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第547話 神になるのは
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神の力に手を伸ばすミチナガ。しかしあまりに強い神の力に反発されてなかなか手が届かない。しかし1センチ、もう1センチと確実に近づいていく。
そして伸ばしていく手の指先から徐々に神の力が馴染んでいくのがわかる。体内のナノマシンも活性化しているようだ。徐々に神の力に馴染んでいくミチナガの腕はもう神の力に届く。
だがその瞬間、ミチナガのポケットからスマホがポンと独りでに飛び上がり、弧を描いて神の力へと向かっていった。
それはまるでスローモーションのように神の力へと向かっていき、一瞬のうちに神の力を収納すると地面の上でくるくると回転した。
「ファ!?え…ちょ……なに?ポチ、お前の仕業か?」
『ポチ・そんなことしないよ。でも……スマホを見ればわかると思うよ。』
誰か使い魔の仕業かと思うミチナガだが、ポチの反応を見る限りそうではなさそうだ。だがポチには誰の仕業かは見当がついているらしい。そしてミチナガはこのまま手に取らなければ永遠にくるくると回転していそうなスマホを手にとる。
「一体何が…」
スマホの画面を確認するミチナガ。するとスマホでは現在アップデートが行われているらしい。しかもかなり大規模なアップデートだ。完了するまで数日はかかりそうだ。だがアップデート中にもかかわらず、スマホに通知が届いた。
『人の子、関谷道長。あなたはとうとう成し遂げた。これまで彼らにより我らの世界から多くの人の子が連れ去られた。我々は人の子を取り戻すために多くの使者を送った。しかし世界を渡ったことで衰えた我らでは使者を満足に守ることもできなかった。しかし道長。あなたは多くの困難を乗り越え、我らだけでは叶えられなかった偉業を成し遂げた。』
「これって…まさか……」
『ポチ・僕たちの創造主。わかりやすく言えば…スマホについている付喪神。僕たちの神様だよ。そして僕たちの真の主人。これまで力が衰えすぎてまともに会話もできなかったけど、神の力を取り込んだおかげで完全復活したみたい。』
『社畜・それだけではないのである。これまで回収して来たトウショウの金槌や勇者王の剣、森の中の零戦といった同じく異世界から来た品々についていた付喪神たちも力を取り戻したのである。』
『ええ、その通りです。我らは再び力を取り戻した。そして我々ならば道長、あなたよりもこの世界を導くのにふさわしくはありませんか?』
「それは……まあそうですね。むしろそうしてもらえると本当に助かります……え、でもいいの?本当に?こんなハッピーエンド……マジでか。ちゃんと覚悟はしていたんだけど…」
『ポチ・まあボスが世界を運営したら問題ばっかりおきそうだしね。』
『シェフ・同意だな。』
神の力はミチナガをこの世界に連れて来た付喪神たちの手に渡った。彼らならば問題なくこの世界を運営してくれることだろう。全てが問題なく完全に解決したのだ。
簒奪者を倒し、世界を取り戻した。そして新たなる神になろうとしていたミチナガだったが、その役目は他に回った。元より神なんていう大それたものになりたいと思っていなかったミチナガにとっては朗報以外の何物でもない。
「よかった…本当にこれで解決したんだ。俺の役目も…これで本当に終わった。」
『ありがとう関谷道長。あなたはこの世界で役目を果たしました。だからあなたはもう元の世界に戻っても良いのです。』
「よか……え?元の世界?…帰れるの?」
『神の力を手に入れた我々ならば問題ありません。ただし、記憶をそのままに戻すと問題が起こります。ですので記憶を消した状態でこの世界に来たあの瞬間に戻ることができます。もちろんお礼はします。元の世界に戻ればあなたには幸運が舞い降りて一生幸せに暮らすことができます。』
「元の世界…一生幸せに……」
『ええ。宝くじを買えば1等が当たり、出会いを求めればあなたの好みの女性と結婚できます。あなたの望むもの全てが手に入ります。道長、あなたはそれだけの幸運を得る偉業を成し遂げたのです。』
元の世界へ戻れる。それはなんとも甘美な言葉だった。さらに金が欲しければ手に入り、女にも困らない。その気になれば地位や名誉も手に入れられるだろう。もっとその気になれば大企業の社長や総理大臣にだってなれる。この神々はそれを手に入れさせてくれる。
それに自宅のパソコンやスマホのあのデータだって元に戻る。あのスマホゲーをもう一度遊べるのだ。人に見られたくないあのデータだって処理できる。全てが、全てが手に入る。
「元の世界に帰って全てを手に入れる……」
『あなたの望むままにしましょう。』
「そうか…そうですか………でも結構です。俺の欲しいものはこの世界にあります。この世界で欲しいものは手に入れました。かけがえのない友人も。頼りになる仲間たちも。」
『この世界に残る場合、私はこの世界を運営するためにここに残らなくてはなりません。もうスマホはあなたの手元にありませんよ。』
突然の宣告に心臓が止まりそうになるミチナガ。しかしそれは考えてみればごく当たり前のことだ。今からこのスマホがこの世界の神になったのだ。その神を手に持ってそこらへんを歩き回ることなどできない。
元の世界に戻れば全てを手に入れた極上の生活が待っている。かたやこの世界に留まればスマホを失った生活が待っている。そしてスマホを失うということはポチやシェフ、ピースといった使い魔たちともお別れとなる。
それはミチナガがこの世界で手に入れたものを全て失うことと同義だ。こうなれば判断の余地はない。元の世界に戻ることが最善の選択だ。そう声を出そうとした時、ふと脳裏に映像が巡った。
アンドリューにナイト、ヴァルドールにメリア。親友と呼べる彼らと永遠に会えなくなる。それどころか彼らとの思い出が全て失われる。そしてこんな自分を愛してくれたリリー。あの子を泣かせたまま、自分は何食わぬ顔で元の世界で悠々と生きていく。
それは果たして幸せと呼べるのだろうか。だが元の世界に戻ればそんなことは忘れてしまう。全て忘れて幸福な生活を送れる。全て覚えていないのであれば何も問題ない。
「だけど今の俺は覚えている。そして…この思い出を消したくなんてありませんよ神様。」
『…良いのですか?』
「スマホばっかり見て、俯いていた人生はもう終わりです。顔をあげればこの世界には多くの友がいます。頼りになる仲間も…そしてこんな俺でも頼ってくれる人々がいるんです。それに…こんな俺を本気で愛してくれた人もいます。そんな人たちのことを全て忘れて生きられませんよ。」
『…もう私が、このスマホがなくても生きていけますか?』
「だい…じょうぶ………です。…うん!大丈夫です。きっとみんなが助けてくれます。俺はもうそれ以上のものを手に入れましたから。」
『そうですか。もうあなたは1人で歩いていけるんですね。では関谷道長。あなたの新たなる門出を祝いましょう。我らの愛し子、関谷道長。あなたの新たなる人生に祝福を!!』
ミチナガの足元が輝き出す。それはイッシンやフェイミエラルも同様だ。この神の世界から元の世界へと戻る時が来たのだ。そしてゆっくりと沈んでいく3人の目にはスマホとその周囲に無数に群がる使い魔たちの姿が映った。
すでに言葉は届かない。最後の別れを使い魔たちに言いたかった。ミチナガは必死に手を振る。そして届かぬ声を上げ続ける。
「ありがとう!お前ら本当にありがとう!お前らがいなかったら…お前らがいなかったら俺はとっくにダメだった。ありがとう!ありがとう!!」
泣きじゃくりながら必死に声をあげるミチナガ。そんなミチナガに向かって使い魔たちは楽しげに手を振り続ける。使い魔たちはこれから真の主人である神の元でその手腕を振るうのだろう。
これが本来のあるべき姿なのだ。ミチナガの視界は徐々に徐々に白く消えていく。そしてミチナガは元の世界には戻らず、再びこの世界を生きていく。
そして伸ばしていく手の指先から徐々に神の力が馴染んでいくのがわかる。体内のナノマシンも活性化しているようだ。徐々に神の力に馴染んでいくミチナガの腕はもう神の力に届く。
だがその瞬間、ミチナガのポケットからスマホがポンと独りでに飛び上がり、弧を描いて神の力へと向かっていった。
それはまるでスローモーションのように神の力へと向かっていき、一瞬のうちに神の力を収納すると地面の上でくるくると回転した。
「ファ!?え…ちょ……なに?ポチ、お前の仕業か?」
『ポチ・そんなことしないよ。でも……スマホを見ればわかると思うよ。』
誰か使い魔の仕業かと思うミチナガだが、ポチの反応を見る限りそうではなさそうだ。だがポチには誰の仕業かは見当がついているらしい。そしてミチナガはこのまま手に取らなければ永遠にくるくると回転していそうなスマホを手にとる。
「一体何が…」
スマホの画面を確認するミチナガ。するとスマホでは現在アップデートが行われているらしい。しかもかなり大規模なアップデートだ。完了するまで数日はかかりそうだ。だがアップデート中にもかかわらず、スマホに通知が届いた。
『人の子、関谷道長。あなたはとうとう成し遂げた。これまで彼らにより我らの世界から多くの人の子が連れ去られた。我々は人の子を取り戻すために多くの使者を送った。しかし世界を渡ったことで衰えた我らでは使者を満足に守ることもできなかった。しかし道長。あなたは多くの困難を乗り越え、我らだけでは叶えられなかった偉業を成し遂げた。』
「これって…まさか……」
『ポチ・僕たちの創造主。わかりやすく言えば…スマホについている付喪神。僕たちの神様だよ。そして僕たちの真の主人。これまで力が衰えすぎてまともに会話もできなかったけど、神の力を取り込んだおかげで完全復活したみたい。』
『社畜・それだけではないのである。これまで回収して来たトウショウの金槌や勇者王の剣、森の中の零戦といった同じく異世界から来た品々についていた付喪神たちも力を取り戻したのである。』
『ええ、その通りです。我らは再び力を取り戻した。そして我々ならば道長、あなたよりもこの世界を導くのにふさわしくはありませんか?』
「それは……まあそうですね。むしろそうしてもらえると本当に助かります……え、でもいいの?本当に?こんなハッピーエンド……マジでか。ちゃんと覚悟はしていたんだけど…」
『ポチ・まあボスが世界を運営したら問題ばっかりおきそうだしね。』
『シェフ・同意だな。』
神の力はミチナガをこの世界に連れて来た付喪神たちの手に渡った。彼らならば問題なくこの世界を運営してくれることだろう。全てが問題なく完全に解決したのだ。
簒奪者を倒し、世界を取り戻した。そして新たなる神になろうとしていたミチナガだったが、その役目は他に回った。元より神なんていう大それたものになりたいと思っていなかったミチナガにとっては朗報以外の何物でもない。
「よかった…本当にこれで解決したんだ。俺の役目も…これで本当に終わった。」
『ありがとう関谷道長。あなたはこの世界で役目を果たしました。だからあなたはもう元の世界に戻っても良いのです。』
「よか……え?元の世界?…帰れるの?」
『神の力を手に入れた我々ならば問題ありません。ただし、記憶をそのままに戻すと問題が起こります。ですので記憶を消した状態でこの世界に来たあの瞬間に戻ることができます。もちろんお礼はします。元の世界に戻ればあなたには幸運が舞い降りて一生幸せに暮らすことができます。』
「元の世界…一生幸せに……」
『ええ。宝くじを買えば1等が当たり、出会いを求めればあなたの好みの女性と結婚できます。あなたの望むもの全てが手に入ります。道長、あなたはそれだけの幸運を得る偉業を成し遂げたのです。』
元の世界へ戻れる。それはなんとも甘美な言葉だった。さらに金が欲しければ手に入り、女にも困らない。その気になれば地位や名誉も手に入れられるだろう。もっとその気になれば大企業の社長や総理大臣にだってなれる。この神々はそれを手に入れさせてくれる。
それに自宅のパソコンやスマホのあのデータだって元に戻る。あのスマホゲーをもう一度遊べるのだ。人に見られたくないあのデータだって処理できる。全てが、全てが手に入る。
「元の世界に帰って全てを手に入れる……」
『あなたの望むままにしましょう。』
「そうか…そうですか………でも結構です。俺の欲しいものはこの世界にあります。この世界で欲しいものは手に入れました。かけがえのない友人も。頼りになる仲間たちも。」
『この世界に残る場合、私はこの世界を運営するためにここに残らなくてはなりません。もうスマホはあなたの手元にありませんよ。』
突然の宣告に心臓が止まりそうになるミチナガ。しかしそれは考えてみればごく当たり前のことだ。今からこのスマホがこの世界の神になったのだ。その神を手に持ってそこらへんを歩き回ることなどできない。
元の世界に戻れば全てを手に入れた極上の生活が待っている。かたやこの世界に留まればスマホを失った生活が待っている。そしてスマホを失うということはポチやシェフ、ピースといった使い魔たちともお別れとなる。
それはミチナガがこの世界で手に入れたものを全て失うことと同義だ。こうなれば判断の余地はない。元の世界に戻ることが最善の選択だ。そう声を出そうとした時、ふと脳裏に映像が巡った。
アンドリューにナイト、ヴァルドールにメリア。親友と呼べる彼らと永遠に会えなくなる。それどころか彼らとの思い出が全て失われる。そしてこんな自分を愛してくれたリリー。あの子を泣かせたまま、自分は何食わぬ顔で元の世界で悠々と生きていく。
それは果たして幸せと呼べるのだろうか。だが元の世界に戻ればそんなことは忘れてしまう。全て忘れて幸福な生活を送れる。全て覚えていないのであれば何も問題ない。
「だけど今の俺は覚えている。そして…この思い出を消したくなんてありませんよ神様。」
『…良いのですか?』
「スマホばっかり見て、俯いていた人生はもう終わりです。顔をあげればこの世界には多くの友がいます。頼りになる仲間も…そしてこんな俺でも頼ってくれる人々がいるんです。それに…こんな俺を本気で愛してくれた人もいます。そんな人たちのことを全て忘れて生きられませんよ。」
『…もう私が、このスマホがなくても生きていけますか?』
「だい…じょうぶ………です。…うん!大丈夫です。きっとみんなが助けてくれます。俺はもうそれ以上のものを手に入れましたから。」
『そうですか。もうあなたは1人で歩いていけるんですね。では関谷道長。あなたの新たなる門出を祝いましょう。我らの愛し子、関谷道長。あなたの新たなる人生に祝福を!!』
ミチナガの足元が輝き出す。それはイッシンやフェイミエラルも同様だ。この神の世界から元の世界へと戻る時が来たのだ。そしてゆっくりと沈んでいく3人の目にはスマホとその周囲に無数に群がる使い魔たちの姿が映った。
すでに言葉は届かない。最後の別れを使い魔たちに言いたかった。ミチナガは必死に手を振る。そして届かぬ声を上げ続ける。
「ありがとう!お前ら本当にありがとう!お前らがいなかったら…お前らがいなかったら俺はとっくにダメだった。ありがとう!ありがとう!!」
泣きじゃくりながら必死に声をあげるミチナガ。そんなミチナガに向かって使い魔たちは楽しげに手を振り続ける。使い魔たちはこれから真の主人である神の元でその手腕を振るうのだろう。
これが本来のあるべき姿なのだ。ミチナガの視界は徐々に徐々に白く消えていく。そしてミチナガは元の世界には戻らず、再びこの世界を生きていく。
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