537 / 572
第518話 思い出の地
しおりを挟む
「元の温泉が消えて無くなったのは辛いけど、この新しい温泉も良いな。ただ少し熱めだな。」
ミチナガは湯船に浸かりながら景色を堪能する。高台に作られた露天風呂の眼下には一面を覆い尽くす南国フルーツの果樹園と溶岩の真っ赤な光が見える。時折溶岩方面から吹く風が独特な匂いを運んでくる。
そんな上空では星々が輝く、と言いたいところだがうっすらと雲が出ているせいで星空は見えないらしい。星空が見えるまで粘りたいところではあるが、この熱めの風呂がそれを許さないだろう。
「確かにここは良いところだな。景色は綺麗だし、この澄んだお湯も気持ちが良い。肌がすべすべになりそうだ。」
「アルカリ系の温泉らしいな。確か前あったのは硫黄の濁り湯だったんだけど、そことは違う湯脈みたいだ。調べたら3種類の湯脈があるんだけど、硫黄の方はマグマの影響で高温になりすぎているらしい。温度調整と硫黄によるパイプの詰まりのせいで採算取れないから現状封鎖中。もう一つは冷泉で、加熱するくらいなら今のこの温泉で良いよねってことだ。」
「ふーん。温泉経営も大変なんだな。」
そんなことは興味がないと言わんばかりの返事をするクラウン。まあ温泉に入ってゆったりしているのにそんな話は確かにどうでも良いかもしれない。そして30分もしないうちに風呂から上がると火照った体を冷ますために各々飲み物を持つ。
「クラウンはビールか。フルーツ牛乳も美味しいぞ。この辺りの新鮮なフルーツを使った逸品だ。牛乳はブラント国から仕入れてる。うちが手を入れているから品質は間違いない。」
「このビールもブラント国で生産しているやつだろ?キンキンに冷やしたビールが一番だ。」
「まあ確かに美味そう。イシュディーンのそれはコーヒー牛乳か?ん?もしかして…」
「はい。セキヤ国のコーヒーとブラント国の牛乳で作ったコーヒー牛乳です。私はこれがお気に入りでして。」
どれも風呂上りには最高の逸品だ。そしてそんな最高の逸品を一気に飲み干す。火照った体にこの一杯が染み渡り思わず声が漏れる。
その後の夕食は独特な南国系の食事の数々が提供された。そんな料理に舌鼓を打ちながらミチナガは自身の体の状態を確認する。
「まだ疲れは抜けきってないか。あともう2~3日ここで休んでいくか。」
「ええ、それがよろしいかと思います。」
イシュディーンはミチナガの体のことも考え、同意する。クラウンはなんでも良いと言わんばかりに料理に夢中になっている。そしてアマラード村での休暇が決定したミチナガ一行は十分なまでに羽を休めることにした。
早朝、ミチナガは露天風呂に入っている。朝風呂のおかげで頭はシャキッとしてきた。ここ連日の温泉三昧と、使い魔たちのマッサージによりミチナガの体の疲れは完璧に取れている。そして今日はアマラード村での最後の日ということで一人で最後の温泉に入っている。
「あ~…良い湯だ。本当に良い湯だな。次…もしも次来ることができたらまたここに入りたいものだな。……さて、そろそろいくか。」
ミチナガは風呂から上がる。そして着替えるとすぐに出発することとなった。
出発したミチナガ一行は森の中をひたすら突き進む。すると道中ミチナガは車外を見ながら思い出にふけっていた。
「この辺りだったかな。まだ馬車で移動しているからそんなに早く移動できなくて、ここいらで野営することになったんだ。その時にスマホの力使って温泉に入っていたらナイトと出会ったんだよ。強そうな奴だと思ったけど、ここまで強くなるなんてなぁ…」
「ナイト様ですか。あの方も命の恩人の一人。シェイクス国での戦いの時には助けられました。ミチナガ様は良い出会いをされましたね。」
「ナイト…ああ、お前んとこのゴツイ奴か。現在の9大ダンジョン最多踏破者だよな?」
「ああ、巨大のヨトゥンヘイムと人災のミズガルズの2つを踏破した。それで今煉獄のムスプルヘイムを踏破中。近々踏破完了するらしい。」
「魔神第8位、狩神…少々過小評価された順位だとは思いますがね。」
「まあ仕方ないさ。ナイトの実力は現在の魔神の中でも五本の指には入るだろうが、国を持たない放浪の身。影響力は他の魔神に比べると少し落ちる。」
あの戦争の後、使い物にならなくなっていた魔神の石碑が元に戻り、新たな10人の魔神を表示した。魔神の入れ替えなど早々起こらないものだが、あの戦争で神龍、法神、監獄神の3名が死亡。崩神も神人の影響で力を失い、魔神の地位から落ちてしまった。
一度に4人もの魔神がいなくなったことで魔神のランキングは大きく入れ替わった。そしてその中に新たにナイトが狩神の名を授かって第8位にランクインした。
もともとそれだけの実力があったのだが、それが戦争とその後の9大ダンジョン踏破により影響力が増してランクインしたのだろう。後もう一つ要因があるとすれば、ナイトの寄付によって各地に建てられた学校だろう。
慈善事業家として知られるようになり、冒険者のみならず子供達に知られて影響力が格段にました。今後、ナイトの寄付により建てられた学校から卒業した子供達が大きくなり、その子供たちの子供が学校に通うようになれば、その影響力はさらに増していくことだろう。
「その思い出の地に止まらなくて良いのか?」
「ただの森の中だからな。止まったところで一周見回すくらいしかやることないしいいよ。それよりも先を急ぎたい。目的の場所は結構遠いからな」
ミチナガは魔動装甲車を急がせる。ミチナガの目指す先はここからまだまだ遠い。道中の村に立ち寄りながら急ぎめで出発しても1週間以上の日数がかかった。アマラード村で体をしっかり休めたミチナガでなかったら途中の村で十分な休息が必要になっただろう。
そして先を急いだミチナガ一行は深い森の中に入る。だがその森は少し手前の森とは雰囲気がまるで違った。その雰囲気を感じ取ったイシュディーンは警戒を強める。
「大丈夫だイシュディーン。目的の場所に着いたらしい。ポチ、手形を出すからそのまま進んでくれ。」
『ポチ・オッケー。』
ミチナガはスマホの中から一輪の花を取り出す。そしてその花を軽くふるうとまるで風鈴のような音を奏でた。そしてポチの運転する魔動装甲車はハンドルも切らずにまっすぐ進む。目の前を塞ぐ巨木も気にせずに。
このままではさすがに激突する。そんな恐怖を感じ取ったクラウンはとっさに転移の準備をするがミチナガが問題ないと笑みを見せる。するとミチナガの宣言通り、目の前の巨木がこちらを避けるようにぐにゃりと曲がった。
その光景は驚きのものであった。目の前を塞ぐ植物たちがこちらを避けていく。ここを進んでくれと言わんばかりに。
そんなミチナガたちの景色は突如森の中から抜け、一つの池の前にでた。そこが目的地だったようでミチナガは魔動装甲車を止めて車から降りた。
クラウンたちもそれに続くと降りた瞬間に空気がまるで違うことに気がつく。なんとも居心地の良い空間。空気が美味しいとはこういうことを言うのだ。そして池を見た瞬間、あまりの美しさに呼吸することをやめた。
池の中心の小島で咲き誇る桜。まるで桜の花びらそのものが輝いているような神々しさを感じる。これほどの絶景は世界にそうないだろう。
「すげぇ…ここは一体……」
「ここは精霊の森。森の大精霊が住まう神聖な土地だ。ここにいると思ったんだけどな。多分この感じは…そういうことかな?お前らはここで待機していてくれ。寝っ転がって自由にしてくれて構わないよ。」
「ミチナガ様はどちらへ?」
「ちょっと呼ばれているから大精霊に会ってくる。護衛の必要はない。俺だけしか呼ばれていないしな。心配ないから。」
それだけ言うとミチナガはポチを肩に乗せて森の中へと消えていった。
ミチナガは湯船に浸かりながら景色を堪能する。高台に作られた露天風呂の眼下には一面を覆い尽くす南国フルーツの果樹園と溶岩の真っ赤な光が見える。時折溶岩方面から吹く風が独特な匂いを運んでくる。
そんな上空では星々が輝く、と言いたいところだがうっすらと雲が出ているせいで星空は見えないらしい。星空が見えるまで粘りたいところではあるが、この熱めの風呂がそれを許さないだろう。
「確かにここは良いところだな。景色は綺麗だし、この澄んだお湯も気持ちが良い。肌がすべすべになりそうだ。」
「アルカリ系の温泉らしいな。確か前あったのは硫黄の濁り湯だったんだけど、そことは違う湯脈みたいだ。調べたら3種類の湯脈があるんだけど、硫黄の方はマグマの影響で高温になりすぎているらしい。温度調整と硫黄によるパイプの詰まりのせいで採算取れないから現状封鎖中。もう一つは冷泉で、加熱するくらいなら今のこの温泉で良いよねってことだ。」
「ふーん。温泉経営も大変なんだな。」
そんなことは興味がないと言わんばかりの返事をするクラウン。まあ温泉に入ってゆったりしているのにそんな話は確かにどうでも良いかもしれない。そして30分もしないうちに風呂から上がると火照った体を冷ますために各々飲み物を持つ。
「クラウンはビールか。フルーツ牛乳も美味しいぞ。この辺りの新鮮なフルーツを使った逸品だ。牛乳はブラント国から仕入れてる。うちが手を入れているから品質は間違いない。」
「このビールもブラント国で生産しているやつだろ?キンキンに冷やしたビールが一番だ。」
「まあ確かに美味そう。イシュディーンのそれはコーヒー牛乳か?ん?もしかして…」
「はい。セキヤ国のコーヒーとブラント国の牛乳で作ったコーヒー牛乳です。私はこれがお気に入りでして。」
どれも風呂上りには最高の逸品だ。そしてそんな最高の逸品を一気に飲み干す。火照った体にこの一杯が染み渡り思わず声が漏れる。
その後の夕食は独特な南国系の食事の数々が提供された。そんな料理に舌鼓を打ちながらミチナガは自身の体の状態を確認する。
「まだ疲れは抜けきってないか。あともう2~3日ここで休んでいくか。」
「ええ、それがよろしいかと思います。」
イシュディーンはミチナガの体のことも考え、同意する。クラウンはなんでも良いと言わんばかりに料理に夢中になっている。そしてアマラード村での休暇が決定したミチナガ一行は十分なまでに羽を休めることにした。
早朝、ミチナガは露天風呂に入っている。朝風呂のおかげで頭はシャキッとしてきた。ここ連日の温泉三昧と、使い魔たちのマッサージによりミチナガの体の疲れは完璧に取れている。そして今日はアマラード村での最後の日ということで一人で最後の温泉に入っている。
「あ~…良い湯だ。本当に良い湯だな。次…もしも次来ることができたらまたここに入りたいものだな。……さて、そろそろいくか。」
ミチナガは風呂から上がる。そして着替えるとすぐに出発することとなった。
出発したミチナガ一行は森の中をひたすら突き進む。すると道中ミチナガは車外を見ながら思い出にふけっていた。
「この辺りだったかな。まだ馬車で移動しているからそんなに早く移動できなくて、ここいらで野営することになったんだ。その時にスマホの力使って温泉に入っていたらナイトと出会ったんだよ。強そうな奴だと思ったけど、ここまで強くなるなんてなぁ…」
「ナイト様ですか。あの方も命の恩人の一人。シェイクス国での戦いの時には助けられました。ミチナガ様は良い出会いをされましたね。」
「ナイト…ああ、お前んとこのゴツイ奴か。現在の9大ダンジョン最多踏破者だよな?」
「ああ、巨大のヨトゥンヘイムと人災のミズガルズの2つを踏破した。それで今煉獄のムスプルヘイムを踏破中。近々踏破完了するらしい。」
「魔神第8位、狩神…少々過小評価された順位だとは思いますがね。」
「まあ仕方ないさ。ナイトの実力は現在の魔神の中でも五本の指には入るだろうが、国を持たない放浪の身。影響力は他の魔神に比べると少し落ちる。」
あの戦争の後、使い物にならなくなっていた魔神の石碑が元に戻り、新たな10人の魔神を表示した。魔神の入れ替えなど早々起こらないものだが、あの戦争で神龍、法神、監獄神の3名が死亡。崩神も神人の影響で力を失い、魔神の地位から落ちてしまった。
一度に4人もの魔神がいなくなったことで魔神のランキングは大きく入れ替わった。そしてその中に新たにナイトが狩神の名を授かって第8位にランクインした。
もともとそれだけの実力があったのだが、それが戦争とその後の9大ダンジョン踏破により影響力が増してランクインしたのだろう。後もう一つ要因があるとすれば、ナイトの寄付によって各地に建てられた学校だろう。
慈善事業家として知られるようになり、冒険者のみならず子供達に知られて影響力が格段にました。今後、ナイトの寄付により建てられた学校から卒業した子供達が大きくなり、その子供たちの子供が学校に通うようになれば、その影響力はさらに増していくことだろう。
「その思い出の地に止まらなくて良いのか?」
「ただの森の中だからな。止まったところで一周見回すくらいしかやることないしいいよ。それよりも先を急ぎたい。目的の場所は結構遠いからな」
ミチナガは魔動装甲車を急がせる。ミチナガの目指す先はここからまだまだ遠い。道中の村に立ち寄りながら急ぎめで出発しても1週間以上の日数がかかった。アマラード村で体をしっかり休めたミチナガでなかったら途中の村で十分な休息が必要になっただろう。
そして先を急いだミチナガ一行は深い森の中に入る。だがその森は少し手前の森とは雰囲気がまるで違った。その雰囲気を感じ取ったイシュディーンは警戒を強める。
「大丈夫だイシュディーン。目的の場所に着いたらしい。ポチ、手形を出すからそのまま進んでくれ。」
『ポチ・オッケー。』
ミチナガはスマホの中から一輪の花を取り出す。そしてその花を軽くふるうとまるで風鈴のような音を奏でた。そしてポチの運転する魔動装甲車はハンドルも切らずにまっすぐ進む。目の前を塞ぐ巨木も気にせずに。
このままではさすがに激突する。そんな恐怖を感じ取ったクラウンはとっさに転移の準備をするがミチナガが問題ないと笑みを見せる。するとミチナガの宣言通り、目の前の巨木がこちらを避けるようにぐにゃりと曲がった。
その光景は驚きのものであった。目の前を塞ぐ植物たちがこちらを避けていく。ここを進んでくれと言わんばかりに。
そんなミチナガたちの景色は突如森の中から抜け、一つの池の前にでた。そこが目的地だったようでミチナガは魔動装甲車を止めて車から降りた。
クラウンたちもそれに続くと降りた瞬間に空気がまるで違うことに気がつく。なんとも居心地の良い空間。空気が美味しいとはこういうことを言うのだ。そして池を見た瞬間、あまりの美しさに呼吸することをやめた。
池の中心の小島で咲き誇る桜。まるで桜の花びらそのものが輝いているような神々しさを感じる。これほどの絶景は世界にそうないだろう。
「すげぇ…ここは一体……」
「ここは精霊の森。森の大精霊が住まう神聖な土地だ。ここにいると思ったんだけどな。多分この感じは…そういうことかな?お前らはここで待機していてくれ。寝っ転がって自由にしてくれて構わないよ。」
「ミチナガ様はどちらへ?」
「ちょっと呼ばれているから大精霊に会ってくる。護衛の必要はない。俺だけしか呼ばれていないしな。心配ないから。」
それだけ言うとミチナガはポチを肩に乗せて森の中へと消えていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
535
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる