上 下
526 / 572

第507話 最後の旅の始まり

しおりを挟む
「仕事の割り振りはオッケー。問題もほぼ解決済み。他に問題点はないな?」

『ポチ・護衛に誰をつけるかで揉めているらしいよ。二人しか連れて行かないって言ったらもう大変で大変で。』

「あ~…それはめんどいな。もう明後日には出る予定だろ?早いとこ決めてもらわないと。そういやあいつはどうなってる?」

『ポチ・ちゃんと伝えてあるから大丈夫。前日には戻って来てもらうから。それよりも仲裁に行って。評議会巻き込んでいるみたいだからさ。』

 ポチに催促され渋々腰をあげるミチナガはだらだらと歩き出した。ミチナガが向かった先はセキヤ国の中心部に建設された議事堂の評議会室だ。ここではセキヤ国の国民の中から選抜されたものたちを中心として議会が行われている。

 議会の内容は国の法律の選定や問題ごとへの対処方法の話し合いといった国の運営に関わる重要な決定を行う。ただしどんなに話し合っても最終決定権はミチナガに委ねられている。民主国家という程をとってはいるがあくまでミチナガの独裁国家だ。

 とはいえミチナガはそこまで国の運営に口を出さなくなってきた。口を出せばその分自分に仕事が回ってくるので、それを避けるためというのもある。だがそれ以上に評議会の会議、決定だけで問題なく国の運営がまとまっているからというのもある。

 そしてそんな評議会が行われている議事堂というのはミチナガが普段仕事をしている場所でもある。ミチナガがダラダラ歩いたとしてもほんの5分もあれば評議会の会場にたどりつく。めんどくさそうに会場の扉を開いたミチナガの耳に数々の大声が聞こえてきた。

「しかしそれでは私は!」

「他の仕事があるんだから仕方ないだろうが!!っとミチナガ様。」

 扉を開きのろのろと歩いていくミチナガ。そんなミチナガに気がついた評議会のメンバーは口を閉じて深々とお辞儀をする。そんな評議会のメンバーに着席を促すとミチナガも用意されている自身の席に着席した。

「議論が白熱するのは良いことだが、なんでもその内容は俺の護衛の話とか?」

「それなんですが実はその……」

「ミチナガ様!どうか私を護衛の一人に!!」

「イシュディーン…お前をか?しかしお前はこの国の騎士団総長で護りの要だろ?それに煉獄のムスプルヘイム攻略の一端を担っているし……」

「騎士団のまとめ役は団長のヘルディアスがおります!それに現在は煉獄のムスプルヘイムにはナイト様が潜っておられるので私の手は必要ありません!ダンジョンまでの街道の安全も確保済みです!どうか!」

 ミチナガは頭を悩ませる。イシュディーンはこの国の重要人物の一人だ。ミチナガに加えイシュディーンまでいなくなるとその穴を埋めるための人材確保が必要となってくる。下手をしたらその分を補填するために出発が遅れる可能性が出てくる。

 ミチナガはポチの方をちらりと見る。ポチも少し悩んでいるがしばらくすると頭を縦に振った。どうやらその分人材の割り当てが可能らしい。

「よし、前に英雄の国に行くときも留守番させたからな。同行を許可しよう。ただし明日までに仕事の振り分けしておけよ。出発は明後日の早朝だ。それからあともう一人の同行者は…戦力は十分だし身の回りのことをしてくれるやつにするか。適任者はいるか?」

「それでしたら私が一人推薦いたしましょう。メイドとしての仕事も、いざという時の戦闘能力も十分な人材ですので問題ないかと。」

「さすがはメイド長。じゃあそれで頼む。さて…これで問題は解決かな?今日の会議は他に残っているか?」

「いえ、全て終えております。もう解散して問題ないかと。」

「そうか!それじゃあ…飯でもどうだ?暇なやつだけで良いぞ。仕事があるものは無理に引き止めん。」

 まだ夕飯には少し早い時間だが、たまにはゆっくりと夕食を楽しむのも良いだろう。そんなミチナガの発案に賛同した数名と共に食事へと出かけた。



 それから2日後。朝靄が漂う街中に三人の男女の姿があった。一人はミチナガ、もう一人はイシュディーン、そしてもう一人はメイド長推薦のメイドだ。そしてそんな三人はゆっくりと人を待っていた。

「もうすぐ来ると思うんだけど……お、来たな?」

 ミチナガが反応したと同時に他の二人も直ぐに反応した。ミチナガと反応したタイミングが同じというのは本来であれば遅すぎることだが、この男の能力であれば仕方ないだろう。

「ようクラウン。久しぶりだな。しっかり人目につかないように隠れておいたか?」

「ああ…仕事をこなしながらぼんやりとな。人と喋るのは久しぶりだ。」

 目の前に現れたのは元十本指のクラウンだ。現在はミチナガの手下となり、世間の記憶からなるべく忘れられるように特別任務をこなしながら誰もいない場所でひっそりと暮らしていた。そんなクラウンからミチナガはいつの間にか預けていたスマホを受け取った。

「あ~懐かしのスマホちゃん。しっくり来るわぁ……」

「それで?旅に出るってことだが目的地はどこだ?」

「ん~?え~とね…ここ!ここに転送してくれ。」

 ミチナガがスマホのマップで地点を指名すると怪訝な表情を浮かべるクラウン。何度か本当にここで良いのか確認するが、ミチナガは問題ないと言い張る。

「よくわからんけどまあいいか。それじゃあ全員手を繋げ。離すなよ?それじゃあ…」

 クラウンは転移能力を発動させる。その瞬間ミチナガたちの姿は朝靄の漂うセキヤ国から消え去り、次の瞬間にはサンサンと太陽が照らす別の国にいた。しかし妙に太陽の光がよく当たるし、見晴らしも良い。

 その転移した場所がどこか直ぐに全員わかった。そこは民家の屋根の上だ。しかしミチナガ以外なぜここに転移して来たのか全く理由がわからない。

「なぜ屋根の上?」

「俺は指定された場所に転移しただけだ。」

「ハハハ…すまんすまん。ここは…俺が初めてこの世界に来たところだ。あの日…俺は突然ここに来たんだ。しかもパジャマ姿でな。ほんの数分の出来事だったが懐かしいと思うくらいにはちゃんと覚えていたみたいだ!」

 ミチナガは初めてこの世界に来た時のことを思い出す。訳も分からずこの世界に来て、身につけていたのはパジャマとこのスマホ一つだけ。しかも肝心のスマホは課金しなければ何の役にも立たなかった。

「今回は俺の思い出旅行って訳だ。退屈かもしれんがついて来てくれ。」

「退屈なんてことはありません。このような旅についてこられて幸せでございます。」

「ハッハッハ!おべっかが上手いな。さて、それじゃあ降りるか。降りるのは確かこっちの…」

「誰だ!うちの屋根の上で騒いでいるのは!!」

「やべっ!今日は人いたのか!急いで降りるぞ!!」

 ミチナガは駆け足でその場を立ち去る。少しグダついてしまったが、ミチナガの思い出の旅の始まりである。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...