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第420話 魔神の異変

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「例の…十本指の動向は掴めましたか?」

「まるで掴めない。だが…わかるとしたら今日だろうな。この魔神の順位に変化が起きれば神龍を脅かすほどだとわかる。あれだけ大見得切ったのだから多少は頑張って欲しいものだがな。」

 今回の魔神の順位の変動でもしも第1位の神龍が落ちれば必然的にアレクリアルが魔神第1位になる。やはり人族の希望としてアレクリアルが第1位に選ばれるのは多くの者たちが望んでいる。そして何よりアレクリアル自身も大いにそれを望んでいる。

 実を言うと勇者神が魔神第1位に選ばれていた時代はいくつかある。それは龍の国が、龍人たちが傭兵として世界各地の戦争に参戦していた時代だ。あの頃は龍人の影響力はあったが、龍の国としての影響力は低かったため先代の龍の国の魔神、龍神は5位や7位くらいであった。

 その代わり法神と勇者神が第1位の座を争っていた。しかし龍人が傭兵として動かなくなり、龍の国に留まりだしてから龍の国はどんどん国力を増していき、トドメの神龍誕生で魔神第1位の座を手に入れた。

 だからアレクリアルは勇者神となってから魔神第1位になったことがない。そのせいで人一倍憧れが強いのだろう。そして十本指がアレクリアルの夢を叶えてくれるのではないかと若干期待しているのだ。

 しかし十本指がアレクリアルの夢を叶えると言うことは龍の国に甚大な被害を与えるほどの強者ということになる。そして世界征服を企んでいるということなのだから、いずれ強敵になる可能性もあるというのにそんな心配はまるでしていない。

 まあそれも今代の神龍の強さに全幅の信頼を置いているからということなのだろう。たとえ龍の国が亡ぼうとも神龍が死ぬことはない。アレクリアルは、いや他の魔神たちもその点に関して異論はないだろう。それほど神龍は強いのだ。

「それじゃあこれで私からの報告は以上になります。何か他に報告した方が良いことありますか?」

「特には……いや待て。最下層のボスからは何が出た?最下層のしかも最終ボスから出るものとなればそれはかなりの…」

「あ~…いやその……機密事項ということで。」

「…別にお前から奪おうとは思わん。教えだけで良い。」

「それじゃあ…」

 ミチナガはこっそりとアレクリアルにだけ耳打ちする。それを聞いたアレクリアルは最初こそ興味深そうにしていたが、徐々に表情を戻していった。そして話を聞き終わる頃には興味も失せていた。

「まあそういうことです。…えっと……問題ないですか?」

「いや、そんなのはいらん。もらったところでうちでは扱いようがない。むしろお前はなんとかできるのか?」

「まあうちも今色々とやっていますが…うちの使い魔の1人がえらく気に入ったみたいで研究と開発を急がせてます。でも…使えるのかなぁ?ちょっとそれはわからないです。まあ気に入ったみたいで手放したくないと言っててどうしようかなって思っていたんです。いやぁ…よかった。」

 実はミチナガも最初ナイトからもらった時反応に困った逸品である。ただ性能としては間違いなく良いはずなので役に立つことを祈っている。本音はアレクリアルに渡して金にしようとも考えたのだが、その使い魔の1人が気に入ってしまい手放したくないと駄々をこねたので話をはぐらかそうとしたのだ。

 日頃使い魔を酷使しているミチナガだが、やはり使い魔たちが可愛いようで我が儘には結構答えている。

「一応他にもナイトが手に入れたダンジョンアイテムがいくつかあるんですが、今そちらの研究所の方も手いっぱいの様子なので今後空きが出たら新しいの卸しますね。」

「いや、しばらくはやめておいてくれ。過労で倒れるものが出始めてな。しかし休めと言っても一向に休もうとしない。だから無理やり休ませるためにも新しいのはしばらくまってくれ。」

「そういうことなら了解しました。それじゃあこれで本当におしまいですね。…そういえばこれの順位更新っていつくるんですか?」

「明確な時間というのはないな。日にちはわかるが時間までは詳しくわからない。だが…もう少し時間がかかるだろうな。話も終わったことだし飲み物でも用意させよう。」

 ミチナガとアレクリアルの話がようやく終わり、アレクリアルは魔神の石碑に集中する。メイドたちもアレクリアルの邪魔にならないように飲み物を用意した。

 ミチナガは特に魔神の順位の入れ替わりに興味があるわけではない。一応もしも十本指が神龍を地位を脅かすほどならば警戒する必要があるだろうというくらいだ。商売としても特に関係あるわけでもなさそうなので十本指にだけ注意しているくらいだ。

 だからミチナガはスマホをぽちぽちと操作し始める。やはり少しでも暇な時間があるとついスマホに手がいってしまう。スマホの中では大勢の使い魔達がダンジョンアイテムの解析やエヴォルヴの機体整備、そして賢者の石を使えるように努力している。

 そんな使い魔達を見た後にミチナガは使い魔ガチャを行う。ナイトにより大量の白金貨が入手されたので、空いた時間にどんどんガチャを回して使い魔を増産している。しかしそれでもまだまだ白金貨が残っているのでガチャを回すだけでも一苦労である。

「やっぱウルはそんな簡単に出ないよなぁ…あ、レア出た。フィーフィリアルさんも回して見ます?」

「よくわからんがここを押せば良いのか?」

 ミチナガが延々とガチャを回しているとフィーフィリアルが気になったのかのぞいてきた。そこでガチャを回すのを任せてみるとなぜか他の12英雄達も気になったようでガチャを回し始めた。

 なぜかは知らないがこの使い魔ガチャは他の人にやらせると割と良いものが当たったりする。今もレアやスーパーレアが何体か出ている。そしていつの間にか夢中になりながらみんなでガチャを回していると魔神の石碑に集中していたアレクリアルが声を上げた。

「きたぞ!」

 その一声で皆ガチャを回すのをやめて一斉に魔神の石碑に注目する。魔神の石碑はほのかに発光しだし、文字がジリジリと動いた。ついに魔神の順位の更新が始まる。

 ミチナガも興味がないと言いながらしっかりと注目している。わずかな呼吸音でもうるさく感じるほど静まり返る。この緊張感の中、使い魔達もスマホから飛び出して注目しだした。

 そしていざ順位の入れ替わりが起こると思ったその時、魔神の石碑に異変が発生した。急に文字が点滅しだしたのだ。ミチナガは初めて見るのでこういうものなのかとチラッとアレクリアルを見たが、アレクリアルも困惑している。

 そして魔神の石碑は突如点滅しながら様々な名前を表示出した。それは過去に魔神の石碑に表示されていた過去の魔神達の名前だ。何度も何度も点滅を繰り返しながら多くの魔神の名前を表示する。

 そしてやがて点滅が終わると魔神の石碑には第1位から第10位まで文字化けした表記がされた。誰の名前も表示されないのだ。そう、これは明らかに…

「え?このタイミングで故障した??」

「……そうらしい。過去にも研究者達が魔神の石碑を弄り故障させた例がある。なんというタイミングだ………おいミチナガ。お前なら使い魔を通じて他の魔神の石碑を見ることができるだろ?」

「ええ、もちろんです。すぐに確認に行かせますね。」

 なんとタイミングの悪いことだろう。アレクリアルもこのタイミングの悪さにボソボソと「やはりまだ1位は…」などとネガティブなことを口にしている。ミチナガもこれには流石に急がせなくてはと使い魔達を急がせる。

 それから数分後、ようやく確認をした使い魔から報告が上がってきた。ドキドキしながら結果がどうなったのか確認したミチナガは驚き、固まってしまった。それを見たアレクリアルはミチナガに声をかけた。それでようやく我に返ったのかミチナガは口を開いた。

「…じゃないです……故障じゃ…ないです…」

「何?」

「今5箇所で確認をさせましたがどこも同じように文字化けした表示になっています。これって…どういうことですか?」

「そんなまさか……誰か歴史研究者を呼べ!魔神に関して調べているものが良い!急げ!!」

 アレクリアルもこの状況は理解できず急いで詳しいものを呼ぶ。一体何が起きているのか、それはこの場にいる誰にもわからない。そして今も他の場所でも同様に魔神の石碑が文字化けしているという使い魔達の報告が寄せられてきた。
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