スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第435話 メリアと女王2

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「…随分眠っていたようね……」

 女王は頭だけを動かし窓の外を眺める。日はすでに高く上がっている。どうやら長時間のマッサージの影響でぐっすりと眠ってしまっていたようだ。上半身を起き上がらせると部屋を見渡す。そこにメリアたちの姿はなく、部屋にいるのは女王一人だけだ。

 どうやら女王が頼んだ化粧などは女王が寝ていたため、一度休憩になったのだろう。しかし今はそんなことよりも喉が渇いた。マッサージで随分汗をかいたから喉がカラカラなのだ。すぐに手を伸ばし、ベッドの横のテーブルに置かれている呼び鈴を鳴らす。するとものの数秒でメイドが部屋に入って来た。

「失礼いたします。どうなされ…」

「喉が渇いたの。何か持って来てくれる?」

「……………」

 女王は部屋に入って来たメイドに指示を出す。しかしメイドは部屋に入って来た途端、こちらを見たまま動きを止めてしまった。しばらく待っていても一向に動こうとしないメイドに女王は戸惑う。

「ねぇ…聞いているのかしら?」

「え!…も、申し訳ありません!どのようなご用件で…」

「だから飲み物を持って来て。」

「す、すぐにご用意します!」

 メイドは顔を赤くしながら慌てて部屋を出る。いつもはこんなことがない優秀なメイドだというのに、今日に限って一体どうしたというのか。そのまましばらく待っていると先ほどのメイドが飲み物を持ってやって来た。そしてその背後にはメリアたちの姿もある。

「失礼いたします女王陛下。よくお眠りになられましたか?」

「ええ、随分ぐっすり眠てしまったわ。ではこれを飲んだら続きをしてくれるかしら?」

「わかりました。すぐにご用意します。」

 女王が喉を潤している間にメリアたちは準備に取り掛かる。部屋に運び込まれたのは数着の衣装に、それに似合う靴と髪飾りなどの装飾品。女王がその中から1着の衣装を選ぶとその衣装に合わせて靴や装飾品を選んでいく。

 そして女王が喉を潤すとすぐに衣装替えが始まる。髪を整え、装飾品の位置を事細かに変えていく。その様子をいつのまにか部屋に集まって来た数人のメイドたちが歓喜の表情で見守る。ただ不思議なことに化粧だけはささっと終わってしまった。

「ねぇ…もっと化粧はしなくて良いのかしら?」

「寝ているうちに終えていますよ。今は多少の手直しだけです。」

「あら…そうなの?」

 女王はすでに化粧が終わっていたことを今になって知る。ただ鏡がないので自分の顔を見ることができないのだ。一体どんな仕上がりになっているのか、かつての美貌は取り戻せたのか、それが気になって仕方ない。

 それから十数分後、メリアが頷いたところで全ての作業が終了した。女王は自分がどうなっているのか早く知りたい。

「ねぇ…鏡を持って来てくれるかしら?」

「いえ女王陛下。鏡を見に行きましょう。いつまでもこんな塔の上にいるのは良くありません。」

「でも…人に見られるわ。」

「いいえ。見せに行くのです。」

 メリアは微笑みながら手を差し出す。女王はメリアの表情を見ながらゆっくりとその手を掴んでしまった。なぜこの時、メリアの手を掴んだのか、その答えはわからない。しかしこの手を取りたくなってしまったのだ。

「その前に…私の香水です。これで最後におまじないをかけましょう。」

 メリアは女王の後ろに回り込み、首に香水を一度吹きかける。首元から強い香水の匂いが立ち上る。正直この香水は良い香りとは言えない。女王は文句を言いたくなったが、メリアの自信溢れる表情にそんな言葉などすぐに忘れた。

 女王はメリアに連れられ長い螺旋階段を降りて行く。女王は今になってこの塔の上に住んでいたことを悔やんだ。自身の老体にこの螺旋階段はきつすぎる。息も上がって、何度か休憩を入れながらようやく階段を降りた。

「少し休憩しましょう。目的の場所まであと少しですよ。」

「え…ええ…わかったわ。」




「だらしがないぞぉ!なんだそのへなちょこな剣は!やる気がないのかぁ!」

 練兵場で人一倍大きな声を出す老人の周りには地面に寝転がる幾人もの騎士の姿がある。寝転んでいる騎士たちは全員この老人によって倒されたものたちだ。この老人は前騎士団長で、第一線は退いたが、騎士たちの教官として今でも存分に力を振るっている。

 正直今でも第1線で活躍できるのではと考えるものたちは多いが、本人はかつてのように動けなくなり戦場ではその思考と肉体の差が致命的になる。だからこそ後進を育てることに力を削ぐ。

「教官殿。も、もう一度お願いします。」

「よく言った!よし来い!!」

 再び模擬刀を交える騎士たち。その訓練の激しさはなかなかなものだ。すると一人の騎士が訓練途中だというのに突如動きを止めて、その場で棒立ちになっている。そんな騎士を見た他の騎士は何事かとその棒立ちの騎士が見ている方を見るとその騎士も同じように棒立ちになった。

「貴様ら!さっきの威勢の良い声はどうした!一体何を見て……」

 老人も同じ方を向く。するとそこには塔から出て来た女王の姿があった。この老人は女王が表舞台で活躍している時代からこの国に仕えてきた騎士だ。幾度となく若かりし女王の姿を見ている。そしてかつてはこの女王に恋をしたものだ。しかし身分も違い、既婚者の女王に仕方なく諦めていた。

 しかしそんなのはもう何十年も前のこと。自身も衰え、若く強靭な肉体も随分ボロボロになった。寄る年並みにはどんな屈強な男も勝てない。そしてそんな老人と同じように美しい女王の美貌も年月によって劣化してしまう。

 しかし老人は見た。美しい女王の姿を。かつての美貌はそこにはない。ハリツヤのある肌も、誰もが憧れるスタイルもない。顔にはシワがよっている。若い頃とは何もかもが違う。だというのにこの女王は息をのむほど美しかった。

 この若い騎士たちにとっては今の女王などおばあちゃんのようなものだろう。下手したら自身たちの祖母よりも年が上かもしれない。しかしそれでも若い騎士たちは女王から目が離せなかった。そして気がつけば老人は若い騎士たちを連れて女王の元まで近づいていた。

「え…もしかしてバグロム?」

「お、覚えていてくれましたか女王陛下。お姿が見えたのでご挨拶に参りました。」

「ええ…あなたのことを忘れるわけがないわ。…そう。精悍だったあなたも随分歳をとったのね。私も年をとるはずだわ。」

「ええ、お互いに年をとりました。私は体が衰え、第一線からは退きました。歳には勝てません。しかし女王陛下、あなたはいつまでもお美しいままなのですね。かつてと変わらない。いえ、あなたは今が一番美しい。」

「嬉しいわ。あなたはいつまでもそう言ってくれるのね。私はまだ自分の姿を見ていないの。大広間の鏡のところへ向かっている途中なのよ。」

「そうでしたか。それでは女王陛下。連れそうメイドなどはおるようですが、騎士がおられないようです。お供してもよろしいですか?」

「あなたが来てくれればこれほど頼もしいことはないわ。」

 老人バグロムはすぐにそのまま後をついていく。するとバグロムは女王からほのかに香る香水の香りを嗅いだ。先ほどの螺旋階段の影響で血行が良くなり、香水の香りが完成したのだ。その香りにバグロムは心臓が破裂するほど脈打っている。老体にこの興奮はきつい。

 その背後には若い騎士たちもいる。そしてその若い騎士たちはバグロムの変化を見た。いつも怒号をあげていても声には歳のせいで力が入っていなかった。体にもどこか覇気が足りなかった。

 しかし今はどうだ。溢れんばかりの覇気が、闘志が体から溢れ出ている。これが本当に第一線を退いた老騎士なのだと誰が信じてくれるだろう。

 その後も女王の行進は止まらない。道すがら出会った文官や衛兵も女王の姿を見ると頭を下げることすら忘れ女王に魅入っている。特に歳が上のものたちなら顔を赤らめるほどだ。

 そしてようやく女王は大広間にたどり着いた。そしてそこにある大きな鏡で初めて自身の姿を見た。しわくちゃな顔、手も小枝のようになってしまった。女王が求めるかつての姿はそこにはない。

 しかし女王はここに来るまでの間に全てを知った。うら若き乙女の姿でなく、こんなおばあちゃんになっても皆美しいと言ってくれる。そう思ってくれる。するとメリアが女王の横に立った。

「肌に薬を投与し、シワを無くすことも考えました。しかし美とはそうではありません。長い年月により若い頃の肉体は失いました。しかしそれ以上のものを得ています。女王陛下、あなたは今が一番美しいのです。」

「ふふふ…考えたわね。塔の上で、その場で鏡を見せられていたらあなたを罵倒していたことでしょう。しかしそうね。みんなはそう思ってくれるのね。ねぇ…私の肖像画があったでしょう?大きなやつが。連れて行ってくれるかしら。」

 女王の求めに従いすぐに案内する。それは城の一番目立つ場所に飾られていた。巨大なかつての女王の肖像画だ。なんとも美しいその肖像画にこれまで幾人もの王たちがこの絵を求めたという。そして女王の一番嫌いな絵だ。もう二度と戻ることのできない自身の姿。しかし女王はその絵を前にして微笑んで見せた。

「このころはまだ若いわね。ねぇ…この絵を描いた画家はまだ生きているわよね?」

「はい。今は人里離れた地で芸術活動に勤しんでいると聞きました。」

「連れて来てくれるかしら。もう一度描いて欲しいの。今の私の姿を。」

「はい、すぐにお連れします。」

「それからメリアさん。ありがとう。素晴らしい腕前だわ。しばらくの間この地に滞在してくれないかしら。必要なものは全て揃えるわ。それからあなたの身も絶対に守ります。」

「ありがとうございます。」

 この日から女王は再び表舞台に戻って来た。年をとった女王が表舞台に戻って来たという話題はしばしの間国民を不安にさせたが、その姿を見ると美しさは健在だと国を大きく盛り上げた。

 それから辺境の地で芸術家をしていた男は城に来るのを嫌がり、騎士たちの言葉も突っぱねていた。仕方なく女王自らその芸術家の元に赴くと変わらずの美しさを見て、自身の非礼をおでこから血が滴るほど詫びたという。

 そしてこの日から世界にもう一人の魔帝クラスが誕生した。美帝メリア。魔王クラスの殻を破り、飛躍的に成長した彼女はミチナガ商会の大幹部の一人として恥じぬほどになった。



『ムーン#2・こちらチームメリア。戦力確保しました。とりあえず安全は確保できましたよ。』

『ポチ・ご苦労様。戦争が始まったら武力のないメリアが心配だったからね。ボスは僕たちが守るからね。ナイトに関してはダンジョンに入ったから戦争に巻き込まれることはない。ヴァルくんに関してもVMTランドが安全地帯として利用されるから問題ない。あとはアンドリューさんか。まああの人はアンドリュー自然保護連合同盟があるから大丈夫でしょ。』

『リュー・まあそうだけど、それ以上に大丈夫そうだよ。っていうのもね…』

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