鋭く、周りを凍えさせそうなほど恐ろしかった。
強くならなければならない。
強くならなければ守るものも守れない……という考えしか頭の中になかった。
強くなる秘訣を教えてもらおうといつも通り執務室へ向かった。

「いい加減にしろ!!!!!」

急に大声が執務室から聞こえ、門番たちはビクッと肩を揺らしたあと、心配そうに扉の前にいた。
扉の外ですら感じる殺気におどおどとしていた使用人たちの横をエスメルは通り過ぎる。
門番たちは声をかけようと手を伸ばした。

「ちょ……!今はやめとK」

バンッ!!っと言う音を立て扉を蹴り飛ばした。後ろの門番たちはあちゃーっという顔をしたあとそーっと扉を閉めた。
宰相は赤い顔をして側近を睨みつけていた。側近は相変わらず澄ました顔をしている。
殺気が漏れていたのは宰相の方だったらしい。ギロっとこちらを見る宰相に俺はふんっと鼻で笑った。

「らしくないな宰相さん」

煽り口調で。今はなんだか正気で居られないくらい気持ちが高揚していた。

「なんだと?喧嘩を売っているか?」

凄い殺気がチクチクと刺さる。
少し前の自分だったら怯えていただろう。

「べつにぃ?ただそんなに怒ってどうしたのかと思っただけですよ」

と微笑み返す。いつもの俺っぽくない仕草に側近も怪訝な顔をしだした。

「なぁ?お前本当にチビか?」

「心外だねぇ?どこからどーみてもお前の言うチビだよ」

べーっと舌を出す。やはり俺らしくない、しかし止まることはない。

「まぁそんなことはどーでもいいんだよ。お前らの喧嘩とか興味ねぇ。なぁ親父。俺に強くなる方法を教えろよ」

っと背の高い親父を下から睨みつける。
親父は俺の頬に手を当てた。

「んだよ。触んなよ」

俺は手を払い除けようとしたが、親父はパシッと反対の手で掴み、額と額をくっ付けてきた。怒鳴りそうになり、口を開こうとした瞬間急にふっと力が抜けて、膝からがくっと親父の方に倒れ込んだ。

「あ……れ?」

親父はぎゅっと抱きしめ、腕に力を入れたあと耳元で囁いた。

「存分に無茶したようだな。少し休め」

そういった優しい親父の声を聞いた途端眠気が襲ってきた。
あぁ。昔は親父と寝た頃もあったなぁっとエスメルは魔王の温もりを感じながら気絶するように眠った。
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