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第457話 疑念と復活
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「いつまでもちょこまかちょこまかと。いい加減諦めろ。お前ごときの攻撃ではわしには効かぬ。」
いくつもの斬撃を受けるゴディアン。そのどれもが致命傷には至らない。それでも続ける霧の魔帝だが、その手応えが徐々に変わってきた。先ほどまで肉を切り裂いていた直刀が数回に一度ゴディアンの体の表面を滑るようになってきたのだ。
度重なる連撃の影響で刃が丸くなったかと思ったがそうではない。魔力による斬撃強化も落ちたわけではない。何が起きているのかわからない霧の魔帝であるが、間違いなく徐々に斬撃がゴディアンに効かなくなってきている。
そしてたった今行った5度の斬撃は全て弾かれてしまった。ゴディアンの体が鋼鉄のように硬くなったのだ。その後もなんども続けるが全て火花を散らしながら弾かれてしまう。
「お主の斬撃は全て効かなくなったぞ。本格的に打つ手がないな。さて…次は何をする?」
嘲笑うように仁王立ちするゴディアン。すると少し離れたところに霧の魔帝が姿を現した。観念したのかと思ったがそうではない。強い魔力の高まりを感じる。
「姿を隠しながらの斬撃は威力がどうしても落ちるな。じゃあ本気の一撃だ。こいつも弾くことができるかな?」
霧の魔帝は全身全霊を次の一撃にかけた。これほどの一撃はどんなに隠密術を使っても隠しきれるものではない。圧倒的なまでの存在感にゴディアンも思わず喉を鳴らした。
「素晴らしい一撃だ。戦士のような戦いに興味はなかったが、今その気持ちは変わった。その一撃を耐え、お前を取り込めばさらなる高みに至れるだろう。ああ…楽しみだ。」
「耐えられるのなら耐えてみな。この一撃で全てを決める。」
霧の魔帝は肉体を部分的に霧に変え速度を加速させる。正面からの一撃。ゴディアンもそれに対して身構える。しかし霧の魔帝はゴディアンの目の前で消え去った。霧を用いた幻影だ。
すでに霧の魔帝は背後に回っている。とっさのことで判断が遅れたゴディアンはすぐに振り向くがその前に霧の魔帝の一撃が放たれる。
全身全霊の一撃はゴディアンの肩口から入り込み肉を抉り骨を断つ。そしてそのまま心臓に達しようとした時、直刀が根元から折れた。
明らかにこれまで以上に硬い部位がそこにあった。おそらく心臓と世界樹の核が融合し、強固な魔力生成器官となっているのだろう。霧の魔帝の一撃ではそれを断ち切ることができなかった。そしてそんな霧の魔帝の首をゴディアンが掴む。
「実に良い一撃だ。だが…これも致命傷にはならない。もし仮にわしの心臓を両断していたとしても致命傷にはならぬがな。ではお前の全てをわしが貰おう。」
「やめろ…離せぇぇ!!」
霧の魔帝は残りの魔力を注ぎ込んでもがく。周囲の霧も蠢き意思を持つかのようにゴディアンに抵抗する。だがあまりにも威力が低い。ゴディアンにはなんてことはない。笑みを浮かべたまま生命吸収を行い霧の魔帝を吸収していく。
そしてこの時がゴディアンの一番の油断であった。周囲には霧の魔帝の魔力に満ちている。他の気配は完全に隠されている。意識は完全に霧の魔帝に向けられている。条件は完璧に揃った。
霧の魔帝の渾身の一撃を用いた陽動はゴディアンの背後から近づくリリーの存在を完璧に隠した。リリーの足音も服の擦れる音も全て霧に吸収されて無音だ。
完璧な陽動に完璧な強襲。あとはリリーがその手に持つ種子をゴディアンに押し込み世界樹魔法を発動させるだけだ。
しかし飛び出してゴディアンまで一定距離まで近づいたところでリリーはわずかな疑念を持った。その疑念はリリーの心の中で大きくなっていく。そしてその心に抱いた疑念は完全に絶たれていたはずのリリーの気配を生み出してしまった。
「なんだ!」
「させるか!!」
とっさに振り向こうとするゴディアン。それを防ごうとする霧の魔帝だが、ほんの一瞬しか時間稼ぎができない。リリーに伸ばされる腕。リリーはその瞬間、疑念が確信に変わった。だがその確信はこのままではなんの意味も持たない。
ほんの一瞬でも隙ができればなんとかできる。だがゴディアンの両の瞳はしっかりとリリーを捉えている。もう逃れるすべはない。
万事休す。誰が見てもそう思われたその時、突如ゴディアンがリリーから目を離し真横を向いた。完全に意識はこの場に集中していない。遥か彼方へと意識が集中してしまっている。
その理由はわからない。だがリリーもゴディアンが向いている方向から何かを感じ取った。しかし今は目の前のことが重要だ。千載一遇のチャンス。リリーは自身の中の確信を信じ草の大精霊から預かった種子を持たぬ手でゴディアンに触れた。
「これが欲しかったんでしょ。なら全部あげるわ!」
「な!小娘貴様ぁぁ!!」
ゴディアンは不意打ちに対しもろに食らった。だがリリーが行ったのは誰も予想していなかったことだ。いや、むしろゴディアンに最もやられたくなかったことをリリーは手助けした。
リリーが行ったのは自身の持つ世界樹魔力をゴディアンに全て注ぎ込むこと。つまりゴディアンは2つの世界樹魔力を手に入れたことになる。最強の魔神の誕生となるはずだ。だが当のゴディアン本人は苦しそうに悶えている。
「こ、小娘ぇぇ……」
「どこか引っかかっていた。だけどさっきわかったの。なんで私が今もまだ生きているのか。あなたが本当にもう一つの世界樹の魔力を欲しいと思えばいつでも私から奪えた。なのにあなたは決して奪おうとしなかった。」
リリーはゴディアンに近づいた時このことに気がついた。魔神を超える神樹の魔神であるのならばリリーごときすぐに捕らえて世界樹魔力を抜き出すことはできるはずだ。なのにゴディアンは決してそれをしなかった。
そして迫るリリーにゴディアンが気が付いた時もゴディアンからは殺気は感じなかった。むしろ動揺や恐怖を感じ取った。そこでリリーは一つのことに気が付いたのだ。
ゴディアンは神樹の魔神というのにはあまりにも弱すぎる。本当にそれだけの実力があるのであれば霧の魔帝も他の3柱の大精霊も瞬時に片付けられるはずだ。リリーたちはゴディアンの内包する桁違いの魔力に騙されていたのだ。
そもそもゴディアンはかつて世界樹の力を奪った際にその膨大すぎる力に肉体が耐えられず死に至っている。そんなゴディアンが生き返ったら世界樹の力を御しきれるようになっていることはおかしいのだ。
ゴディアンは今も世界樹の力を御しきれていない。おそらく自身の力のほとんどを内包する世界樹の力を押さえ込むために使っている。今まで大精霊たちの戦いに優位に立てていたのは世界樹の力の一端のみを使って対抗魔法を使っていたからに過ぎない。
きっとこの場になんの関係のない魔神が助けに来ればゴディアンはすぐにやられていたことだろう。そしてそんな自身の力を御しきれないゴディアンにもう一つの世界樹の力を分け与えたら一体何が起こるのか。
それは力の暴走。制御しきれない2つの力に自身の肉体が耐えられなくなる。他の大精霊たちの力ならば同じ世界樹の力として扱い切ることができる。だがまるで違う世界樹の力となるとたとえリリーが保有していたわずかな世界樹の力でも暴走が始まる。
「ふざけるなよ小娘…仕方ない……一度この魔力を排出して……なんだ?なんだこの魔力は。わしの体の中に植えつけられたような…」
「排出することはできません。封印の巫女姫の力を使いあなたの体の中に私の世界樹魔力を封印しました。」
「封印の巫女姫だと!?まさかあいつらまでもが生きているとは!ふ、ふざけるなぁぁ!!!」
ゴディアンはもがき苦しむ。ゴディアンの体内では2つの異なる世界樹の魔力が混ざり合いさらに強大な力が生まれている。どんなに魔力を排出してもこの魔力の融合が起き続ける限りゴディアンの肉体は保たない。
ゴディアンは苦肉の策に出る。自身の体に封印されたリリーの持つ世界樹魔力を肉体ごと破砕したのだ。半身が吹き飛ぶほどの自爆行為。しかしそれでもゴディアンはなんとか生き延びることに成功した。
ただその影響で体内に保持されていた世界樹魔力のほとんどを失った。しかしまだ世界樹の核だけは残っている。この核がある限りゴディアンの力はまた元に戻る。しかしその瞬間不思議なことが起こった。ゴディアンから霧散した世界樹魔力がリリーへと集まっていくのだ。
「馬鹿な…何故霧散したはずの世界樹の魔力が収束して…そんなことこのわしでも……」
基本的に魔力は一度空気中に霧散するとそのまま自然へと帰る。一度使った魔力を再び取り込むことなど不可能。だがその不可能を常日頃から行う生物がいる。それが精霊だ。
時に精霊は自然界に存在する魔力を使用し力を行使する。またある時には土地で吹き溜まり荒れていく魔力の流れを作り神聖な土地を生み出す。
だが今回の場合は特殊だ。なんせ霧散している魔力は世界樹の魔力の性質を持っている。つまり同じ世界樹の精霊でない限り霧散した魔力を収束させることはできない。しかしリリーが持っている世界樹の魔力はスマホの世界樹のものだ。似ているようで異なる性質の魔力。
この世界の世界樹はゴディアンによって奪われた。リリーがこの世界の世界樹に認められるはずがない。だが一つだけ可能性がある。リリーはその可能性を数年前に手に入れていた。
それはリリーが呪いに苦しむ日々。何年も続いた地獄の日々。そんなリリーを少しでも助けようと祖父のリッカーは世界樹の苗木を幾本も切り落とし、リリーのための薬を作り飲ませ続けた。
決して許されることのない世界樹への蛮行。しかし世界樹の苗木たちはその全てを許し、リリーが生きるために力を貸した。
どうせ自分たちは長く生きる事は出来ぬ身。ならば一人の少女を救うためにこの命を捧げる。そうして貯められた世界樹の苗木の力は少女の中に世界樹への架け橋を生み出した。
この世界に存在した世界樹。ミチナガのもつスマホの中の世界樹。この異なる2つの世界樹の力がリリーの中で今一つになる。しかしゴディアンに耐えられぬどの力にリリーが耐えられる保証はない。
しかしスマホの世界樹の力のほとんどはゴディアンに送り込んだ。この世界の世界樹の力も霧散したものを集めただけだ。ゴディアンと比べればごくわずかなもの。そしてもう一つゴディアンとは大きく異なる点がある。
それはリリーが2つの世界樹に真に認められているという点だ。簒奪した力と認めて継承された力はまるで違う。反する2つの世界樹の力が見事なまでに融合している。
その瞬間、ほんの一瞬だがリリーはこの世界の全てを観た。世界樹の世界を見守る力を一瞬だけ行使したのだ。各地で起きている戦闘。魔神同士のぶつかり合い。しかしその中でも大きく目立つものがある。
それは高い神力の保持者。神の力を持つものはより目立つのだ。各地に点在する神力。その中でも神魔や神剣、神人などはより目立つ。計り知れぬほど強大な力。しかしそれらを超える神力の保持者がいる。
それは先ほどゴディアンが戦いの最中でも意識を完全にそちらに移してしまうほど強大すぎるもの。現にリリーもそちらに完全に意識が持って行かれてしまった。
その方角は英雄の国のある方角。英雄の国で今、この世の全ての魔神を超える何かが復活した。
いくつもの斬撃を受けるゴディアン。そのどれもが致命傷には至らない。それでも続ける霧の魔帝だが、その手応えが徐々に変わってきた。先ほどまで肉を切り裂いていた直刀が数回に一度ゴディアンの体の表面を滑るようになってきたのだ。
度重なる連撃の影響で刃が丸くなったかと思ったがそうではない。魔力による斬撃強化も落ちたわけではない。何が起きているのかわからない霧の魔帝であるが、間違いなく徐々に斬撃がゴディアンに効かなくなってきている。
そしてたった今行った5度の斬撃は全て弾かれてしまった。ゴディアンの体が鋼鉄のように硬くなったのだ。その後もなんども続けるが全て火花を散らしながら弾かれてしまう。
「お主の斬撃は全て効かなくなったぞ。本格的に打つ手がないな。さて…次は何をする?」
嘲笑うように仁王立ちするゴディアン。すると少し離れたところに霧の魔帝が姿を現した。観念したのかと思ったがそうではない。強い魔力の高まりを感じる。
「姿を隠しながらの斬撃は威力がどうしても落ちるな。じゃあ本気の一撃だ。こいつも弾くことができるかな?」
霧の魔帝は全身全霊を次の一撃にかけた。これほどの一撃はどんなに隠密術を使っても隠しきれるものではない。圧倒的なまでの存在感にゴディアンも思わず喉を鳴らした。
「素晴らしい一撃だ。戦士のような戦いに興味はなかったが、今その気持ちは変わった。その一撃を耐え、お前を取り込めばさらなる高みに至れるだろう。ああ…楽しみだ。」
「耐えられるのなら耐えてみな。この一撃で全てを決める。」
霧の魔帝は肉体を部分的に霧に変え速度を加速させる。正面からの一撃。ゴディアンもそれに対して身構える。しかし霧の魔帝はゴディアンの目の前で消え去った。霧を用いた幻影だ。
すでに霧の魔帝は背後に回っている。とっさのことで判断が遅れたゴディアンはすぐに振り向くがその前に霧の魔帝の一撃が放たれる。
全身全霊の一撃はゴディアンの肩口から入り込み肉を抉り骨を断つ。そしてそのまま心臓に達しようとした時、直刀が根元から折れた。
明らかにこれまで以上に硬い部位がそこにあった。おそらく心臓と世界樹の核が融合し、強固な魔力生成器官となっているのだろう。霧の魔帝の一撃ではそれを断ち切ることができなかった。そしてそんな霧の魔帝の首をゴディアンが掴む。
「実に良い一撃だ。だが…これも致命傷にはならない。もし仮にわしの心臓を両断していたとしても致命傷にはならぬがな。ではお前の全てをわしが貰おう。」
「やめろ…離せぇぇ!!」
霧の魔帝は残りの魔力を注ぎ込んでもがく。周囲の霧も蠢き意思を持つかのようにゴディアンに抵抗する。だがあまりにも威力が低い。ゴディアンにはなんてことはない。笑みを浮かべたまま生命吸収を行い霧の魔帝を吸収していく。
そしてこの時がゴディアンの一番の油断であった。周囲には霧の魔帝の魔力に満ちている。他の気配は完全に隠されている。意識は完全に霧の魔帝に向けられている。条件は完璧に揃った。
霧の魔帝の渾身の一撃を用いた陽動はゴディアンの背後から近づくリリーの存在を完璧に隠した。リリーの足音も服の擦れる音も全て霧に吸収されて無音だ。
完璧な陽動に完璧な強襲。あとはリリーがその手に持つ種子をゴディアンに押し込み世界樹魔法を発動させるだけだ。
しかし飛び出してゴディアンまで一定距離まで近づいたところでリリーはわずかな疑念を持った。その疑念はリリーの心の中で大きくなっていく。そしてその心に抱いた疑念は完全に絶たれていたはずのリリーの気配を生み出してしまった。
「なんだ!」
「させるか!!」
とっさに振り向こうとするゴディアン。それを防ごうとする霧の魔帝だが、ほんの一瞬しか時間稼ぎができない。リリーに伸ばされる腕。リリーはその瞬間、疑念が確信に変わった。だがその確信はこのままではなんの意味も持たない。
ほんの一瞬でも隙ができればなんとかできる。だがゴディアンの両の瞳はしっかりとリリーを捉えている。もう逃れるすべはない。
万事休す。誰が見てもそう思われたその時、突如ゴディアンがリリーから目を離し真横を向いた。完全に意識はこの場に集中していない。遥か彼方へと意識が集中してしまっている。
その理由はわからない。だがリリーもゴディアンが向いている方向から何かを感じ取った。しかし今は目の前のことが重要だ。千載一遇のチャンス。リリーは自身の中の確信を信じ草の大精霊から預かった種子を持たぬ手でゴディアンに触れた。
「これが欲しかったんでしょ。なら全部あげるわ!」
「な!小娘貴様ぁぁ!!」
ゴディアンは不意打ちに対しもろに食らった。だがリリーが行ったのは誰も予想していなかったことだ。いや、むしろゴディアンに最もやられたくなかったことをリリーは手助けした。
リリーが行ったのは自身の持つ世界樹魔力をゴディアンに全て注ぎ込むこと。つまりゴディアンは2つの世界樹魔力を手に入れたことになる。最強の魔神の誕生となるはずだ。だが当のゴディアン本人は苦しそうに悶えている。
「こ、小娘ぇぇ……」
「どこか引っかかっていた。だけどさっきわかったの。なんで私が今もまだ生きているのか。あなたが本当にもう一つの世界樹の魔力を欲しいと思えばいつでも私から奪えた。なのにあなたは決して奪おうとしなかった。」
リリーはゴディアンに近づいた時このことに気がついた。魔神を超える神樹の魔神であるのならばリリーごときすぐに捕らえて世界樹魔力を抜き出すことはできるはずだ。なのにゴディアンは決してそれをしなかった。
そして迫るリリーにゴディアンが気が付いた時もゴディアンからは殺気は感じなかった。むしろ動揺や恐怖を感じ取った。そこでリリーは一つのことに気が付いたのだ。
ゴディアンは神樹の魔神というのにはあまりにも弱すぎる。本当にそれだけの実力があるのであれば霧の魔帝も他の3柱の大精霊も瞬時に片付けられるはずだ。リリーたちはゴディアンの内包する桁違いの魔力に騙されていたのだ。
そもそもゴディアンはかつて世界樹の力を奪った際にその膨大すぎる力に肉体が耐えられず死に至っている。そんなゴディアンが生き返ったら世界樹の力を御しきれるようになっていることはおかしいのだ。
ゴディアンは今も世界樹の力を御しきれていない。おそらく自身の力のほとんどを内包する世界樹の力を押さえ込むために使っている。今まで大精霊たちの戦いに優位に立てていたのは世界樹の力の一端のみを使って対抗魔法を使っていたからに過ぎない。
きっとこの場になんの関係のない魔神が助けに来ればゴディアンはすぐにやられていたことだろう。そしてそんな自身の力を御しきれないゴディアンにもう一つの世界樹の力を分け与えたら一体何が起こるのか。
それは力の暴走。制御しきれない2つの力に自身の肉体が耐えられなくなる。他の大精霊たちの力ならば同じ世界樹の力として扱い切ることができる。だがまるで違う世界樹の力となるとたとえリリーが保有していたわずかな世界樹の力でも暴走が始まる。
「ふざけるなよ小娘…仕方ない……一度この魔力を排出して……なんだ?なんだこの魔力は。わしの体の中に植えつけられたような…」
「排出することはできません。封印の巫女姫の力を使いあなたの体の中に私の世界樹魔力を封印しました。」
「封印の巫女姫だと!?まさかあいつらまでもが生きているとは!ふ、ふざけるなぁぁ!!!」
ゴディアンはもがき苦しむ。ゴディアンの体内では2つの異なる世界樹の魔力が混ざり合いさらに強大な力が生まれている。どんなに魔力を排出してもこの魔力の融合が起き続ける限りゴディアンの肉体は保たない。
ゴディアンは苦肉の策に出る。自身の体に封印されたリリーの持つ世界樹魔力を肉体ごと破砕したのだ。半身が吹き飛ぶほどの自爆行為。しかしそれでもゴディアンはなんとか生き延びることに成功した。
ただその影響で体内に保持されていた世界樹魔力のほとんどを失った。しかしまだ世界樹の核だけは残っている。この核がある限りゴディアンの力はまた元に戻る。しかしその瞬間不思議なことが起こった。ゴディアンから霧散した世界樹魔力がリリーへと集まっていくのだ。
「馬鹿な…何故霧散したはずの世界樹の魔力が収束して…そんなことこのわしでも……」
基本的に魔力は一度空気中に霧散するとそのまま自然へと帰る。一度使った魔力を再び取り込むことなど不可能。だがその不可能を常日頃から行う生物がいる。それが精霊だ。
時に精霊は自然界に存在する魔力を使用し力を行使する。またある時には土地で吹き溜まり荒れていく魔力の流れを作り神聖な土地を生み出す。
だが今回の場合は特殊だ。なんせ霧散している魔力は世界樹の魔力の性質を持っている。つまり同じ世界樹の精霊でない限り霧散した魔力を収束させることはできない。しかしリリーが持っている世界樹の魔力はスマホの世界樹のものだ。似ているようで異なる性質の魔力。
この世界の世界樹はゴディアンによって奪われた。リリーがこの世界の世界樹に認められるはずがない。だが一つだけ可能性がある。リリーはその可能性を数年前に手に入れていた。
それはリリーが呪いに苦しむ日々。何年も続いた地獄の日々。そんなリリーを少しでも助けようと祖父のリッカーは世界樹の苗木を幾本も切り落とし、リリーのための薬を作り飲ませ続けた。
決して許されることのない世界樹への蛮行。しかし世界樹の苗木たちはその全てを許し、リリーが生きるために力を貸した。
どうせ自分たちは長く生きる事は出来ぬ身。ならば一人の少女を救うためにこの命を捧げる。そうして貯められた世界樹の苗木の力は少女の中に世界樹への架け橋を生み出した。
この世界に存在した世界樹。ミチナガのもつスマホの中の世界樹。この異なる2つの世界樹の力がリリーの中で今一つになる。しかしゴディアンに耐えられぬどの力にリリーが耐えられる保証はない。
しかしスマホの世界樹の力のほとんどはゴディアンに送り込んだ。この世界の世界樹の力も霧散したものを集めただけだ。ゴディアンと比べればごくわずかなもの。そしてもう一つゴディアンとは大きく異なる点がある。
それはリリーが2つの世界樹に真に認められているという点だ。簒奪した力と認めて継承された力はまるで違う。反する2つの世界樹の力が見事なまでに融合している。
その瞬間、ほんの一瞬だがリリーはこの世界の全てを観た。世界樹の世界を見守る力を一瞬だけ行使したのだ。各地で起きている戦闘。魔神同士のぶつかり合い。しかしその中でも大きく目立つものがある。
それは高い神力の保持者。神の力を持つものはより目立つのだ。各地に点在する神力。その中でも神魔や神剣、神人などはより目立つ。計り知れぬほど強大な力。しかしそれらを超える神力の保持者がいる。
それは先ほどゴディアンが戦いの最中でも意識を完全にそちらに移してしまうほど強大すぎるもの。現にリリーもそちらに完全に意識が持って行かれてしまった。
その方角は英雄の国のある方角。英雄の国で今、この世の全ての魔神を超える何かが復活した。
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