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第494話 龍の国潜入

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『ポチ・飛び去ったね。今ならいけそう。』

「よし、それじゃあ全速力で上陸するぞ。」

 早朝。ミチナガは高速艇に乗り、龍の国の沖でドラゴンが巣から飛び立つのを待っていた。そしてドラゴンたちが飛び去ったのを見て猛スピードで上陸を行う。高速で動くミチナガたちの乗る高速艇にドラゴンたちが来ないか不安であったが、杞憂であったようだ。

「本当に襲って来ないんだな。」

『ポチ・日の出ている間に近づく船には攻撃しないように調教されているらしいからね。さすがは元世界トップの国だよ。防衛力が半端じゃない。』

「今じゃもう無いけどな。迎えも来てくれているな。」

 ミチナガたちが高速艇で向かう港では、すでにエヴォルヴに搭乗した使い魔たちが周辺の安全を確保し待っている。そんな使い魔たちの元へミチナガの乗る高速艇はすぐさまたどり着いた。

「ご苦労。国内の現状は把握してあるな?安全なルートの確保は?」

『問題ありません。強者のほとんどはイッシン様がやってくれましたから。』

『われらの部隊はちょっとした処理をすればすぐに安全を確保できました。どこでもご案内可能です。』

「随分頼もしくなっちゃって。向かう先はそうだな…貴族の屋敷とかもありえそうだけど、やっぱり城かな?」

 十本指の頭であるミサト・アンリはこの龍の国のどこかにいる。そしてミチナガを待ち構えているのであれば、防衛力の高いところを選ぶだろう。そうなると貴族の屋敷なども怪しいのだが、やはり一番防衛力が高いとなると王城だろう。

 本当はしらみつぶしに探すのが一番なのだろうが、そこまで自由にできるほど安全の確保はできていない。探す時間と労力を減らすために一つの場所に絞って重点的に探す。それにもしも王城にいなかったとしても王城の安全を確保して拠点を構えれば安全に動きやすくなる。

『わかりました。王城までの道のりは確保できています。どうぞ。』

「仕事が早いな。さす…が……イッシン!?」

「やあミチナガ。君の気配を感じたから飛んで来たよ。」

「飛んでと言うか切り裂いてと言うか…ってそっちの戦いは?」

「ああ、昨晩終わったよ。ずっと戦い続けたからもう疲れたしお腹も減ったしで大変だったよ。早く帰って子供達に会いたいんだけど、君がここにいるってことは何かあると思ってね。」

 神剣イッシン対過去の魔神の軍勢の戦いはイッシンの勝ちで終わったらしい。突如空間を切り裂いて出て来たイッシンに驚くミチナガだが、それ以上の驚きを発見した。

 それはイッシンに傷らしい傷が見当たらないのだ。魔神たちと戦ったと言うのに無傷の生還を果たしたらしい。イッシン自身の出血の後を探すのだが、どこにも見当たらない。もしかしたらどこかに探せばあるのかもしれないが、目立つようなものは一切ない。

 さすがは史上最強の剣士と呼ばれるだけのことはある。いや、それ以上だろう。そしてこのタイミングでイッシンがきてくれたのは何よりも心強い。

「ここに十本指の頭がいる。まだどこにいるかわからないんだが…手伝ってくれないか?」

「そう言うことならお安い御用さ。ついていくから好きに行っちゃって。」

 イッシンの護衛があることが確定したミチナガたちは予定していた道順を一気に変え、まっすぐに王城に進む。その道中にいる敵は全てイッシンが一瞬のうちに片付けてくれた。

『まさか大通り使って王城に向かえるなんて…』

『道中やばそうなやついたから避けようと思ったのに。』

「間違いなくイッシンいなかったら無理だな。」

 ミチナガたちが行く大通りは蘇った死者の群れで溢れている。その数は数十万にも及ぶだろう。しかしその全てをイッシンは斬り伏せて行く。まるで羽虫を払うかのごとく。

 そして王城が目に入り、さらに速度は増して行く。王城を守るための城門も見えた。重厚な金属製の扉だ。これほど強固で重そうな扉を開けるのには人間なら何千人必要なのだろう。いや、それでも無理かもしれない。

 この門を開けられると言うだけで龍の国に住む龍人たちの強さの一旦が見える。しかしそれほど強い龍人たちも十本指の生み出した死者の群れには敵わなかった。そんなことをしみじみ感じていると先行するイッシンはその城門を蹴破った。

 イッシンの馬鹿力で蹴られた城門は留め金もろとも数メートル吹っ飛んで城門の機能を停止させた。

「ちょ…豪快過ぎない?」

「ん~…このくらいしておいた方が良いかと思ってね。」

「は?このくらいって……待て、ありゃなんだ……」

 ミチナガとイッシンの視線の先、蹴破られ倒れた城門が巻き起こした砂埃の向こう側に二人の男がいる。そしてそのうちの一人はありえないほどのオーラを放っている。

「騒がしいやつらだ。まあ良い、ご苦労であったな。下がれ。」

「ハッ!」

 数歩下がる従者と思われる男。しかしその男の顔を見たとき使い魔たちはすぐに気がついた。そして未だ座っている男の正体にも。

『神人アレクレイ・ドキュルスター…』

『その後ろにいるのは十本指のドクとか呼ばれていた男です。音声データも一致しました。』

「どうやらここが当たりのようだな。」

「そうみたいだね。」

 人類史上最強の魔神と呼ばれた神人アレクレイ・ドキュルスターと十本指の一人ドク。この二人の存在がここに死神ミサト・アンリがいることの証明になる。それと同時にミチナガは自身の身の危険を感じ取り、全身から汗が吹き出した。

 もしもここでイッシンとアレクレイが軽く戦闘でも行えばミチナガはその余波で死んでしまうだろう。しかし焦るミチナガの肩をイッシンが軽く叩いた。

「大丈夫だよ。今はやる気はないらしい。」

「そ、そうみたいだけど…この手のタイプはいつ動き出すかわからないから…」

 アレクレイからは今の所一切敵意や殺意を感じない。そしてそれは背後に控える十本指のドクも同じだ。その様子を見たミチナガはようやく安心したのかイッシンと共にゆっくり歩き出す。そしてミチナガたちとアレクレイの距離が残り数メートルとなったところで足を止めた。

「お前たち二人には是非とも会いたかった。今世紀最強の剣士と史上最も金を稼いだ商人。我の時代にはいなかった世界の頂点。本当は神魔とやらにも会いたかったが、子供相手にちょっかい出すのは度量の狭いことだからな。」

「調べ…たんですね。」

「容易なことだ。観光がてら世界を飛びまわればお前たちの情報はいくらでも手に入った。さて、どうせだから少し遊んでやろうと思ったが…そこの商人、お前とは特に戦っても意味はない。あやつの褒美にお前をくれてやろうと思ってな。あやつに着いていきこの場を去れ。」

「そうさせてもらいますね。そう言うわけだからイッシン、後は頼んだ。」

「うん、ここは任されたよ。そっちはお願いね。」

 ミチナガはアレクレイの横を通り抜け、十本指のドクの後ろを着いていきその場を立ち去った。そしてその場に残されたのはイッシンとアレクレイの二人だけだ。

「ふむ…ここまで鍛え上げられた剣士を見るのは初めてだ。実に嬉しいぞ。お前となら遊べそうだ。」

「あ、そうですか。それよりも場所を変えませんか?ここで暴れればあの二人を巻き込みかねない。」

「よかろう。では案内しろ。」

 イッシンは空間を切り裂いてその場を移動する。アレクレイもイッシンの生み出した空間の裂け目に入りその場を後にした。
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