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第433話 ヴァルドールとVMTランド
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「本日の来場客数2万人を超えました。これでようやく10日間連続で1万人を超えました。来月からは月の来場客数50万人超えていきそうです。」
『ヨウ・ようやく人の出入りが安定してきたね。各国で復興もある程度済んで余裕が出てきたおかげだね。ただ…月の来場客数のうちの3万人ほどは招待客だ。自力で50万人は超えてもらわないとね。目指すは年間1000万人なんだから。』
閉園後のVMTランドでヨウは今日の来場客数の報告を受けている。ランドの中は昼間の賑やかさとは打って変わって驚くほどの静けさだ。閉園後に行っているアトラクションの点検整備も全て終えて、あとはこの報告さえ終われば本日の業務も終了だ。
VMTランドは開園当初の1日の来場客数数百人から今の2万人に成長した。数年がかりでここまで成長したが、この数年間は大きな増減を繰り返していた。
まずランドの来場客数が一番増えた要因は魔導列車の開通だ。交通の便があまりよくなかったヨーデルフイト王国で魔導列車なしで1万人を超える来場客数を望むのは難しかった。今は英雄の国から1時間に一本の魔導列車を、線路を増設して1時間に三本まで増やそうとしている。
さらにアンドリューとも相談し、アンドリュー自然保護連合同盟の中で魔導列車の路線を作り、さらなる集客を目指そうとしている。ただこれに関しては国家間の問題もあるため、どんなに頑張っても実現するのは数年は先になるだろう。
だがこれまで日の来場客数が1万人を超えることは何度かあった。しかしそれが大きく減少する出来事があった。それは法国との戦争だ。本来法国との戦争さえなければ今頃は5万人を超えていたかもしれない。そういった意味では正直開園の時期は悪かったと言える。
だがそれでもミチナガ商会での広告活動や新しいアニメ作品の作成で知名度は間違いなく上がっている。これでもう少し世界のゴタつきが治まれば他国でもVMTランドを作ることができるだろう。
ヨウはとりあえず安定して増えてきた来場客数を嬉しく思いながらも決して満足せずに次なる戦略を考える。とりあえず今はランドの増築を目指している。
今、ランドの西側から北側にかけて大きく敷地面積を増やし、新しいアトラクションを3つほど増やす予定だ。さらにいくつかのアトラクションを新しく作り変える予定もある。事業費は莫大なものになるが、ミチナガ商会からの出資とこれまでの儲けでなんとかなる予定であった。
しかしここ最近、いくつかの資産家から出資の申し出があった。それは単に商会としての広告としてというものもあるが、単純にファンで好きなシリーズ作品をモチーフにしたアトラクションを作って欲しいというものもある。
これに関してはかなりの議論を呼んだ。それこそヴァルドールと使い魔たちで何度も会議を開いたほどだ。そしてその結果、いくつかの条件のもと出資を飲むことにした。
正直金はミチナガ商会を頼ればいくらでもなんとでもなる。しかし長い目で見れば他商会からの出資というのは利点が多い。出資を通じて他商会との大きな繋がりを得られるし、金銭面にこれまで以上に余裕が出る。
他にも様々な利点が考えられたため、出資を受けることとなった。現在新しく開発しているアトラクションは全てミチナガ商会とは関係のない商会からの出資だ。資金も潤沢なようでクオリティを落とす必要性はない。
今後VMTランドは飛躍的な成長を遂げることだろう。ただこれから起こるであろう法国、龍の国との決戦次第で再び来場客数は大きく減少する。かつては多くの戦争を起こしたヴァルドールが今度は戦争によって被害を被るとは皮肉なものだ。
そんなヴァルドールは今日も部屋にこもっている。新しい作品づくりのためだ。ヨウも一通りの報告を受けるとその場を後にしてヴァルドールの元へ向かう。
長く静かな廊下。すでに消灯されており人の気配もない廊下の先に扉がある。ヨウはその扉の横に設置されている機械にキーカードを通す。そしてキーカードが認証されると扉が開く。扉の開いた先にはこれまでの静けさとは打って変わった喧騒があった。
「452番終わりました!チェックお願いします!」
「おい!ここのアニメーションやったやつ誰だ!動きが硬くて綺麗な水の表現できてないぞ!」
「次のシーン来ましたよ。D班は今の所が終わったらこっちに取り掛かってください。あ、ヨウさん!今日の業務は終わりましたか?どうでした?」
『ヨウ・順調に終わったよ。この調子でいけばとりあえず来月は50万人超える。そういえばこの間の新作アニメの評判良いよ。映画館の来場客数も良い感じ。次のやつも期待されているよ。』
「よかったぁ…まだところどころ粗があると思って心配していたんでよかったです。ああ、そういえば来月には5人ほど人員増やせそうです。」
ヨウは一人のアニメーターから資料を渡される。そこには現在の新人アニメーターの一覧が記録されている。100人以上いるのだが、その中から5人だけ赤い丸印がされている。
現在VMT作品の作画を任されているアニメーターは30人に満たないほどだ。その中でも一流だと信頼されているものは5人に満たない。正直アニメーターの質も数も全く足りていないのが現状だ。
そもそもアニメというものはこの世界にはなかった。だからアニメーターという仕事につける人は存在しなかった。初期の頃は使い魔たちとヴァルドールだけで行っていたほどだ。しかしVMT作品に魅了された人の中から働かせて欲しいという人が何人も現れ、ここまでの大所帯になった。
しかしそれでもまだまだ人は足りていない。そのため新人のアニメーターを100人ほど育てているのだが、ものになるのはまだまだ数人だ。もう少し人が増え、技術力が上がれば長編大作を作ろうと考えているようで、すでにいくつかシナリオが用意されている。
『ヨウ・じゃあ来月からその5人はメンバーに加えておいて。リーダーは…ヤマさんに任せようかな。ヤマさん技術力高いし適任じゃない?』
「技術は高いんですけど作画スピードがまだまだなんですよねぇ…まあでも確かに適任かもしれません。そのように伝えておきますね。」
『ヨウ・他にもあるようだったら書類にしてまとめておいて。ちょっと先生の様子を確認してくる。』
「わかりました。………あの…やっぱり私たちはまだ先生には…」
『ヨウ・ごめんね、恥ずかしがり屋だから。でも……近いうちに顔出しできると思うよ。あ、エリーは今どうしてる?』
「エリー先生はお休みになられました。この進捗具合だと明日には新しい絵本が完成しそうですよ。」
『ヨウ・順調そうで何より。それじゃあ行ってくるね。』
ヨウは部屋の端にある別の扉にキーカードを通す。この部屋のキーカードはヨウと一部の使い魔たちくらいしか持っていない。ここにいるアニメーターたちは決してこの扉の奥に入ったことはない。
ヨウは扉を開くとその先にある長い螺旋階段を上っていく。そしてその螺旋階段の先、軽い木の扉の先に、薄暗い中でカリカリと音を立てながら書き続けるヴァルドールはいる。
「……ヨウ殿ですか。本日はどうでしたか?」
『ヨウ・2万人超えて順調になって来たよ。来月は50万人超えそう。』
「それはよかった。しかし…近々動きがある様子ですな。また来場客数が減りそうです。……やはり戦争というのは何も生みません。悲しみがあるだけです。」
『ヨウ・まあそれでも…今回の戦争が終われば静かになると思うよ。そうすればしばらくの平和が訪れる。それまでの辛抱さ。』
「しばらくの平和……永遠の平和とは言ってくれないのですね。まあしかし…それが人の性というものなんでしょう。まあ戦争ばかりしていた私が言える言葉ではありませんね。今の私ができるのは戦争で傷ついた人々を楽しませ、笑顔にすることだけです。そのためにも…今は描き続けるだけです。新しい絵本のシナリオができたので読んでみてくれませんか?」
『ヨウ・見して見して。……うん、面白いね。これ前にボツにしたやつをいろいろ変えたんだね。いいと思うよ。』
「ありがとうございます。それではこれで絵本を作ることにしましょう。アニメの方もアニメーターが増えればもっといろいろできるのですが…まあしばらくは我慢ですね。」
『ヨウ・今度新人を5人追加するからもう少しアニメ作り早くなると思うよ。まあ後は今いる分がもう少し成長してくれたらだね。そしたら…ヴァルくんもみんなに顔出しできるかもね。みんな直接会いたがっているよ。』
「…すみません。やはりまだしばらくは着ぐるみを通してでないと。…皆に幻滅されるのが恐ろしい。」
『ヨウ・うん、わかってる。』
ヴァルドールはこれまで公の舞台では全て着ぐるみで登場している。ヴァルドールの存在を知っているのはミチナガ商会の大幹部とミチナガとエリーと姉のエーラ、それにアレクリアルと12英雄だけだ。
世間を騒がせないようにヴァルドールの存在は秘匿しているのだが、今ではヴァルドール自身も皆に恐れられたくないという恐怖から姿を見せないようにしている。
かつてのヴァルドールの伝説的な悪名は今となっては後悔の歴史でしかない。もしかしたらヴァルドールの存在は一生秘匿されたままその生涯を終えるのかもしれない。なんせヴァルドール本人はそうなることを受け入れている。
しかしヨウはいつの日かヴァルドールの名が悪名ではなく、VMTランドの創設者として、VMTキャラクターの生みの親として世間に出る時、ヴァルドールが大きく成長すると思っている。
『ヨウ・ようやく人の出入りが安定してきたね。各国で復興もある程度済んで余裕が出てきたおかげだね。ただ…月の来場客数のうちの3万人ほどは招待客だ。自力で50万人は超えてもらわないとね。目指すは年間1000万人なんだから。』
閉園後のVMTランドでヨウは今日の来場客数の報告を受けている。ランドの中は昼間の賑やかさとは打って変わって驚くほどの静けさだ。閉園後に行っているアトラクションの点検整備も全て終えて、あとはこの報告さえ終われば本日の業務も終了だ。
VMTランドは開園当初の1日の来場客数数百人から今の2万人に成長した。数年がかりでここまで成長したが、この数年間は大きな増減を繰り返していた。
まずランドの来場客数が一番増えた要因は魔導列車の開通だ。交通の便があまりよくなかったヨーデルフイト王国で魔導列車なしで1万人を超える来場客数を望むのは難しかった。今は英雄の国から1時間に一本の魔導列車を、線路を増設して1時間に三本まで増やそうとしている。
さらにアンドリューとも相談し、アンドリュー自然保護連合同盟の中で魔導列車の路線を作り、さらなる集客を目指そうとしている。ただこれに関しては国家間の問題もあるため、どんなに頑張っても実現するのは数年は先になるだろう。
だがこれまで日の来場客数が1万人を超えることは何度かあった。しかしそれが大きく減少する出来事があった。それは法国との戦争だ。本来法国との戦争さえなければ今頃は5万人を超えていたかもしれない。そういった意味では正直開園の時期は悪かったと言える。
だがそれでもミチナガ商会での広告活動や新しいアニメ作品の作成で知名度は間違いなく上がっている。これでもう少し世界のゴタつきが治まれば他国でもVMTランドを作ることができるだろう。
ヨウはとりあえず安定して増えてきた来場客数を嬉しく思いながらも決して満足せずに次なる戦略を考える。とりあえず今はランドの増築を目指している。
今、ランドの西側から北側にかけて大きく敷地面積を増やし、新しいアトラクションを3つほど増やす予定だ。さらにいくつかのアトラクションを新しく作り変える予定もある。事業費は莫大なものになるが、ミチナガ商会からの出資とこれまでの儲けでなんとかなる予定であった。
しかしここ最近、いくつかの資産家から出資の申し出があった。それは単に商会としての広告としてというものもあるが、単純にファンで好きなシリーズ作品をモチーフにしたアトラクションを作って欲しいというものもある。
これに関してはかなりの議論を呼んだ。それこそヴァルドールと使い魔たちで何度も会議を開いたほどだ。そしてその結果、いくつかの条件のもと出資を飲むことにした。
正直金はミチナガ商会を頼ればいくらでもなんとでもなる。しかし長い目で見れば他商会からの出資というのは利点が多い。出資を通じて他商会との大きな繋がりを得られるし、金銭面にこれまで以上に余裕が出る。
他にも様々な利点が考えられたため、出資を受けることとなった。現在新しく開発しているアトラクションは全てミチナガ商会とは関係のない商会からの出資だ。資金も潤沢なようでクオリティを落とす必要性はない。
今後VMTランドは飛躍的な成長を遂げることだろう。ただこれから起こるであろう法国、龍の国との決戦次第で再び来場客数は大きく減少する。かつては多くの戦争を起こしたヴァルドールが今度は戦争によって被害を被るとは皮肉なものだ。
そんなヴァルドールは今日も部屋にこもっている。新しい作品づくりのためだ。ヨウも一通りの報告を受けるとその場を後にしてヴァルドールの元へ向かう。
長く静かな廊下。すでに消灯されており人の気配もない廊下の先に扉がある。ヨウはその扉の横に設置されている機械にキーカードを通す。そしてキーカードが認証されると扉が開く。扉の開いた先にはこれまでの静けさとは打って変わった喧騒があった。
「452番終わりました!チェックお願いします!」
「おい!ここのアニメーションやったやつ誰だ!動きが硬くて綺麗な水の表現できてないぞ!」
「次のシーン来ましたよ。D班は今の所が終わったらこっちに取り掛かってください。あ、ヨウさん!今日の業務は終わりましたか?どうでした?」
『ヨウ・順調に終わったよ。この調子でいけばとりあえず来月は50万人超える。そういえばこの間の新作アニメの評判良いよ。映画館の来場客数も良い感じ。次のやつも期待されているよ。』
「よかったぁ…まだところどころ粗があると思って心配していたんでよかったです。ああ、そういえば来月には5人ほど人員増やせそうです。」
ヨウは一人のアニメーターから資料を渡される。そこには現在の新人アニメーターの一覧が記録されている。100人以上いるのだが、その中から5人だけ赤い丸印がされている。
現在VMT作品の作画を任されているアニメーターは30人に満たないほどだ。その中でも一流だと信頼されているものは5人に満たない。正直アニメーターの質も数も全く足りていないのが現状だ。
そもそもアニメというものはこの世界にはなかった。だからアニメーターという仕事につける人は存在しなかった。初期の頃は使い魔たちとヴァルドールだけで行っていたほどだ。しかしVMT作品に魅了された人の中から働かせて欲しいという人が何人も現れ、ここまでの大所帯になった。
しかしそれでもまだまだ人は足りていない。そのため新人のアニメーターを100人ほど育てているのだが、ものになるのはまだまだ数人だ。もう少し人が増え、技術力が上がれば長編大作を作ろうと考えているようで、すでにいくつかシナリオが用意されている。
『ヨウ・じゃあ来月からその5人はメンバーに加えておいて。リーダーは…ヤマさんに任せようかな。ヤマさん技術力高いし適任じゃない?』
「技術は高いんですけど作画スピードがまだまだなんですよねぇ…まあでも確かに適任かもしれません。そのように伝えておきますね。」
『ヨウ・他にもあるようだったら書類にしてまとめておいて。ちょっと先生の様子を確認してくる。』
「わかりました。………あの…やっぱり私たちはまだ先生には…」
『ヨウ・ごめんね、恥ずかしがり屋だから。でも……近いうちに顔出しできると思うよ。あ、エリーは今どうしてる?』
「エリー先生はお休みになられました。この進捗具合だと明日には新しい絵本が完成しそうですよ。」
『ヨウ・順調そうで何より。それじゃあ行ってくるね。』
ヨウは部屋の端にある別の扉にキーカードを通す。この部屋のキーカードはヨウと一部の使い魔たちくらいしか持っていない。ここにいるアニメーターたちは決してこの扉の奥に入ったことはない。
ヨウは扉を開くとその先にある長い螺旋階段を上っていく。そしてその螺旋階段の先、軽い木の扉の先に、薄暗い中でカリカリと音を立てながら書き続けるヴァルドールはいる。
「……ヨウ殿ですか。本日はどうでしたか?」
『ヨウ・2万人超えて順調になって来たよ。来月は50万人超えそう。』
「それはよかった。しかし…近々動きがある様子ですな。また来場客数が減りそうです。……やはり戦争というのは何も生みません。悲しみがあるだけです。」
『ヨウ・まあそれでも…今回の戦争が終われば静かになると思うよ。そうすればしばらくの平和が訪れる。それまでの辛抱さ。』
「しばらくの平和……永遠の平和とは言ってくれないのですね。まあしかし…それが人の性というものなんでしょう。まあ戦争ばかりしていた私が言える言葉ではありませんね。今の私ができるのは戦争で傷ついた人々を楽しませ、笑顔にすることだけです。そのためにも…今は描き続けるだけです。新しい絵本のシナリオができたので読んでみてくれませんか?」
『ヨウ・見して見して。……うん、面白いね。これ前にボツにしたやつをいろいろ変えたんだね。いいと思うよ。』
「ありがとうございます。それではこれで絵本を作ることにしましょう。アニメの方もアニメーターが増えればもっといろいろできるのですが…まあしばらくは我慢ですね。」
『ヨウ・今度新人を5人追加するからもう少しアニメ作り早くなると思うよ。まあ後は今いる分がもう少し成長してくれたらだね。そしたら…ヴァルくんもみんなに顔出しできるかもね。みんな直接会いたがっているよ。』
「…すみません。やはりまだしばらくは着ぐるみを通してでないと。…皆に幻滅されるのが恐ろしい。」
『ヨウ・うん、わかってる。』
ヴァルドールはこれまで公の舞台では全て着ぐるみで登場している。ヴァルドールの存在を知っているのはミチナガ商会の大幹部とミチナガとエリーと姉のエーラ、それにアレクリアルと12英雄だけだ。
世間を騒がせないようにヴァルドールの存在は秘匿しているのだが、今ではヴァルドール自身も皆に恐れられたくないという恐怖から姿を見せないようにしている。
かつてのヴァルドールの伝説的な悪名は今となっては後悔の歴史でしかない。もしかしたらヴァルドールの存在は一生秘匿されたままその生涯を終えるのかもしれない。なんせヴァルドール本人はそうなることを受け入れている。
しかしヨウはいつの日かヴァルドールの名が悪名ではなく、VMTランドの創設者として、VMTキャラクターの生みの親として世間に出る時、ヴァルドールが大きく成長すると思っている。
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