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第524話 平和な世は
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ユグドラシル国に来てから一ヶ月以上が経った。ここユグドラシル国は多くの人々と出会い、多くの思い出が残っている土地だ。もはや第二の故郷といっても過言ではない。その居心地の良さからミチナガはゆっくりと羽を伸ばしている。
そんなミチナガは今獣人街にいる。その獣人街の中でも一番権力を持っている一族、ゴウ氏族の屋敷にてモツ鍋を食べている。
「ガハハハハ!良い食いっぷりだ!どうだうちのモツ煮の味は。」
「こんな豪快なモツ鍋食ったの初めてだ。なんのモツかわからんが美味いな。」
ゴロゴロとしたモツ肉がゴロゴロと入っている。内臓という内蔵全てごった煮にしたような鍋だ。しかし丁寧な処理がしてあるため、血生臭さがなくガツガツと食べられる。
「しかしアルダス。いい加減家督をアミルデスに譲った方が良いんじゃないか?隠居して孫を可愛がった方が楽で楽しいだろ。」
「家督譲ったら色々と面倒なことに縛られる。あの子には自由に楽しんでほしい。俺が死ぬまでは家督は譲らんよ。」
そう言うと酒を飲み干すアルダス。ほんの数年前に息子のアミルデスは結婚して、半年ほど前に子を成した。アルダスの初孫だ。自身の子供であるアミルデスが奴隷商人に捕まってから息子を取り戻すのに翻弄していたアルダスにとってこの吉報はあまりに嬉しいものであった。
その嬉しさのあまり将来孫と遊べるようにと孫の名前をつけた公園を作るほどだ。おまけに孫が病気になったら困ると街の美化活動と、もしもの時の病院建設まで行う始末だ。
権力者が孫馬鹿になるとここまでするのかと呆れたミチナガであるが、自身も同じ境遇になれば同じことをやりかねないなと心の中で思っている。
するとそこへ来客が現れた。その来客者の声を聞いた瞬間、アルダスの目尻は口につながるのではないかと思うほど垂れ下がり、口角は下がった目尻の代わりに上へと持ち上がった。
「失礼しますお爺様。ミチナガ様初めまして。アミルデスの妻です。」
「あぅぅあぁぁ」
「おお!来たか来たか。ほ~らお爺ちゃんですよぉ。」
噂をすればなんとやらではないが、本当に孫がやって来た。まあそれもミチナガが来たと言うことで挨拶のためにとわざわざ来てくれたのだ。ミチナガは夫であるアミルデスの命の恩人。アミルデスの妻は何度も何度もミチナガに礼を言う。
「すみませんこれまでも何度も訪れてくれたのにご挨拶にも伺えず…」
「いやいや、気になさらずに。体調は大丈夫ですか?」
「はいおかげさまで。体に良いと言う食べ物まで送っていただきなんとお礼を言ったら良いか…」
アミルデスの妻はあまり体が丈夫では無い。出産の疲労の影響でしばらく入院していたほどだ。現在は世界樹に近い貴族街に住居を構え、世界樹の恩恵を受けながら身体の調子を整えている。
「奥さんが元気になるのが一番のお礼ですよ。元気になったらうちの旅行会社使っていろんなところへ遊びに行ってください。費用はアルダスが全額払ってくれるんで。そうすればうちは大儲けです。」
「おお、旅行か。それは良いな!元気になったらいくらでも遊びに行け!いずれ家督を継いだら自由も無くなる。それまでに楽しんでおけ!」
豪快に笑いながら孫をあやすアルダス。それを聞いたアミルデスの妻はそんな日が来るのを楽しみにすると微笑んだ。
そしてその日は夕食の前にミチナガは引き上げた。アミルデスの妻が体調の良い時にしか孫を連れてアルダスの元へ来られない。だから邪魔をせずに家族団欒を楽しんでもらおうという計らいだ。
「本当はアルダスが貴族街まで行ければ良いんだけど、発展が進む獣人街の治安維持のために動けないもんな。」
『ポチ・獣人街は今大変だからね。世界樹の復活に伴っていくつかの獣人の一族が入って来たから派閥争いが起きちゃっているし。今はゴウ氏族が一番の古参だから落ち着いているけど…』
「馬鹿が出ない限りは大丈夫だろ。アミルデスは魔王クラスまで力をつけた。それにあの奥さんと結婚したんだ。勢力的にも頭一つ抜けている。」
ミチナガとポチで話し合って納得しているところに背後で護衛として付いてきていたイシュディーンがどう言うことなのかと疑問に思っている。それを感じ取ったミチナガはイシュディーンに話かけた。
「獣人達にとって権力とは武力こそが全てなんだ。まあ奴隷狩りにあったりと力がなければ生きて行けなかった者達だからな。そしてあの奥さんなんだが…実は由緒正しい一族の末裔でな。今はあの戦争の影響でユグドラシル国へ来たが元々は10の氏族を束ねる…王族みたいなもんだな。」
「王族…それほどの方が一介の権力者の息子と結婚を?」
「あの戦争でかなり消耗していたと言う理由もある。元は数千人の獣人を束ねていたが、この国に来た時には千人ほどしかいなかった。ただそれでもこの国の獣人の中にも彼らに慕うものもいてな。勢力的にゴウ氏族に並ぶんじゃないかと危惧した。だからうちが仲介して仲を取り持った。まあ試しにお見合いしたらお互いに一目惚れしちゃっていたから仲介は必要なかったかもしれないけどな。」
ケラケラと笑うミチナガ。しかしミチナガが軽く言うほど簡単なことではなかった。ゴウ氏族は元々傭兵からの成り上がりだ。対する奥さんの方の家は由緒正しい王族。たとえアミルデスとその奥さんが一目惚れしたとしても反発は大きかった。
だからこそその反発を全てミチナガが引き受けたのだ。そして使い魔達の草の根活動のおかげで円満に結婚することができた。
「それに奥さん側には大きな問題があったからな。奥さん身体弱かっただろ?あれは何代にも渡って近親者同士で結婚を重ねたことで遺伝子に異常が出たんだ。本来なら魔力でなんでも解決できるんだが、遺伝子レベルまでいくとどうにもならない。外からの血を入れないと30歳までは生きられないほどにな。」
「それほど身体が弱かったのですか。」
「それほどなんてもんじゃないぞ。本当は孫を出産した時に死んでた。それを世界樹の力とかうちの商会でいろいろ用意した薬でなんとか延命させたんだ。死んでたら勢力争いどころか獣人街が火の海になったっておかしくなかった。うちの使い魔からこの連絡が来た時は焦ったよ。」
ミチナガはその当時を思い出した。使い魔達から緊急連絡を受け、ありとあらゆる手段を使って死なせないように努力した。そしてアミルデスには2人目は奥さんの身体が丈夫になるまで待つように釘を刺しておいた。そのうち世界樹の力によって2人目を産んでも問題ない丈夫な体になることだろう。
「しばらくこの国に滞在して力を入れて色々探ってみたが、問題なく安定している。リリーが治める国で争いが起きたら大変だからな。あと数十年はこんな平和が続いて欲しいもんだ。」
「ずいぶんゆっくりされていると思ったらそんなことまで…おみそれしました。」
「いや何。居心地良いのは間違い無いからな。この国でゆっくりしたかったと言うのはある。ただ次の場所に向けて出発しなくちゃ行けないな。…明日にはこの国を出よう。」
「ずいぶん急ですね。」
「居心地良いからな。パッと決めないといつまでもダラダラする。それに……イシュディーン。先に帰っていてくれ。別れの挨拶…と言うより話をしないと行けないからな。」
ミチナガは魔動装甲車を止め、車から降りた。イシュディーンとしては護衛であるので付いていくのが正しい。しかしミチナガの雰囲気から何かを感じ取ったイシュディーンはミチナガの言葉に従った。
走り去る魔動装甲車を見送ったミチナガは深呼吸して息を整えた。予想以上に緊張しているらしい。ミチナガは夜の街をまっすぐに目的地へと歩き進んだ。
そんなミチナガは今獣人街にいる。その獣人街の中でも一番権力を持っている一族、ゴウ氏族の屋敷にてモツ鍋を食べている。
「ガハハハハ!良い食いっぷりだ!どうだうちのモツ煮の味は。」
「こんな豪快なモツ鍋食ったの初めてだ。なんのモツかわからんが美味いな。」
ゴロゴロとしたモツ肉がゴロゴロと入っている。内臓という内蔵全てごった煮にしたような鍋だ。しかし丁寧な処理がしてあるため、血生臭さがなくガツガツと食べられる。
「しかしアルダス。いい加減家督をアミルデスに譲った方が良いんじゃないか?隠居して孫を可愛がった方が楽で楽しいだろ。」
「家督譲ったら色々と面倒なことに縛られる。あの子には自由に楽しんでほしい。俺が死ぬまでは家督は譲らんよ。」
そう言うと酒を飲み干すアルダス。ほんの数年前に息子のアミルデスは結婚して、半年ほど前に子を成した。アルダスの初孫だ。自身の子供であるアミルデスが奴隷商人に捕まってから息子を取り戻すのに翻弄していたアルダスにとってこの吉報はあまりに嬉しいものであった。
その嬉しさのあまり将来孫と遊べるようにと孫の名前をつけた公園を作るほどだ。おまけに孫が病気になったら困ると街の美化活動と、もしもの時の病院建設まで行う始末だ。
権力者が孫馬鹿になるとここまでするのかと呆れたミチナガであるが、自身も同じ境遇になれば同じことをやりかねないなと心の中で思っている。
するとそこへ来客が現れた。その来客者の声を聞いた瞬間、アルダスの目尻は口につながるのではないかと思うほど垂れ下がり、口角は下がった目尻の代わりに上へと持ち上がった。
「失礼しますお爺様。ミチナガ様初めまして。アミルデスの妻です。」
「あぅぅあぁぁ」
「おお!来たか来たか。ほ~らお爺ちゃんですよぉ。」
噂をすればなんとやらではないが、本当に孫がやって来た。まあそれもミチナガが来たと言うことで挨拶のためにとわざわざ来てくれたのだ。ミチナガは夫であるアミルデスの命の恩人。アミルデスの妻は何度も何度もミチナガに礼を言う。
「すみませんこれまでも何度も訪れてくれたのにご挨拶にも伺えず…」
「いやいや、気になさらずに。体調は大丈夫ですか?」
「はいおかげさまで。体に良いと言う食べ物まで送っていただきなんとお礼を言ったら良いか…」
アミルデスの妻はあまり体が丈夫では無い。出産の疲労の影響でしばらく入院していたほどだ。現在は世界樹に近い貴族街に住居を構え、世界樹の恩恵を受けながら身体の調子を整えている。
「奥さんが元気になるのが一番のお礼ですよ。元気になったらうちの旅行会社使っていろんなところへ遊びに行ってください。費用はアルダスが全額払ってくれるんで。そうすればうちは大儲けです。」
「おお、旅行か。それは良いな!元気になったらいくらでも遊びに行け!いずれ家督を継いだら自由も無くなる。それまでに楽しんでおけ!」
豪快に笑いながら孫をあやすアルダス。それを聞いたアミルデスの妻はそんな日が来るのを楽しみにすると微笑んだ。
そしてその日は夕食の前にミチナガは引き上げた。アミルデスの妻が体調の良い時にしか孫を連れてアルダスの元へ来られない。だから邪魔をせずに家族団欒を楽しんでもらおうという計らいだ。
「本当はアルダスが貴族街まで行ければ良いんだけど、発展が進む獣人街の治安維持のために動けないもんな。」
『ポチ・獣人街は今大変だからね。世界樹の復活に伴っていくつかの獣人の一族が入って来たから派閥争いが起きちゃっているし。今はゴウ氏族が一番の古参だから落ち着いているけど…』
「馬鹿が出ない限りは大丈夫だろ。アミルデスは魔王クラスまで力をつけた。それにあの奥さんと結婚したんだ。勢力的にも頭一つ抜けている。」
ミチナガとポチで話し合って納得しているところに背後で護衛として付いてきていたイシュディーンがどう言うことなのかと疑問に思っている。それを感じ取ったミチナガはイシュディーンに話かけた。
「獣人達にとって権力とは武力こそが全てなんだ。まあ奴隷狩りにあったりと力がなければ生きて行けなかった者達だからな。そしてあの奥さんなんだが…実は由緒正しい一族の末裔でな。今はあの戦争の影響でユグドラシル国へ来たが元々は10の氏族を束ねる…王族みたいなもんだな。」
「王族…それほどの方が一介の権力者の息子と結婚を?」
「あの戦争でかなり消耗していたと言う理由もある。元は数千人の獣人を束ねていたが、この国に来た時には千人ほどしかいなかった。ただそれでもこの国の獣人の中にも彼らに慕うものもいてな。勢力的にゴウ氏族に並ぶんじゃないかと危惧した。だからうちが仲介して仲を取り持った。まあ試しにお見合いしたらお互いに一目惚れしちゃっていたから仲介は必要なかったかもしれないけどな。」
ケラケラと笑うミチナガ。しかしミチナガが軽く言うほど簡単なことではなかった。ゴウ氏族は元々傭兵からの成り上がりだ。対する奥さんの方の家は由緒正しい王族。たとえアミルデスとその奥さんが一目惚れしたとしても反発は大きかった。
だからこそその反発を全てミチナガが引き受けたのだ。そして使い魔達の草の根活動のおかげで円満に結婚することができた。
「それに奥さん側には大きな問題があったからな。奥さん身体弱かっただろ?あれは何代にも渡って近親者同士で結婚を重ねたことで遺伝子に異常が出たんだ。本来なら魔力でなんでも解決できるんだが、遺伝子レベルまでいくとどうにもならない。外からの血を入れないと30歳までは生きられないほどにな。」
「それほど身体が弱かったのですか。」
「それほどなんてもんじゃないぞ。本当は孫を出産した時に死んでた。それを世界樹の力とかうちの商会でいろいろ用意した薬でなんとか延命させたんだ。死んでたら勢力争いどころか獣人街が火の海になったっておかしくなかった。うちの使い魔からこの連絡が来た時は焦ったよ。」
ミチナガはその当時を思い出した。使い魔達から緊急連絡を受け、ありとあらゆる手段を使って死なせないように努力した。そしてアミルデスには2人目は奥さんの身体が丈夫になるまで待つように釘を刺しておいた。そのうち世界樹の力によって2人目を産んでも問題ない丈夫な体になることだろう。
「しばらくこの国に滞在して力を入れて色々探ってみたが、問題なく安定している。リリーが治める国で争いが起きたら大変だからな。あと数十年はこんな平和が続いて欲しいもんだ。」
「ずいぶんゆっくりされていると思ったらそんなことまで…おみそれしました。」
「いや何。居心地良いのは間違い無いからな。この国でゆっくりしたかったと言うのはある。ただ次の場所に向けて出発しなくちゃ行けないな。…明日にはこの国を出よう。」
「ずいぶん急ですね。」
「居心地良いからな。パッと決めないといつまでもダラダラする。それに……イシュディーン。先に帰っていてくれ。別れの挨拶…と言うより話をしないと行けないからな。」
ミチナガは魔動装甲車を止め、車から降りた。イシュディーンとしては護衛であるので付いていくのが正しい。しかしミチナガの雰囲気から何かを感じ取ったイシュディーンはミチナガの言葉に従った。
走り去る魔動装甲車を見送ったミチナガは深呼吸して息を整えた。予想以上に緊張しているらしい。ミチナガは夜の街をまっすぐに目的地へと歩き進んだ。
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