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第447話 最後のダンジョン

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「どこだ…ここは……」

 暗闇の中、ミチナガの声だけが響き渡る。ミチナガは声の反響具合から閉所であることを察した。壁の近い限られた空間。どこかに閉じ込められた可能性が高い。ミチナガは恐怖で動くことができない。

 すると頬のあたりに柔らかい感触を感じる。この感触は慣れ親しんだ使い魔たちの手だ。どうやら使い魔達もそのまま連れてこられたらしい。ただこれだけ暗いと意思疎通ができない。すると使い魔の手がパッと光り輝いた。

『ポチ・大丈夫?』

「ああ、大丈夫だ。だが灯りをつけても大丈夫なのか?…ん?これって……」

 ミチナガは足元に転がっているものを手に取る。それは使い魔達と同じくらい親しんだものだ。すると突如背後で大きな物音が聞こえた。ミチナガはとっさに振り向く。するとそこには尻餅をついたクラウンがいた。

「痛たた……もう少し綺麗に片付けて置いてくれよ。」

「俺をどこに連れてきた。逃げる前に答えろ。」

「ん~?察しの良い君ならすぐにわかるかとも思ったけど…わからないかな?」

「…足元に大量に散らばる金貨。通路を塞ぐように積まれた金貨。通路のつくりは頑丈そうだな。どっかの金庫ってところか?」

 ミチナガはクラウンに話しかけながらポチにアイコンタクトを取る。現在の居場所などスマホのマップ機能を使えばすぐにわかる。重要なのはクラウンを仕留めることだ。時間を稼ぎ、隙をついて一気に殺る。

 しかし現状の把握をしようとしたポチは動きを止めてしまった。スマホから新たに使い魔達が出てくる様子もない。ミチナガにできるのは時間稼ぎのみ。実行役は使い魔達なのにまるで動く気配がない。するとクラウンは呆れたようなそぶりを見せる。

「確かに金庫とかって答えになるなぁ。だが平凡な答えだ。じゃあヒントをあげよう。スマホを確認してごらん。」

 ミチナガは警戒してスマホを見ようとしない。しかしクラウンはスマホを見ることを勧めてくる。仕方なく警戒しながらスマホを確認するが、使い魔達が呆然としていること以外何の変わりもない。

 ミチナガは意味がわからないという表情をしながら顔を上げると、クラウンはもっとちゃんと見ろと催促してくる。そしてもう一度よく確認する。やはり何の変化もない。しかしスマホの画面の左上を見たときミチナガは目を見開いた。

「け、圏外?な、何で?こんなこと…そもそも通信とか関係ないんじゃ…」

「それがヒントだ。さあ、ここがどこかわかるか?」

 クラウンは嬉しそうにミチナガに質問する。しかしミチナガはそれどころではない。今まで一度でも圏外になったことなどないこのスマホが圏外になっている。それによる影響がどんな形で出るのかまだ何もわからない。

 そんな中で今いる場所がどこかなどという質問に答えられるはずがない。混乱しているミチナガを見たクラウンはこれはやりすぎたかと悩みながら、ミチナガが少し落ち着くのを待った。

「あ~…そろそろいいか?今の質問は難しかったようだ。考えてみればこの程度のヒントで答えに行き着くのは無理な話だ。そこで軽い質問だ。9大ダンジョン全て答えろ。これならいけるだろ?」

「それどころじゃない……いや、それが今の状況に関係あるのか?」

「もちろんだ。ゆっくりで良い。」

「…英雄の国の巨大のヨトゥンヘイム、人災のミズガルズ。海国の深海のアトランティス。氷国の極寒のニヴルヘイム。妖精の国の悪戯のアルヴヘイム。龍の国の龍巣のヨルムンガンド。法国の魍魎のヘルヘイム。火の国の煉獄のムスプルヘイムだ。」

「それだけか?それじゃあ8大ダンジョンだぞ?」

「あと…あとはヴァルハラ…神域のヴァルハラだ。どこの国にも無く、雲の中に浮かぶ島にあると言われるダンジョンだ。数百年以上誰も見たことがないから本当はないんじゃないかと言われている幻のダンジョンだ。……まさか…」

「おお!そのまさかだ。ここは幻のダンジョン。9大ダンジョン最後の一つ、神域のヴァルハラだ。」

 神域のヴァルハラ。9大ダンジョンの中でも最難関と言われ、魔神でさえも幾人も命を落としたと言われる。そしてミチナガはそれを理解した瞬間恐怖した。このままでは間違いなく死が訪れるからだ。

 ダンジョンは貨幣で埋まったことでモンスターが発生しない状況が発生している。しかしもしもミチナガがここから逃げようと金貨を回収していけばモンスターが生まれてしまう。助けが来ない限り単独で逃げることは不可能だ。

「そうか…お前らはここで俺の動きを封じようと…ここで俺を殺す気なんだな」

「いや、違うぞ?そんな物騒なことを言うなよ。まあとりあえず座って話をしよう。お茶でも出してくれないか?あ、それから飯も出してくれ。あの量のサンドイッチじゃ物足りなくて…」

 クラウンはのんびりとその場に座ってミチナガにも座るように促す。ミチナガは警戒し、なかなか座ろうとしないが状況を把握するのにはクラウンから情報を得るしかない。ミチナガはお茶と菓子を出してその場に座る。

「なかなか美味しそうなお菓子だ。どれ一つ…ん!こりゃ美味い!!世界一の商人になると食うものが違うな。あ、そんな話はいいからって顔をしているな。まあまずいくつか言っておこう。ここにはモンスターは出ない。世界一安全なダンジョンだ。保証する。」

「モンスターが出ない?それは何で…」

「その話はゆっくりしていこう。時間はたっぷりあるんだ。次にこのダンジョン内は外の世界とは隔絶されている。お前の通信系の能力も使えないだろ?」

「……どうなんだ?」

『ポチ・さっきから何度も試しているけど完全に遮断されている。スマホ内にいる使い魔同士でしか会話できない。外の情報が一切入って来ない。』

「もう少し頑張ってくれ。何としてでも外と連絡を取らないと。」

「いやいや…それは無理だって。俺も能力つかえないんだし。」

「え?」

『ポチ・え?』

「あ……まだ言わないほうが良かったか。…まあいいか。言っただろ?ここは外の世界とは隔絶された空間だって。本来俺の能力でも中に入るのは不可能だ。だけど何とか色々な手を使って一度だけ中に入る方法を獲得した。まあ入るのは良いけど出るのはもう無理だ。このダンジョンを攻略しないとな」

 クラウンは飄々としながら菓子をつまんで紅茶を飲む。ミチナガはその様子に苛立ちも何もわかなかった。ただ予想をはるかに上回る答えに逆に頭の中が冷静になっていくのを感じた。クラウンの言うことが本当かどうかは正直わからない。しかし嘘をついているようには全く見えない。

 そしてミチナガはクラウンを殺す計画をすぐにやめた。今殺したところでこんな閉所で死体と二人きりなど精神が持たない。それにクラウンはこのダンジョン、神域のヴァルハラについて情報を持っているようだ。それらの情報を聞き出してからでも遅くはない。

「俺はすぐにでもここから出たい。いろいろ情報を教えてもらうぞ。その間までの同盟だ。お前はこのダンジョンについてどの程度知っている?」

「そりゃまあいろいろ。詳しい人から散々聞いたからな。何が知りたい?」

「現在位置を知りたいところだが、それはお前も知らないだろ。だから知りたいのは過去にこのダンジョンを攻略したものが何日かかったかという情報だ。それである程度このダンジョンの大きさがわかる。」

「このダンジョン?確か…平均は一月だったかな?」

「一月?そんなに簡単なのか?」

「外の世界では一月だ。だけど言っただろ?このダンジョンは外の世界とは隔絶されているって。それは時間の流れも違うってことだ。外の1日と中の1日を同じに考えちゃいけない。」

「それじゃあ…中の1日は何日になるんだ?」

「1年だ。」

「…は?え、ちょ、ちょっと待て!それって…」

「ああ、ダンジョン内時間だとこのダンジョンの平均攻略時間は30年だ。」
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