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第537話 神を簒奪したものvs神魔&神剣 後編

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 無数の魔法を展開する簒奪者。しかしフェイミエラルはそれを発動すらさせまいと対抗魔法を瞬時に展開させようとする。だが次の瞬間、フェイミエラルの手が止まった。

「イッシン!あれは変!!」

「ああ、感じ取ってる!」

 簒奪者から展開された無数の黒弾。あれは先ほどまでのただの魔法とはワケが違う。あれをまともに受ければイッシンですら傷を負うだろう。だからこそ回避に専念しようとする。しかし…

「避けても良いのかな?」「お前たちのような神力の多いものならまだしも」「その後ろの男ではまともに耐えることすらできまい」「さあ…」「どうする?」

 簒奪者から放たれる黒弾。その全てがミチナガと使い魔たちの方へと向かっていく。その瞬間イッシンはその全てを撃ち落とすために刀を振るった。

 だが黒弾に切っ先が触れた瞬間、黒弾のあまりの質量に刀が押し戻されそうになる。そして切り消すことが不可能だと判断したイッシンは黒弾の軌道を逸らすことに注力した。

 そしてフェイミエラルもイッシンでは防ぎ切れないと判断し、イッシンが軌道を変えた黒弾の軌道をさらに変えて、黒弾同士を衝突させ対消滅させる。

 そしてこの二人の協力により100近くはあった黒弾を全てミチナガたちの元まで届かせることなく、対処することに成功した。だがそんな喜びもつかの間、簒奪者たちはさらに倍の黒弾を展開させた。

「あまり神力は使いたくない」「だがお前たちには使わねば対処できぬらしい」「これ以上の出し惜しみはしない」「これは神からの賞賛である」「さあ…次はお前たちが死ぬまで止めないぞ?」

「これはさすがに……」

「……イッシン、防御は任せるのだ。お前は攻撃だけ続けて欲しい。」

 ニッと笑みを見せるフェイミエラル。だがそれは痩せ我慢だ。フェイミエラルでもこのすべての黒弾を防ぎきることは難しい。しかしそれでも二人とも防衛に回れば簒奪者の攻撃は死ぬまで続く。

「きつくなったらいつでも言ってね。…それじゃあしばらくお願いします。」

 イッシンはフェイミエラルに防衛を任せてのんびりと歩き出した。その光景はただの散歩の姿だ。しかしその心中は穏やかではない。なにせイッシンの斬撃であっても簒奪者にはあまり有効的ではない。

 剣速は簒奪者たちでも捉え切れないほどだ。しかしその斬撃力はまるで通じていない。だがイッシンにはなんとかなる確証があった。それはイッシンが普段から本気で切ろうとしていないからだ。

 剣速をどれだけあげても周囲に問題はない。だが斬撃力を上げると遠くの木が切れ、山が切れる。さらには空間すらも断ち切ってしまう。そうなると後処理が面倒なのだ。だから普段から剣速を上げることはあっても斬撃力は上げてこなかった。

 そしてそれがなんの問題もなかった。今の斬撃力でも十二分に通用するどころか、切れないものはなかった。だが今目の前に切れないものがある。ならばこれまでしてこなかったことをするだけだ。

 そしてイッシンは神力という言葉を思い返した。すべての力の頂点、神力。この簒奪者は肉体のほぼ全てに神力をまとわせている。だからこの簒奪者の肉体を斬るためにはこの一振りに神力をまとわせなければならない。

 だが不器用なイッシンではそのやり方がまるでわからない。しかしわからないからと諦めるわけにはいかない。わからなのならばわかるまで降り続けるだけだ。

「行くぞ…」

 イッシンは簒奪者へと飛びかかった。そして至近距離で刀を振るい続ける。だが表面が切れることはあっても内部までは達しない。しかしそれでもただひたすらに刀を振るい続ける。そしてそんなイッシンには見向きもせずに簒奪者は黒弾を放った。

 無数の黒弾を消滅させるためにフェイミエラルは魔法を展開した。展開されている魔法は世界でもフェイミエラル以外に使えるものが見つからないような高位魔法の数々だ。そんな魔法を膨大な魔力で常に行使し続ける。

 そしてフェイミエラルは数百の黒弾をたった一人で全て撃ち落として見せた。だがさすがに疲労の色が見える。そんなフェイミエラルの前にさらなる黒弾の群れが現れる。

「ほらほら」「どんどん行くぞ」「まだまだ続く」「お前が諦めるのが楽しみだ。」

 さらなる千の黒弾。フェイミエラルはそれを全て迎撃するために膨大な魔法を展開する。100、300、500と黒弾を阻止するフェイミエラル。しかし疲労により一瞬の隙を見せた。その一瞬の隙がフェイミエラルの片腕を吹き飛ばす原因となった。

 そして対処し切れないほどの黒弾がフェイミエラルとその背後のミチナガたちへと襲い掛かる。しかしその瞬間、イッシンが自らの身体を呈して黒弾を受け止めた。

 100を超える黒弾を身体に浴びるイッシン。だがイッシンには無敵の肉体がある。この肉体がある限りどんな攻撃でも無傷で生還する、はずだった。だが結果は無数の黒弾により血まみれに変わるイッシンの姿がそこにあった。

「きつくなったら言ってって言ったじゃないですか。」

「ごめん……」

 片腕を失い俯くフェイミエラル。血だるまで佇むイッシン。その姿を見て簒奪者はほくそ笑む。

「足手まといがいると楽で良い」「セキヤ・ミチナガ、お前のおかげでこの戦いは思ったより早く終わりそうだ。」「お前の働きに感謝する」「さあ、早々に終わらせよう」「そして我らの一部となれ」

 再び無数の黒弾を展開させる簒奪者。その前でイッシンとフェイミエラルは呼吸を整えようとしている。そんな二人を見てどうやっていたぶろうか考える簒奪者。しかし次の瞬間、パチンという破裂音が聞こえた。

「一体なんの音だ?」「関係ない」「ただの音だ」「いや待て」「黒弾の一つが消えている」「一体何が…」

「ふう、ようやく解析が終わったのだ。」

「まったく…戦闘中にやるようなことじゃないでしょうが。」

「えへへへへ」

 そういうと指を鳴らすフェイミエラル。すると次の瞬間、簒奪者が展開していた黒弾が高い破裂音を出しながら続々と消えていった。さらに腕をふるうと取れていたはずの腕が元に戻り、イッシンの傷を全て治療した。

「あ、治療までしてくれたんだ。このくらいならすぐに癒せるのに。」

「ついでなのだ。それにしても……まさかとは思うけど同じ魔法がそんなに延々と効くと思った?」

 フェイミエラルが冷たい視線を投げかける。それを見て簒奪者はようやくフェイミエラルという一人の魔族の少女の天才っぷりを知ることになった。フェイミエラルはこの激しい戦闘の最中、黒弾の解析をし、それに対抗する魔法を生み出していたのだ。

 はっきり言ってこんな事が出来るのはこの星が誕生してから生まれたすべての生物の中でフェイミエラルただ一人にしかできない芸当だ。そしてそれを知った簒奪者はますますフェイミエラルが欲しくなった。

「欲しい!」「その頭脳!」「魔法に関するセンス!!」「今すぐに我らの一部となろう!!!」「そうすれば我々は完璧な存在に…」

「女の子にそんな気持ちの悪いお誘いは良くないと思うよ。」

 イッシンは刀を振るう。しかしイッシンの攻撃は同じ位置に何万と喰らわねば効果はない。だからこそイッシンを脅威と捉えなくなっていた簒奪者だが、身体に巨大な斬撃が加えられる。その斬撃は先ほどまでより深く切られている。

「少しずつ神力を使う感覚がわかってきたよ。もう少し頑張ったら……真っ二つにできるかな?」

「やはり素晴らしい」「なんという斬撃だ」「人の域を軽く超越している」「ああ、どれも欲しい」「やはりお前たち二人とも我が同胞となれ!!」

 イッシンの斬撃が通用するようになってきた。フェイミエラルの魔法センスがあれば簒奪者の攻撃を凌ぎ切れる。しかし簒奪者にはまだ膨大な魔法の知識が残っている。黒弾を対処されてもまた次の魔法がある。

 だがこの時はまだ誰も知らない。イッシンたちの背後でミチナガの思いが遥か彼方へ届こうとしていることを。
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