上 下
562 / 572

第543話 ポチの求めるもの

しおりを挟む
 シェフから聞いた衝撃の事実。この状況をひっくり返せるのはもうポチしかいない。それを知ったミチナガはポチたちの方へと手を伸ばした。そして…

「それはわかったから。はよ離してやんな。ポチも苦しい…って本体じゃないから関係ないのか。」

 てい!とシェフにチョップを食らわせるミチナガ。それに驚いたシェフは思わず手を離した。ここは何としてでもポチに新しい力を得てもらう必要がある。しかしミチナガはそれをしなかった。

『ボス!何すんですか!今は…』

「まあまあ。とりあえずシェフは休んでな。それからポチ。」

 ビクリと震えるポチ。しかしポチの予想とは裏腹にミチナガはポチのエヴォルヴの頭を撫でてやった。

「大丈夫だよ。大丈夫。」

 ニカッと笑うミチナガ。それを見て呆然とするポチの横でミチナガは表情を柔らかくして前を見据えた。

 これにはポチとシェフが顔を見合わせて困惑した。特に困惑しているのはポチだ。ポチは他の生物から学んで力を得るタイプ。そしてその許容量は計り知れない。だから言われると思った。簒奪者を学び、その力を自分のものにしろと。

 ポチが簒奪者を打倒するためにはそれに近しい力を得る必要がある。そしてそれは簒奪者の力を真似れば済む話である。しかしミチナガはそうは言わなかった。もしかしたら言わずともわかるだろということかとも思ったが、そうではない。

 ポチにはミチナガの考えていることがわからなかった。一体何を考えているのか。だがそんなことはどうでも良いからとっととしろという圧を隣で座って休んでいるシェフから感じている。

 だがそんなことよりもなぜポチは能力を得ようとしないのか。しかもこんな局面でも頑なに意地を張っている。

 しかしその理由はシェフもわかっていた。ポチが憧れているのはただ一人、ミチナガだけだ。ポチはずっとミチナガと一緒にいた。ミチナガのようになりたいとずっと思っていた。

 しかしミチナガは弱い。そんな弱いミチナガを模倣すればポチも弱くなってしまう。そうすればミチナガの助けにはならない。ミチナガの力になるためにはミチナガと真逆の道をゆかねばならない。

 ポチもそのことはわかっているから何度もそうしようと思った。しかしポチはずっと、ずっとミチナガに憧れていた。なぜかはわからない。そういう言葉では表せない何かがあるのだ。

 ミチナガは弱い。商売も正直使い魔達がいたから成り立った。多くの事業も信頼できる友がいたから成り立った。ミチナガ一人ではきっとこの世界に来てすぐに死んでいただろう。ミチナガはそんな男だ。

 それはわかっている。わかっているからこそ決断の時だ。ポチはミチナガとは真逆の道を行く。そうすることでこの局面を打破し、ミチナガの力になる。それが最善。皆が喜ぶ最高の結末に

「なあポチ、見てみろよ。みんなすごいなぁ。あんな弱っちかった俺たちが盗んだとはいえ偽の神様相手に大立ち回りだぜ。そこらのモンスターからも逃げ回っていた俺たちがだぞ。」

『う、うん…そうだね。』

「このエヴォルヴの機体の情報を残してくれていたヤマダさんには感謝だな。そしてそれを作り上げた社畜にも。それからオリンポスの人々や多くの使い魔達にも。俺たちがここにいるのはみんなのおかげだ。」

『そう…だね。』

「…なあポチ。俺は幸せ者だな。みんなに助けてもらった。俺一人じゃ何もできなかった。なあポチ、お前だってそうだ。一人で何でもしようとするな。一人でどうにかしようとするな。お前には頼れる仲間がいっぱいいるじゃないか。」

 ミチナガは笑った。こんな苦しい時だというのに。なんてやつだ。しかしポチはこんなミチナガだからこそ好きになったのだ。憧れたのだ。みんなに愛されているミチナガを好きになったのだ。

 そしてその時、ポチは何かを掴んだような気がした。何かとても簡単なことを掴んだような気がする。そして隣で休んでいるシェフを見てさらに何かを掴んだ。

『ねぇシェフ。僕が助けてって言ったら助けてくれる?』

『急にどうしたんだ?そんなの当たり前だろうが。』

『そっか。そうだね。ここにいるみんなも…助けてくれるかな?』

『何をくだらないことを…当たり前だろ?みんな仲間で…ダチだろ?』

『そっか、ありがと。……ねぇミチナガ。』

「ん?どうした改まって。」

『僕はミチナガみたいになりたかったんだ。弱いけど…みんなが好きで、みんなを大事にしてくれる僕たちのボス。僕たちの王様。僕もなっても良いかな?』

「お前は物好きだな。ああ、好きにしな。それがお前の道だというなら俺は応援するよ。ただしこの道はめんどくさいぞ?」

『その分楽しそうだよ。』

 ミチナガとポチは笑った。そしてポチは祈りを始める。力を得るために。そしてその祈りは彼方へと届く。



『能力の獲得の申請を確認。汝何を望む?』

『僕はミチナガのようになりたいです。』

『………弱体化?』

『ちょww酷いなwwwwそうじゃないですよ。』

『ならば何を望む。』

『僕は…僕になりたい。みんなが信頼してくれている。みんなの助けになれるような僕に。そしてみんなに助けられるような僕になりたい。』

『理解不能』

『僕も何言ってるかわからないや。でもね…きっとそういうことなんだと思う。僕は僕なんだ。それ以上でも以下でもない。ミチナガだって誰かになろうとしたわけじゃない。ミチナガはミチナガだ。だから僕は僕だ。僕はミチナガにはなれないんだ。ミチナガが僕になれないように。』

『理解不能。言語の一定化を望む。』

『そうだ。そうなんだ。ああ、やっとわかった。僕は僕だ。この世界で他にいない。僕は僕だ。そして今、みんなは助けを必要としている。だからその助けになれる力が欲しい。』

『強力な力を求める。承認されました。』

『そしてみんなも僕を助けて欲しい。僕だけじゃ力不足だから。』

『…再び理解不能……前項目の承認が取り消されました。このままでは完了できないため、一度能力の申請を終わらせま……申請が届きました。申請が届きました。申請が届きました……』

『僕は僕だ。だけど僕は一人じゃない。みんながいる。僕がみんなの力になるように、みんなも僕の力になってくれる。』

『他の使い魔全てからの申請を確認。信仰度が規定を突破。……あなたの要望を理解しました。要望に沿って能力の獲得を開始…失敗しました。信仰度を利用し、再び能力の獲得を開始します。能力の獲得に成功。さあ、これがあなたの能力です。』

『ありがとうございます。それじゃあ行ってきます。』

『……個体名ポチ。理解していますか?今あなたが受け取った力の意味を。もうあなたは使い魔ではない。』

『ええ、理解しています。だけどこれは…僕だけの力じゃないですから。』

『了解しました。それではいってらっしゃい。』

『はい。いってきます。』
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...