スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第490話 ツグナオと食事会

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 大勢の者たちに踏み荒らされ荒廃した平原。地面を濡らす血の量はそこでの戦いの激しさを物語っていた。そして今、新たな軍勢がその平原を踏み荒らす。だがその軍勢はまるで踏み荒らされている草花たちも歓喜によって迎え入れているようだ。

 その軍勢が掲げる旗が表すは13の英雄。世界で唯一彼だけがその旗を上げることを許された。かの名は勇者王。英雄の国を建国せし偉大なる勇者。そしてその背後には千を越す英雄の軍勢と数千万にも及ぶ大軍勢がひしめき合っている。

 これほどの軍勢を率いれば統制をとることは困難だ。はたまた規律のとれた動きなどもってのほかだろう。だがその大軍勢は見ただけで大国すら恐れるほどの統制と規律を兼ね備えている。決して烏合の衆ではないのだ。

 そして日も傾き始めた頃。勇者王カナエ・ツグナオの指示によってこの地での野営が決定した。

 一度野営が決まると1時間も経たないうちにその大軍勢全てが眠りにつくことのできるテントが建てられた。そしていたるところから良い香りがしてきた。夕食を作っているのだ。

 だが数千万もの軍勢となると必要となる食料が桁違いだ。そしてそんな食料を賄えるものなど、この世界には一つだけしかない。

「いやぁ助かったよ。意識が戻った時点から食事が必要になっちゃったから危うく餓死するかと…けど大丈夫?これだけの量となるとお金もかかるし…」

『ユウ・いえいえ問題ありません。撮影した映像の使用及び関連した物品を全て私たちのものにしてくれるのですから。それだけでもう大金がこれでもかと入ること間違いないです!』

「そうは言ってくれるけど…こっちとしては実感ないし、悪い気がしちゃうんだよなぁ…」

『ユウ・こっちとしては向こう100年間は大金入り込んでくること間違いなしだし、スマホの中で山ほど作れるから一切問題ないんだけど…まあそういうことならサインとかもらえます?できればいっぱい。』

「そんなことならいくらでもするよ。」

 ツグナオはユウからサイン色紙を受け取ると何枚も描き始めた。ツグナオ直筆のサインなど一体いくらの価値がつくのか。いや、金ではなく何か大きな交渉ごとの際に使用するのが一番だろう。そんな様々な想像をしながらユウはツグナオの食事を用意した。

『ユウ・食事ができたのでこちらにどうぞ!』

 ツグナオがサインを書き始めてから数十分後。夕食の支度ができたと知らせに来たユウについていくとそこでは大勢の英雄たちがツグナオが来ることを心待ちにしていた。

 日中は軍を率いているため、なかなか英雄たちと会話どころかまともに見ることすらできない。そのため食事の時くらいはその時間を作ろうという計らいである。

 そしてその日集められた英雄たちはランダムで選ばれたのだが、なかなかの曲者ぞろいだ。中には英雄としての名と同じくらい悪名が轟いているものもいる。だがその全員がツグナオを一目見た瞬間に少年のような目の輝きを見せる。

 伝説の勇者カナエツグナオを前にすればたかだか名を馳せた英雄くらいでは、その威光は霞んでしまうようだ。

「待たせてしまったね。それじゃあ食事を始めようか。……こうして毎日違う英雄たちと食事を共にできることを嬉しく思うよ。」

「わ、我らの方こそ…あなた様と食事を共にできることを嬉しく…言葉にできぬほど嬉しく……」

「こ、光栄であります!」

 あまりの嬉しさに涙が溢れ言葉が紡げぬ者、過度な緊張で舞い上がる者とさまざまみられる。そんな彼らの元へ食事が運ばれてきた。そしてその食事を見た瞬間、怒りを覚える者と驚きを隠せない者が現れた。

「な、なんだこれは!生の魚だと!?」

『シェフ・本日は刺身の盛り合わせを中心とした和の食事をご用意しました。酒も今ご用意いたします。』

「貴様!勇者王陛下になんというものを!」

「うわぁ!これってアジだよね?それにマグロも…お刺身が出せるようになったの?」

『シェフ・我がミチナガ商会の運送技術により多くの国で食されるようになりました。しかし未だ苦手意識が多いようでなかなか……お気に召さない場合は他のものをご用意しますよ。』

「ああ、そうだね。苦手な人はダメかも知れない。僕はマグロとイカを追加できるかな?好きなんだ。……あの当時は生の魚を食べられるような衛生状況はなかったからね。刺身はもう2度と食べられないと思っていたよ。」

 ツグナオは数十年ぶりの刺身に笑みを浮かべている。そして我慢できないのか醤油にわさびを溶かすとマグロの刺身を食べ始めた。

 その光景にギョッとする英雄たちだが、ツグナオはそんなことは御構い無しに膝を叩いて喜んだ。

「あ~~これこれ!懐かしいなぁ…ただ正直これだけ上等なマグロの刺身を食べるのは初めてだよ。」

『シェフ・地元の漁師に徹底的に処理方法を教えたので生臭さは残っていません。それに数日熟成させたので旨味は段違いかと。ただ本わさびの風味を楽しんでもらうためにはできれば醤油には溶かずに使って欲しいかと…』

「た、確かに…マナー違反なんだっけ?つい癖でやっちゃったよ。まあ気にせず食べよう!みんなはどうする?変えてもらうかい?」

「い、いえ…食べてみます。」

 ツグナオがなんとも美味しそうに食べている様子を見て他の英雄たちも刺身に挑戦するものが出てきた。一口目は微妙な表情を浮かべるが、何度か食べていくと割と大丈夫なようで食事が進んでいるようだ。

 そして食事が進んでいくとツグナオはその場から立ち上がり、一人一人の英雄たちの元へ赴いていく。そして他愛もない会話を繰り広げるのだ。

 本来王としてはあるまじき行為なのだろう。しかしツグナオはそんなことは気にしない。一人一人が偉大な物語を生み出した英雄だ。偉い偉くないなどと区別していては面倒なことこの上ない。

 そしてそんなツグナオの行動に歓喜する英雄たちはツグナオとの数分間の会話を一生の宝にするように一言一句を心に刻み込む。

 そんなツグナオの順番は一人の問題児の番になった。その問題児はかつて盗賊として数カ国から目をつけられ、一部地域ではヴァルドールに匹敵する極悪人として知られている。

「初めまして。君があの賊帝ヴィアンキッシュか。」

「あ…その……こ、光栄であります…」

 賊帝ヴィアンキッシュ。当時最大の盗賊団の団長にして各国からの懸賞金の総額は金貨10億枚と言われた超指名手配犯である。そして英雄の国の12英雄の一人。命令違反が多く、かなりの問題児とされてきたこの男だが、今はまるで恋する乙女のように頬を赤く染めて俯いている。

「顔をちゃんとあげて見せてくれないか?目を見て話したい。」

「お、恐れながら…私は英雄などではありません!ただの犯罪者です。ここに呼ばれたのも間違いです。」

「…君のことも知っているよ。盗賊として数万人は被害を出したことも。確かに君ほどの極悪人は歴史上数少ないだろう。」

「…その通りです。」

「しかし君はそこ過去を猛省して英雄として人々を救い続けた。たとえ自身の命の危機になろうと、命令を無視してでも人々を救い続けた。だからこそこの剣は君を英雄だと認めた。…君の犯した罪が消えることはない。しかし…償うことはできる。」

「私が…私が償えたのはほんの一部です。」

「それでも構わない。当時の勇者神も全て分かった上で君を召し抱えた。私は当時の勇者神の判断は正しかったと思うよ。」

 賊帝ヴィアンキッシュ。当時最恐の盗賊として知られた彼は、ある時一つの貴族の一団を襲撃し女子供を拐った。その際に子供が愛読していた勇者王物語を読み、自らの愚かさを知り、罪の裁きを受けるために英雄の国に自首をした。

 その際にその当時の勇者神が贖罪のために盗賊団をまとめて召抱えることを決意。そして危険地帯に度々送り込んだがその全てで生き残り功績をあげた。そしてその功績の多さが当時の他の12英雄を越してしまい、ちょうど1枠空いてしまったため12英雄に選ばれた。

 だが12英雄に選ばれたのちも彼は同じように危険地帯に赴き人々を救った。そしてその最後は疫病に侵された村にて寝ずの介抱をしたため、自身も疫病にかかり死んだ。

 ヴィアンキッシュによる被害は数万人と言われているが、救った命の数は数十万人にも及ぶとのちの研究者は語る。そしてその救った数は歴代の英雄の中でも十指に入ると言われている。

 さらにヴィアンキッシュの功績を知った他の悪人たちも同じように贖罪したいと英雄の国に仕官した。のちの英雄の国の犯罪率低下の多くな要因になっているとも言われている。

 そしてそれだけの功績を残したヴィアンキッシュはツグナオによって認められたことで全てが報われた。ただ彼の贖罪は蘇ったこれからも続くだろう。
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