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第493話 空の旅
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青い空、白い雲、そして眼下に広がる広大な大海原。そんなのんびりと観ていられる景色の中を高速で飛行機が飛んで行く。その飛行機の中にはこの飛行機の所有者であるミチナガの姿があった。
「あ゛~~…気持ちいぃ…」
『ポチ・随分体凝り固まっているね。もう少しリラックスしたら?』
「少しは気持ちも落ち着いて来たからリラックスして来たよ。…白獣たちに対する判断も正直やりすぎたかと思って反省している感じもある。だけどあのくらいの決断を出さないと他に示しがつかないからな。難しいよ…あぁ…そこそこ…」
機内で寝そべるミチナガは使い魔たちによるマッサージを受けている。どうやら白獣の村で怒りが頂点に達したことによる弊害が出たらしい。それにずっと座り続けて待つというのも身体には良くない。
それにあの9大ダンジョン、神域のヴァルハラ内での時間のズレによりミチナガの肉体年齢は大きく変わってしまった。もうミチナガの実年齢は40に近い。もともと健康な肉体でないミチナガの体の節々には老いが見え始めている。
「正直…浦島太郎の気持ちがわかるよ。というか日々味わっている。」
『ポチ・浦島太郎は竜宮城から戻って来たら数十年後の世界だったって話だから違う気もするけど。』
「周りが若いのに俺だけ年をとって行くのが辛いってことをわざわざ言い回したのにそんな指摘はいらないの!…まあ確かに違う気もするけどさ。いいじゃん別に。ちょっと感傷に浸りたいんだよ。」
ミチナガは鏡を見ながら自身の頭髪をじっと見る。そして白髪を見つけてはため息をつく。ミチナガはあと寿命的に何年生きられるのか、あと何年間元気に動き回ることができるのかと将来を不安に思う。みんな若々しい中、一人死んで行く自分を想像しゾッとする。
『ポチ・まあその辺もいろいろ研究するからなんとかなるよ。心配してもしょうがない悩みはほっときな。』
「はぁ…まあ悩んでも答えが出ないことほど無駄なことはないからな。……今なら不老不死を求めた人間の気持ちがわかるよ。歳はとりたくないもんだ。」
ミチナガはそれだけ言うともうマッサージは飽きたのか、使い魔たちに風呂の準備をさせると機内で外の景色を楽しみながら入浴し始めた。この飛行機は戦闘用ではなく、完全に娯楽用のプライベートジェットだ。
今や世界一の金持ちとなったミチナガにとってこの程度のことは当たり前になろうとしている。ただそんな自分の優越感に浸る時間はない。今も世界各地で人々が死んでいる。ミチナガはこれから十本指との最終決戦に向かうためにコンディションを整えなくてはならない。
だからこそリラックスできるように風呂にも入って景色を眺めている。そんなミチナガの目には青い空と白い雲が写っている。もう何時間も似たような景色が続き飽きているが、やはりと美しい光景だ。しかしそんな景色の中に異変が見られた。
「ん?気のせい…いや、違うな。ポチ、外の景色を全て記録してくれ。何か起きているみたいなんだがよくわからん。」
『ポチ・何が起きているって?……あ、なんかピカってしたね。雷?』
「それにしては光り方が小さい。…全部録画して、光ったところを繋げて見てくれないか?なんと言うか…魔法陣っぽい感じがする。」
『ポチ・そんなまさか…もしそうならとんでもなくでかい魔法陣だよ?今マザーに整理してもらっているからちょっと待ってね。…あ、本当っぽい。』
空にチラチラと見える無数の光。その光を全てつなぎ合わせるとミチナガの予想通り魔法陣らしきものの形になったと言うことだ。ミチナガが言わなければこんなこと誰も気がつかなかった。
「ん~~…なんかすげぇ嫌な感じがする。だけど今すぐに危害がありそうな感じじゃないな。それに最近作られたものでもないだろ?」
『ポチ・その根拠は?』
「感!!」
『ポチ・正直で結構。でもまあ…こんなの作れるとしたら神魔くらいなものだけど、危険な魔法陣って感じでもないし、無視で良いかもね。と言うか対処する方法がありません。』
「まあ俺たちにできることはまだまだ少ないからな。先を急ごう。もしもこの魔法陣が危険なものであっても十本指倒せば終わるし。」
対処方法がなければ騒いでも意味はない。それにすぐに危険な魔法が発動される感じでもないので無視して先を急ぐ。そしてミチナガは龍の国近くの海上に浮かんでいる空母の上に着艦する。
空の上から海の上に移動してきたミチナガは船の上でわずかに感じる揺れに嫌そうな表情を浮かべながら飛行機から降りてきた。
『黒之参佰参・空の旅お疲れ様でした!これから先は我々がご案内いたします!』
「よろしく頼むよ。すぐに行けるか?」
『黒之参佰参・残念ながらそれは難しいかと。じきに日が暮れます。夕方はドラゴンが巣に戻る時間です。そして夜の間は夜目が効くので危険な状態です。翌朝、餌を求めドラゴンたちが飛び立ってから高速艇にて上陸するのがよろしいかと。』
「ドラゴンか…この辺竜系のモンスター多いんだよね?まあだからこその龍の国なんだろうけど。」
『黒之参佰参・9大ダンジョンの一つ、龍巣のヨルムンガンドもありますから非常に危険なドラゴンも多いですね。ただこの辺りの漁港はモンスター避けの魔道具が設置されているので危険度の高いのはいないと思われます。』
「…龍の国はもう生きている人はいないんだろ?メンテナンスなしでもその魔道具は大丈夫なのか?」
『黒之参佰参・現時点では問題ありません。長期的にはどうなるかわかりませんが。』
少し前までは文句なしの魔神第1位を保有する世界最大の武力を持つ龍の国。それが今では死人が蔓延るだけの国に変わってしまった。一体何が起きたのか、それを知ることは難しいだろう。
「上陸後の安全確保はどうなっている?」
『黒之参佰参・すでに数名の仲間を送り込んであります。ですが今のところ特に問題はないようです。しかし万が一のこともありますので…』
「俺のところに他から戦力を送り込むのは無理だぞ。ナイトもヴァルくんもそれぞれ戦っている。ここが最も重要な戦いであることは間違いないが…白獣たちの言葉から考えると敵は俺と会う気があるみたいだからな。大きな戦闘にはならないと願いたい。それに…ここにはイッシンがいるだろ?まだ戦っているのか?」
『黒之参佰参・数百名の魔神クラスと戦い続けているようです。ただ戦闘が激しすぎてどうなっているのかよくわからず…』
「…間違いなくイッシンがいなかったらこの戦争はもっとやばかったな。というか人類滅んでいたっておかしくない。感謝してもしきれないな。まあ明日行くなら今日は艦内で休ませてもらうか。」
『黒之参佰参・あ~…それなんですが、ちょっと問題がありまして。』
そう言う使い魔は艦内の様子をチラッと見せながら説明してくれた。この十本指の騒動が始まったのと同時期に、海岸線沿いの集落や国の中で防衛力の乏しい場所に住む人々を全て船に避難させたのだ。
その影響で船の中にはキャパシティを超えるほどの人々が暮らしている。ミチナガが艦内で休むような場所はないだろう。使い魔たちの独断で行ったことのため、ミチナガはいま報告を受けるまで全く知らなかった。
『黒之参佰参・申し訳ありません事後報告で。』
「いや、構わないよ。正しい判断だ。ずっと艦内にいるとエコノミー症候群やら色々な精神的問題が出てくる可能性があるから時々甲板で運動させてやれよ。それじゃあ俺は飛行機の中で休むことにするわ。」
ミチナガは一度降りた飛行機の中に再び戻る。明日はこの戦争の最終日になるかもしれない。そのためにも英気を養う必要がある。
「あ゛~~…気持ちいぃ…」
『ポチ・随分体凝り固まっているね。もう少しリラックスしたら?』
「少しは気持ちも落ち着いて来たからリラックスして来たよ。…白獣たちに対する判断も正直やりすぎたかと思って反省している感じもある。だけどあのくらいの決断を出さないと他に示しがつかないからな。難しいよ…あぁ…そこそこ…」
機内で寝そべるミチナガは使い魔たちによるマッサージを受けている。どうやら白獣の村で怒りが頂点に達したことによる弊害が出たらしい。それにずっと座り続けて待つというのも身体には良くない。
それにあの9大ダンジョン、神域のヴァルハラ内での時間のズレによりミチナガの肉体年齢は大きく変わってしまった。もうミチナガの実年齢は40に近い。もともと健康な肉体でないミチナガの体の節々には老いが見え始めている。
「正直…浦島太郎の気持ちがわかるよ。というか日々味わっている。」
『ポチ・浦島太郎は竜宮城から戻って来たら数十年後の世界だったって話だから違う気もするけど。』
「周りが若いのに俺だけ年をとって行くのが辛いってことをわざわざ言い回したのにそんな指摘はいらないの!…まあ確かに違う気もするけどさ。いいじゃん別に。ちょっと感傷に浸りたいんだよ。」
ミチナガは鏡を見ながら自身の頭髪をじっと見る。そして白髪を見つけてはため息をつく。ミチナガはあと寿命的に何年生きられるのか、あと何年間元気に動き回ることができるのかと将来を不安に思う。みんな若々しい中、一人死んで行く自分を想像しゾッとする。
『ポチ・まあその辺もいろいろ研究するからなんとかなるよ。心配してもしょうがない悩みはほっときな。』
「はぁ…まあ悩んでも答えが出ないことほど無駄なことはないからな。……今なら不老不死を求めた人間の気持ちがわかるよ。歳はとりたくないもんだ。」
ミチナガはそれだけ言うともうマッサージは飽きたのか、使い魔たちに風呂の準備をさせると機内で外の景色を楽しみながら入浴し始めた。この飛行機は戦闘用ではなく、完全に娯楽用のプライベートジェットだ。
今や世界一の金持ちとなったミチナガにとってこの程度のことは当たり前になろうとしている。ただそんな自分の優越感に浸る時間はない。今も世界各地で人々が死んでいる。ミチナガはこれから十本指との最終決戦に向かうためにコンディションを整えなくてはならない。
だからこそリラックスできるように風呂にも入って景色を眺めている。そんなミチナガの目には青い空と白い雲が写っている。もう何時間も似たような景色が続き飽きているが、やはりと美しい光景だ。しかしそんな景色の中に異変が見られた。
「ん?気のせい…いや、違うな。ポチ、外の景色を全て記録してくれ。何か起きているみたいなんだがよくわからん。」
『ポチ・何が起きているって?……あ、なんかピカってしたね。雷?』
「それにしては光り方が小さい。…全部録画して、光ったところを繋げて見てくれないか?なんと言うか…魔法陣っぽい感じがする。」
『ポチ・そんなまさか…もしそうならとんでもなくでかい魔法陣だよ?今マザーに整理してもらっているからちょっと待ってね。…あ、本当っぽい。』
空にチラチラと見える無数の光。その光を全てつなぎ合わせるとミチナガの予想通り魔法陣らしきものの形になったと言うことだ。ミチナガが言わなければこんなこと誰も気がつかなかった。
「ん~~…なんかすげぇ嫌な感じがする。だけど今すぐに危害がありそうな感じじゃないな。それに最近作られたものでもないだろ?」
『ポチ・その根拠は?』
「感!!」
『ポチ・正直で結構。でもまあ…こんなの作れるとしたら神魔くらいなものだけど、危険な魔法陣って感じでもないし、無視で良いかもね。と言うか対処する方法がありません。』
「まあ俺たちにできることはまだまだ少ないからな。先を急ごう。もしもこの魔法陣が危険なものであっても十本指倒せば終わるし。」
対処方法がなければ騒いでも意味はない。それにすぐに危険な魔法が発動される感じでもないので無視して先を急ぐ。そしてミチナガは龍の国近くの海上に浮かんでいる空母の上に着艦する。
空の上から海の上に移動してきたミチナガは船の上でわずかに感じる揺れに嫌そうな表情を浮かべながら飛行機から降りてきた。
『黒之参佰参・空の旅お疲れ様でした!これから先は我々がご案内いたします!』
「よろしく頼むよ。すぐに行けるか?」
『黒之参佰参・残念ながらそれは難しいかと。じきに日が暮れます。夕方はドラゴンが巣に戻る時間です。そして夜の間は夜目が効くので危険な状態です。翌朝、餌を求めドラゴンたちが飛び立ってから高速艇にて上陸するのがよろしいかと。』
「ドラゴンか…この辺竜系のモンスター多いんだよね?まあだからこその龍の国なんだろうけど。」
『黒之参佰参・9大ダンジョンの一つ、龍巣のヨルムンガンドもありますから非常に危険なドラゴンも多いですね。ただこの辺りの漁港はモンスター避けの魔道具が設置されているので危険度の高いのはいないと思われます。』
「…龍の国はもう生きている人はいないんだろ?メンテナンスなしでもその魔道具は大丈夫なのか?」
『黒之参佰参・現時点では問題ありません。長期的にはどうなるかわかりませんが。』
少し前までは文句なしの魔神第1位を保有する世界最大の武力を持つ龍の国。それが今では死人が蔓延るだけの国に変わってしまった。一体何が起きたのか、それを知ることは難しいだろう。
「上陸後の安全確保はどうなっている?」
『黒之参佰参・すでに数名の仲間を送り込んであります。ですが今のところ特に問題はないようです。しかし万が一のこともありますので…』
「俺のところに他から戦力を送り込むのは無理だぞ。ナイトもヴァルくんもそれぞれ戦っている。ここが最も重要な戦いであることは間違いないが…白獣たちの言葉から考えると敵は俺と会う気があるみたいだからな。大きな戦闘にはならないと願いたい。それに…ここにはイッシンがいるだろ?まだ戦っているのか?」
『黒之参佰参・数百名の魔神クラスと戦い続けているようです。ただ戦闘が激しすぎてどうなっているのかよくわからず…』
「…間違いなくイッシンがいなかったらこの戦争はもっとやばかったな。というか人類滅んでいたっておかしくない。感謝してもしきれないな。まあ明日行くなら今日は艦内で休ませてもらうか。」
『黒之参佰参・あ~…それなんですが、ちょっと問題がありまして。』
そう言う使い魔は艦内の様子をチラッと見せながら説明してくれた。この十本指の騒動が始まったのと同時期に、海岸線沿いの集落や国の中で防衛力の乏しい場所に住む人々を全て船に避難させたのだ。
その影響で船の中にはキャパシティを超えるほどの人々が暮らしている。ミチナガが艦内で休むような場所はないだろう。使い魔たちの独断で行ったことのため、ミチナガはいま報告を受けるまで全く知らなかった。
『黒之参佰参・申し訳ありません事後報告で。』
「いや、構わないよ。正しい判断だ。ずっと艦内にいるとエコノミー症候群やら色々な精神的問題が出てくる可能性があるから時々甲板で運動させてやれよ。それじゃあ俺は飛行機の中で休むことにするわ。」
ミチナガは一度降りた飛行機の中に再び戻る。明日はこの戦争の最終日になるかもしれない。そのためにも英気を養う必要がある。
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