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第437話 魔神大連合

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「全軍傾聴!魔国国王ガンドラス陛下のお言葉である。」

 魔国国王ガンドラスの登場に兵士たちは大いに盛り上がる。魔国において王に必要なのは力であった。歴代の魔国の王たちは力を示すことで国民を従わせて来た。この熱狂もガンドラスの武力の高さゆえである。

 しかし現在は力で言えば現魔神で愛娘の神魔のフェイミエラルの方が圧倒的に上だ。しかし国民もそれでは国が傾くとわかるからこそ、今尚ガンドラスを王として仰いでいる。だからガンドラスは魔国初の力ではなく、知力で王を続ける国王でもある。

 そんなガンドラスのために立ち上がった兵たちは魔人と呼ばれる異形の人型の軍隊である。魔人とは百以上の人型知性種族の総称だ。人間よりもモンスターに近い種族も多く、その形態による特性により扱う魔法も独特だ。

 ただ力こそ全てと考える種族が多いのと、その独特な魔法と戦い方により、世界でも三指に入る屈強な軍隊だ。そんな魔人の軍隊が100万以上大部隊で陸地に整列している。敵対するものが見たら腰を抜かして泣いて許しを乞うことだろう。

 そしてその地とは反対側の海の上、そこにはこの世界で誰も見たことがない巨大な戦艦が数十隻浮かんでいる。その戦艦の旗印は勇者神のものだ。勇者神アレクリアルの大船団が法国を取り囲むように並んでいる。

 魔国、英雄の国の2大魔神大国による法国包囲網である。さらに法国の真上には神魔の魔神、フェイミエラル・エラルーが浮かんでいる。その肩の上にはミチナガの使い魔の姿もある。フェイは宙に漂いながら作戦決行の合図を待っている。

 そしてその地から遠く離れた場所でも似たような現象が起きている。龍の国である大陸を取り囲むように軍が整列している。海を凍らせながら一歩一歩確実に進んでいるのは氷神ミスティルティアとその配下の軍勢数十万。

  そしてそこから離れた場所、穏やかな海の中では海の穏やかさとは裏腹に海中に数十万の大部隊が整列している。海神ポセイドルスの軍隊だ。陸地では力を発揮できない魚人族だが、海の中では最強の種族である。

 そしてこちらも同じように上空には神剣の魔神、ロクショウ・イッシンの姿がある。こちらにも同じようにミチナガの使い魔が肩に乗っている。

『ケン・これどういう原理で浮かんでるの?』

「ん~空間を切り裂いた際に出る歪みみたいなのが質量を持っていて、そこに乗っているってことらしいよ?」

『ケン・ことらしいよって…ちゃんとわかってないの?』

「その辺はよくわからなくて、研究者がそう言ってた。こっちとしては適当に切ってたらできただけだし。それよりもそろそろ準備はいいのかな?なんか魔国も動いたらしいけど。」

『ケン・娘が心配で軍動かしたらしいよ。どんなに強いって言っても親は心配しちゃうんだね。まあこっちとしてはありがたいけど。後動くのはもうちょっと待って。今妖精の国も動いているから。』

 人間界とは隔絶された空間の妖精界。そこの女王である妖精神ピクシリーも秘密裏に動いている。すでにミチナガより世界樹製の力の回復薬も受け取っているため、大きな戦力になることだろう。

 これで神魔、神剣、勇者神、海神、妖精神、氷神の6大魔神が勢揃いした。対するは法国と龍の国。はっきり言って結果はもう見えているようなものだ。しかしそんな中、法国のとある場所にもう一人の魔神の姿が見えた。

「あ゛?酒が切れたぞ!追加の酒もってこい!!」

『黒之伍佰・あまり調子にのるなよギュスカール。酒はそれで最後だ。もうすぐ作戦が始まる。黙って準備していろ。』

「なんだとちっこいの。この俺様のいうことが聞けねぇっていうのか?この世から消し去ってやるぞ?あ゛?」

『黒之伍佰・やれるものならやってみろ。こっちとしては仕事さえすれば問題ない。仕事もせずにこの地から離れたら…わかっているな?』

「チッ!働きゃいいんだろ働きゃ!クソが!!」

 崩神ギュスカールは嫌そうな表情をしながら立ち上がり、腕を回し始めた。前回の法国との戦争の際には法国側についたギュスカールが今回は法国と敵対する側に立っている。なぜこんなことになったか、それは数ヶ月前に遡る。



 とある酒場。そこで一人大酒を飲む男がいた。ギュスカールだ。ギュスカールは戦争に参加しないときはこうして街中で酒をよく飲んでいる。あっちこっちフラフラ歩いているので消息を掴むのも一苦労だ。

 しかしそんな酒を飲むギュスカールの元に一人の人影が現れた。護衛も引き連れず一人でやってきたのはミチナガだ。

「ギュスカール。仕事の話がしたい。」

「あ?どこのどいつだ?まあ俺のこと知ってんなら戦争とかそんな感じだろうな。いいぜ、暇だからとりあえず話くらい聞いてやっても。」

 ギュスカールは実に素直にミチナガの話に乗った。そして酒場の一室を借りると早速仕事の話が始まる。

「それで?相手は誰だ。」

「お前には法国と相手してもらう。作戦には英雄の国と魔国が加わる。両国には手を出すな。お前には南方を担当してもらう。」

「おいおい随分でかい仕事だな。簡単に作戦について教えろ。」

「いいだろう。」

 ミチナガは3分ほどで今回の法国と龍の国の殲滅作戦について話す。それを聞いたギュスカールは途中からつまらなそうな表情に変わった。

「やめだやめ。その依頼断る。そんな勝ちがわかったようなつまらん戦争に参加しねぇよ。…それよりも法国と龍の国に加担した方が面白そうだ。俺が向こうに加わりゃ戦力も拮抗して面白くなんだろ。」

「ここまで話を聞いた時点でお前に拒否権はない。黙って従え。」

「うるせぇ野郎だな。この情報持って向こうに行きゃ報酬もたんまり貰える。雑魚なお前を消せば情報が漏れたこともバレねぇよ。面白くなってきたぞぉ!」

 ギュスカールはニンマリと笑みを浮かべる。戦闘狂であるギュスカールにとって勝ちのわかった戦争よりもギリギリの戦いの方が好みだ。前回は煉獄に邪魔されたが、今回は思いっきり楽しめそうだと喜んでいる。しかしミチナガは表情を変えずに書類を取り出した。

「言っただろ?お前に拒否権はない。もしも俺を消したりしたら…どうなるかわかるな?」

「あ?お前ごときが何を…」

「読んでみろ。」

 ミチナガは取り出した書類をギュスカールに見せる。するとギュスカールの表情が一変した。先ほどの笑みから怒りを隠そうとする形相に変わっている。

「テメェ…何者だ。」

「前回お前が攻め込んできたセキヤ国の国王だ。そして英雄でもあり、今回の連合の立役者でもある。戦力は多ければ多いほど良いからな。お前がまた法国に尻尾を振る前に手を打たせてもらった。まさかあのギュスカールに家族がいたとはな。しかも嫁さんは5人もいるのか。あれだけ戦争で金を稼いでいる割にこんな安酒場で飲んでいるのが不思議だったが…お前にも人の心はあったようだな。」

 ミチナガが見せたのはギュスカールの調査報告書だ。そこにはギュスカールに大勢の家族がいることが書かれており、子供達を溺愛していると書かれている。そしてその最後には人質の価値ありとも。

「俺は商人でな。商人のでかいパイプがある。それこそ俺に逆らったら二度と商売できなくさせることができるほどにな。お前のところにも数人商人が入っているな。しかも人に知られないように家族を山奥で暮らさせているせいで商人が来なくなったら…大変なことになるな。」

「…俺の家族に手を出してみろ。死ぬほど後悔…いや監獄神でも考えつかないようなおぞましい結末が待っているぞ。」

「それは怖いな。だがそんなことをすればそうなるのはお前の家族かもな。かわいい子供達とまた会いたいだろ?黙って従え。報酬くらい払ってやる。それに子供達に美味しいお菓子を届けてやるぞ?」

 ミチナガはさらに挑発する。ギュスカールの形相は見たこともないほどおぞましいものに変わっている。しかしミチナガは一切動じない。それどころか余裕の笑みまで浮かべている。

「今お前をここで消して家族を避難させれば良いだけだ。俺にかかればそのくらいいくらでも…」

「お前の背後にいる二人を倒してか?」

 ギュスカールはバッと後ろを振り向く。そこにはヴァルドールとナイトの姿があった。ギュスカールは二人の実力をすぐに察した。そして歯を噛み砕くほど歯を食いしばった。

「テメェ……」

「前回の戦争の際、セキヤ国の被害は特に出なかった。しかし法国の補給部隊を止めようとしたシェイクス国の兵士8000が跡形もなく消えていた。お前の仕業だ。シェイクス国は俺の友の国だ。その兵士は俺の友の家族だ。先に手を出したのはお前だギュスカール。俺をナメるなよ。お前が今回の戦争で活躍すればその時のことは忘れよう。いいか?最後だ。黙って俺に従え。」

 ミチナガは怒りの形相でギュスカールに詰め寄る。ギュスカールも必死に怒りの表情を浮かべているが、家族を守るために返事は一つしかありえなかった。

 こうして敵国である法国と龍の国、それから犯罪者を捕まえることにしか興味がない監獄神を除いた7人の魔神による大連合が完成した。
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