上 下
4 / 8

4話

しおりを挟む
さーっと第3王子の顔色が青くなっていった。ようやく馬鹿な頭でも分かったのだろう。
震える唇は少しずつ言葉を紡ごうとする。

「ど、え、「騙されちゃダメよ!」」

動揺している王子の腕をつかみ、大声をあげるリリア伯爵令嬢にアリスベータはため息をつく。もうさすがに疲れてきたアリスベータは早くこの茶番を終わらせたかった。

「私の!私の、祖国のアミス王国は愛と平和の王国でした。そう!第1王子様も、お姫様も恋愛をし、結婚致しました!」

彼女は移住貴族だ。
移住貴族は……ある一定の条件で移住することが出来る。

「……その結果どうなったかあなたも分かってるでしょう?」

アミス王国は……その結果。

「愛と平和なんて笑わせないで。愛と平和で貫けるのは平民と下級貴族だけよ。それで貫いた上級貴族の生き様を貴方は見たでしょ?崩壊よ。アミス王国は跡形もなくなくなったわ。」

多分リリア伯爵令嬢は、アミス王国で公爵家という立場だったのだろう。
金を叩き、伯爵家という立場を手に入れ、祖国を捨てたのだろう。
崩壊する祖国を、見て見ぬふりをしたのだろう。

「それと、あなたに祖国を語る資格なんてないわ。」

「うるさい!!!」

リリア伯爵令嬢の怒声が響く。

「仕方ないじゃない!!あのままだったら本当にアミス王国の血は受け継がれなかったわ。あのままだったら……跡形もなく……私たちに流れた血さえも。」

そう言って涙ぐむ彼女を正気を取り戻した第3王子が背中を撫でている。
同情の目が彼女に向けられたが、アリスベータは気に入らなかった。

「どうしてその血が途絶えようとしたかお分かりですか?権力者が無能だったからですわ。」

アミス王国の考えが、この国に広まってしまったらそれこそこの国は終わるだろう。権力者のためでは無い、この国に住む人のために今、アリスベータは言わなくてはいけなかった。

「あなたには人の情というものがないの?」

リリア伯爵令嬢は叫ぶ。

「……人の婚約者をとる女狐には人の情というものが分かるのかしら?確かに常人の持ち合わせている情は私にはないのかもしれないわね。でもね。今まで国のために頑張ってた子が報われないのは見過ごせないの。」

もう一度アリスベータが口を開こうとしたのと同時に、王の側近が駆け込んできた。

「メイレシア帝国の帝王閣下がご到着なされました!!!!!」

会場全体に緊張感が漂う。
嬉々として茶番を見ていた貴族たちも佇まいを綺麗にし、令嬢は自分の顔をチェックしに行ったり、そわそわしたりと落ち着きがない。
それもそのはず、世界最大の帝国の王がこの夜会へと今足を踏み入れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を思い出した令嬢は婚約破棄して幸せを探す

ノッポ
恋愛
街中で婚約者の浮気現場を目撃した令嬢メイリーナは帰りの馬車の中で、意識を失ってしまう。 目覚めたメイリーナは前世で恋人に浮気され、失意のままトラックに跳ねられて亡くなったことを思い出す。 浮気する婚約者はいらない。婚約破棄をしたメイリーナだが、記憶を思い出した際に魔力が増幅していたことでモテモテに。 自分は見る目が無いと自覚したメイリーナは、将来困らないように、前世で身につけたエステティシャンとしての技術を活用しようと思いつく。 メイリーナのエステの技術に感激して自分の息子を押し付けてくる王妃や、婚約破棄した途端に反省して追いかけてくる元婚約者に困りながらも、自分の幸せと理想の相手を見付けたいメイリーナの物語。

【完結】婚約解消、致しましょう。

❄️冬は つとめて
恋愛
政略的婚約を、二人は解消する。

婚約解消? 私、王女なんですけど良いのですか?

マルローネ
恋愛
ファリス・カリストロは王女殿下であり、西方地方を管理する公爵家の子息と婚約していた。 しかし、公爵令息は隣国の幼馴染と結婚する為に、王女との婚約解消を申し出たのだ。 ファリスは悲しんだが、隣国との関係強化は重要だということで、認められた。 しかし、元婚約者の公爵令息は隣国の幼馴染に騙されており……。 関係強化どころか自国に被害を出しかねない公爵令息は王家に助けを求めるも、逆に制裁を下されることになる。 ファリスについても、他国の幼馴染王子と再会し、関係性を強化していく。皮肉なことに公爵令息とは違って幸せを掴んでいくのだった。

【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった

岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】 「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」  シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。  そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。  アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。  それだけではない。  アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。  だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。  そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。  なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。

身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。 理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。 あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。 逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。 しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。 それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。 アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。

すべてが嫌になったので死んだふりをしたら、いつの間にか全部解決していました

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢へテーゼは、苦労人だった。  周囲の人々は、なぜか彼女にひたすら迷惑をかけまくる。  婚約者の第二王子は数々の問題を引き起こし、挙句の果てに彼女の妹のフィリアと浮気をする。  家族は家族で、せっかく祖父の遺してくれた遺産を湯水のように使い、豪遊する。  どう考えても彼らが悪いのに、へテーゼの味方はゼロ。  代わりに、彼らの味方をする者は大勢。  へテーゼは、彼らの尻拭いをするために毎日奔走していた。  そんなある日、ふと思った。  もう嫌だ。  すべてが嫌になった。  何もかも投げ出したくなった彼女は、仲の良い妖精たちの力を使って、身体から魂を抜き取ってもらう。  表向き、へテーゼが「死んだ」ことにしようと考えたのだ。  当然そんなことは露知らず、完全にへテーゼが死んでしまったと慌てる人々。  誰が悪い、これからどうするのか揉めるうちに、自爆していく連中もいれば、人知れず彼女を想っていた者の復讐によって失脚していく連中も現れる。  こうして彼女が手を出すまでもなく、すべての問題は綺麗さっぱり解決していき――。  

お望み通りに婚約破棄したのに嫌がらせを受けるので、ちょっと行動を起こしてみた。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をしたのに、元婚約者の浮気相手から嫌がらせを受けている。  流石に疲れてきたある日。  靴箱に入っていた呼び出し状を私は──。

学院内でいきなり婚約破棄されました

マルローネ
恋愛
王立貴族学院に通っていた伯爵令嬢のメアリは婚約者であり侯爵令息、さらに生徒会長のオルスタに婚約破棄を言い渡されてしまう。しかも学院内のクラスの中で……。 慰謝料も支払わず、さらに共同で事業を行っていたのだがその利益も不当に奪われる結果に。 メアリは婚約破棄はともかく、それ以外のことには納得行かず幼馴染の伯爵令息レヴィンと共に反論することに。 急速に二人の仲も進展していくが……?

処理中です...