スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第459話 勇者と呼ばれた男1

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 これは遥か昔。世界が100年戦争と呼ばれる動乱の時代。そんな時代に生きた一人の男の物語。その後数百年間語り継がれる伝説の物語の始まりはこの世界ではないもう一つの世界から始まる。


 その男は特別になりたかった。何か、自分にしかできないことで誰かに認められるような、そんな特別に存在になりたかった。

 子供の頃、男はアニメに出てくるヒーローに憧れた。悪い奴を必ず倒す正義のヒーローに憧れた。弱きを助け、強気を挫く。そんなヒーローに男は憧れた。そんな男は母親に買ってもらったプラスチックの剣に喜び、毎日遊んだ。

 だけどそんなものはただの子供の夢だ。ある一定の年齢になればあれは現実には存在しない、ただの物語の中のキャラクターにすぎないとわかる。だからそんな子供の夢はすぐに覚めた。男は現実を生きた。子供の夢とはおさらばだ。

 そして男は野球を始めた。きっかけは単純だ。甲子園で活躍しているピッチャーがかっこよく見えたからだ。男も甲子園に行ってピッチャーとして活躍すればあんな風になれると思った。特別な何かに。

 それから男は毎日特訓した。毎日毎日ボールを投げ続けた。どう投げれば良いか勉強もした。その甲斐あって中学の時にはピッチャーとしてマウンドに立つことができた。その時の男は確かに特別な何かになれていた気がする。夢であった特別な何かになれたのだ。

 このままいけば甲子園だって夢じゃないと思った。どんどん特別な何かになれる。夢を叶えられると思った。だけどそんな男の夢は…儚く消え去った。

 中学3年の冬、事故にあった。自動車事故だ。しかし男が直接轢かれそうになったわけじゃない。たまたま目の前で子供が自動車の前に飛び出したのだ。

 全く知らないただの子供に迫るトラック。傍観することもできた。だが男の体はその時、何も考えず動いた。自分がどうなるかなんてまるで考えていなかった。ただ一つ、その子供を助けたいという気持ちだけだ。その気持ちだけで男は飛び出した。

 結果として子供は軽傷で済んだ。突き飛ばした際の擦り傷くらいだ。しかし男は肩と脚に重傷をおった。その傷跡は生々しく残っている。右肩は壊れ、腕は肩より上に上がらなくなった。脚も膝に大きな傷跡が残っている。歩くことはできるが走ることはできないと言われた。

 理由はわからないが涙は出なかった。多分想像以上の大怪我でうまく頭が処理できなかったのだろう。だがその時に一つだけ男は思ったことがある。それは子供が助かってよかったということだ。

 正直これほどの怪我を負って子供も助かりませんでしたではきっと男は立ち直れなかった。だから子供が助かったことが唯一の救いだ。しかし…それからの人生は悲惨なものだった。

 野球に全てをかけていた男は怪我のせいで野球をすることができなくなった。しばらくの間は野球に関わることをしていたいと思い、部活のマネージャーをしていた。割とマネージャーをやるのは好きだったが、部活の皆が哀れんだ目で見てくるため1ヶ月で辞めた。

 それからの男は人生の目標を失った。親もいる、友達もいる、なのに男は…独りぼっちになった。それからのことはあまり覚えていない。グレたとかそういうこともなく、ただ毎日を惰性に生きた。

 そんなある日、男はたまたまパソコンでアニメを見た。何が理由かは忘れてしまった。そして男はそのアニメで子供の頃の夢を、物語に出てくるヒーローに再び憧れた。その中でも特に魔王を打ち倒す勇者に憧れた。

 あまりにも現実離れしていたのが良かったのかもしれない。現実から逃げたかった男にはちょうど良かった。男は押し入れから久しぶりにおもちゃの剣を取り出した。プラスチックのあまりにも本物とはかけ離れたこのおもちゃの剣は再び男の心に火を灯した。

 誰かの役に立ちたい。だけどこんな怪我を負った男じゃきっと足手纏いになるだろう。だから男は誰かがヒーローになれるような、誰かを助ける人のために働きたいと思った。久しぶりにやる気に満ち溢れた男はそのおもちゃの剣を抱きかかえたまま眠りについた。

 そして目が覚めると男は見知らぬ土地にいた。最初は夢だと思った。妙にリアルな夢。そう思いただふらふらと歩いていると目の前に焼けた集落跡があった。大勢の人々が倒れている。男は助けようと倒れた人々に近づいた。しかし…誰も生きていなかった。

 右も左も死体だらけ。かろうじて息のある者すらいない。死臭が鼻についた。男はそんな彼らのために墓を掘った。いくつもいくつも墓を掘った。そしてその時理解した。これは夢なんかじゃない。現実なんだと。

 ただ現実なんだと理解したからといって何かが特に変わるわけでもなかった。男は三日三晩かけてそこにいた人々全てを埋葬した。水や食料なんかは焼け落ちた家の中に残っていたものをいただいた。

 そして村人全員の埋葬が終わる頃、とある一団がやってきた。鎧や武器を身にまとった兵士たちだ。どうやら彼らはこの村の様子を確認しにきたらしい。男はありのままのことを説明した。兵士は生き残りがいないことを知ると男だけを連れてどこかへ向かった。

 男が連れて行かれたのは街だ。小さな街。男はそこに連れて行かれると放り出された。兵士たちが保護してくれるわけじゃない。生きたければこの街で仕事を見つけて自分でなんとかしろということだ。誰かを助ける暇もないということらしい。

 男はとりあえず仕事を探しにいった。なぜかはわからないが言葉は通じる。それに計算などもできる男はなかなか重宝されるようで、ものの数件回っただけで仕事が見つかった。

 数日は路上で暮らした。物取りに襲われるかとも思ったが、身につけている衣服は墓を掘った時にボロボロになってしまったし、持っているものはおもちゃの剣くらいしかない。

 このおもちゃの剣はなぜかずっと手元にあった。理由なんてわからない。ただこれだけは手放しちゃいけないと思ってずっと大切に抱きかかえていた。

 男がこの世界に来てから半年が経過した。今では安いボロ小屋を買って細々と暮らしている。二束三文のこのボロ小屋も毎日自分の手で改築したら随分暮らしやすくなった。そしてこの半年の間に色々とわかったことがある。いま、この世界は戦国時代にあるということだ。

 日々どこかで戦争が起きているらしい。血で血を洗うような醜い争いが絶えず続いているという。その影響でこの街には毎日戦争難民が押し寄せる。そしてこの地でうまく暮らしていくものもいれば、仕事にありつけず道端で死んでいくものもいる。

 本当に酷い有様だ。しかし男には何もできない。日々生きていく事すら難しい。生きるために強盗や殺人も頻発する。それに巻き込まれる可能性だって十分ある。皆生きるために必死なのだ。

 そんなある日、いつものように仕事を終えて歩いているとふと横の路地が気になった。理由はわからない。しかし男の身につけているこのおもちゃの剣に呼ばれたような気がした。男はそれに応じてただ歩いた。そして男はその路地で運命の出会いを果たした。

 路地のゴミ捨て場で倒れている黒髪の子供。どうせいつものような死体だと思って埋葬してやろうと抱きかかえた。するとわずかに息があった。男はその子を連れて家に帰った。

 医療知識なんてない。だからただその子供を清潔にしてやり、食事と暖かい布団を用意した。仕事の空き時間には家に帰り子供の世話をした。それから1週間後、その子供はようやく目を覚ますと…男の顔面に蹴りを食らわせた。

 蹴られた後のことはよく覚えていない。どうやら子供の足蹴り一発で気絶してしまったらしい。ようやく目を覚ました頃にはなぜか両手両足はきつく絞められていた。そしてそんな男の目の前でその子供は僕の備蓄食料をすべて平らげていた。

 あまりにもひどい目にあっている。だがその時、男はその子供に目を惹かれていた。その子供に対して恐怖も怒りも感じなかった。こんな目に遭わされたというのにその子供に憧れてしまったのだ。きっとこんな子供が将来英雄と呼ばれるようになるのだろう。そんな確信を男は得ていた。

 子供はそんな男のことを怪しみ、そして不思議がっていた。こんなことをされれば普通は怒りや復讐心を持つ。しかし男からはそれらを一切感じない。子供は男を警戒することをやめた。

 これがのちに語られる伝説の大英雄黒騎士と伝説の勇者カナエ・ツグナオの出会いであった。
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