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第419話 報告会

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 魔神。それは太古の昔から存在すると言われる人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族などといった人種のみに与えられる称号。魔神の称号は世界で10人にしか与えられない最強の証である。魔神1人で世界を滅ぼすこともできるため、かつては畏怖の対象であったという。

 しかし現在では魔神とは超大国であるかどうかの指標になる。勇者神を保有する英雄の国、氷神を保有する氷国など、魔神が大陸を統べることが通例になりつつある。

 以前神魔と神剣の戦闘による一時的な魔神の順位の入れ替えが起きたが、それ以外は数十年の間魔神の順位も安定しており、世界の平和が維持されていた。

 そんな魔神に選ばれたかどうか知るのはいくつか方法があるが一番有名なのはこの魔神の石碑である。世界に数十点ほど存在するこの魔神の石碑は現代魔法学でも未知の構造をしている。そんな魔神の石碑は常に現代の魔神の順位を記し続けている。

 しかしこの魔神の石碑は常に変動しているわけではない。約二ヶ月に一度、満月の夜に変動する。そのため、魔神の世代交代などの際にはその二ヶ月に一度の更新を持って新たな魔神が生まれたことを世界に知らせるのだ。

 そして今宵、何年も変動がなかった魔神の順位に変動が起こるかもしれない。その様子を多くの人々が今か今かと魔神の石碑の前に集まり待っている。そして魔神の1人、勇者神アレクリアルも王城に設置されている魔神の石碑を見ながら待っていると、そこへ1人の男がやってきた。

「アレクリアル様。すみませんこんな時に面会入れちゃって。」

「気にするな。だがどうせ来たのだ。お前もここで順位の入れ替えを見ていくと良い。」

 仕事の都合で夕食後に訪れたミチナガはアレクリアルの近くの椅子に座る。そわそわしているアレクリアルを見ながらとりあえず近くのメイドに紅茶を頼むと、そのメイドと入れ替わりでフィーフィリアルやら他の12英雄たちが集まりだした。

 どうやら他の12英雄たちも今回の魔神の変動には興味があるらしい。仕事で持ち場を離れられないものを除き、この場に12英雄のうち7人が集まっている。見る人が見たら喜びで気絶することだろう。そして場がようやく落ち着いて来たところでミチナガは自身の目的を果たす。

「あの…まだ時間あるようなのでとりあえず今日の報告させてもらって良いですか?」

「ん…ああ、そうか。すまん忘れていた。じゃあ…一度別の場所へ行くか?」

「いえ、この場でも大丈夫ですよ。ただ他言無用にしてもらえれば。」

 ミチナガがそういうとアレクリアルはすぐにメイドたちを下がらせる。これでこの場にいるのは勇者神と7人の12英雄と1人の英雄ということになる。なんともすごい面子だが、ミチナガは気にせず報告を始める。

「では報告します。まあ報告するのは一つだけなんですが…先日ナイトが9大ダンジョン、巨大のヨトゥンヘイムを完全攻略しました。」

「な、なに!!それじゃあ…世界初のダンジョン攻略者か!」

「いえ、厳密にはダンジョンが普通に使えていたころには攻略者がいるので何百年ぶりの攻略者ということになりますね。それでこれにより全ての階層のモンスターについてわかりましたので、それも報告書にまとめておきました。」

 さらりと報告するミチナガの周りでアレクリアルはもちろん他の12英雄たちも驚きをあらわにしている。ミチナガはすでに報告を受けてから1日経っているのでさすがにあの時の興奮はない。それよりも今は冷静に報告し、対処するのが大切だ。

「現在ナイトは一度地上に出たのちに90階層で遊んでいるようです。その後100階層を再び目指すとのことなのでまだダンジョン完全攻略の話は私とここにいる皆さんしか知りません。この情報をどう扱うかはアレクリアル様にお願いしようと思いまして。」

「なるほどな…公表したくなるが扱いが難しいな。ナイト自身はどう思っているのだ?」

「別になんともです。ナイトにとって地位や名誉とかはどうでも良いですから。公表するかどうかは私に一任してくれていますから私はアレクリアル様の指示に従います。」

「わかった。……公表はまだしない。まだごたついているからな。然るべき時に公表する。例えば…巨大のヨトゥンヘイム周辺に国を作るときとかな。それで構わないな?」

「ええ、もちろんです。」

 ナイトのダンジョン完全攻略の公表はまたの機会に延期された。まあナイト本人としては騒がれたくないのでむしろ公表しないほうがありがたいだろう。アレクリアルはミチナガの提出した報告書を見ながらヨトゥンヘイムについて見識を深めて行く。

 ミチナガの提出した報告書は1階層ごとに100ページ以上を使用しているが、それくらい使わないと明確な報告ができない。そしてこの報告書のおかげで第2、第3のダンジョン制覇者が誕生するかもしれない。

 とりあえず流し読みして行くアレクリアルは現在ナイトが目指しているという100階層に関する報告書を読み、再び驚愕した。

「きょ、巨人の国、ヨトゥンヘイムだと!?実在したのか…」

「現在宝物庫から出たアイテムを解析していますがその線が高いと思います。ナイトがもう一度調査してくれるのでもう少し詳しくわかると思います。ただ報告書にもある通りかなりの難関でして…」

「…数十万に及ぶSSSS級の危険モンスターが生息。一度存在が知られると一斉に襲いかかってくる。完全に逃げ切るか、倒し切らない限り攻撃が止むことはない。さらに中心部に位置する城にはそれらをはるかに凌ぐボスが存在。そのボスを倒すことで宝物庫の鍵が手に入り次なる最終階層に進むことができる。なお今回は複数の魔道具を組み合わせることで無理やり開錠した。なおこの方法は簡単ではないため、オススメしない。なんだこれは……」

「攻略法としては先に雑魚モンスター数十万体を撃破したのちにボスと戦うのがセオリーだと思うそうです。ただリポップの時間もあるのでなるべく短時間が望ましいでしょうね。」

「こんなのを攻略したのか…」

「ただこれよりもやばいのが最下層のラスボスで…」

「ナイトの腕をいともたやすく粉砕する光線魔法、最大防御を強いられる全方位攻撃魔法、肉体をえぐっても1秒かからず回復する再生能力。しかも回復限界は今回の戦いでは確認できなかった。核を破壊しない限り倒すことは不可能。だが核は10個以上存在しており数秒で核も再生する。全ての核を一度に破壊することが必須。……どうやって倒したか映像は残っているか?」

「一応あるみたいですけど、本人希望で人に見せるのはダメみたいです。すみません。」

「いや、そういうのは隠しておくべきだな。今のは私の失言だ。」

 一応ムーンがないとの戦闘風景を記録していたらしいが、他の使い魔でさえそれを見ることは禁じているほど徹底的に秘密を守っている。なんでもナイトの奥の手とやらが写っているとのことで誰にも見せられないらしい。

 ただ最終階層ボスの戦い方や生態に関してはかなり詳しく記録されている。その情報に関しては一切隠すつもりはないようで全て報告書にまとめられている。それを見てアレクリアルも一応満足した。

「しかしダンジョン制覇か…はるか昔ならばナイトは魔神に選ばれていたやもしれないな。」

「それはどういうことですか?」

「わずかに残っているはるか昔の石板などを解読したことでわかったのだが、かつてはダンジョンを制覇したものだけが魔神になる資格があるとみなされたらしい。逆に言えばダンジョンを制覇していない者は魔神にはなれなかった。」

「それはつまり…今回の魔神の石碑の入れ替わりでナイトが魔神に入る可能性が?」

「いや、まずないだろうな。今の魔神は全て魔神にふさわしい力を得ている、そして知名度が高いことが必要になる。ナイトは確かに力は魔神に匹敵するかもしれないが知名度が低い。ミチナガ商会の方でだいぶやっているようだが、それでもまだまだだ。」

 基本的に魔神の順位は知名度と影響力が優先される。ナイトはまだまだ知名度と影響力が低いため魔神に選ばれることはない。もしもナイトが選ばれるのならば先にヴァルドールが魔神に選ばれることになるだろう。力は五分だとしても知名度も影響力もヴァルドールの方が上だ。

 そして何より今の10人の魔神の地位は盤石だ。入れ替わる可能性があるとするならば10位と9位だが、そこは神魔と神剣だ。この2人に勝てる生物などこの世界にいるとは思えない。また8位の崩神は各地の戦場を荒らし回り、その崩拳の門下生たちも各地で影響を与えている。そう簡単に魔神から陥落するようなものではない。

 可能性があるとしたら魔神が次世代の後継を残せずに死んだ時だけだ。その可能性があるとしたら法神と…神龍だろう。この2人の動向はまったく掴めていない。ただそう簡単に死ぬようなやつではない。

 法神はともかく神龍は現在の魔神第1位にして魔神の中でも神の文字が先に来るほどの実力者だ。神龍を殺せるのは神魔か神剣くらいなものだろう。
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