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第439話 魔神の前では
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敵全総数10億。そんなあまりにも桁の違う敵を前にしてミチナガは思考が停止し、反応することができなかった。そんなもの戦いにもならない。圧倒的な敵を前にしてなすすべなく敗北するだけだ。
だがそう考えているものとそうで無いものがいる。それは今もため息をつきながら思い腰をあげてゆっくりと歩き始めた。
「はぁ…魔法で人間を生み出す方法でも覚えたのかしら。本当に面倒ね。あなたたちは邪魔だから下がっていなさい。なんなら帰ってもいいわ。」
「はっ!全軍に告げよ!我々は撤退だ。」
『ヒョウ・ご、5億の軍勢がいるようですけど…いいんですか?』
「たかが有象無象でしょ?ああでも…ポセイドルスと共闘しようかしら?その方が簡単そうだし。連絡してくれる?」
氷神ミスティルティアの言葉に二つ返事で行動に移すヒョウ。具体的にどう連携するのか何も聞いていないが、海神ポセイドルスに共闘の旨を伝えるとポセイドルスもすぐに自軍を撤退させた。
「やれやれ…しばらくはこのあたりに近づくのはやめておこう。寒くてかなわんからな。それじゃあいくぞ。」
ポセイドルスは手に持つ王の証であり、9大ダンジョン深海のアトランティスから出土したゲイボルグを掲げる。すると穏やかな海面が波打ち始め、急に荒々しい波を立てるようになった。
さらにそこからポセイドルスがゲイボルグに魔力を注ぎ込む。すると今度は逆に波が穏やかになる。しかしその代わりに徐々に徐々に海面が下がっていく。10m、20mと海面が下がっていくと海から強大な力を感じ始めた。
ポセイドルスはゲイボルグを軽く振るう。それに合わせ海の遠くに小さな波ができ、その波は徐々に巨大になっていく。その波は進むほどに大きく高くなる。1mや10mの高さではない。100m近い巨大な津波が龍の国めがけて押し寄せてきた。
これほど巨大な津波を前にして大地は無力なものだ。巨大な津波を前に大地の全てが飲み込まれる。人も建物も木々も草花も何もかもが飲み込まれ、何もかもが破壊される。5億いた人間もあっという間に半分近く飲み込まれた。
そして飲み込んだタイミングでミスティルティアが動く。全てを破壊する津波に小さな氷の粒を撒く。その氷の粒は海の表面に触れるとそこから急激に凍りつかせた。全てを破壊する巨大な津波は瞬く間に巨大な氷のオブジェに変貌したのだ。
『ヒョウ・……ふぇ!?』
「半分くらい片付いたかしら?ああ、一応逃げられないように第二波の津波で囲っておこうかしら。」
そういうと2発目の津波に目を向け、軽く息を吹きかける。すると巨大な津波は龍の国のある大陸全てを囲う巨大な氷の壁に変貌した。この氷を前にしてはもう誰も逃げることはできない。ポセイドルスもこの光景を見てもうやることはないと暇そうにあくびをしている。
『ヒョウ・無茶苦茶すぎません?』
「1億いようが10億いようが魔神の前で数は意味をなさない。単純なことよ。半分は片付けたし、あとは神剣に任せても良いかしら?」
ミスティルティアはそう言いながらも徐々に内部の氷を動かし、確実に敵の数を減らしていく。5億いた敵ももう3億もいない。そして今も急激な速度で減少し続けている。
「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ……」
白い息を吐きながらランニングしている一人の男がいる。神剣イッシンだ。ミスティルティアの影響で内部の気温はマイナス10度まで下がっている。寒そうにしながらランニングしているイッシンの周囲には残り3億の敵の姿がある。
ただイッシンの様子はごくごく普通にランニングしているだけだ。その周囲には敵だったものがバラバラになった状態で転がっている。敵はイッシンに向かって押し寄せてくる。しかし誰一人としてイッシンに触れることどころか、近づくこともできない。
それもそのはずだ。イッシンはランニングしながら超高速の居合術で敵を切断し続けている。ただその斬撃はイッシン以外の誰にも視認することができないため、ただランニングしているようにしか見えないのだ。
『ケン・……ものすごい敵の数だね。』
「そうだねぇ。殲滅力ないからこういうとき大変だよ。魔法使えたらなぁ…」
そう言いながら秒間100人近くを斬り伏せていく。このレベルなのに殲滅力がないとは一体どういうことなのか。正直意味がわからないところだが、一撃の魔法で2億人近くを氷漬けにするのに比べてしまうと確かに殲滅力はないのかもしれない。
「強そうな人いないし、この調子なら今日中には片付くかな?本当は夕飯までには帰りたかったけど、さすがにそれは無理そうだなぁ。」
イッシンはため息をつきながら殲滅していく。すでに勝負はついたと言わんばかりの余裕さまである。一方その頃、同じく5億の敵と戦っている法国側ではアレクリアルがただ呆然と眺めていた。
『ユウ・アレクリアル様。僕たちどうしますか?』
「……どうするもこうするもない。こんなことになっては我々の出る幕はないだろ。」
イッシンとは別の意味でため息をつくアレクリアル。そんなアレクリアルの眼前では世界の終わりが見えている。
空から降り注ぐ隕石群。そんな隕石群をも飲み込むほどの竜巻の数々。突如吹き上がる溶岩。大地を打ち崩す稲妻。一つ一つが大国をも揺がすほどの天災である。そんなものを生み出しているのが神魔のフェイである。
これだけの大魔法を前にしては5億の軍勢もアリンコほどの脅威でしかない。すでに半数は壊滅し、今日中には全て片付くことだろう。仮にここに10億、20億と敵がいたとしても結果は同じだ。そんな大魔法を連発しているフェイはなんとも余裕そうである。
「にゃははははは!これならすぐにおやつの時間にできそうなのだ!」
『白之拾壱・たんまり美味しいおやつ用意しておきますよ。それを食べたらみんなでゲームして遊びましょうか。』
「遊ぶ!」
フェイは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。フェイにとってこの程度のことは朝飯前である。ただアレクリアルとしてはこれだけの大魔法を連発されると間違いなく数年は天変地異が起こると今から頭を抱えている。
魔神が動く戦争の場合、戦いそのものの勝ち負けはどうでも良いのだ。重要なのはその戦いの影響で世界にどう変化が起こるかだ。そのあたりを重要視して考えなくてはならないのだが、フェイはそこまで考えていない。
そしてそんな報告を受けたミチナガは思考停止からようやく復帰した脳が、再び思考停止を起こす。そしてなんとかもう一度復帰した脳で、今度はこの戦いの影響で起こりうる気象変動などを予測し、それにより起こる各国での食糧生産問題に対する対策を考える。
一難去ってまた一難とはまさにこのことだ。セキヤ国に戻り優雅な日々を過ごすのはもうしばらく先のことになりそうだ。
そんなミチナガはふとその場から飛び上がった。何かわからない違和感。その違和感はミチナガの身体中に鳥肌を起こし、身体の震えを起こした。ごく少数にだけ伝わる異変。その異変を一番に感じたのは法国と龍の国で戦っている魔神たちだ。
イッシンもフェイもその違和感に動きを止め、その違和感の発信源を探る。その違和感は法国、龍の国両国の中心部から感じていた。
だがそう考えているものとそうで無いものがいる。それは今もため息をつきながら思い腰をあげてゆっくりと歩き始めた。
「はぁ…魔法で人間を生み出す方法でも覚えたのかしら。本当に面倒ね。あなたたちは邪魔だから下がっていなさい。なんなら帰ってもいいわ。」
「はっ!全軍に告げよ!我々は撤退だ。」
『ヒョウ・ご、5億の軍勢がいるようですけど…いいんですか?』
「たかが有象無象でしょ?ああでも…ポセイドルスと共闘しようかしら?その方が簡単そうだし。連絡してくれる?」
氷神ミスティルティアの言葉に二つ返事で行動に移すヒョウ。具体的にどう連携するのか何も聞いていないが、海神ポセイドルスに共闘の旨を伝えるとポセイドルスもすぐに自軍を撤退させた。
「やれやれ…しばらくはこのあたりに近づくのはやめておこう。寒くてかなわんからな。それじゃあいくぞ。」
ポセイドルスは手に持つ王の証であり、9大ダンジョン深海のアトランティスから出土したゲイボルグを掲げる。すると穏やかな海面が波打ち始め、急に荒々しい波を立てるようになった。
さらにそこからポセイドルスがゲイボルグに魔力を注ぎ込む。すると今度は逆に波が穏やかになる。しかしその代わりに徐々に徐々に海面が下がっていく。10m、20mと海面が下がっていくと海から強大な力を感じ始めた。
ポセイドルスはゲイボルグを軽く振るう。それに合わせ海の遠くに小さな波ができ、その波は徐々に巨大になっていく。その波は進むほどに大きく高くなる。1mや10mの高さではない。100m近い巨大な津波が龍の国めがけて押し寄せてきた。
これほど巨大な津波を前にして大地は無力なものだ。巨大な津波を前に大地の全てが飲み込まれる。人も建物も木々も草花も何もかもが飲み込まれ、何もかもが破壊される。5億いた人間もあっという間に半分近く飲み込まれた。
そして飲み込んだタイミングでミスティルティアが動く。全てを破壊する津波に小さな氷の粒を撒く。その氷の粒は海の表面に触れるとそこから急激に凍りつかせた。全てを破壊する巨大な津波は瞬く間に巨大な氷のオブジェに変貌したのだ。
『ヒョウ・……ふぇ!?』
「半分くらい片付いたかしら?ああ、一応逃げられないように第二波の津波で囲っておこうかしら。」
そういうと2発目の津波に目を向け、軽く息を吹きかける。すると巨大な津波は龍の国のある大陸全てを囲う巨大な氷の壁に変貌した。この氷を前にしてはもう誰も逃げることはできない。ポセイドルスもこの光景を見てもうやることはないと暇そうにあくびをしている。
『ヒョウ・無茶苦茶すぎません?』
「1億いようが10億いようが魔神の前で数は意味をなさない。単純なことよ。半分は片付けたし、あとは神剣に任せても良いかしら?」
ミスティルティアはそう言いながらも徐々に内部の氷を動かし、確実に敵の数を減らしていく。5億いた敵ももう3億もいない。そして今も急激な速度で減少し続けている。
「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ……」
白い息を吐きながらランニングしている一人の男がいる。神剣イッシンだ。ミスティルティアの影響で内部の気温はマイナス10度まで下がっている。寒そうにしながらランニングしているイッシンの周囲には残り3億の敵の姿がある。
ただイッシンの様子はごくごく普通にランニングしているだけだ。その周囲には敵だったものがバラバラになった状態で転がっている。敵はイッシンに向かって押し寄せてくる。しかし誰一人としてイッシンに触れることどころか、近づくこともできない。
それもそのはずだ。イッシンはランニングしながら超高速の居合術で敵を切断し続けている。ただその斬撃はイッシン以外の誰にも視認することができないため、ただランニングしているようにしか見えないのだ。
『ケン・……ものすごい敵の数だね。』
「そうだねぇ。殲滅力ないからこういうとき大変だよ。魔法使えたらなぁ…」
そう言いながら秒間100人近くを斬り伏せていく。このレベルなのに殲滅力がないとは一体どういうことなのか。正直意味がわからないところだが、一撃の魔法で2億人近くを氷漬けにするのに比べてしまうと確かに殲滅力はないのかもしれない。
「強そうな人いないし、この調子なら今日中には片付くかな?本当は夕飯までには帰りたかったけど、さすがにそれは無理そうだなぁ。」
イッシンはため息をつきながら殲滅していく。すでに勝負はついたと言わんばかりの余裕さまである。一方その頃、同じく5億の敵と戦っている法国側ではアレクリアルがただ呆然と眺めていた。
『ユウ・アレクリアル様。僕たちどうしますか?』
「……どうするもこうするもない。こんなことになっては我々の出る幕はないだろ。」
イッシンとは別の意味でため息をつくアレクリアル。そんなアレクリアルの眼前では世界の終わりが見えている。
空から降り注ぐ隕石群。そんな隕石群をも飲み込むほどの竜巻の数々。突如吹き上がる溶岩。大地を打ち崩す稲妻。一つ一つが大国をも揺がすほどの天災である。そんなものを生み出しているのが神魔のフェイである。
これだけの大魔法を前にしては5億の軍勢もアリンコほどの脅威でしかない。すでに半数は壊滅し、今日中には全て片付くことだろう。仮にここに10億、20億と敵がいたとしても結果は同じだ。そんな大魔法を連発しているフェイはなんとも余裕そうである。
「にゃははははは!これならすぐにおやつの時間にできそうなのだ!」
『白之拾壱・たんまり美味しいおやつ用意しておきますよ。それを食べたらみんなでゲームして遊びましょうか。』
「遊ぶ!」
フェイは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。フェイにとってこの程度のことは朝飯前である。ただアレクリアルとしてはこれだけの大魔法を連発されると間違いなく数年は天変地異が起こると今から頭を抱えている。
魔神が動く戦争の場合、戦いそのものの勝ち負けはどうでも良いのだ。重要なのはその戦いの影響で世界にどう変化が起こるかだ。そのあたりを重要視して考えなくてはならないのだが、フェイはそこまで考えていない。
そしてそんな報告を受けたミチナガは思考停止からようやく復帰した脳が、再び思考停止を起こす。そしてなんとかもう一度復帰した脳で、今度はこの戦いの影響で起こりうる気象変動などを予測し、それにより起こる各国での食糧生産問題に対する対策を考える。
一難去ってまた一難とはまさにこのことだ。セキヤ国に戻り優雅な日々を過ごすのはもうしばらく先のことになりそうだ。
そんなミチナガはふとその場から飛び上がった。何かわからない違和感。その違和感はミチナガの身体中に鳥肌を起こし、身体の震えを起こした。ごく少数にだけ伝わる異変。その異変を一番に感じたのは法国と龍の国で戦っている魔神たちだ。
イッシンもフェイもその違和感に動きを止め、その違和感の発信源を探る。その違和感は法国、龍の国両国の中心部から感じていた。
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