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第458話 絶望の中、それは生まれる
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「応援を…!誰か来て来れ!東門が壊される!!」
とある国。その国では昼夜を問わず死者の群れが攻め込む。いく日も耐え続けたこの国も限界を迎えようとしている。だが破壊されそうになった東門に包帯だらけの男たちが集まりなんとかその場をしのいだ。
「おい!こっちに来てくれ!人がもう足りない!」
「こっちだって足りないんだ!なんとかしてくれ!」
もうどこも人員が足りない。今日を耐え忍んだところで明日を耐えられるかわからない。そんな中一人の男が発狂し出した。限界を迎えたのだ。
「もう終わりだぁ!俺たちゃどうせ死ぬんだ!!ヒャハハハハ!!」
「ふざけるなぁ!みんな必死に戦っているんだ!お前もふざけていないで…」
「戦ってどうする?今日死ぬか明日死ぬかの違いだ!助けなんかこない!俺たちゃ死ぬんだよ!」
発狂する男。それに掴みかかった兵士だが何一つ反論はできなかった。いつか救援が来る。そんな夢物語を頼りに必死に戦って来た。だが現実はそんなに甘くない。誰も助けに来る事はない。唯一の希望であった神魔も動く気配がない。
一体なんのために戦うのか。今日を生きるため?では明日は?どんなに戦っても終わりはない。こんなに苦しい思いをして今日を生きて一体なんの意味があるのか。どうせこの国はもう数日と持たない。ならばいっその事皆で家に帰り、家族と一緒に最後の時を過ごした方が幸せではないか。
兵士たちの精神力は崩壊していく。もうこの国を支えるものは何もない。
多くの国々が終わりのない戦いに疲れ果て、屈しようとしているその時。今や誰からも否定されることもなくなった世界最大最強の大国である英雄の国でも大きな戦闘が起きていた。
英雄の国の戦いの先頭に立つのは勇者神アレクリアル。英雄たちの頂点に立ち、人々の希望となる男は地に膝をついていた。
「面倒なことだ。何百年も前からお前たち人間は何も変わっておらん。潔く我らの供物となれば良いものを。」
「黙れ吸血鬼ども。今その減らず口を叩きのめしてやる。」
アレクリアルは再び立つ。しかしその眼前には数百を超える吸血鬼たちが群れをなしている。さらに吸血鬼の中でも指折りの実力者が集結している。
おそらく100年戦争時代の吸血鬼の猛者に、それ以前の時代に恐怖の象徴として知られた吸血鬼の王たちだろう。アレクリアルも善戦し半数以上を打ち滅ぼしたが数があまりにも多い。
それに対処しなくてはならないのが他にも大勢いる。かつて英雄の国と争った数々の国の兵士、そして幾度となく攻め込んで来た法国の兵士。その全てが英雄の国を滅ぼすために攻め込んで来ている。
その数は数千万。地平の果てまで敵で覆い尽くされている。だがそんな中でも最も敵に回したくないものたちがいる。その敵は今、現12英雄最強とうたわれるザクラムを弾き飛ばした。
ザクラムがやられるほどの強者。しかし戦っているザクラムは強敵を相手にした時の表情ではない。あまりの苦痛に今すぐにでも泣き出したいような戦士とは思えぬ表情をしている。それにとうの昔にザクラムは武器を手放している。
「やめてくれ…やめてくれぇ……頼む。あんたたちが守ろうとした国を攻撃するのはやめてくれぇ!!」
「おやめください!お願いいたします!どうか…どうかおやめください!!」
「嫌だ…あんたは俺たちの憧れなんだ!英雄なんだ!やめてくれ!英雄たちよ!!」
ザクラムも兵士たちも必死に懇願する。すでに白旗を揚げたようなものだ。そんな兵士たちが懇願する相手、それは蘇った英雄たちだ。
古今東西に名を馳せた英雄たちが今まさに英雄の国に攻め込んで来ている。そんな英雄たちに兵士たちは武器を抜く事もできない。憧憬する事はできても敵視する事はできない。敵意を持とうとも思えない。
兵士たちにできるのはやめてくれと懇願することと掴んで必死に歩みを止めようとすることだけだ。そしてそんな様子を面白おかしそうに吸血鬼たちは眺める。
「無様だな。これがお前たちの弱いところだ。相手がこうなると全く役に立たない。あの中には幾人も実力者がいるようだがまるで赤子のようではないか。なんと愚かな。」
「黙れ………黙れ黙れ!黙れぇ!!お前たちに何がわかる。お前たちに何が…」
「ふん!わかりたくもない。国が滅ぶというのに何もしないあれらの気持ちなどな。」
アレクリアルは悔しさで歯をくいしばる。吸血鬼たちの言いたい事はわかる。その言葉が正しいことも。しかしそれでもアレクリアルにはザクラムを、そして兵士たちを責める事はできない。きっとアレクリアルも同じことをしてしまうだろうから。
しかしこれ以上の進行はたとえ英雄であろうとも許すわけにはいかない。アレクリアルは王としてこの国を守る責務がある。そのためにはたとえ誰になじられようと、どんな罰を受けようともやらなくてはならない。
アレクリアルは吸血鬼たちに背を向けザクラムたちの方へと歩みだした。そんなアレクリアルを背後から襲おうと幾人かの吸血鬼たちが動き出そうとするが、吸血鬼の王たちはそれを止めた。
「良い余興ではないか。これから面白いものが見られるぞ。奴は自分たちの信仰するものこれから壊しに行くのだからな!しっかりと笑わせてくれよ。苦悶の表情を浮かべ、滑稽に踊ってくれ!」
吸血鬼たちの笑い声がこだまする。その笑い声を背中で聞きながらアレクリアルは歯が割れるほど食いしばり、握りこぶしからは血が流れだすほど握りしめ歩いて行く。
「我が名はアレクリアル・カナエ・H・ガンガルド!英雄の国の王であり、勇者王の血を引き継ぐもの!たとえ…たとえ何者であろうとこの国を害するものは許さん!私は王としての責務を全うする!!」
「ダメだ…アレクリアル!それだけはダメだ!!」
「止めるなガザラム。この国を守るために私は…私は鬼にも悪魔にもなるつもりだ。なんと責められても構わない。何を言われても私は…やるぞ。」
アレクリアルは嗚咽で今にも吐き出しそうになる程、涙で前が見えなくなるほど顔を歪ませながらまた一歩進んだ。そのストレスは計り知れない。これほどまでの苦痛は他にはないだろう。
そしてアレクリアルが覚悟を決め剣を振り上げた時、ふと後ろの方から気配を感じた。それは今まさに英雄の国の城門を開きゆっくりとこちらに歩いてくる。その歩みは誰に求められない。背後には幾人もの国民たちが付いて来ている。
そしてその姿をしっかりと確認したその時、アレクリアルはその手に持つ王の証である神剣を手放した。そして膝から崩れ落ち全てを諦めた。
「無理だ……私にあなたを傷つける事はできない………すまない…すまない……」
吸血鬼たちも現れたその人物の正体を知り、先ほどまでより大きく笑う。笑い転げて呼吸困難になるものまでいる。それほどこの人物の登場は予想しておらず、そして最高のタイミングであった。
「見ろ!この国を作った男がこの国を滅ぼしに来たぞ!なんと愚かな!最高のタイミングではないか!!」
現れた人物。それはこの国を作った男。伝説という言葉では足りぬほどの偉業を成し遂げた男。英雄たちの父であり王。勇者王カナエ・ツグナオ本人であった。
蘇ったツグナオには人々の声は届かない。しかしまっすぐにアレクリアルの元へと近づいてくる。死して朽ち果てようとアレクリアルにはそれが神々しく見えた。いや、神そのものだ。
神に仇なす事はできない。誰もツグナオに武器を振るう事はできない。誰もツグナオの歩みを止める事はできない。もう英雄の国にツグナオに対抗できる人物はいない。
ツグナオはアレクリアルの前に立った。手を伸ばせば届く距離だ。そんなツグナオの視線はアレクリアルの落とした神剣に注がれている。そして今、真の所有者であるツグナオの手に神剣が戻った。
真の所有者の元へ戻った神剣から美しき刀身の輝きが消えて行く。そして勇者神アレクリアルという王はこの世から消え去った。
とある国。その国では昼夜を問わず死者の群れが攻め込む。いく日も耐え続けたこの国も限界を迎えようとしている。だが破壊されそうになった東門に包帯だらけの男たちが集まりなんとかその場をしのいだ。
「おい!こっちに来てくれ!人がもう足りない!」
「こっちだって足りないんだ!なんとかしてくれ!」
もうどこも人員が足りない。今日を耐え忍んだところで明日を耐えられるかわからない。そんな中一人の男が発狂し出した。限界を迎えたのだ。
「もう終わりだぁ!俺たちゃどうせ死ぬんだ!!ヒャハハハハ!!」
「ふざけるなぁ!みんな必死に戦っているんだ!お前もふざけていないで…」
「戦ってどうする?今日死ぬか明日死ぬかの違いだ!助けなんかこない!俺たちゃ死ぬんだよ!」
発狂する男。それに掴みかかった兵士だが何一つ反論はできなかった。いつか救援が来る。そんな夢物語を頼りに必死に戦って来た。だが現実はそんなに甘くない。誰も助けに来る事はない。唯一の希望であった神魔も動く気配がない。
一体なんのために戦うのか。今日を生きるため?では明日は?どんなに戦っても終わりはない。こんなに苦しい思いをして今日を生きて一体なんの意味があるのか。どうせこの国はもう数日と持たない。ならばいっその事皆で家に帰り、家族と一緒に最後の時を過ごした方が幸せではないか。
兵士たちの精神力は崩壊していく。もうこの国を支えるものは何もない。
多くの国々が終わりのない戦いに疲れ果て、屈しようとしているその時。今や誰からも否定されることもなくなった世界最大最強の大国である英雄の国でも大きな戦闘が起きていた。
英雄の国の戦いの先頭に立つのは勇者神アレクリアル。英雄たちの頂点に立ち、人々の希望となる男は地に膝をついていた。
「面倒なことだ。何百年も前からお前たち人間は何も変わっておらん。潔く我らの供物となれば良いものを。」
「黙れ吸血鬼ども。今その減らず口を叩きのめしてやる。」
アレクリアルは再び立つ。しかしその眼前には数百を超える吸血鬼たちが群れをなしている。さらに吸血鬼の中でも指折りの実力者が集結している。
おそらく100年戦争時代の吸血鬼の猛者に、それ以前の時代に恐怖の象徴として知られた吸血鬼の王たちだろう。アレクリアルも善戦し半数以上を打ち滅ぼしたが数があまりにも多い。
それに対処しなくてはならないのが他にも大勢いる。かつて英雄の国と争った数々の国の兵士、そして幾度となく攻め込んで来た法国の兵士。その全てが英雄の国を滅ぼすために攻め込んで来ている。
その数は数千万。地平の果てまで敵で覆い尽くされている。だがそんな中でも最も敵に回したくないものたちがいる。その敵は今、現12英雄最強とうたわれるザクラムを弾き飛ばした。
ザクラムがやられるほどの強者。しかし戦っているザクラムは強敵を相手にした時の表情ではない。あまりの苦痛に今すぐにでも泣き出したいような戦士とは思えぬ表情をしている。それにとうの昔にザクラムは武器を手放している。
「やめてくれ…やめてくれぇ……頼む。あんたたちが守ろうとした国を攻撃するのはやめてくれぇ!!」
「おやめください!お願いいたします!どうか…どうかおやめください!!」
「嫌だ…あんたは俺たちの憧れなんだ!英雄なんだ!やめてくれ!英雄たちよ!!」
ザクラムも兵士たちも必死に懇願する。すでに白旗を揚げたようなものだ。そんな兵士たちが懇願する相手、それは蘇った英雄たちだ。
古今東西に名を馳せた英雄たちが今まさに英雄の国に攻め込んで来ている。そんな英雄たちに兵士たちは武器を抜く事もできない。憧憬する事はできても敵視する事はできない。敵意を持とうとも思えない。
兵士たちにできるのはやめてくれと懇願することと掴んで必死に歩みを止めようとすることだけだ。そしてそんな様子を面白おかしそうに吸血鬼たちは眺める。
「無様だな。これがお前たちの弱いところだ。相手がこうなると全く役に立たない。あの中には幾人も実力者がいるようだがまるで赤子のようではないか。なんと愚かな。」
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アレクリアルは悔しさで歯をくいしばる。吸血鬼たちの言いたい事はわかる。その言葉が正しいことも。しかしそれでもアレクリアルにはザクラムを、そして兵士たちを責める事はできない。きっとアレクリアルも同じことをしてしまうだろうから。
しかしこれ以上の進行はたとえ英雄であろうとも許すわけにはいかない。アレクリアルは王としてこの国を守る責務がある。そのためにはたとえ誰になじられようと、どんな罰を受けようともやらなくてはならない。
アレクリアルは吸血鬼たちに背を向けザクラムたちの方へと歩みだした。そんなアレクリアルを背後から襲おうと幾人かの吸血鬼たちが動き出そうとするが、吸血鬼の王たちはそれを止めた。
「良い余興ではないか。これから面白いものが見られるぞ。奴は自分たちの信仰するものこれから壊しに行くのだからな!しっかりと笑わせてくれよ。苦悶の表情を浮かべ、滑稽に踊ってくれ!」
吸血鬼たちの笑い声がこだまする。その笑い声を背中で聞きながらアレクリアルは歯が割れるほど食いしばり、握りこぶしからは血が流れだすほど握りしめ歩いて行く。
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「ダメだ…アレクリアル!それだけはダメだ!!」
「止めるなガザラム。この国を守るために私は…私は鬼にも悪魔にもなるつもりだ。なんと責められても構わない。何を言われても私は…やるぞ。」
アレクリアルは嗚咽で今にも吐き出しそうになる程、涙で前が見えなくなるほど顔を歪ませながらまた一歩進んだ。そのストレスは計り知れない。これほどまでの苦痛は他にはないだろう。
そしてアレクリアルが覚悟を決め剣を振り上げた時、ふと後ろの方から気配を感じた。それは今まさに英雄の国の城門を開きゆっくりとこちらに歩いてくる。その歩みは誰に求められない。背後には幾人もの国民たちが付いて来ている。
そしてその姿をしっかりと確認したその時、アレクリアルはその手に持つ王の証である神剣を手放した。そして膝から崩れ落ち全てを諦めた。
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吸血鬼たちも現れたその人物の正体を知り、先ほどまでより大きく笑う。笑い転げて呼吸困難になるものまでいる。それほどこの人物の登場は予想しておらず、そして最高のタイミングであった。
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現れた人物。それはこの国を作った男。伝説という言葉では足りぬほどの偉業を成し遂げた男。英雄たちの父であり王。勇者王カナエ・ツグナオ本人であった。
蘇ったツグナオには人々の声は届かない。しかしまっすぐにアレクリアルの元へと近づいてくる。死して朽ち果てようとアレクリアルにはそれが神々しく見えた。いや、神そのものだ。
神に仇なす事はできない。誰もツグナオに武器を振るう事はできない。誰もツグナオの歩みを止める事はできない。もう英雄の国にツグナオに対抗できる人物はいない。
ツグナオはアレクリアルの前に立った。手を伸ばせば届く距離だ。そんなツグナオの視線はアレクリアルの落とした神剣に注がれている。そして今、真の所有者であるツグナオの手に神剣が戻った。
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