スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第508話 始まりの地

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 急いで屋根から降りたミチナガ一行は薄暗い路地に降り立つ。あの時は荷物が大量に置いてあり、それを足場にして降りたが今は綺麗に片付けられてしまっていた。イシュディーンの砂の足場がなければ途方に暮れていたことだろう。

 そのまま薄暗い路地を抜けると人気のある通りにたどり着いた。その景色に懐かしさを覚えながら歩いて行くと大きな通りに出る。そこはミチナガの記憶とは様変わりしていた。

「随分と栄えている街ですね。商店にも活気がある。」

「あの時はここまで人がいなかったんだけど…いま世界的に人口が減っているのに逆に多くなっている?なんでだ?う~~ん……とりあえずうちの店に行くか。」

 活気ある街並み、戦争前よりも人気が多い。その疑問を解決するのには情報が必要だ。使い魔たちに調べさせればすぐにわかることだが、どうせ自身の店にも立ち寄る予定なのでそこで聞けば良い。

 それに今ミチナガ商会がある場所も思い出の場所だ。ただこの思い出は少し思い出すのには辛い。現在ミチナガ商会がある場所、そこはかつてシンドバル商会があった場所だ。ただし、かつてシンドバル商会の店があった建物はかなり改装され、面影は残っていない。

 それに少し助けられたミチナガは辛い思い出をあまり思い出すことなく、店構えを眺めている。するとそんなミチナガに気がついたのか店の中から一人の男が出て来た。

「ようこそミチナガ商会へ。何かお探しのものはございますでしょうか?よろしければ奥の席にご案内いたしますが。」

「ん?ああ、気にしないでくれ。客じゃない。他の接客にまわってくれ。あ、ちょっと待て……君は店長か?」

「い、いえ。副店長を務めさせていただいております…店長をお呼びしましょうか?」

「そうだな…呼んでくれるか?後奥の部屋借りるぞ。」

 それだけ言うとミチナガはずんずん進み店の中へと入って行く。その様子を見ていた副店長の男は客でもないのに偉そうな、と心の中で思うが決して表情を崩さずにミチナガの後をついて店へと戻っていった。

 ミチナガ商会の中へ入ったミチナガはその活気に満足する。まだ午前中だと言うのにこれだけ客が入っていれば十分な利益を上げていることだろう。商品の補充も忙しそうだ。

「アンドリューさん関連の商品が多いな。メリアの商品は…少ないな。」

「ブランドMELIAの商品は別店舗で取り扱わせていただいております。店長のキャリスです。私をお呼びとのことですが、申し訳ありません。今忙しくてあまり時間が割けないのですが…」

「すまない。だが滅多にない機会だからな。現場の声を直接聞いてみたかったんだ。ポチ、少し人数割いて時間を作ってくれ。」

『ポチ・オッケー』

 ポチの号令のもと数人の使い魔たちがスマホから飛び出し仕事を行う。使い魔たちは実に優秀だ。店長一人分の時間を作ることくらい容易くできる。そして店長は使い魔たちの姿を見て何かに気がついた。

「あの…もしかして……」

「ん?…ああ、そういえば自己紹介してなかったか。ミチナガだ。一応このミチナガ商会の商会長でもある。」

 ここ最近わざわざ自己紹介する必要性がなかったせいで自己紹介する癖が抜けていた。笑いながらそう告げたミチナガの前で店長のキャリスは顔面を青ざめさせる。

「も、申し訳ありませ…」

「すまんすまん。俺がこの街に滞在していた時には商会なんて作ってなかったからな。会うのも初めてなのに自己紹介すらしてなかった。まあ堅苦しいのは無しにして話を聞かせてくれ。」

 ミチナガは軽く笑いながら奥の部屋で話を聞かせてくれと移動する。そんなミチナガについていこうとするキャリスの背中は一瞬のうちに汗でびっしょりだ。そして緊張でやばいと思ったのか副店長を道連れにした。

 そこから行われたのは事務的な作業だ。現在の経営状況、人材問題といったことからこの街で流行っていることなど。ミチナガとしては気軽に話そうとしているつもりだが、相手側はそんなことができないのがひしひしと伝わってくる。

 そんな中、ミチナガは今街になぜここまで人が多いか知ることになった。それはミチナガも少し考えればすぐにわかるような理由だった。

「そっか、この街はアンドリューさんにメリアの故郷だから聖地巡礼で人が集まっているのか。」

「は、はい。アンドリュー様のお屋敷は現在一般開放されておりまして、この街の人気の観光地となっております。メリア様が当時お住まいになられていたアパートも老朽化で取り壊されそうになったのを買い取って一般開放しております。」

「それは良かった。この街には他に特出した観光地はないからな。しかし懐かしいなぁ…そうか……。あ!そういやあれはあるかな?確か…ロックスの酒場だ!それから雪花っていう宿泊施設。確か地図だとこの辺りにあったと思うんだけど…」

「ロックスの酒場はございます。息子が後継として厨房に出てからメニューが増えたという話です。しかし雪花は…申し訳ありません。聞いたことがなくて…副店長はどうです?」

「雪花…はわかりませんが、そこには確か冒険者専用施設があったと思います。この街へくる観光客向けの護衛専門の冒険者パーティーの駐留所として使用されているかと。前に一度だけ訪れたことがあります。」

「そうか…変わらぬものもあれば変わるものもあるか。久しぶりにあそこで一泊と思ったが仕方ないな。ありがとう。それじゃあ話はこのくらいで良いか。この後は街を探索してくる。あ!宿とっといてくれるか?4人分で頼むわ。」

 なんでも良いから宿の確保を頼むと言い残し、道長は再び街へと散策に出かけた。その背後では大至急街一番のホテルのスイートルームを確保しなければと慌てふためくキャリスと副店長の姿があった。



「ここの角を曲がれば…お!あったあっ…って人多いな!」

 ミチナガの記憶を頼りに歩き進めた一行の目には屋敷が写っていた。そこは懐かしきアンドリューの屋敷だ。当時は周囲に人気がなく、初めて貴族と会うと言うことで少し怖さがあった。しかし今ではなんとか見学しようと大勢の人々が列をなして今か今かと待っている。

 ミチナガはその光景に少し嬉しさを覚えつつ、その列に並んだ。ミチナガの権限で列を無視して中に入ることは可能だが、こういうのは列に並ぶのも楽しいものだ。すると列に並んだミチナガの元へ子供達が数人駆け寄ってきた。

「おじさんおじさん!並んでいる間の飲み物なんかどう?」

「果物に野菜もあるわよ!」

「ん?どれどれ…美味しそうだな。その飲み物を4人分、果物も少しもらおうか。」

 購入すると聞いた子供達は喜んで大急ぎで準備する。ミチナガはその子供たちを観察した。近所の子供の小遣い稼ぎというわけではなさそうだ。そしてミチナガはふと思い出した。

「君たちはもしかしてあっちの方にある孤児院の子かい?」

「そうだよ!一応これも授業の一環なんだ。計算と接客が覚えられてお金も稼げるから最高だよ。」

「そうか…そこにおじいさんはまだいるかな?結構な年齢だと思うけど……昔世話になってね。」

「院長先生のことかな?耳が遠いし話も長いけど元気だよ。」

「そうか…それは良かった。」

 かつて釣り餌と畑の肥料のために腐葉土をまとめ買いした孤児院のことを思い出した。この子供達はそこの孤児院の子供達だ。今はミチナガ商会が支援して勉学なども教え、孤児院自体も改装されている。

 当時ミチナガが出会った孤児たちも今では青年になっている頃だ。おそらく孤児院を出てどこかで働いていることだろう。ここにも顔を出しておきたい。

 その後子供達はミチナガに商品を手渡し、料金をもらうと他の並んでいる人たちの元へと売り込みに行った。あれだけたくましく商売ができるのであれば将来の心配はそこまでないだろう。

 変わったことで寂しく思うものもあれば、変わったことで嬉しく思うこともある。そしてそれが自身の影響によって良い方向に変わったと言うのであればそれは喜ばしいことだ。そしてミチナガは子供達から買ったジュースを一口飲んだ。

「ん?この味…なんか覚えがあるような……」

『ポチ・多分それプルージュースじゃない?ほら、昔売ろうとして失敗したやつ。』

「あ~…そういえばそんなこともあったな。あの時はスランプだったなぁ…」

 初めてスマホで育てた果物がプルーだった。そして初めて商売で失敗したのもプルーであった。あれからしばらくはプルージュースばかり飲んで自己消費していたものだ。いつからかプルージュースに飽きてしまい、ずっと飲んでいなかったが久しぶりに飲むと美味しいものだ。
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