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第450話 邪悪な妖精
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神魔動けず。
この衝撃の情報は密かに多くの者たちへと広まった。神剣イッシンは未だ多くの魔神たちと戦っており動ける状態ではない。神魔はこの戦争の唯一の希望であったのだ。故にそれが動けないとなれば多くの破綻が見えて来る。
幾人もの者たちはなんとか神魔に動くように圧力をかけようとした。だがどんなに圧力をかけてもそれが神魔の耳に届くことはない。使い魔たちもこんなにも幸せそうな神魔の顔を見て、それに水を差すような真似はできない。
神魔は完全に動くことはできない。他の頼りは神剣イッシンであるが、イッシンの目の前には未だ数十の魔神たちがいる。とっとと片付けることは不可能だ。そして他の魔神たちも動くことはできない。
崩神、氷神は共に自身の先代及び歴代の魔神たちと戦いを続けている。海神ポセイドルスは神海コータクトのおかげで歴代の海神たちを一掃できたが、神海コータクトも精神汚染が始まり仕方なく神剣イッシンの元に託してきた。
その後ポセイドルスは海全域を泳ぎまわり敵の一掃に励んでいる。だが海はあまりにも広い。陸地よりもはるかに広いため陸地の応援に行くことは不可能だ。
そして監獄神は未だ連絡がつかない。そして唯一戦闘が早く終わりそうであった妖精神にも陰りが見え始めた。ミチナガのスマホが封じられたことで力の供給ができなくなってしまったのだ。
「もう!早くミチナガを見つけて!!そうじゃないとあの怪物は止められない。」
ピクシリーは冷や汗をかきながら必死に戦う。この十本指による死者復活の最初の時には一番状況がよかった妖精神の戦線が今では一番危ういかもしれない。その理由はピクシリーの眼前にいる一人の妖精によって起きている。
「あはは!蘇ってよかったぁ…こんなに面白いおもちゃがいっぱいあるんだもん。次はどうしようかなぁ…」
「言い伝えと全然違うじゃない!何よこの邪悪さは!!」
ピクシリーは伝承を恨んだ。妖精たちの間に伝わる伝承。かつて人間を憎み邪悪に染まったと言われた一人の妖精の話。しかしそんなものは全て嘘であった。人間を憎み邪悪に染まったのではない。生まれた時からこれは邪悪だったのだ。
かつて人間を憎み、命を使って最強のゴブリンの軍勢を生み出し、世界を傾けかけた最悪の魔神。ミチナガもアレクリアルも一度は経験した原初なるゴブリンの軍勢。
妖精たちはその妖精のことを妖精神とは呼ばなかった。妖精神とは妖精たちを守護し、邪悪さを持たない心優しき者が名乗るためのものだ。故に妖精たちはそれを妖精皇帝と呼んだ。
「妖精皇帝アキュス・クリスティー。あんたにはかつて妖精たちの王であったという心はないの?」
「何を言ってるんだい?僕は今でも妖精神さ。妖精たちの偉大なる王!だからこそお前たちは僕のために命を捧げるべきだ。」
アキュスは近場の蘇った妖精を一人掴み取り、そのまま頭を食いちぎり血を啜った。あまりにもおぞましい。しかし妖精として世界樹なきこの世界で力を回復させるためにはこの方法が一番だ。
そしてその光景を見た妖精たちは恐怖で戦意を失いつつある。今この戦線を維持できるのはピクシリーしかいない。だが相手が悪すぎる。
「いっぱいいるからいろんな遊びができそうだ。次はどうしようかな?こいつを使って融合生物作ろうか。」
アキュスは手につかんだ妖精たちを無理やり融合させる。そして誕生したのは生物と呼ぶのにはあまりにも異形すぎる怪物だ。言ってしまえばただの妖精の肉団子。しかしその内部で蠢く妖精の力はあまりにも異常だ。
「ほーら、行ってこい!」
「ちっ!!」
ピクシリーは力を使って防御壁を張る。アキュスに投げられた妖精の肉団子はその防御壁にぶつかると凄まじい光と共に爆発した。人間爆弾ならぬ即席の妖精爆弾だ。
「ん~~…もうちょっと派手な方が良いな。降って来る血肉の量も少ないしやり直しだな。」
「いい加減にしなさいよあんた。仲間をなんだと思ってるの。今すぐ殺して…」
「お、お待ちください女王様!」
ピクシリーが怒りに任せて飛び出そうとしたところを臣下たちが必死に止める。ピクシリーはそれを振り払い戦いに出ようとするが徐々に冷静になり始めて動きを止めた。
ピクシリーは妖精の力の塊のようなものだ。復活した妖精たちを含めても一番力を保持している。そしてその力はミチナガが提供した世界樹製の妖精の回復薬で補充することができた。
しかし今ではミチナガがいないため力を回復できる薬の供給ができなくなってしまった。残っているのは残り5本。ピクシリーの全ての妖精力の半分以上を回復できる量だ。
だがここでアキュスと本気で戦えば勝つことはできるが力のほぼ全てを失う。そうなれば他の蘇った妖精たちにより妖精たちは滅ぼされる。そのため力の消耗の少ない防御魔法に集中し、アキュスの力が落ちるのを待つしかない。
「あれ?来ないの?残念だなぁ。君とは戦いたかったのに。」
「ふん!私が戦った際に霧散する力を吸収したかったのだろうけどそうはいかない。じわじわ追い詰めてやるわ。」
「あ~あ、もっといろいろ材料があれば面白かったんだけどなぁ。妖精はいっぱいいるけど、それ以外の材料がないから作れるものが偏っちゃうよ。」
「いっそのことゴブリン作って死んでくれたら良いんだけどね。」
「ゴブリン?ああ!あれか!僕の最高傑作だね。気がつかれないように増殖させるのすごく大変だったぁ。それに抵抗されたせいで僕の命のほとんど持っていかれちゃったし。あれが地上でどう暴れたかすごく気になる!あれってどうなったの!僕と妻の共同作業で生まれたあれは!」
「二人で作ったの?悪趣味な妖精が二人もいるなんて最悪ね。……待って、抵抗されたって言ったわね。それってまさか…」
「うん!娘使って実験していたらそれがバレてさ。仕方ないから…っていうよりちょうど良かったからね、ゴブリンと融合させたんだ。あまりにもいい顔して抵抗するからつい興奮しちゃってさ。気がついたら巻き込まれちゃって命ほとんど持っていかれちゃった。そんなことよりあれは地上でどう暴れたの!早く教えてよ~!」
邪悪な笑みを浮かべるアキュス。それを見たピクシリーは意外にも平常であった。いや、目つきだけはゴミを見るようであった。自身の妻や子供でさえも容赦なく実験材料にするこのクズ妖精をどう料理してやろうか、それだけを考えている。
「ミチナガが戻ったらあんただけは存在ごと抹消してやる。ただじゃすまさないから。」
「僕はいつだって構わないよ。まあまだかかって来ないなら遊ばせてもらうけど。」
アキュスは再び手近な妖精を使って実験を始める。ピクシリーはその様子をただただ傍観するしかなかった。
一方その頃神域のヴァルハラ攻略中のミチナガたちは通路をひたすら歩いていた。
「あれ?また行き止まりだ。さっきの道逆だったか。戻るぞクラウン。」
「はいはーい。いい運動になるけど、成果は出ないね。お昼ご飯はまだだっけ?」
「時間的にはまだだな。だけど腹が空いたのも確か……さっきの分岐路まで戻ったら一度飯にするか。」
「今日は刺身な気分だな。アジの刺身はできる?」
「問題ないぞ。俺はなめろうにしてもらおうかな。」
来た道を戻る二人。ダンジョン攻略はまだまだ先の話のようだ。
この衝撃の情報は密かに多くの者たちへと広まった。神剣イッシンは未だ多くの魔神たちと戦っており動ける状態ではない。神魔はこの戦争の唯一の希望であったのだ。故にそれが動けないとなれば多くの破綻が見えて来る。
幾人もの者たちはなんとか神魔に動くように圧力をかけようとした。だがどんなに圧力をかけてもそれが神魔の耳に届くことはない。使い魔たちもこんなにも幸せそうな神魔の顔を見て、それに水を差すような真似はできない。
神魔は完全に動くことはできない。他の頼りは神剣イッシンであるが、イッシンの目の前には未だ数十の魔神たちがいる。とっとと片付けることは不可能だ。そして他の魔神たちも動くことはできない。
崩神、氷神は共に自身の先代及び歴代の魔神たちと戦いを続けている。海神ポセイドルスは神海コータクトのおかげで歴代の海神たちを一掃できたが、神海コータクトも精神汚染が始まり仕方なく神剣イッシンの元に託してきた。
その後ポセイドルスは海全域を泳ぎまわり敵の一掃に励んでいる。だが海はあまりにも広い。陸地よりもはるかに広いため陸地の応援に行くことは不可能だ。
そして監獄神は未だ連絡がつかない。そして唯一戦闘が早く終わりそうであった妖精神にも陰りが見え始めた。ミチナガのスマホが封じられたことで力の供給ができなくなってしまったのだ。
「もう!早くミチナガを見つけて!!そうじゃないとあの怪物は止められない。」
ピクシリーは冷や汗をかきながら必死に戦う。この十本指による死者復活の最初の時には一番状況がよかった妖精神の戦線が今では一番危ういかもしれない。その理由はピクシリーの眼前にいる一人の妖精によって起きている。
「あはは!蘇ってよかったぁ…こんなに面白いおもちゃがいっぱいあるんだもん。次はどうしようかなぁ…」
「言い伝えと全然違うじゃない!何よこの邪悪さは!!」
ピクシリーは伝承を恨んだ。妖精たちの間に伝わる伝承。かつて人間を憎み邪悪に染まったと言われた一人の妖精の話。しかしそんなものは全て嘘であった。人間を憎み邪悪に染まったのではない。生まれた時からこれは邪悪だったのだ。
かつて人間を憎み、命を使って最強のゴブリンの軍勢を生み出し、世界を傾けかけた最悪の魔神。ミチナガもアレクリアルも一度は経験した原初なるゴブリンの軍勢。
妖精たちはその妖精のことを妖精神とは呼ばなかった。妖精神とは妖精たちを守護し、邪悪さを持たない心優しき者が名乗るためのものだ。故に妖精たちはそれを妖精皇帝と呼んだ。
「妖精皇帝アキュス・クリスティー。あんたにはかつて妖精たちの王であったという心はないの?」
「何を言ってるんだい?僕は今でも妖精神さ。妖精たちの偉大なる王!だからこそお前たちは僕のために命を捧げるべきだ。」
アキュスは近場の蘇った妖精を一人掴み取り、そのまま頭を食いちぎり血を啜った。あまりにもおぞましい。しかし妖精として世界樹なきこの世界で力を回復させるためにはこの方法が一番だ。
そしてその光景を見た妖精たちは恐怖で戦意を失いつつある。今この戦線を維持できるのはピクシリーしかいない。だが相手が悪すぎる。
「いっぱいいるからいろんな遊びができそうだ。次はどうしようかな?こいつを使って融合生物作ろうか。」
アキュスは手につかんだ妖精たちを無理やり融合させる。そして誕生したのは生物と呼ぶのにはあまりにも異形すぎる怪物だ。言ってしまえばただの妖精の肉団子。しかしその内部で蠢く妖精の力はあまりにも異常だ。
「ほーら、行ってこい!」
「ちっ!!」
ピクシリーは力を使って防御壁を張る。アキュスに投げられた妖精の肉団子はその防御壁にぶつかると凄まじい光と共に爆発した。人間爆弾ならぬ即席の妖精爆弾だ。
「ん~~…もうちょっと派手な方が良いな。降って来る血肉の量も少ないしやり直しだな。」
「いい加減にしなさいよあんた。仲間をなんだと思ってるの。今すぐ殺して…」
「お、お待ちください女王様!」
ピクシリーが怒りに任せて飛び出そうとしたところを臣下たちが必死に止める。ピクシリーはそれを振り払い戦いに出ようとするが徐々に冷静になり始めて動きを止めた。
ピクシリーは妖精の力の塊のようなものだ。復活した妖精たちを含めても一番力を保持している。そしてその力はミチナガが提供した世界樹製の妖精の回復薬で補充することができた。
しかし今ではミチナガがいないため力を回復できる薬の供給ができなくなってしまった。残っているのは残り5本。ピクシリーの全ての妖精力の半分以上を回復できる量だ。
だがここでアキュスと本気で戦えば勝つことはできるが力のほぼ全てを失う。そうなれば他の蘇った妖精たちにより妖精たちは滅ぼされる。そのため力の消耗の少ない防御魔法に集中し、アキュスの力が落ちるのを待つしかない。
「あれ?来ないの?残念だなぁ。君とは戦いたかったのに。」
「ふん!私が戦った際に霧散する力を吸収したかったのだろうけどそうはいかない。じわじわ追い詰めてやるわ。」
「あ~あ、もっといろいろ材料があれば面白かったんだけどなぁ。妖精はいっぱいいるけど、それ以外の材料がないから作れるものが偏っちゃうよ。」
「いっそのことゴブリン作って死んでくれたら良いんだけどね。」
「ゴブリン?ああ!あれか!僕の最高傑作だね。気がつかれないように増殖させるのすごく大変だったぁ。それに抵抗されたせいで僕の命のほとんど持っていかれちゃったし。あれが地上でどう暴れたかすごく気になる!あれってどうなったの!僕と妻の共同作業で生まれたあれは!」
「二人で作ったの?悪趣味な妖精が二人もいるなんて最悪ね。……待って、抵抗されたって言ったわね。それってまさか…」
「うん!娘使って実験していたらそれがバレてさ。仕方ないから…っていうよりちょうど良かったからね、ゴブリンと融合させたんだ。あまりにもいい顔して抵抗するからつい興奮しちゃってさ。気がついたら巻き込まれちゃって命ほとんど持っていかれちゃった。そんなことよりあれは地上でどう暴れたの!早く教えてよ~!」
邪悪な笑みを浮かべるアキュス。それを見たピクシリーは意外にも平常であった。いや、目つきだけはゴミを見るようであった。自身の妻や子供でさえも容赦なく実験材料にするこのクズ妖精をどう料理してやろうか、それだけを考えている。
「ミチナガが戻ったらあんただけは存在ごと抹消してやる。ただじゃすまさないから。」
「僕はいつだって構わないよ。まあまだかかって来ないなら遊ばせてもらうけど。」
アキュスは再び手近な妖精を使って実験を始める。ピクシリーはその様子をただただ傍観するしかなかった。
一方その頃神域のヴァルハラ攻略中のミチナガたちは通路をひたすら歩いていた。
「あれ?また行き止まりだ。さっきの道逆だったか。戻るぞクラウン。」
「はいはーい。いい運動になるけど、成果は出ないね。お昼ご飯はまだだっけ?」
「時間的にはまだだな。だけど腹が空いたのも確か……さっきの分岐路まで戻ったら一度飯にするか。」
「今日は刺身な気分だな。アジの刺身はできる?」
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