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第452話 崩れ落ちる崩神
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『黒之伍佰・ちょっと!どうすんの!軽口叩くから!』
「うるせぇ!すっこんでろ!そして願ってるんだな。奴の時代にこの魔法があったかどうか…」
ギュスカールは残っている魔力を体内で練り上げる。すでに長期戦は不可能だ。戦うのであれば一撃で決める必要がある。そしてギュスカールにはその一撃が存在する。崩拳だ。
崩壊魔力は初見では対応できない。もしアレクレイの居た時代に崩壊魔力の存在が認知されていれば、ギュスカールに太刀打ちすることはできないかもしれない。しかし逆に崩壊魔力の存在を知らなければこの一撃は神人という魔神に太刀打ちできる唯一の手段かもしれない。
魔力を練り上げるギュスカール。もちろん何かする気だということは理解しているアレクレイだが、なんとも退屈そうにギュスカールの目の前まで歩みを進めた。
「なにをしたいか知らんが良かろう。好きにやると良い。」
「なめやがって…」
堂々たる仁王立ち。手はポケットにいれたまま動くそぶりさえ見せない。圧倒的強者の余裕。なにをされても問題がないと言わんばかりだ。ギュスカールはその態度に苛立ちを見せるが逆に嬉しくも思う。これならば確実に当てられる。
ギュスカールは右拳を突き出した。その拳は音すら置き去りにするギュスカール渾身の一撃。今までの人生でこれほどの正拳突きを放ったことはないかもしれない。それほどの会心の一撃。
そこ正拳突きはアレクレイの胴体に突き刺さるとそのまま膨大な崩壊魔力を放ち、空気も大地も崩壊させた。全てを破壊する崩拳の一撃。だがアレクレイだけは微動だにせずその場に立っていた。
「な……」
「崩壊魔力か。ずいぶん懐かしいものを使うな。魔力の質も規模も素晴らしいものだ。だがなぜこんな欠陥魔法を使う?」
「欠陥…魔法だと…」
「ふむ…正しく伝わっていないのか。」
ギュスカールが呆然としながら拳を下ろすとアレクレイは自身の周囲の崩壊していく大地や空気に魔力を流し崩壊を止めて見せた。
「崩壊魔力とは魔法の出来損ないだ。魔力を炎や水に変化させるためには純粋なエネルギーである魔力を分解し再構成する。崩壊魔力は再構成を除いた魔力の分解までのことだ。つまり…崩壊魔力に再構成だけの魔力を加えれば魔法として完成してしまう。あまりにも無意味だ。」
『黒之伍佰・欠陥部分を補ってやれば崩壊魔力は意味を失う。…いやそうじゃない。むしろ…』
「そうだ。むしろ崩壊魔力は相手の魔法を強化することになる。崩壊魔法を使えば使うほど相手は強い魔法をカウンターで返すことができる。」
「なんで…そんなことを……崩拳の連中でさえ知らなあったことを…」
「知らない?年月とはあまりにも愚かなことだ。そもそも崩拳を生み出したのはこの我だ。その時に崩拳の欠点も全て教えてやったというのに都合の良いところ以外全て失ったか。」
「そんな…この技は初代崩拳が自ら…」
「自身の体が崩壊していく中、ただの子供がそんなことを考えられるわけがなかろう。しかし我の暇つぶしが今の世でも伝わっていることには驚いたがな。」
アレクレイが嘘を言っているようには見えない。つまりギュスカールは崩拳の開祖を相手取っているのだ。しかも自身よりもはるかに崩壊魔力に詳しく、はるかに強い男と。
ギュスカールは絶望し腕をだらりと下ろした。表情にはもう戦意は見られない。するとアレクレイはしばらく考え、そして何かを閃いたのか手のひらに魔力を込め出した。すると魔力のこもった手のひらをギュスカールの胸に押し当てた。
「崩壊魔力では意味がないからな。こうしてやれば少しは可能性があるかもしれないぞ。」
「なにを…ま、待て!崩壊魔力がない!ない!ない!!」
ギュスカールは狂ったように暴れまわり、胸の部分の服を引きちぎる。するとそこには刺青が付いていた。
「崩壊魔力に再構成の術式を付与する魔法陣だ。これで普通に魔法が使えるようになるぞ。」
「や、やめろ!返せ!俺の崩拳を返せ!!」
ギュスカールは叫ぶ。なんと残酷なことか。これまでの生涯をかけて研鑽を積み重ねてきた崩拳が一瞬のうちに失われた。もうギュスカールは崩壊魔力を持つことができない。魔神第8位崩神は消え去ってしまった。
歴代の崩神に勝利し、崩神最強となったギュスカールは一瞬のうちに全てを失った。もうギュスカールに魔神としての力はない。なにも無くなってしまった。
「ふむ…もう戦う意味はなさそうだ。今はお前の方に興味がある。お前を生み出した術者は誰だ。」
『黒之伍佰・い、今は敵の罠にはまって何処かに消えてしまいました。居場所は不明です。本当です…』
「それは厄介だな。見たこともない奴を探すのは流石に骨が折れる。まあ観光ついでに探してみるか。お前は今の時代に詳しそうだからついてこい。」
「待て…待てや……」
「もうお前に興味はない。消えて良いぞ。」
アレクレイはギュスカールに背を向けたまま冷たくあしらう。しかしギュスカールはそれで引き下がらない。魔神として崩神としての矜持ではない。漢としての矜持がギュスカールの背中を押す。
「崩壊魔力がなくなっても俺にはまだ崩拳がある。世界最強の格闘技をお前に堪能させてやる。」
「くだらん世界最強だ。かかっていたければいつでもこい。お前ごときの拳は我には届かぬ。」
「吠え面かかせてやる!!」
ギュスカールはアレクレイに殴りかかる。何百年という歳月の中で練り上げられた崩拳は体術としてでも一級品だ。並みの武術家なら相手にならない。しかしアレクレイは事も無げにギュスカールを片手であしらう。
苛烈に攻め続けるギュスカール。冷めた表情であしらうアレクレイ。体術ひとつ取ってもアレクレイとギュスカールの間には大きな差があった。そしてギュスカールの渾身の突きを手の甲であしらうとそのまま片手で投げ倒した。
「崩拳か。これも基礎の型は我が作った。まああいつが基礎しか覚えられなかったからというのもあるがな。発展系もすでに理解している。だがまさか今の時代になってもこの程度しか発展していないとはな。我が考えていた半分程度でしかない。」
「くそ…くそっ!!化け物め…」
ギュスカールの言葉に眉をひそめるアレクレイ。近くにいた使い魔もアレクレイの気配が変わったことをすぐに察知した。
「化け物だと?我は神に至った人間だ。お前の頭でも理解できるようにいうのであれば天才と凡人の差だ。その程度も理解できずに化け物呼ばわりはなんとも不愉快だ。」
アレクレイは魔力を手のひらに込めて軽く振るう。とっさにギュスカールは魔力を用いて自身を守ろうとするが、もともと崩壊魔力だけしか持たなかったギュスカールには普通の魔法を扱うことができずに小石の如く飛んでいった。
今の衝撃でギュスカールの左腕は吹き飛び、右足もひざ下からなくなった。他にも所々欠損箇所が見られる。もうギュスカールに立ち上がる気力も無くなった。
「お前ごときの神力では今の一撃は防げんだろうな。軽い一撃でもこれほどの差がある。我への無礼、あの世で詫びると良い。行くぞ小さいの。」
『黒之伍佰・は、はい。ところでその…神力?っていうのはなんですか?』
「なんだそんなことも知らぬのか。今の時代はよほど酷いようだな。この程度の知識も失われているとは……待て。なんだ。」
アレクレイは遠く彼方をみる。使い魔も同じ方角を見るがなにも見えない。何かがいるようには見えない。だがアレクレイはその目に見えぬ何かを察知していた。
「なんだ…何かが生まれた?だがこれは……どうやら今の時代も面白そうだな。」
アレクレイは笑みを見せる。史上最強の魔神の動きはまだ止まらない。
「うるせぇ!すっこんでろ!そして願ってるんだな。奴の時代にこの魔法があったかどうか…」
ギュスカールは残っている魔力を体内で練り上げる。すでに長期戦は不可能だ。戦うのであれば一撃で決める必要がある。そしてギュスカールにはその一撃が存在する。崩拳だ。
崩壊魔力は初見では対応できない。もしアレクレイの居た時代に崩壊魔力の存在が認知されていれば、ギュスカールに太刀打ちすることはできないかもしれない。しかし逆に崩壊魔力の存在を知らなければこの一撃は神人という魔神に太刀打ちできる唯一の手段かもしれない。
魔力を練り上げるギュスカール。もちろん何かする気だということは理解しているアレクレイだが、なんとも退屈そうにギュスカールの目の前まで歩みを進めた。
「なにをしたいか知らんが良かろう。好きにやると良い。」
「なめやがって…」
堂々たる仁王立ち。手はポケットにいれたまま動くそぶりさえ見せない。圧倒的強者の余裕。なにをされても問題がないと言わんばかりだ。ギュスカールはその態度に苛立ちを見せるが逆に嬉しくも思う。これならば確実に当てられる。
ギュスカールは右拳を突き出した。その拳は音すら置き去りにするギュスカール渾身の一撃。今までの人生でこれほどの正拳突きを放ったことはないかもしれない。それほどの会心の一撃。
そこ正拳突きはアレクレイの胴体に突き刺さるとそのまま膨大な崩壊魔力を放ち、空気も大地も崩壊させた。全てを破壊する崩拳の一撃。だがアレクレイだけは微動だにせずその場に立っていた。
「な……」
「崩壊魔力か。ずいぶん懐かしいものを使うな。魔力の質も規模も素晴らしいものだ。だがなぜこんな欠陥魔法を使う?」
「欠陥…魔法だと…」
「ふむ…正しく伝わっていないのか。」
ギュスカールが呆然としながら拳を下ろすとアレクレイは自身の周囲の崩壊していく大地や空気に魔力を流し崩壊を止めて見せた。
「崩壊魔力とは魔法の出来損ないだ。魔力を炎や水に変化させるためには純粋なエネルギーである魔力を分解し再構成する。崩壊魔力は再構成を除いた魔力の分解までのことだ。つまり…崩壊魔力に再構成だけの魔力を加えれば魔法として完成してしまう。あまりにも無意味だ。」
『黒之伍佰・欠陥部分を補ってやれば崩壊魔力は意味を失う。…いやそうじゃない。むしろ…』
「そうだ。むしろ崩壊魔力は相手の魔法を強化することになる。崩壊魔法を使えば使うほど相手は強い魔法をカウンターで返すことができる。」
「なんで…そんなことを……崩拳の連中でさえ知らなあったことを…」
「知らない?年月とはあまりにも愚かなことだ。そもそも崩拳を生み出したのはこの我だ。その時に崩拳の欠点も全て教えてやったというのに都合の良いところ以外全て失ったか。」
「そんな…この技は初代崩拳が自ら…」
「自身の体が崩壊していく中、ただの子供がそんなことを考えられるわけがなかろう。しかし我の暇つぶしが今の世でも伝わっていることには驚いたがな。」
アレクレイが嘘を言っているようには見えない。つまりギュスカールは崩拳の開祖を相手取っているのだ。しかも自身よりもはるかに崩壊魔力に詳しく、はるかに強い男と。
ギュスカールは絶望し腕をだらりと下ろした。表情にはもう戦意は見られない。するとアレクレイはしばらく考え、そして何かを閃いたのか手のひらに魔力を込め出した。すると魔力のこもった手のひらをギュスカールの胸に押し当てた。
「崩壊魔力では意味がないからな。こうしてやれば少しは可能性があるかもしれないぞ。」
「なにを…ま、待て!崩壊魔力がない!ない!ない!!」
ギュスカールは狂ったように暴れまわり、胸の部分の服を引きちぎる。するとそこには刺青が付いていた。
「崩壊魔力に再構成の術式を付与する魔法陣だ。これで普通に魔法が使えるようになるぞ。」
「や、やめろ!返せ!俺の崩拳を返せ!!」
ギュスカールは叫ぶ。なんと残酷なことか。これまでの生涯をかけて研鑽を積み重ねてきた崩拳が一瞬のうちに失われた。もうギュスカールは崩壊魔力を持つことができない。魔神第8位崩神は消え去ってしまった。
歴代の崩神に勝利し、崩神最強となったギュスカールは一瞬のうちに全てを失った。もうギュスカールに魔神としての力はない。なにも無くなってしまった。
「ふむ…もう戦う意味はなさそうだ。今はお前の方に興味がある。お前を生み出した術者は誰だ。」
『黒之伍佰・い、今は敵の罠にはまって何処かに消えてしまいました。居場所は不明です。本当です…』
「それは厄介だな。見たこともない奴を探すのは流石に骨が折れる。まあ観光ついでに探してみるか。お前は今の時代に詳しそうだからついてこい。」
「待て…待てや……」
「もうお前に興味はない。消えて良いぞ。」
アレクレイはギュスカールに背を向けたまま冷たくあしらう。しかしギュスカールはそれで引き下がらない。魔神として崩神としての矜持ではない。漢としての矜持がギュスカールの背中を押す。
「崩壊魔力がなくなっても俺にはまだ崩拳がある。世界最強の格闘技をお前に堪能させてやる。」
「くだらん世界最強だ。かかっていたければいつでもこい。お前ごときの拳は我には届かぬ。」
「吠え面かかせてやる!!」
ギュスカールはアレクレイに殴りかかる。何百年という歳月の中で練り上げられた崩拳は体術としてでも一級品だ。並みの武術家なら相手にならない。しかしアレクレイは事も無げにギュスカールを片手であしらう。
苛烈に攻め続けるギュスカール。冷めた表情であしらうアレクレイ。体術ひとつ取ってもアレクレイとギュスカールの間には大きな差があった。そしてギュスカールの渾身の突きを手の甲であしらうとそのまま片手で投げ倒した。
「崩拳か。これも基礎の型は我が作った。まああいつが基礎しか覚えられなかったからというのもあるがな。発展系もすでに理解している。だがまさか今の時代になってもこの程度しか発展していないとはな。我が考えていた半分程度でしかない。」
「くそ…くそっ!!化け物め…」
ギュスカールの言葉に眉をひそめるアレクレイ。近くにいた使い魔もアレクレイの気配が変わったことをすぐに察知した。
「化け物だと?我は神に至った人間だ。お前の頭でも理解できるようにいうのであれば天才と凡人の差だ。その程度も理解できずに化け物呼ばわりはなんとも不愉快だ。」
アレクレイは魔力を手のひらに込めて軽く振るう。とっさにギュスカールは魔力を用いて自身を守ろうとするが、もともと崩壊魔力だけしか持たなかったギュスカールには普通の魔法を扱うことができずに小石の如く飛んでいった。
今の衝撃でギュスカールの左腕は吹き飛び、右足もひざ下からなくなった。他にも所々欠損箇所が見られる。もうギュスカールに立ち上がる気力も無くなった。
「お前ごときの神力では今の一撃は防げんだろうな。軽い一撃でもこれほどの差がある。我への無礼、あの世で詫びると良い。行くぞ小さいの。」
『黒之伍佰・は、はい。ところでその…神力?っていうのはなんですか?』
「なんだそんなことも知らぬのか。今の時代はよほど酷いようだな。この程度の知識も失われているとは……待て。なんだ。」
アレクレイは遠く彼方をみる。使い魔も同じ方角を見るがなにも見えない。何かがいるようには見えない。だがアレクレイはその目に見えぬ何かを察知していた。
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