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第422話 魔神会談

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「何とか調整して。使えるもん全部使って良いから。」

『ポチ・フェイちゃん予定通り明日戻ってくるよ!今の所予定通りいきそう!』

 魔神の石碑の一件から1週間後、ミチナガと使い魔達は慌ただしく動いていた。ミチナガが発案した魔神達と連絡を取り合い、連携を取るという案を実行するためだ。ただミチナガはただ手紙をやり取りするのではなく、使い魔達を用いてテレビ電話による会談を行おうと考えた。

 だが魔神が6人も集まり会談をすることなどこの数百年の記録を探しても聞いたことがない。もしかしたら流通禁止金貨や流通制限金貨を生み出した際に行われたと言う魔神や魔帝クラスのもの達が集まって行った大魔法の時以外にないのかもしれない。

 それだけの一大事ということでミチナガは使えるものを全て使って、明日行われる予定の魔神会談の各魔神の時間調整を行なった。

 基本的な時間は遊び歩いている神魔のフェイがおやつの時間で国に帰るときを基準にした。その時間に合わせて神剣イッシンの場合は子供達におやつやおもちゃを与えて家事の合間の休憩時間を作り、氷神ミスティルティアの場合は元々あった他国との会談をずらした。

 妖精神ピクシリーの場合は世界樹を用いて作った妖精の力の回復薬の増産を取引材料にして、海神ポセイドルスの場合は大量の陸地の食料と娯楽を贈って話をつけた。勇者神アレクリアルは元々賛成してくれていたので特に何もない。

 この魔神会談のためにミチナガは大量の金貨を投資した。それなりの出費にはなったが、それでもこの会談にはそれだけの、いやそれ以上の価値があると踏んでいる。だからこそ失敗は許されない。ミチナガは一つのミスもないように徹底的に調整をしていく。

 そして翌日、待ちに待ったその時は訪れた。フェイがおやつの時間に合わせてちょうど国に戻ってきたのだ。予定時間に狂いはない。すぐに準備が行われ、そしてついに魔神6人による会談が始まった。

 使い魔達から投影された映像には6人全員の魔神とミチナガの姿もある。ミチナガはこの会談の発案者であるため、会議の進行役として加わることを許されたのだ。他の魔神達は皆それぞれの反応を示している。

 おやつに夢中なフェイ、子供の破れた服を繕うイッシン、爪を磨きながら興味ないふりをしているミスティルティア、初めての人間との会談にワクワクしているピクシリー、穏やかな表情のポセイドルス、不安な気持ちと魔神による会談という偉業に心震わせるアレクリアル。

 そしてそれらをまとめる進行役のミチナガは緊張と不安で思考がごちゃごちゃになりかけたが、一度大きく息を吐いて冷静さを取り戻した。ここにいる全員とは商売などで関係がある上に友好な関係を築けている。大きな失敗をしない限り問題はない。

「今回、この場の司会進行を務めさせていただくセキヤミチナガです。まず本日はありがとうございます。お忙しい中お手間を取らせてしまい申し訳ないと思っています。ですからできるだけ余計な話は抜きにして話を進めたいと考えています。まずは魔神の石碑のエラーによる魔神の序列喪失から…」

「それはもう大丈夫じゃないかしら?皆の共通認識として魔神の石碑は使い物にならなくなった。それは全員わかっていると思うわよ?」

「フゴフゴフゴ?んぐっ…そうなのか?知らなかった!あはは!あ、これ美味しそう!!」

「魔神の石碑……ああ、あの名前が浮き出ているあれですか。へぇ~…何で使えなくなったんですか?」

 まさか神魔と神剣の2人がこの事体を知らなかったということに数人からため息が漏れる。氷神も知っているものだと思っていたからこそ発言したのだが、まさかのことに頭をかかえる。

「原因は不明です。一部の研究者は魔神の石碑の寿命ということですが、全世界同時というのがあまりにも不可解です。寿命だとしてもせめて一つくらいは生き残っていると私は思います。考えられるのは今言った寿命によるもの、それから魔神を選ぶ機能そのものが破損した場合、それから…ここにいる6人、いや、そもそもいた10人の魔神よりも上位の存在が突如現れた場合によるもの、が考えられます。」

 ミチナガの発言に2人を除いた4人が空気をピリつかせる。最後の理由はあまりにも突拍子がない上にここにいる魔神6人が弱いと言っているようなものだ。さすがにこの発言は許容できるようなものではない。

 アレクリアルもミチナガがこのことを言うのは予見していたが、さすがにもうちょっと言葉を濁すと思った。嫌な空気が流れる中、口を開きだしたのは予想していなかったこの2人である。

「へぇ…その僕たちよりも強いって言う人はどこから来たのかな?」

「考えられる可能性は私と同じ異世界から来た場合です。元々異世界人は強力な能力を持っていました。それが今回に限って突如複数人が魔神すら越える力を得てこの世界にやって来た…と言う可能性です。あともう一つ、私はこの人物が何か鍵を握っていると考えます。」

「死神…ミサト・アンリ?」

「異世界人らしい名前です。しかしこれまで異世界人が魔神に至ったと言う話は聞いたことがありません。つまりこの死神という魔神は前回の更新から今回までの間に魔神に至るほどの力をつけたと思われます。」

「へぇ…でもそれって推測だよね?」

「ええ、あくまで私の推測でしかありません。しかし法国と龍の国が戦争を仕掛けた際に龍の国を襲ったという十本指という組織が世界征服を企んでいるという話を聞きました。しかし魔神を保有しない組織が世界征服などできるはずもありません。しかし…この死神が十本指の一員だとするならば…世界征服も可能かもしれません。事実彼らによって龍の国は前回の戦争の際に法国の援護ができなくなったわけですから。」

 今ここで言える事実は法国と龍の国が結託した際に龍の国は十本指の影響で動くことができなくなったということだけである。その方法はわかっていないが、もしも武力による場合だったら魔神第1位を実力で押さえつける力があるということになる。

「龍の国…神龍かぁ……戦ったことないからわからないんだけど、そんなに強かったんだっけ?」

「えっと…それは……」

「…神龍は龍神降しと呼ばれる降霊術が使える魔神だ。歴代の龍神の力を自身の体に宿し、その力を十全に発揮できる。どんな相手でも対応できるバランス型だ。さらに一度に2人の龍神の力を宿し、魔神を超えた力を発揮できると言われる。また歴代の神龍の力も宿せたという。龍の国史上最強の魔神と言えるだろう。」

 イッシンの疑問に答えられなかったミチナガの代わりにアレクリアルが答えた。魔神第1位の座を狙っていたアレクリアルにとって神龍は超えねばならない存在だ。だから内密に調べ上げていたのだろう。そして調べ上げていたからこそ、神龍を打倒することは無理だと知っていた。

 アレクリアルの答えを聞いたイッシンはその答えで納得したようだ。確かにそんな怪物を倒せるとしたらここにいる神剣イッシンと神魔のフェイくらいなものだろう。まあだからこそ魔神の中でも神の文字が先に来る神龍という魔神なのだ。

「そういえばさっきの死神っていう奴は何で見たの?」

「え?ああ、それは魔神の石碑が今のエラー状態になる前にですね…」

 ミチナガは言葉で説明するよりも映像を見せた方が早いと魔神の石碑がエラーを起こす前に多くの歴代の魔神達の名前をあげた映像を見せた。その映像を見たイッシンとフェイはようやく魔神の石碑がエラーを起こしてしまった事実を完璧に理解した。

「と、いうわけです。これでいいですか?それで…」

「今の映像だけど…神龍と法神の2人の名前がなかったよ?」

「え?」

 先に話を進めようとしたミチナガだったが、イッシンの発言に動きが止まる。ミチナガもこの映像は何度か見たが、映像の流れる速度が早すぎたため完璧には見れていない。だから一瞬イッシンの言葉を疑ったが、その疑いはあまりに愚かなものだ。

 イッシンは誰の目にも見えぬほどの剣速で魔神になった男だ。そしてその剣速はイッシン自身には見ることができる。つまり世界最高の動体視力の持ち主でもあると言える。ならば今さらっと見たイッシンには今の映像に写っていた全ての魔神の名前が確認できてもおかしくない。

「たまたま…2人だけ写っていなかった可能性は?」

「その辺のことはよくわからないけど、今現存する他の8人の魔神の名前はあったよ?あの2人だけなかった。」

「試しに…他の映像を確認してもらっても良いですか?」

 イッシンに他の魔神の石碑の映像を確認してもらうミチナガだが、イッシンからの返事はどれも同じであった。なぜか法神と神龍の2人の名前だけが載っていない。その理由は定かではないが、この2人の魔神の身に何かが起きた可能性が高い。

「そうなると龍の国と法国の現状がどうなっているか気になるところだのぉ。ピクシリーよ、お主ならば妖精界を通じて調べられるのではないか?」

「無理よ。あいつら秘密主義すぎて私たちの森を封印しているから。そういうあんたこそ海から覗けば良いじゃないの。」

「奴らは水を汚染しているから誰も近づきたがらん。調べるのは無理だ。」

 ポセイドルスもピクシリーも龍の国や法国に関して調べるのは難しいらしい。ミスティルティアも現在は貿易を中止しているので調べるのは無理とのことだ。アレクリアルも英雄の国は両国に敵視されているので難しいということだ。

 イッシンにはそんな部下はいないし、フェイもお菓子に夢中でそんなことを気にかけているとは思えない。龍の国と法国の現在の状況を調べることが必要なのに閉鎖的な両国を調べるのは難しい現状だ。するとフェイは紅茶を飲み干して満足そうな笑みを浮かべた。

「今日も美味しいのだ!やっぱり君が来てから良いことずくめなのだ!」

『白之拾壱・喜んでもらえて何よりですよ。ただ満足したなら話し合いに参加してくれません?法国と龍の国がどうなっているかみんな気になっているんですから。』

「法国なら帰りに通ってきたぞ?なんかでっかい幻術使って国全体覆ってた。」

 突如のフェイの発言に全員が驚いた。どうやら日頃遊び歩いているのが吉と出たらしい。
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