魔王は育ての親、勇者は親友、という変な立ち位置の俺

さかえ

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人間は美味しくないらしい

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「ひーひーおもしれぇ」

と言って、あははと1人大きい声で笑いだしたチャラそうなお兄さんは涙目をしていた。
メガネのお兄さんは、はぁーっとため息をついて、手に持っていた書類を見始めた。
僕と手を繋いでいるお姉さんはふふっと少し笑っていた。
僕は不思議に思い、もう一度問いかけた。

「食べないの?」

すると、チャラそうなお兄さんがソファから立ち上がり僕の目の前まで来た。

「ざーんねん。僕達魔族は人間なんて食べないよ」

「どうして?」

僕は小さい頃から魔王は恐ろしい。魔族は人を食べて生活すると聞いていたから不思議に思った。

「じゃあなんで君を食べようとする僕達のことを君は怖がろうとしないの?」

「……だって……人間の方が怖いからゴホッ」

この人達の視線よりも、あの家に居た時の家族、友人の視線の方が倍以上怖かった。

「それが答えだよ。人間は醜い。どろどろと感情は渦巻いて本当に美味しくない。そこら辺の雑草や毒草の方が美味しいかもね」

チャラそうなお兄さんはべーっと舌を出した。そして僕の頭をくしゃくしゃと撫で始めた。

「お前みたいな小さなやつに怖いと感じさせる人間の事を理解することも好きになることもできないね。」

と言ったチャラそうなお兄さんの目がギラッと光った気がして、少し鳥肌が立った。
それに気づいたのかお兄さんは僕の頭を次は優しく撫でた。

「俺は子供は嫌いじゃない。お前みたいな素直なやつは特に好きだ。安心しろよ。」

そう言ったお兄さんはニカッと笑った。

「じゃあ僕はどうなるの?」

そう問いかけると次はメガネをかけたお兄さんが僕を見ずに言った。

「安心しなさい。貴方は魔族の子供とおなじ教育を受けてもらいます」

「僕、魔力ないよ?」

「えぇ。見ればわかります。まぁそこはどこかで補ってください。私たちは与えるだけではありませんので。」

僕は魔力を何で補うことができる……?と考えていると少し険しい顔になっていたらしい。

「まぁ、なんだ、頑張れよチビ」

多分チャラそうなお兄さんは僕を慰めようとしてくれたようだが僕にとって地雷だった。

「……チビって言うな」

むすっと僕は口をとがらせた。
出来損ないは別にいいがチビと言われるのは1番嫌いな悪口だったからだ。

「んーじゃあお前の名前なんだよ。」

「ゴホッ……名前なんてない」

名前なんてとうの昔に忘れてしまった。
確かに名前はあったが、家族からは呼ばれず友達からは出来損ないやらヘタレ野郎やら名前で呼ばれたことなんかほとんどない。
すると今までなんの反応も示さなかった魔王が急に椅子からたった。
コツコツっと音を鳴らせて僕に近づいてくる。魔王様が立ち止まり魔王様の瞳を見ると、綺麗な瞳が僕を写していた。
魔王様は少し口を開いて言った。

「エスメル……で……どうかな?」

「エス……メル……ゴホッ」

初めてと言っていいほど初めて付けてもらった名前。僕はやっと生まれた気がした。
何年も生きたが今日ほどしっかり生きた心地がしたのは初めてだった。

「へーエスメルねぇ~まぁ俺はチビって呼ぶけど」

僕はキッとチャラそうなお兄さんを睨んだ。
すーっと僕のおでこに魔王様の手が当たった。

「熱あるぞ。」

という声とともに僕の意識は遠のいていった。
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