霊感専門相談所くじら特殊サービス

緒沢タラ

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第一話 シロイオリ

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「さぁさぁ! 皆さん召し上がってください! オススメの地酒もありますのでよろしければぜひ」
 離れに用意された豪華な食事の数々。
 それを前に歓声を上げる4人に対し、支配人は満面の笑みで言った。
 最初こそ正直不安を感じていた物の、彼らが館内を歩き回り何やらする度、その近辺の淀んだ空気がありありと綺麗になっていくのが、霊感など無い自分にも分かった。
 どことなく薄暗く感じていた場所に、急に光が指したように感じたり、滞っていた奇妙な臭いを感じなくなった。
 それと同時に、体調不良を訴えていたスタッフたちが、不思議と不調が消え身体が軽くなったと口を揃えて言い出しては、詐欺などではなく彼らが実際に何かをしてくれているのだろうと、認めざるを得なかった。
 正直、彼らが実際に館内を見て歩き出した時も不安しかなかったのだが、本心としては藁をも掴む思いだった支配人としては、まさに嬉しい誤算。
 彼らを疑っていた自分への多少の罪悪感も伴い、当初の約束より多少豪華になった卓上へ並ぶ自慢の食事の数々を、次々説明と共に勧めていく。
 そうして、和気藹々とした空気の中で食事を楽しむ面々に、支配人は「それで・・・」と一体何が起きていたのか、何が原因なのかと、問いを口にする。
「最近、この辺で大規模なリゾート開発の話が上がってるらしいですが、何か、そういう話がありませんでしたか?」
 それへ、舟盛りを肴に、地酒を楽しんでいた権堂が返した問いかけに、驚きの表情を浮かべた支配人はだがすぐに
「はい、たしかに・・・ここの権利を買いたいという話は何度かありましたが・・・」
 もう数百年、小さな旅籠からこうして立派な旅館となるまで、先祖代々続けてきたこの土地を手放すことなど毛頭考える事もできず、その度に断っていたという。
 支配人のその答えに、理久が権堂を振り返り「なんで知ってるんです?」と目を瞬かせた。
「途中で思い出したんだけどな、何ヶ月か前に圭佑んとこで飲んでて会ったおっさんに、それっぽい話聞いたんだわ」
 もぐもぐと口を動かしながら言う権堂に、彼以外の面々が「え!?」と驚きの目を向けた。
「うちの事をどこで聞いたんだか、わざわざ飲んでる所に来てな。祓う事ができんなら集める事もできんじゃねぇのかって」
「え? そ、それって大丈夫なの?」
 それにオロオロと問いかける理久へ
「大丈夫だろ」
 平然と返して権堂は大きな口を開き、キラキラと輝く、美味しそうな焼色を付けたステーキ肉を頬張る。
「あん時は、たまたまカウンターに入ってた圭佑が上手いこと散らしてくれたしな。ってか、あのヤロウもしかしたら、それも有って今回の依頼を受けろってしつこかったのかもしれねぇな」
 心配そうな理久に言って、権堂は「お」と目を見張り、目の前のステーキをもう一切れ箸で摘む。
「理久、これ食ってみろ、うめぇぞ」
 言って、一口大に切られたそれを理久の口に押し込んだ。
 それに目を白黒させながらも、むぐむぐと咀嚼して
「あ、美味しい」
 目を輝かせ感想を口にしてから
「じゃなくて、圭佑さんのお店でわざわざ権堂さんに接触してくるって、完全に身バレしてますよね?」
 焦ったように言った理久に、鼻で笑った権堂は
「圭佑が任せとけっつってたし、その辺は大丈夫だろ」
 餅は餅屋だ。言ってグイッとお猪口の日本酒を煽る。
「たしかありゃあ、ブローカーに雇われてる下っ端だったな。平たく言やぁ、地上屋げだ」
 そういう輩からの話が無かったかと、支配人に問いかけると、それへ一瞬の躊躇いを見せてから
「はい、確かに。何度目かにお断りをした時に、嫌がらせを示唆するような事は言われましたが・・・。という事は、今回どうにかしていただいたと言うのに、また同じ事が起こる可能性があるということでしょうか?」
 不安げにそう言った。
「いや、すぐにどうこうは無いでしょう」
 それへ答えた権堂に、その斜め向かいから「そうですね」とご機嫌な声がする。
「呪物は先生が全て然るべき処置をし破壊されたので、しばらくは何もできない筈です」
 さすが先生です! と、その黒く大きな目を輝かせた星に、芳桐が不満げに眉を寄せて権堂を睨んだ。
「え? どういう意味で・・・」
 星の言葉に支配人は戸惑いの表情を浮かべる。
「呪い返しです。これだけ大々的に仕込んであった物を一気に壊したので、仕込んだ本人にもそれなりの跳ね返りがあると思いますよ。副作用みたいな?」
 ただでさえ愛らしい顔へ、にっこりと無邪気にかわいい笑みを浮かべた星が
「人を呪わば穴二つって、言うじゃないですか」
 口にした言葉に
「因果応報だな」
 芳桐が重ねて言った。
「万が一同じ手を使うんだとしても、ヤバい仕事を進んでやりてぇってヤツもそう居ないでしょう。別のやつに頼もうにも、あんまり話の範囲を広げ過ぎれば自分の足元を掬われる原因にもなりかねねぇ。今回のこれが駄目んなったのに気付くまでの時間と、同じ手段か違う手段を使うかは知らねぇが、次に仕事頼むまでの時間と、多少の時間は稼げるんじゃあないですかね。次の対策は考える必要はあるでしょうが、それは俺たちの仕事の範囲外ですね」
 権堂は言うと、手元の徳利をお猪口に傾けるが、雫が数滴落ちただけのソレに小さく舌打ちする。
 だがすぐに、それに気付いた理久がそっと差し出した次の徳利に、ぱっと緩む顔。
 権堂の言葉を、何かを考えるように聞いていた支配人はだがすぐに「そうですね」と頷くと
「何はともあれ、ありがとうございました」
 深々と頭を下げた。そうして身を起こすと
「そう言えば、このお部屋ももう・・・」
 言いかけるのに、だが
「ん? まだだな」
 権堂ははっきりと言いきった。
「え? ですが先程、仕掛けられた悪意は全て片付けたと・・・」
 戸惑う支配人の言葉に、理久の深い溜息混じり
「仕掛けられたのは、ですね・・・」
 という言葉が返る。
「え?」
 それに支配人は2人を見比べる。
「たぶん、この部屋にいるヤツと、今日片付けた件は別物ですね」
 言った権堂は支配人へ顔を向け
「この部屋の現象は、今回の騒ぎよりも前から有ったんじゃないですか?」
 ジッと、その表情を伺う。
 それへギクリと一瞬身を固くし、驚きに顔を強張らせた支配人はだが、ややして「実は」と頷いた。
「実は以前からそういう噂は有ったのです。有ったのですが、所詮噂と思い、形だけのお祓いなんかをしていただいていたのです。そうそう頻繁に有ることでも無かったので・・・」
 おそらくは別の事案だと認識してた事実を、言い難そうに口にする。
 そうして
「これは、お話するかどうか悩んでいたのですが・・・」
 と、前置きをしてから、そこまで解っているのならば、黙っているのはかえって旅館の為にならないと口を開いた。

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