スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第528話 ニコカミ

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「いや…もう本当にすみませんでしたって…」

 ふてくされているアレクリアル。それを見てどうすることもできないと、だんだん面倒くさくなってきているミチナガ。そんな二人はミチナガの希望により執務室へと移動した。ここならば誰にも会話を聞かれずに済む。

「はぁ…それで?要件はなんだ?」

「山ほどありますよ。巨大のヨトゥンヘイムの現状報告とか世界復興の進み具合とか…」

「そんなもののためにわざわざ来たわけではないだろうが。とっとと結論から言え。」

 本題の前にワンクッション挟もうとしたのだが、どうやら必要ないらしい。ミチナガとしても話が早く済むとありがたいのだが、まだ心の中で葛藤がある。だが、もうここまで来たのだからと覚悟を決め、数枚の紙を取り出した。

「なんだこれは?」

「銅貨、銀貨、金貨といった9大ダンジョンのみから発掘される魔法貨幣の転用方法と必要な術式です。」

 ミチナガの言葉に慌てて書類を確認するアレクリアル。そして一通り目を通してそれが本物であるらしいことを確かめた。そしてこれはミチナガだけが保有していた貨幣の本来の利用方法を他の人間へ明かした瞬間だ。

「これは…お前はそのスマホに消費していたのは聞いていたが、こんな利用方法まで……」

「太古の昔にはごく一般的な知識だったようですよ。こういう利用の仕方があったからこそ、魔法貨幣には価値があったんです。」

「魔力生成炉を作れるのか…世界が変わるぞ。だがこれは…」

「ええ、これを広めれば貨幣を求めて戦争が起こります。さらに膨大な貨幣消費が起これば人々の生活にも悪影響が出ることでしょう。」

「…何故これを私に?」

「あなたならこれを正しく使えるはずだと思ったからです。それに…9大ダンジョン維持のためにも必要な知識です。」

 アレクリアルは息を飲む。今ミチナガが渡したこの書類は世界中で戦争を巻き起こすこととなる凶悪な火種だ。しかしそれと同時に大魔法文明時代への切符でもある。正義であれば悪でもある。アレクリアルはこの書類を受け取ったことを非常に悔やんだ。

「…もしもこれを使うのであればわが国だけで独占して使用する。…いや、どんなに隠してもいずれはバレるか。スパイが入り込んで国の中枢がめちゃくちゃになる可能性がある。使うなら私個人で使うしかない…なるほどな。ミチナガ、お前が隠していたのもそれが理由か。」

「それもあります。まあ一番は私のこのスマホの生産能力とこの魔法貨幣は非常に相性が良かった。独占した方が恩恵が大きかったですからね。ですが…アレクリアル様にも教えたくて。これ使えば魔神第1位になれますよ。私はこれを外に広める気はありませんから。」

「魔神第1位は非常に魅力的だが、屍の上の玉座に興味はない。そんなことをすれば…私は勇者ではいられなくなる。私にとって勇者という称号は魔神以上に価値がある。だからこれは…一応保管だけはしておく。お前だけの重荷にするのもなんだからな。」

「そうですか。…けどとっておきの情報教えたんですからお願い聞いてもらって良いですか?」

「構わん。なんでも言え。」

「セキヤ国と同盟を結んでください。私とではなくセキヤ国とです。私がいなくなった後も民が困らぬように。それからミチナガ商会の後ろ盾というスタンスもとってください。」

「…お前の肉体的なことを考えれば死期を悟ってのことということか。…安心しろ。英雄の国がある限り、問題は起こさせない。」

「ありがとうございます。これで心配事もなくなりました。」

 ミチナガは笑みを見せる。そんなミチナガを見てアレクリアルはミチナガの最後を悟る。とは言えミチナガが死ぬのは後2~30年は先のことになるだろう。しかしミチナガは子を持たず、親類もいない。ミチナガが死んだ後、セキヤ国もミチナガ商会も跡継ぎがいない。

 ミチナガの莫大な財産を求めて多くのハイエナ貴族や商人が集まることだろう。ミチナガが死んだのちにその財産を求めて戦争が起きたっておかしくはない。

「ミチナガ、お前結婚したらどうだ?まだ子供も作れるだろう?良い相手がいないのであれば紹介するぞ。」

「間に合ってます。しかしアレクリアル様には驚かせられました。婚約者がいたなんて。しかも子供もできて…」

「まあな。以前は龍の国や法国のことがあったから公にすればそれが弱点になると公表しなかった。知っている者は12英雄の中でも一握りというレベルだ。両国が滅んでくれたおかげ…というのは良くないが、その影響で気兼ねなく家族を持つことができた。」

 ほんの数年前、戦後復興の最中に明るいニュースとしてアレクリアルの婚約の話が出た。さらにその翌年には英雄の国の次代勇者である王子の誕生。復興の最中の明るいニュースとして街は大いに賑わった。

 ミチナガもその喜びを表すために多額の資金を用いてパレードを開いたほどだ。それこそアレクリアルにやりすぎだと言われるほど豪快にやった。

「しかし良い人がいるのであれば結婚して子を作れ。それがお前の死後起こる戦争を止めるためでもある。……しかしミチナガ、今までの話を聞いているとお前の今回の旅はまるで死出の旅のようだぞ。さすがにまだ早かろう。何かあったのか?」

「いえ、ちょっと用事があるんです。…大事な用事があるんです。」

「…お前……死ぬのか?」

「死にませんよ。ただ……それくらいの覚悟はしてあります。」

 ミチナガのただならぬ覚悟を察したアレクリアルは心配する。だがアレクリアルにはミチナガの命の危機という意味がうまく理解できなかった。なんせミチナガは今や魔神第1位だ。この地位は力なくして成れるものではない。

「そういえば報告にあったが、お前のとこの使い魔が各地で魔帝クラスと模擬戦をしていると聞いたぞ。」

「ええ、ちょっと戦闘データ収集のために力を貸してもらっています。」

「戦闘経験か。この世界でお前が商神として知られる理由は考えなくてもわかる。しかし…軍神の名はなぜ授かったのか理解できないものも多い。お前の使い魔の兵団…想像を超えるものなのだろうな?」

「まあ…増やして鍛えまくりましたから。しかし…この力を地上で行使することはありません。第一相手がいませんから。」

「では地上ではない場所で使うということか。そうでなければわざわざ鍛えたりはしない。何を考えている?」

「内緒ですよ。」

 ミチナガの表情を見て決してそれを言わないことを察したアレクリアルはすぐに諦めた。そしてミチナガから渡された書類をもう一度見る。すると一つのことに気がついた。

「白金貨に関する記載がないが、これはどういう風に使うんだ?他の貨幣同様使用方法があるはずだろう?」

「白金貨だけは利用方法が失伝しています。実はこの世界で一番貨幣価値の高い貨幣がただのガラクタなんですよ。」

「そうなのか…まあしかし研究してみても良いかもしれないな。何か運用方法が見つかるかもしれない。………そう言えば知っているか?白金貨の貨幣価値が急増していることを。今じゃ金貨1000万枚以上の価値がある。」

「へぇそうなんですか。まあ新たにお金を作ることができないですから、現存枚数に対して価値が跳ね上がりますからね。」

「貴族や金持ちたちはそれを考えた。だから9大ダンジョン解放時に白金貨の貨幣価値が下がると考え、大量に放出した。しかし実際は世界中で白金貨が消えている。そんな世界規模のことができるのはこの世界でお前だけだろう?報告に上がっていたが、お前は白金貨を消費して使い魔を生成できるらしいな。それがお前が軍神と呼ばれる理由だろ?今…一体どれだけいるんだ?」

「それは内緒ですよ。」

 ミチナガはそれを言うことを拒んだ。アレクリアルもすぐに聞き出すことを諦めた。しかし世界中の白金貨を集めれば元々どんなに数が少ないと言っても数百万枚にはなるだろう。今やミチナガの戦力はどれだけのものになっているのか。それを考えた時、アレクリアルはわずかに震えた。
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