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第491話 ツグナオと密会

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 ツグナオと英雄たちの食事会はつつがなく進み、全員が食事とツグナオとの会話を楽しんだ後に会議が始まる。会議の内容は明日からの行軍進路と配置諸々だ。

 ただそれなりに重要なことのため、あらかじめツグナオと一部の人員で作戦は決められている。なので今行われているのは会議という名の英雄たちへの指令だ。

 ツグナオからの指示を受けた英雄たちは二つ返事でその命令を受ける。勇者王から直接命令される栄誉などそう簡単に味わえるものではない。ただ、正直どれもそこまでたいした指示ではない。

「すでにこの大陸での被害は抑えてある。我々に必要なのは残党狩りだ。他大陸でもかなり押さえ込めているらしい。残すところはあと二つ。龍の国と法国だ。」

「恐れながら申します。ツグナオ様のお力で我々を彼の地へ飛ばしていただければすぐに解決してみせましょう。いかがでしょうか?」

「残念だけどこの能力は自由自在な転移能力ではなく、助けを求める人々の元へ駆けつける力だ。すでに両国とも助けを求める人々すらいない。この能力じゃ無理なんだ。だから我々にできることは人々の希望として地道に敵の数を減らすことだ。」

 ツグナオの能力は英雄やヒーローに関連する力のため効果そのものが一風変わっている。その分支援能力としては絶大な効果を発揮するのでそれが悪いとは言えない。

 それを聞いた英雄も納得し、自身に命じられた仕事に注力することを約束した。そして日が変わる前にはその食事会は終わった。

 名残惜しそうにするものたちもいれば、やっとツグナオと話せたと興奮するものもいる。中には歓喜のあまり泣き出しているものもいる。これだけ喜んでもらえればツグナオとしても嬉しい。

 食事会を終えたツグナオは自身のテントに戻る。するとそこには使い魔のヨウが待っていた。

『ヨウ・お休み前にすみません。お願いがあってきました。』

「大丈夫だよ。少し休んでから寝るつもりだったから。何の用だい?」

『ヨウ・うちのボス、ミチナガが龍の国へ向かいました。距離もあるので2日はかかると思いますが、現地に着いてから支援が必要になる可能性が高いです。お力をお貸し願えませんか?』

「それじゃあこの戦争も最終局面か…問題ないよ。現地に着いてから助けが必要になったらそう願うと良い。うちのクロちゃんを筆頭に何人か送るよ。」

『ヨウ・ありがとうございます。』

 ミチナガはすでに龍の国へ向かった。最短で行けば1日で着くが、龍の国に直接飛行機で着陸するのは危険が大きい。そのため龍の国周辺に巨大船をいくつか並べておき、そこへ着陸してから船で向かうつもりだ。その分の時間がかかる。

 そして龍の国に乗り込む場合はさすがにこのままだと戦力不足になる可能性を視野に入れなければならない。

 龍の国の兵士は魔王クラスの猛者揃いだ。そんなものたちが死んで蘇ったとしたら使い魔たちだけではさすがに厳しい可能性が高い。そのためツグナオの手を借りられるのは非常にありがたい。

「他にもありそうだね?何が必要かな?」

『ヨウ・……監獄神の場所へ兵を出してはもらえませんか?』

 ヨウのもう一つの頼み。それは監獄神の元への出兵だ。この十本指の騒動が始まってから一度も連絡の入らなかった監獄神の状況だが、エヴォルヴの強化などにより何が起きているのかその全貌が明らかになった。

『ヨウ・監獄内に収容され、処刑された罪人たちが蘇り戦闘が続いています。猛者揃いのためかなり厳しい状況のようです。…何とかなりませんか?』

「残念だけど無理だね。僕の能力は全世界に及ぶ。どこで誰が助けを求めてもすぐに駆けつけられる。しかし僕の能力がその監獄神とやらの場所に反応しない。本来戦闘が始まれば多少なりとも助けを呼ぶ声は聞こえるものだけど…そこはダメだ。」

 ツグナオは嫌そうな表情を浮かべる。ツグナオの持つおもちゃの剣はすでに監獄神の保有する監獄のある島の状況を感じ取っていた。その戦闘の大きさも。

 ここまで大きな戦いは監獄神の所有する島以外では神剣イッシンの戦闘くらいなものだ。しかしそこから感じ取れる感情は狂気的であった。

 その感情は歓喜。罪人たちは蘇り、今度こそ脱獄するという執着心を持っている。だからこの感情は看守によるものだ。看守たちは喜んでいるのだ。一度は完膚なきまでに拷問の限りを尽くし殺した罪人をもう一度処刑することができるのだ。

 処刑する喜びに包まれた看守たちには助けを求める気持ちなど一切ない。そのためツグナオの能力は働かないのだ。そしてもし仮に誰か一人でも助けを求めたとしてもツグナオは誰も送らないだろう。

 きっとその戦場は英雄たちの心を壊してしまうような凄惨な戦場だと確信しているから。監獄神たちの軍団が滅びるまでツグナオは援軍を送らない。

『ヨウ・そうですか…わかりました。』

「まあ多分大丈夫だと思うよ。戦況は安定しているみたいだから。援軍の必要はないと思う。」

『ヨウ・ツグナオ様がそういうなら信じます。それじゃあ私は外で護衛をしておきますね。何かあれば声をかけてください。』

「ん~…今日は必要ないかも。」

 ツグナオがそういうと外から黒騎士が入ってきた。最強の黒騎士がいるのであれば護衛は必要ないだろう。それに黒騎士が来たということは…

「何だツグナオ。もう寝るのか?今夜は寝かさないぞ?」

「ほ、ほどほどに…まあそういうことだから今日は休んじゃって。」

『ヨウ・あ…はい。それではごゆっくり…』

 察したヨウはその場をそそくさと立ち去った。一つ屋根の下、男女が、それも夫婦が共に寝るとなればそれを邪魔するのはさすがに失礼だ。ヨウが外に出るとすぐに防音魔法が張られた。準備は万端のようだ。

『ヨウ・暇になっちゃったか…シェフさん呼んで軽く飲もうかな?』

 夜の予定がなくなったヨウは寝る前に軽く遊ぶらしい。そのままテクテクとその場を立ち去った。




「それじゃあ邪魔者もいなくなったことだし…」

「あははは…ちょっと待ってクロちゃん。もう一つ用事が残っているんだ。…そうだろ?」

「あれ?気づいちゃいました?結構しっかり隠れたつもりだったんだけどなぁ…」

「あ゛?誰だお前。」

「お初にお目にかかります。勇者王カナエツグナオ。そしてその騎士にして偉大なる大英雄黒騎士。私の名はクラウン。十本指の一人。…つまり敵ですね。」

「あ~~…この件の元凶か。生き返らせてもらった恩はあるが殺すか。」

「あ~待って待ってクロちゃん。この子例の子だよ。約束したでしょ?」

「例の……あ~~!昔資金不足だった時に大金くれた獣人のジジイが言ってたやつか。白髪の獣人で……そういやなんか言ってたな。こいつなのか?」

「間違いないよ。だろ?」

「それが誰かは知らないけど…まあそうかな?それで?敵に力貸す?」

「約束は約束だからね。…それに敵じゃないだろ?実はね、君たちの野望少し知っているんだ。世界征服をするその理由もね。」

「え!?まじで!?!?このこと知っているのアンリと俺らくらいだと思ってたのに…あんたやっぱりただもんじゃないな。」

「あはは。僕はただものだよ。それじゃあ手を出して。…頼んだ。」

 ツグナオのおもちゃの剣をクラウンの手の上に乗せるとおもちゃの剣から溢れ出た光がクラウンへと吸収されていく。その行為はクラウンが息を切らし膝をつくまで続いた。

「こ、これほどとは…ありがとうございました……それじゃあ失礼します。」

「大丈夫?休んでいかなくて…ってもう行っちゃったか。少しくらいゆっくりしていけば良いのに。」

「よし、邪魔者はいなくなったな。それじゃあツグナオ。今度こそはゆっくりできるな?」

「え?あ…うん…お。お手柔らかに。」

 クラウンは消え、ツグナオとクロの二人の夜が始まる。そして翌日からこの戦争は再び加熱する。
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