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第454話 救援部隊

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「これこれ。そう逃げるでない。」

「はぁ…はぁ……」

『プリースト・リリー様!こちらです!』

 リリーは使い魔のプリーストが開いた家の扉に飛び込む。家の中はすでに無人だ。ここで籠城しても他への問題はない。しかし籠城は長く続かない。すでに先ほど閉めた家の扉からは植物が次々と生えていく。

『ドルイド・神経ガス…麻痺……』

『プリースト・肉体が麻痺する神経ガスを噴出する植物です。そこの窓ガラスを割って逃げましょう!』

「うん。」

 一度家の中に逃げ込んでもすぐに魔の手が迫る。それなら外を走り回って逃げれば良いとも思うが、ゴディアンの視界に入っただけで蔓性の植物が体を封じようと巻きついて来る。その度にドルイドが限りある世界樹の魔力を消費して植物の動きを抑える。

 できる限りゴディアンからの視線を断ちながら逃げて時間を稼ぐ必要がある。ただ時間を稼いでどうするか。その先の展開が見えない。相手は魔神の中でも神の文字が先に来る最強の一人だ。たとえ魔神並みの救援が来たところで勝てる見込みはない。

 だがそれでもドルイドはただひたすら逃げ回るように指示を出した。リリーもそれ以外にやれることがないためその指示に従うだけだ。しかし打開策がないという不安が心の中にしこりとして残り続ける。

『プリースト・ドルイド殿。世界樹魔力の残りは?』

『ドルイド・50%…切った……』

『プリースト・そうですか…リリー様の体力ももう残り少ない。これ以上の長期戦は難しいでしょう。せめてエヴォルヴの機体があればリリー様を連れて多少は逃げられたものを。』

「どうするの?…」

 ギリギリの逃亡劇にも終止符が迫っている。不安なリリーによる質問に誰も答えない。そしてわずかな沈黙ののちにゴディアンによる追撃が来たため、その場から急いで逃亡する。

「しかしよく逃げおるな。まあ相手が子供だからな。鬼ごっこくらいは付き合ってやろう。それにしても何度見ても良い。わしの世界樹魔法と同じ世界樹魔法による対抗術。しかし同じように見えてわずかに違う。異なる世界樹の魔法。ああ…なんと甘美な……」

 空高く浮かび上がったゴディアンはリリーたちの逃げた方角を見ながら笑みを浮かべる。夢中になりすぎて口からよだれが溢れていることにも気がついていない。その表情をチラリと見たリリーはさらなる恐怖で足がすくむ。

 ゴディアンが本気を出せばリリー程度すぐに捕まえることができる。今はあくまで遊んでいるから逃げられているだけだ。それにドルイドが行使する世界樹魔法をじっとりと舐めるように見入っている。

 ゴディアンの頭の中ではすでにドルイドたちの世界樹魔法が手に入った時のことを考えている。今からその時が楽しみでしょうがないようだ。

 そしてリリーたちは知らないがリカルドの指示によってすでに幾人もの救援部隊がリリーたちの元へ向かっていた。しかしそれを鬱陶しく思ったゴディアンによりすでに救援部隊は排除されている。

 孤立無援。もうなすすべはない。そして今必死に逃げていたリリーが足をもつらせて転んでしまった。そしてその状況を決して見逃すことなく地面から伸びて来た植物たちがリリーを絡めとり地面に縫いつけようとする。

 ドルイドもすぐに対抗しようとする。しかし想像以上に伸びて来る植物の勢いが強い。これに対抗しようとすれば残りの世界樹魔力をほとんど使い切ってしまう。ドルイドはわずかな思考ののちに判断を下した。

『ドルイド・…賭ける……我が声に呼応せよ…世界樹魔法樹海降誕……』

 ドルイドは残りの世界樹魔力を全てこの魔法に注ぎ込んだ。もうこの魔法を使用すればドルイドの世界樹魔力を尽きる。この魔法の行使が終わった瞬間ドルイドは使い物にならなくなる。だがそれでもこの魔法に賭けた。

 世界樹魔法樹海降誕。それは周囲の植物たちに世界樹魔力を分け与え樹海を生み出すものだ。攻撃魔法でもなんでもない。

 そんなドルイドの魔法によってゴディアンがこれまで放って来た植物たちが急激な成長を見せる。絡み合いながらまるで一つの植物のように天高く伸びていき、まるで樹木のように大きくなる。そしてそんな植物たちの急激な成長により世界樹の周辺に突如樹海が誕生した。

 そして急成長したことによりリリーにまとわりついていた植物はまるでリリーを守るようなシェルターになった。空中に浮いているゴディアンもこの樹海によりリリーたちの姿を見失っていた。

「おお!すごいぞ!一つ一つの植物が別の世界樹の影響を受けておる。ああ…なんなら一つ一つ調べたいほどだ。だがそれはお前たちの力を手に入れてからにしよう。まさかとは思うがこの程度でわしから逃げられると思ったのか?神であるこのわしから逃げることは不可能だ。」

 ゴディアンは魔力を瞳に宿す。すると森の中に隠れるリリーたちの姿がくっきりと映った。この程度の魔法ではゴディアンから逃げることはできない。ドルイドの賭けは失敗した
 ……かに思われた。

『ドルイド・樹力……足りた…ギリギリ……』

『プリースト・なるほど。これだけの樹海であれば問題ありませんね。』

「この樹海…そういうことね……この救援は何よりも頼りになる。」

 リリーも安堵の表情を浮かべる。その様子を遠くから見ているゴディアンはなぜ安堵しているかわからなかった。しかしその理由は突如背後に現れた強大なる存在によって理解することになる。

『よくやった。これだけ力のこもった森ならば我々も満足に動ける。』

『ここに来たのなんでいつぶりかしら?何百年なんかじゃ効かないわよ。』

『世界樹が無くなってからこの地には入りにくかったからね。』

 これにはゴディアンも一筋の汗を流した。正直この状況は予期していなかった。まさかこんなのとつながりがあるとは思いもしなかった。リリーたちが必死に逃げ回り、周囲に植物の量を増やしたのにはこういう理由があった。

「まさか大精霊が3柱も揃うとは…人の世には干渉しないと思ったがな。」

『関係なくば干渉しない。しかしそこのドルイドはわしの弟子だからな。』

『それに世界樹の力を奪った奴が相手だからね。』

『返してもらうわよ。それはお前ごときにはすぎた代物。』

 振り返るゴディアンの目の前には強大なる3柱の存在が浮かんでいる。森の大精霊、花の大精霊、草の大精霊。世界で最も力を持つと言われる大精霊の3柱が揃った。そしてこの地には芳醇な樹木の魔力で溢れている。力を振るうのになんの問題もない。

 この状況下で最も頼りになる救援部隊だ。神樹の魔神ゴディアンに対抗できるのは彼らしかいないかもしれない。

 3柱の大精霊と世界樹を奪った男が至近距離で睨み合う。その様子を見ながらリリーたちは急いでその場から逃げ去った。これから始まる戦いは想像もつかないような戦いになると予感しているから。
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